「私と結婚してください。」
………は?
「ええっと、もう一回言ってもらっても?」
「はい。私と結婚してください。」
「聞き間違いじゃなかったよちくしょう。」
俺は思わず悪態をついた。
何故、屋上に上がってきただけで求婚されるのかと。
もしかしたら白雪が占った『何かの選択に迫られる』と言うのはこの事だったのだろう。
俺は取り敢えずこう聞いた。
「何故?」
「?何故、とは?」
「なんで俺なんだ?金次もいるし不知火だっているだろ?」
「風が」
「風?」
「はい。風があなたを選べと。」
「………その風とやらはなんで俺を?」
「私たちウルス族は皆が女なんです。少しでも優秀な遺伝子を残す必要があるのです。」
「………断った場合は?」
「力ずくで。認めさせます。」
レキはそう言いながらスナイパーライフルを下ろした。
「ほう。断る」
「………何故ですか?」
「そうだな。別に結婚ないつかはするだろうから構わない。だが、俺は自由が良いんだ。
「………」
「で?どうする?力ずくで来るか?」
「………はい。ゲームをしましょう。」
「ゲーム?」
「これから最大七分間、あなたに猶予を与えます。私はこれから7回、あなたを襲い、あなたが一度でも逃げることが出来れば、求婚は撤回します。」
「………分かった。」
「それではどうぞ」
「………」
俺は考える。
相手はスナイパー。
レキの
この足で逃げられる範囲は限られて来る。
同じスナイパーとして一番嫌なのは近くにいること。
でも、レキは絶対の自信があるからこうして迫ってきている。
究極的には当たる寸前に亜里沙に変われば良いだろうが、
その場合、亜里沙が死ぬ可能性がある。
それに伴って俺も恐らく死ぬだろう。
この案は却下。
でも、恐らく、亜里沙との身長差までは把握してないだろう。
7回と言うことはカフスボタン。
そして、俺の心臓、または脳を狙うのだろう。
「………逃げないのですか?」
「………ああ。それが一番勝つ可能性がある。」
可能性を一つずつやろう。
まず、風の壁を張る。
「………」
その行動に少し戸惑ったような感じがしたが、壁を突き破って一つカフスボタンが器用に撃たれた。
……これでは駄目か。
ならもっと壁を厚くする。
しかしそれも突き破って二つ目のカフスボタンが撃たれた。
……これも駄目か。
なら今度は竜巻だ。
俺は下に手をつき風を集める。
しかし、その風も貫通して、三つ目のカフスボタンが撃たれた。
これから3度試してみたが、風では止められなかった。
「あと一つです」
「………」
俺はレキを観察する。
狙いは完璧。鎌鼬でも、切った半分がカフスボタンを撃ち抜いていた。
つまり、鎌鼬を見越してカフスボタンに当たる位置を変えたのだ。
「………」
レキはじっとこちらを見つめている。
ぼーっとした表情だが、こちらの動きをよく見ている。
レキがすっとライフルを構えた。
その瞬間、
目の上、と言うことは頭か。
レキが引き金を引く瞬間に、
「クシュン!」
俺はくしゃみをした。
レキはそれも見越したようにすっと軌道を直し、撃つ。
しかし、
キンっ!
後ろの手すりで音が聞こえた。
「………!」
レキが驚いたような表情を少し変えたような気がした。
「………残念だったね。レキ」
そう、私は言った。
多分、レキは梓のくしゃみの位置で引き金を引いたのだろう。
でも私は梓より、
その分上を通過して行った。
「はい。約束です。私は諦めます。」
「ちょっと待って。」
「………なんですか?」
「梓は話があるみたいだったから変わるよ。」
私はポケットから胡椒を取り出し、振ってくしゃみをした。
「さて、レキ。勝負は俺の勝ちだ。レキは亜里沙のことを見たことはあっても身長差までは把握していなかったわけだ。」
「はい。だから諦め「ちょっと待った」……?」
「確かに俺は勝った。でもそれは結婚のことに対してだ。」
「?」
「まぁ、その、なんだ。恋人からなら良いぞ?」
「………」
「俺はレキを可愛いとは思う。でも、誰に対しても無理矢理従わされているなら、どんな願いでも断る。でもその心が本心なら、俺が断る理由はない。……どうする?」
「………はい。分かりました。」
「………分かりましただけじゃ分からんぞ?」
「私の恋人になってください」
「………おう。」
俺は急に恥ずかしくなって顔を背ける。
レキはなぜか片膝をつき、
「ウルス族は一にして全。全にして一。これからは私たちウルスの47女はいつでも、いつまでも、あなたの力となりましょう。」
なんて堅苦しいことを言ってくる。
一度染み付いた習性は元に戻すのはなかなか難しいからだ。
俺は一度死んでるから、習性は元に戻っている。
「そうか。はぁ、疲れた。それじゃあな。」
俺は松葉杖をついて歩いていく。
「………」
その後ろでテクテクと音がする。
………。
その音を無視して歩く。
「………」
それでもついてくる。
「………レキ?」
「はい」
「………どうしてついてくるんだ?」
「私はあなたの恋人ですから」
………理由になってない。
あ、そう言えば、
「レキ。その風とやらは俺のどこを見て選んだんだ?」
と、気になっていたことを聞いてみる。
「風はその超能力を買っています。」
「残念ながら遺伝じゃないぞ?この力は。ぽっと出だぞ?」
「それだけではないです。その圧倒的な力と精神力です。
その点ではキンジさんや不知火さんよりはるかに優れていると。」
「………」
そう真っ直ぐ言われて少し照れるな。
「あと、あなた自身です。
そう言われて耳を疑った。
「………何?」
「『冥府の死神』と言われたあなたを風はウルスに引き入れろと」
「………それをどこで聞いた。」
「風です。」
「………」
風。
レキに指令、または間接的に操っている存在。
レキはその風を疑わず、ただ従っている。
その風はなんだ。どうして俺を知っている。
前に電話してきた、あのホームズと思わしき人物。
恐らく風は
何らかの物資か生物だろう。
だが何だ?
「くそっ!情報が足りない!」
「風があなたを選んだ理由は恐らくそれです」
「………そうか。だが、レキ。この事件が終わるまではアリアに従っていろ。どうせアリアに使われているだろうからな」
「はい」
「それからなら、まぁ、譲歩してもいい。」
「分かりました」
「そう言えば、もうすぐ祭りがあるな。……一緒に行くか?」
「……はい」
「そうか、じゃあな」
そう言って俺は離れた。
男子寮に入る前、電話がかかってきた。
「はい」
『もしもし、やあ、風切君』
「……ホームズか?」
『ふむ。どこで根拠を決めているかは前に聞いたね。』
「それで?何の用だ」
『いや、なに。君がしっかりアリア君を見てくれているかなと思ってね』
「ふん。そんなものお前お得意の推理でもすればいい」
『ああ。恐らく、君はアリア君を信じてくれたのだろう。』
「………用件はそれだけか?」
『君に少しだけ情報を上げようと思ってね』
「あ?『
『ほう。君はなかなか推理が利くようだね。流石は『冥府の死神』と言ったところかな?』
「………その異名は関係ない」
『知っているならいい。それではね』
そう言って電話が切れた。
俺はちっと舌打ちをして寮に帰った。
少し、レキとのゲームを変えました。