緋弾のアリア〜傭兵からの転生者〜   作:SAMタイム

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第三十四弾 大陸の姫君

俺たちが泊まっている旅館に一つの弾丸が見えた。

俺は剣の上を滑らせて上に跳ね上げる。

 

「レキ、俺の後ろに」

 

俺がそう言うとレキはコクンと頷き俺の後ろに下がる。

パシュ!パシュ!と障子を破って弾が飛んで来るのを一つ一つ叩き切っていく。

 

「レミントンM700、距離は2180m。山岳方面から撃ってきました」

 

「そうか」

 

レキの絶対半径(キリングレンジ)は2051m。

俺の絶対半径(キリングレンジ)は3000m。

傭兵だった俺には及ばないが武偵高最強のスナイパーを超える奴か。

なかなかやる。

 

「ここは危険です」

 

「分かってる。行くぞ」

 

剣を鞘に戻し部屋を出る。

警察に電話しているであろう沙織さんを背に、勝手口から屋外へ出る。

その時、どこからともなく声が聞こえた。

 

「風切梓 レキ 2人とも 投降しやがれ です」

 

母音と子音を切り貼りして作ったような、人工音声が聞こえてきた。

 

「レキ、そいつは任せる」

 

「はい」

 

俺がそう言うとレキはドラグノフを空に向けて撃った。

黒く着色されたラジコンヘリが、ドライブウェーの方に墜落していった。

俺は地面に手をつけ風を縦に流す。

上空から更に何発もの銃弾をばらまいて来るのを風で吹き飛ばし、上昇気流を起こして銃弾を逸らす。

 

「ーー私は一発の銃弾ーー」

 

レキが上空に3発撃つ。

その度に空中で爆発が起き……煙の帯を引きながら、ラジコンヘリが墜落するのが見えた。

 

「逃げたら そこ……と」

 

途切れ途切れに何か言おうとしているのをベレッタで破壊する。

 

「ヘリはもうありません。旅館の陰にから森へ入り、回り込んで反撃しましょう」

 

ドラグノフを低く持ったレキの声に頷く。

ボーカロイドによる脅迫音声、短機関銃(サブマシンガン)

 

これは『武偵殺し』ーー峰理子の攻撃方法と同じだ。

 

 

俺とレキは駐車場を抜け、木々の陰に身を潜めるようにして、

まずは林、そして、すぐその裏に続いている森へと入った。

声を潜め、ヘカートを下ろして暗視スコープに切り替える。

 

「レキ、ここの地形は頭に入ってるな」

 

「はい。先ほど旅館に向かうバスから、地形を見ていました」

 

「よし。ここを移動……は出来ないから二手に分かれる。レキはそのまま」

 

「危険です」

 

「大丈夫だ。相手の狙撃は風を使って避けきれる。微光暗視照準器(スターライト・スコープ)は持ってるか?」

 

「いえ、ライティング・レティクルのみです」

 

「恐らく相手は長期戦を想定し、こちらに何かを向かわせてるはずだ。だから短期戦でいく。レキは音響弾(カノン)閃光弾(フラッシュ)。どっちか持ってるか?」

 

「両方持っています」

 

「そうか」

 

「梓さん」

 

「なんだ?」

 

「撃ち合いになり、私が撃たれても私のところには戻ってこないでください」

 

レキは覚悟を決めた顔だったが俺はため息をついてデコピンをする。

 

「…っ!」

 

レキが何をする、みたいに少し睨んで来る。

 

「俺がこう提案したのは2人ともが無事に助かる可能性が一番高いから提案した。それに、レキが怪我をしても治る。その考えはダメだが。……お前だけに重荷は背負わせないさ」

 

そう言って俺はレキの額にキスをする。

すると、レキの体が淡い光で覆われた。

 

「これは?」

 

「ある程度痛みを緩和する光だ。これは俺にも使えたから撃たれても多少は安心だろ?撃たれないことに越したことはないが。それでは行くぞ。最初は閃光弾(フラッシュ)、その後音響弾(カノン)だ。行くぞ」

 

『赤霧の名の下に』

 

そう呟くと雰囲気が変わる。

俺は風を集め、人型にして飛ばす。

その風を撃ち抜いて来たのでそのすきに走り出す。

そこで飛んで来た弾は『不可視の銃弾(インヴィジビレ)

