ゆかりさまとほのぼのしたいだけのじんせいでした 作:織葉 黎旺
「クリスマスね」
「イブですけどね」
本日は12月24日であり、つまるところそういうことであった。引き戸の外でしんしんと降り積もる雪を眺めながら、蜜柑を一粒口に運んだ。
「聖夜だろうと貴方はいつも通りね」
「いやいや、紫さんもでしょ」
私と同じく炬燵に潜り込みながら、紫さんはピコピコと携帯式のゲームに勤しんでいた。懐かしのDSだ。しかもLightじゃない方。何のソフトだかは分からないが、ここ最近只管遊んでいるご様子なのだ。
「まあ今日の晩ご飯はピザとフライドチキンでしょうし、それ食べとけばクリスマスっぽくなりますよ」
「聖人に怒られるわよ」
「それはそれで、神秘の証明ってことになるので素敵ですね」
一区切りついたのか、紫さんはDSを置いて起き上がった。頭に乗っていた帽子が少し傾いている。気になったので直すことにした。
「ちょっと動かないでくださいね」
「ん」
炬燵から抜け出すのも億劫だったので、むしろ中に潜り、対角線上の紫さんの元へと潜り抜ける。途中変なところに触れてしまったようで、「ひゃんっ!?」と声を上げながら蹴られた。右肘が痛い。
「動かないでって言ったじゃないですか……」
「横着する方が悪いでしょう」
ごもっともである。のそのそと炬燵を這い出し、いつの間にかまた横になっていた紫さんの帽子を外して、被ってみる。温かくていい匂いがする。そして、少し跳ねた彼女の髪を整え始めた。
「紫さん、私思ったんですけど」
「何かしら?」
「最近、意図的に髪跳ねさせてません?」
ここ最近、やけに紫さんの髪型は爆発している。今までそんなことはなかったというのに、だ。これはもう、意図があってやっているとしか思えない。彼女は目を細めて胡散臭く微笑む。
「気の所為ですわ」
「本当ですか?」
「そんなことをする必要性がないでしょう?」
「まあ、それは確かにそうですね」
だって――たとえ跳ねてなくても、私なら、紫さんの髪触りますもんね。
「……本当?」
「本当ですよ。直してるうちに病みつきになっちゃったので」
「それならもう、寝癖をつけるのはやめようかしら」
「やっぱりわざとじゃないですか」
二人、クスクスと笑った。彼女の髪はさらさらで、撫でる度に桃のような甘い香りがした。
「あ、雪ですね」
「ホワイトクリスマスね」
窓の外ではポツポツと雨が降り始めていた。今年はホワイトクリスマスとはいかないらしい。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
どちらともなく、思い出したように呟く。用意してあった赤い小包を手渡した。
「ささやかですけど、クリスマスプレゼントです」
「ありがとう。開けてもいいかしら?」
「どぞどぞ」
中から出てきたのは、モコモコとした白いマフラー。いつも少し首が寒そうだなー、と思っていたのだ。まあ妖怪だし気にならないかもしれないが、何となく、彼女に似合うと思ったのだ。
「いいマフラーね、暖かそうでモコモコしてて……嬉しいわ、ありがとう」
「喜んでもらえたなら何よりですっ!」
「実は私からもプレゼントがあるの」
「お、ほんとですか?」
「ええ。喜んでもらえるかわからないけれど――」
雨はいつの間にか、綺麗な雪へと変わっていた。
間に合ったあああ!!今年も一年、ありがとうございましたっ!来年もよろしくお願いします!!