あっという間に7日目の深夜2時。
当初の打ち合わせにあった理子達との定期連絡の時間。
それは3者間通話サービスを使った携帯で行われている。
しかし、何故か私のはなく、キンジの部屋に赴いてそれに参加している。
「――アリア、理子、聞こえてるか」
『聞こえてるわ。理子、あたしの声はどう?』
『うっうー! ダブルおっけー! そんじゃアリアから中間報告ヨロ!』
テンションが1人だけ違う。
『……理子。あんたの十字架は、やはり地下の金庫にあるみたいよ。1度、小夜鳴先生が金庫に出入りするのを見たけど……青くてピアスみたいに小さい十字架よね? 棚の上にあったわ』
『――そう、それだよアリア!』
「だが、地下にはいつも小夜鳴がいるから侵入しにくいぞ?どうする」
『だからこその2人チームなんだよ、アリアとキーくんは。超・古典的な方法だけど――「誘き出しルアー・アウト」を使おう。先生と仲良くなれた方が先生を地下から連れ出して、その隙にもう片方が十字架をゲットするの。具体的なステップは……』
そうして理子は作戦を修正しながら私達にこれからの動きを指示していった。
潜入10日目の夜。
作戦も順調に遂行しつつ、その日も理子達と電話連絡をすることになっていたが、私は前回キンジの部屋に行って会話に参加したが、今回はアリアの部屋に行ってみた。
理由はまぁ、3人のリアクションでも楽しもうと思って。
入った時は普通の反応だった。
「亜里沙?あんたなんでこっちに来てるのよ」
「だって、私は女の子だよ?金次に襲われちゃう」
「それはないとは思うわよ?今からキンジの部屋に……」
「おっ、時間だね。繋がないと何かあったと思われるよ?」
「ま、あんただから良いか、面倒だから余計な事言わないでよ」
「へいへい」
それからアリアは携帯を取り出して理子達と繋いでいった。
『なぁアリア。亜里沙がこっちに来てないんだが、そっちにいたりしないか?』
「単に私のところで参加するみたいよ。」
『そうなのか』
「理子、キンジ。マズいわ。掃除の時に調べたんだけど……地下金庫のセキュリティーが、事前調査の時より強化されてるの。気持ち悪いぐらいに厳重。物理的な鍵に加えて、磁気カードキー、指紋キー、声紋キー、網膜キー。室内も事前調査では赤外線だけってことになってたけど、今は感圧床まであるのよ」
『な……なんだそりゃ……』
………なんだそりゃ。
感圧床って確か、床に負荷がかかったら警報が鳴るんだよね。
『よし、そんじゃプランC21で行くかぁ。キーくん、アリア、キョーやん、なんにも心配いらないよ。どんなに厳重に隠そうと、理子のものは理子のもの! 絶対お持ち帰り! はうー!』
さすが泥棒。
『んで、いま小夜鳴先生とは誰が仲良しになれてるのかな? かなかな?』
『アリアじゃねーの。お前、新種のバラにアリアとか命名されて喜んでたもんな』
「よ、喜んでなんかないわよっ。何言ってんの? バカなの?」
『おいアリア、気をつけろよ? 小夜鳴には、女関係で悪いウワサがある』
「別に……悪い人には見えないけど?」
『いや。俺には少し怪しく見えるぞ。少なくとも、あまり好きじゃない』
「『おお? おおおー? 痴話ゲンカってやつですか?』」
「『違う』わよ!」
理子と私がその話に割り込む。
なかなかお似合いだけどね。
『じゃあ、とりあえず先生を地下金庫から遠ざける役目はアリアで決まりね! どう? できそう?』
「……彼は研究熱心だわ。おびき出しても、すぐ研究室のある地下に戻りたがると思う」
『夜もいつも起きてるし……いつ寝てるのか全くわからん。何の研究をしてるんだろうな』
「こないだちょっとお喋りしたとき聞いたけど……なんか、品種改良とか遺伝子工学とかって言ってたわ」
『キーくん、アリア。じゃあ時間でいえば、何分ぐらい先生を地下から遠ざけられそう?』
『アイツの普段の休憩時間の間隔から見て、まぁ、10分ってとこだろうな』
『10分かぁー。なんとか、15分がんばれないかなぁ。たとえばアリアがー、ムネ……は無いから、オシリ触らせたりして。くふっ』
「バ、バカ! 風穴! あんたじゃないんだから!」
『おおこわいこわい。まぁその辺は理子が方法考えとくよ! じゃ、また明日の夜中2時にね! 理子りん、おちまーす!』
理子は言いたいことだけ言って消えた。
「キンジ、ちょっと聞きたいんだけど」
まだ話すの?
「……仮に、あくまで仮によ? あたしがあのバラのこと、喜んでたように見えてたとしたら、ね? どうしてあんたが不機嫌になるのよ」
『……別に不機嫌になんか』
「なってるじゃない」
『そんなこと、お前に関係ない。切るぞ』
「ちょっと待ちなさいよ。この流れでついでに聞いとく。――カナって誰。……あんたの……その、昔の……いわゆる、えっと……も、元カノ、とかだったり……するの?」
『それこそ――そんな事、お前には関係ないだろ』
「――そうね。関係ないわね。誰にだって……触れられたくない過去はあるもの。自分でもなんでか分かんないけど、今のは……ちょっと踏み込みすぎたわ。あたし、理子がカナって子に変装した時のあんたの態度、ヘンに……気になってたの。でも、もう聞かないよ。ごめん。謝る」
『別に謝らなくていい。俺も……ちょっと言い方がキツかったかもしれん。ごめんな』
それからキンジとの通話を切ったアリアは、力なくベッドに横になりに背中を向けた。
私はその時思った感想を言う。
「アリア」
「………何よ」
「金次のあの反応について言っておくよ」
「………」
「あの反応は親しい家族に向ける反応だ。」
「………」
「しかも、その人は既に亡くなっている可能性がある。だからこそのあの反応になった。それだけは私の感想として送っておくよ」
そう言って私は部屋から出た。