ゆかりさまとほのぼのしたいだけのじんせいでした   作:織葉 黎旺

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アレの余韻から勢いで書き上げてしまいました。なんでも許せる人向け。伏字にはいやらしい言葉が入ります


ゆかりさまと〇〇〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「例大祭?」

「そう、例大祭よ」

 

 五月初旬。確か始まって一週間経つか経たないか、そんな頃合。暇を潰そうとハードカバーを手に取っていた私に、紫さんが声を掛けてきた。なんでも、出かけたいとかなんとか。

 

「例大祭って神社で行われる神事でしたっけ。出店とかもある、お祭りの」

「ええ」

「ってことは博麗神社で?」

「博麗神社例大祭よ」

 

 紫様は可愛らしく口元を歪め、どうかしら? と首を傾げる。お祭りか。お祭りは、好きだなあ。

 

「そうですねえ、行きましょうか。準備しますからちょっと待っててください」

 

 ハードカバーを閉じて立ち上がると、「待って」と腕を掴まれた。

 

「こまめに水分を摂るための飲み物にタオル、それに連絡用の携帯端末と、それを充電出来るバッテリー。あとは暇を潰せるものなんかがあるといいわ」

「え、そんなものが例大祭に必要あるんですか?」

「必需品よ? 少なくとも水分は、持っていかないと……死ぬわね」

「ええっ!?」

「最悪現地で調達すれば済むんですけれど」

「紫さん、何処のどんなデンジャラスな博麗神社に行こうとしてるんですか……?」

「そりゃあもう。ねえ?」

 

 ねえと言われましても、さっぱり伝わって来ない。紫さんは頭が良いので、時には私如きの思慮が及ばない何かを考えているのだろうなあ、と思考して納得することにした。

 

「最優先で必要なのはカタログだけれど、それに関しては現地で買った方が割安なのよね」

「かた? ろぐ? 何かを注文するんですか?」

「んー、色々注文するかしら」

「はあ。じゃあ、前述のものを用意してくればいいんですね?」

 

 自室に向かおうとすると、掴まれていた左腕が強く引っ張られた。思わず振り返ると、彼女の吸い込むような紫水晶(アメジスト)の瞳が目に映った。

 

「今回は手間を省く為に既に用意してあります」

「料理番組みたいですね」

 

 便利空間(スキマ)に手を突っ込んで、前述のものを引っ張り出す紫さん。はい、と渡されたので、それらを手元にあったそこそこの大きさのナップザックに詰める。

 

「うん、そのくらいの大きさなら戦利品も十分入るわね」

「戦利品!?」

 

 え、神社の例大祭に行って戦利品を得るって何!? 御神体でもパクってくるつもりですか!?

 混乱する私を尻目に、紫さんは足元に二人分の大きなスキマを開く。急に足元が消えて無重力を感じるこの現象は、何度経験しても慣れない。

 

「ふおおおおおうあ!?」

 

 パニックになり手足をばたつかせて暴れ出す私。いや、唐突にくるとスキマへの落下は本当に怖い。暴れる私の手を、ガシッと紫さんが掴んだ。手袋のすべすべとした感触と、漏れ出る体温が伝わってくる。

 

「落ち着いて」

「落ち着くどころか現在進行形で落ちてる真っ最中じゃないですか」

「ふふ」

 

 紫さんに手を握られると、確かに何故か落ち着いた。落ち着くとすぐにスキマも出口に繋がり、コンクリートだらけの殺風景な場所に落ちた。ガラガラのバスが数台目に入る。とりあえず幻想郷の外の世界のようだが、バスターミナルか何かだろうか。

 

「バスターミナル兼駐輪場かしらね」

 

 言われて振り返ると、背後には無数の自転車が止められていた。ママチャリからロードバイク、子供用の三輪車までその種類は様々だったが、一台、異様に目を引くものがあった。

 

「霊夢……?」

 

 ビッ! と格好良く御札を構えた、躍動感溢れる霊夢。そんな霊夢のイラストが、その自転車の側面には描かれていた。

 

「あー、良く出来てるわ〜」

「すごいですけど……これは一体?」

 

 まさか霊夢の……自作!?

 

「いえいえ、これはファンの方が描いた、痛車ですわ」

「イタシャ?」

「イラストが描かれた車のことよ」

 

 外にいた割に知らないのね、と意外そうな反応を見せる紫さん。いやいや、サブカルチャーには詳しくなかったので。

 

「まあ今から、そういったものがバンバン見られるわ」

「そ、そうなんですか……」

 

 紫さんはビッ、と指を立てて、決め台詞を言う。

 

「例大祭はサークル参加も一般参加も全てを平等に受け入れるのよ、それはそれは素敵な話ですわ」

「はあ」

 

 いい感じの台詞だったが、右から左へと流れていく感じで、イマイチ私の心には届かなかった。

 

 

 

 

  ☆★☆★☆★☆

 

「入場される方はカタログの提示をお願いしますー!」

 

 係の方の指示に従って、カタログを頭の上まできちんと上げる。両肩に確かな疲労の波動を感じながら、紫さんに指示されたサークルを回っていく。場所と買うものが記された、子供のお使いかって感じのメモを見ながら。

 

 

