ゆかりさまとほのぼのしたいだけのじんせいでした 作:織葉 黎旺
今回東方二次創作ゲーム「東方キャノンボール」の要素が少しだけ入っておりますので、ご理解ください。
※微塵も知らなくても問題ないので、気になる方だけブラウザバックでお願いします
「さ、寒……!」
部屋の布団の中から居間の炬燵の中まで数十メートル。ガクガク震えながら冷たい縁側を小走りで抜けて、勢いよく炬燵に潜り込む。師走も中頃、すっかり冷えこんでくる時分。もう布団に帰らず、ずっと炬燵で生活しようかしらん、なんて思って嘆息した。流石に白くはならなかった。
「もう八割がたそうしてるじゃない」
先に来ていた彼女が呆れたように言った。よくよく考えると、胡散臭いという定評のある彼女をここまで呆れさせることが出来ているというのは、なかなかすごいことじゃないかと小さな感動を覚えた。
確かに最近は布団で八時間、炬燵で十五時間、その他諸々に一時間を費やして一日が終わるという大変健全で退廃的な生活を送っている。つまり一日の約三分二を炬燵に潜って過ごしているわけで、割合で言えばもう既に十分炬燵で生活しているといえる。ここまできたら残った三分の一部分を炬燵に回したところで、何ら変化はないともいえる。結局炬燵でも昼寝しているし。
「そうですねえ、じゃあいっそのこと炬燵で生活することにしますか」
「あら、それは駄目よ」
「どうしてですか」
「だって布団の中が寂しくなるもの」
にっこりと、そんな可愛らしい笑顔で言われてしまっては、もう何も返す言葉はない。何となく照れてしまって、言葉もなく頷いた。
「とはいえ、家にずっと引きこもってるのは体によくないわよ?」
「うーん、でも出かける用事もないじゃないですか」
私がそういうと、彼女は「それもそうねぇ」と頷いた。のどかな幻想郷の欠点は、のどかすぎて暇を持て余すことである。いや、忙しい人は忙しいけれど。我が家の式神さんとか。
「いっそのこと、何か行事でも執り行ってみたらいいんじゃないですか? そういうのって多分経済の活性化とか、士気の向上だとかに繋がりますし」
「両方とも、幻想郷にはほとんど必要ないのだけれどね」
しかし行事という意見はお気に召したようで、顎に手を当て、紫さんは何かアイデアを練り始めたようだった。そういえば、一応忘年会という行事は確定していたはずなので、年末になれば否が応でも一度は外出するな、と思った。
もう年の瀬なんて、一年とはかくも早いものである。先日花見をしたばかりのような気がするのに、また春が目前に迫っている。そう考えると、あっという間に過ぎ去っていく時を、こんな無為に過ごしていいものかと首を傾げたくなるが、これはこれで大事な一時なので気にしないことにする。が、ここまでぐうたらしてしまっていると貴重な時間が将来的に大きく縮まりそうなので、彼女のアドバイスを受け入れて今後は多少散歩にでも赴くことにしよう。
思考を行事の話に戻す。年が明ければ新年会が待っているし、その次は花見酒だろうか。間に異変でもあればそれを口実に宴会だろうし、そうでなくても何かの拍子に集まるだろう。飲む行事だけなら死ぬほど思い浮かぶ辺りが、流石幻想郷だ。ひとたび考え出すと酒以外の方向に思考が進まず、これ以上何かが浮かんでくる気配はなかった。熱燗でも飲みたいな、と思い始めた辺りで、ふと気になったことが出てきた。
「紫さん、来年の干支ってなんでしたっけ?」
「
「十干十二支でしたっけ、流石にそこまでは覚えてなかったですね」
正直に言えばそこまで聞いてもいなかった。そして次の瞬間、ぽんと彼女が手を叩いた。
「いいわね、干支を使いましょう!」
「え?」
「モチーフよモチーフ、開催するイベントの」
「ああ、なるほど……?」
わかったような、わからないような。一つだけ言えるのは、彼女が恐らく今回の思い付きに大変自信を持っているということだけだ。
徐にスキマに潜り込んでいった彼女は、十分ほどして炬燵の中へと帰ってきた。どうやら何か根回しを終えたらしい。私が啜っていた湯飲みを奪って飲み干していくと、慌ただしくスキマに帰っていった。暇が加速した私は、みかんを三個ほど食べ、お腹が膨れたので昼寝した。
「あら、寝ちゃったの?」
「……今起きました」
大きく欠伸、伸びをして起き上がる。帰ってきた彼女の姿を見て思わず、驚きの声を漏らした。先ほどまで着ていた道士服姿でなく、もこもこの毛皮のついた、振袖のような服に身を包んでいた。所々露出が見えるが、防寒よりもお洒落を取るという女性特有の精神の顕れだろうか。毛皮は腕や背中をぐるりと覆って浮いており、さながら天女に見えた。
「控えめに言って、とっても似合ってます。眠気が一瞬で吹き飛ぶくらいには」
「うふふ、ありがとう」
その場でくるりと回る彼女の姿に少しデジャヴを感じたが、この美しさの前には些細なことだった。それにしても、どうして急にこんな衣装を着てきたのか。イベントに関係することなのだろうか。
「そうなの、これは名付けて『新天干地支選定競争』のレース衣装なのよ」
「は、はあ……?」
困惑する私をよそに、彼女は説明を始めた。なんでも、十二支にもうひと枠足して十三支にして、そのひと枠に入る生き物をレースで決めたら面白いんじゃないか、とのこと。最初の十分で参加者を募ってきて、今の今まで衣装を見繕っていたらしい。
「別に私が出る予定はないのだけれど、みんなの衣装を用意してるうちに私も着たくなってきちゃったのよ」
「いいんじゃないですかね、主催者ですし」
何より私が目福だし。レースへの不安はすごかったが、それよりも好奇心と、何より楽しそうだなという期待があったので、ワクワクしながら待つことにした。
「ちなみにいつ開催なんですか?」
「大晦日よ」
「そこまで暇だぁぁぁ!」
結局暇と運動不足が解消されなさそうなことを嘆く私に、彼女が苦笑した。
全然遊んでなかったんですけど新衣装が好きすぎて復帰しました。出ないので書きました。出て(血眼)