で弾く。

そこでレキに合図し、レキが閃光弾(フラッシュ)を撃つ。

暗視スコープを外し、ヘカートを覗く。

覗いてみるといきなりの光に目がやられたのか目を抑えている。

その顔はココによく似ていた。

 

そのココ?は苦し紛れに撃って来る。

それを撃って撃ち落とす。

 

レキが次に音響弾(カノン)を撃つ。

俺は追撃されないようにレミントンM700の銃口を狙う。

 

「俺は銃だ。遠くてもなお相手を沈黙させる。何事にも束縛されない。赤霧の名の下に。その力を持って敵を穿て」

 

そう遠距離狙撃の時の言葉を呟いて引き金を引く。

その銃弾は銃口に吸い込まれるように入って行き、銃が砕け散った。

 

「対象の沈黙を確認」

 

スコープから目を離し、レキの方に近づく。

 

「レキ、ここを離れるぞ」

 

「……はい」

 

……レキの反応が遅い。

少し体を見ると脇腹辺りが少し赤くなっていた。

 

「銃弾を受けたな」

 

「かすり傷です」

 

「ダメだ」

 

俺はドラグノフを取って背に背負い、膝に手を入れ抱え上げる。

所謂、お姫様だっこだ。

 

「あの……」

 

「行くぞ」

 

そう言って飛び上がる。

木の枝に乗り、飛んでまた木の枝に乗る。

そうして移動しているところに犬の鳴き声が聞こえた。

 

「ハイマキか?」

 

そう思って飛び降りる。

レキに負担がかからないように着地しハイマキのところに走る。

しかし、こちらには目もくれず向こうを見続ける。

そこから数匹の犬が出て来る。

 

「ハイマキ。行くぞ」

 

俺はその集団を一瞥する。

ハイマキも俺の雰囲気が分かったのか目を離したときに、

飛びかかって来た。

俺は風の壁を作ってガードする。

そして、風を集め、一匹ずつ頭を揺らす。

全匹が倒れたのを確認し、頭を叩いて、走り出す。

 

 

走って走ってあの場を離れる。

風を使ってブーストしながらも走る。

流石に走りすぎて疲れた。

 

そこにオートバイの音が聞こえた。

それに乗っていたのはココ。

俺は『不可視の銃弾(インヴィジビレ)で撃つ。

 

「きひっ!」

 

笑いながら、急ブレーキをかけながら俺を掠めるように擦れ違った。

振り返った俺はしっかりとココを見つめる。

バイクを傾けて停止させたココが、数m後ろから俺へと銃を向けている。

減音器(サプレッサー)をつけたUZIを。

 

「銃を捨てるネ」

 

「断る」

 

くいくい、とココが銃口で藪の方を示すが俺は応じない。

ココはいらっとした表情を浮かべるが何のことか話し出す。

 

「レキはーー90点。いい駒だから、貰うネ。梓は100点ネ。だから貰って帰るヨ」

 

「……貰う?何の話だ?」

 

「これからは超能力者(ステルス)、みんな滅びる。お前らみたいな『ただの人間だけど強い駒』、早く手に入れておくの、良いネ」

 

「滅びる、ね。しょうがないから見せてやる」

 

俺は踵で地面を蹴る。

その瞬間、突風にも似た風が起こった。

 

「な!?」

 

「俺は超能力者だ。こうして風を操る、な」

 

その風を集め、ジャンプして蹴り飛ばす。

ココが弾を撃って来るがその風に阻まれる。

 

その時、ココを撃つ一本の矢が飛んで来た。

 

「梓!」

 

その飛んで来た方向、オープンカーのある車に見覚えある顔が見えた。

ココはパッとバイクに乗ると、

 

「ココは代々、逃げるときは逃げるヨ。最後に笑えればそれで良いネ。再見(ツァイチェン)

 

そう言って逃げて行った。

俺は力を使ってレキを治す。

 

「何があった!?」

 

金次がこちらに近づいて聞いて来る。

 

「ココに襲撃されて追い返しただけだ。レキと一緒にな」

 

蕾姫(レキ)?」

 

小声で呟きながら、車を降りて来た1人の巫女が来る。

 

「……そ、そんな。間違いないのですか?」

 

「あ?」

 

その巫女が少し驚くようなことを言った。

 

「この御方は源義経様ーーチンギス・ハン様の末裔。大陸の姫君です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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