京都、大阪に行って、比叡山の森の山奥にある民宿『はちのこ』に来ていた。さっきまで賑やかなところにいたので夜だけでも静かなところに行こうと言うところだ。
ガラガラと、入り口の戸を開けると、中から若い女将が出て来た。
「あらあら。おいでやすぅ」
「すいません。予約していた風切です」
「お待ちしておりました。わたしはここの女将をしております。沙織と申しますぅ。今日は他のお客はんもおらんさかいに、ええお部屋を使ってくださいな」
沙織さんはこっちに背を向けて、案内モードに入っていった。
案内された『西陣の間』は、畳も真新しい豪華な8畳間だった。部屋名の通り、壁には色彩豊かな西陣織の反物がタペストリーのように飾られている。絹布の前には人が入れそうなぐらいに大きな壺もあり、部屋の高級感を高めている。
俺とレキは木製の座卓につき、早速おかの沙織さんが出してくれた夕食を食べている。
あ、おいし。
ちらっと前を見ると、正座をしたレキは御膳を右から左へ。
いきなり白米を全部食べ、次に天麩羅を全部食べ、それから刺身、最後に味噌汁を一気飲みする。
こうして、食事を終え、充電器を携帯に差して、テレビの上に置く。
することをないので、鞘から剣を抜いて少し月に照らす。
傷らしい傷もなかったのでしまう。
「失礼します」
剣を置くとフスマが開いて、廊下に正座した沙織さんが再登場した。
「ーーお食事は、いかがでしたか?」
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
「お食事がお済みでしたら、お湯へどうぞ。今日は、お客はんがお二人だけですから……温泉貸し切りですよ」
「そうですか。ではお言葉に甘えさせてもらいます」
沙織さんが帰って行き、俺はベレッタ、グロックを置いてレキの方に向く。
「レキ、お前はどうする」
「後で伺います」
……伺う?まあいいか。
「わかった」
そう言って部屋を出る。
民宿に併設された浴場には『男湯』『女湯』の表記がなかった。
……レキはこれを知ってたのだろうか。
この民宿には、入浴中に沙織さんが服を洗濯してくれるというサービスがあった。
ので、俺は洗濯カゴに服を入れて…ガラガラとスライド扉を開けて、岩と竹垣に囲まれたスノコを渡り、かけ湯をし、サッと体を洗ってから、温泉に浸かった。
「なかなか気持ちがいいな」
と、温泉の感想を言う。
ゆっくりと湯に浸かっていると、人の気配した。
俺は目を瞑りながら風だけを動かせるように準備をする。
しかし、そこに入って来たのは、
「梓さん」
レキだった。
ドラグノフを持って。
「レキはここが混浴だと知っていたのか?」
「いえ、知りませんでした」
レキはそのまま入って来て俺の横まで移動する。
「嫌な風の流れを感じたもので…迷惑でしたか?」
「……いや、嫌な予感がしているのは同じだ。しかし、ドラグノフを持って来たら湿気で不発になる可能性がある」
「銃は私を裏切りません」
「可能性の話だ。でも、お前が銃を大切にしなければ裏切られるぞ。俺はヘカートのことを考えて持って来ていない。人の気持ちと同じで気まぐれなんだ」
「……よく分かりません」
「大丈夫だ。今分からなくても一緒に過ごせば分かるようになる。出会った頃よりは感情が分かるようになってるからな」
「……そうですか」
そう言って俺は風呂を出る。
浴衣を着て部屋に戻る。
部屋に入ると布団が一つしかなかった。
要らぬ気を回してくれたんだろう。
……まぁ、いつも一緒に寝ているから良いけど。
「梓さん」
「ああ、分かっている」
俺はベレッタとグロックのマガジンを確認し、ヘカートもボルトを引いて装填する。それを背に背負い、剣を鞘から抜く。
そこへ一つの弾丸が見えた。