ゆかりさまとほのぼのしたいだけのじんせいでした   作:織葉 黎旺

21 / 31
めりーくりすます、ゆかりさま

 

「クリスマスね」

 

「イブですけどね」

 

 本日は12月24日であり、つまるところそういうことであった。引き戸の外でしんしんと降り積もる雪を眺めながら、蜜柑を一粒口に運んだ。

 

「聖夜だろうと貴方はいつも通りね」

 

「いやいや、紫さんもでしょ」

 

 私と同じく炬燵に潜り込みながら、紫さんはピコピコと携帯式のゲームに勤しんでいた。懐かしのDSだ。しかもLightじゃない方。何のソフトだかは分からないが、ここ最近只管遊んでいるご様子なのだ。

 

「まあ今日の晩ご飯はピザとフライドチキンでしょうし、それ食べとけばクリスマスっぽくなりますよ」

 

「聖人に怒られるわよ」

 

「それはそれで、神秘の証明ってことになるので素敵ですね」

 

 一区切りついたのか、紫さんはDSを置いて起き上がった。頭に乗っていた帽子が少し傾いている。気になったので直すことにした。

 

「ちょっと動かないでくださいね」

 

「ん」

 

 炬燵から抜け出すのも億劫だったので、むしろ中に潜り、対角線上の紫さんの元へと潜り抜ける。途中変なところに触れてしまったようで、「ひゃんっ!?」と声を上げながら蹴られた。右肘が痛い。

 

「動かないでって言ったじゃないですか……」

 

「横着する方が悪いでしょう」

 

 ごもっともである。のそのそと炬燵を這い出し、いつの間にかまた横になっていた紫さんの帽子を外して、被ってみる。温かくていい匂いがする。そして、少し跳ねた彼女の髪を整え始めた。

 

「紫さん、私思ったんですけど」

 

「何かしら?」

 

「最近、意図的に髪跳ねさせてません?」

 

 ここ最近、やけに紫さんの髪型は爆発している。今までそんなことはなかったというのに、だ。これはもう、意図があってやっているとしか思えない。彼女は目を細めて胡散臭く微笑む。

 

「気の所為ですわ」

 

「本当ですか?」

 

「そんなことをする必要性がないでしょう?」

 

「まあ、それは確かにそうですね」

 

 だって――たとえ跳ねてなくても、私なら、紫さんの髪触りますもんね。

 

「……本当?」

 

「本当ですよ。直してるうちに病みつきになっちゃったので」

 

「それならもう、寝癖をつけるのはやめようかしら」

 

「やっぱりわざとじゃないですか」

 

 二人、クスクスと笑った。彼女の髪はさらさらで、撫でる度に桃のような甘い香りがした。

 

「あ、雪ですね」

 

「ホワイトクリスマスね」

 

 窓の外ではポツポツと雨が降り始めていた。今年はホワイトクリスマスとはいかないらしい。

 

「メリークリスマス」

 

「メリークリスマス」

 

 どちらともなく、思い出したように呟く。用意してあった赤い小包を手渡した。

 

 

「ささやかですけど、クリスマスプレゼントです」

 

「ありがとう。開けてもいいかしら?」

 

「どぞどぞ」

 

 中から出てきたのは、モコモコとした白いマフラー。いつも少し首が寒そうだなー、と思っていたのだ。まあ妖怪だし気にならないかもしれないが、何となく、彼女に似合うと思ったのだ。

 

 

「いいマフラーね、暖かそうでモコモコしてて……嬉しいわ、ありがとう」

 

「喜んでもらえたなら何よりですっ!」

 

「実は私からもプレゼントがあるの」

 

「お、ほんとですか?」

 

「ええ。喜んでもらえるかわからないけれど――」

 

 雨はいつの間にか、綺麗な雪へと変わっていた。

 








間に合ったあああ!!今年も一年、ありがとうございましたっ!来年もよろしくお願いします!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。