 駐輪場を出た私たちは、そのまま上がっていき、逆三角形が二つに三角形が一つ並んだような、愉快なデザインの建物の中へと入っていった。そういえば紫様の格好では人の目がキツいのでは、と隣を見てみると、いつの間にかカジュアルな格好になっていた。恐らく度の入っていない赤渕の眼鏡に、『Welcome♡Hell』などと描かれた独創的な黒Tシャツ、それにジーンズという、何処にでもいそう(?)な至って普通のファッションであった。

 

「入場前からのコスプレはルール違反なのよ」

「いや、確かにいつもコスプレかってくらい独特なファッションですけれど……祭りの割にドレスコードが厳しいんですねえ」

「祭りだからこそ、かしらね」

 

 たまにはこういう格好も悪くないわね、といって一回転して見せる紫さん。確かに悪くない、Tシャツのセンスを除けば。

 そんなことを考えていると、隣からも何かを考えているような声が聞こえた。

 

「んー」

「どうかしました?」

「貴方の格好が普通過ぎて、逆に浮いてるわ、と思って」

 

 確かに至って普通だ。白いTシャツに黒いチノパン、寒くなった時の為にパーカーも持ってきてはいるが、それこそどこにでもいそうな格好だ。対して周りには、知り合いの誰かしらが描かれたTシャツやら、缶バッジやら、キーホルダーやらが並びまくっている。確かに何もない人の方が浮く。

 

「これでも被ってみたらどうかしら?」

 

 ぽふ、と頭に何か置かれた感触。外して見ると、それは紫様愛用の白い帽子だった。赤いリボンがぽにょぽにょと弾んでいる。微かにいい香りがした。

 

「じゃあお言葉に甘えて」

 

 帽子を深く被って、前の列についていく。微かに熱が残っていたソレは、着けていて心地が良かった。

 

「ようやく動きが止まりましたね」

「そうね。あと三十分くらいで開会かしら」

 

 腕時計を見ながら紫さんが答える。現在十時。とはいえ、歩いてきて見た感じ、まだまだずーーーーーっと先にまで並んでいる人がいるみたいだ。果たして何時から並んでいるのか……まさか徹夜?

 

「徹夜はルール違反だからないと思うわ」

「あ、そうなんですか」

「でももしルールを破るような悪い人がいたら、それはもう……ふふ……」

 

 幻想郷の管理者たる彼女は、人一倍ルールには厳しいらしい。晩ご飯の品が増えないことを願いながら、持ってきたお茶を飲み始めた。

 

「確かにこれ、飲み物がないとしんどいですねえ……」

「冬以外のイベントであれば、熱中症なんてザラな界隈だもの」

「はえー、恐ろしい……」

 

 などと話していると、いつの間にかペットボトルは空になっていた。どうしよう、この一本しか持ってきていなかったというのに。

 

「開場すれば中には自販機もあるし、買い足せるわよ」

「そこまでは我慢、ですかね」

「我慢で倒れちゃたまったもんじゃないでしょう?」

 

 飲みかけで申し訳ないけど、と言って、紫さんはスポーツ飲料水を私に手渡した。保冷剤でも入っていたのか、適度に冷えていて持っているだけで気持ちいい。

 

「ありがたく頂きます」

 

 二口ほど飲んで、ありがとうございますと感謝して返した。今更初々しい気恥しさなどはない。

 

「じゃあ今の飲み物のお礼がわりに、少し働いてもらおうかしら?」

「ええ、構わないですよ」

「中に入ると会場はざっくり二箇所に分かれているのだけれど、移動に手間がかかるからお使いを頼まれてほしいのよね」

「はあ、上手くやれるかわかりませんがやってみます」

「壁沿いのサークルは狙ってないし、多分粗方買えると思うわ」

 

 最後の一言だけはよく分からなかったが、とりあえずお使いを頼まれたことだけは分かった。晴れて開場すると、少し不安ではあったが紫さんと別れて動き出す私だった。

 

 

 

 そして今に至るのであるが、この会場は精神衛生上大変よろしくない。人が多くて動きづらいし、知り合いそっくりの格好をした人が沢山いるし(何回か間違えて声をかけてしまってめちゃくちゃ恥ずかしかった)、どう動けばいいのかよく分からなくて怖い。はじめてのおつかいの難易度が高すぎる。

 

「紫さん……」

『あら、買い物は終わった?』

「いや、全然終わってないです……文字と数字で探すの大変過ぎて……」

 

 困った挙句、最終手段として紫さんに連絡することにした。ワンコールで出たので少し驚いた。

 

『こっちは買い物終わったし、二人でゆっくり回りましょうか。そっちに向かうから待ってて』

「すみません、ありがとうございます」

『今どこ?』

「えーと、東2の……」

「企業ブース付近ね、なるほど」

「うおおっ!?」

 

 スマートフォンを片手に、いつの間にか彼女が隣にいた。もう片方の手には大量に物が入った、イラスト付きの紙袋を提げ、どこか満足気な顔をしている。

 

「むう、確かに初めて来る人には難易度の高い買い物よね」

「紫さんは何かこう、めちゃくちゃ慣れてる感じですね……」

「そうねえ、初回から来てるし」

「え」

 

 今あっさり明かされる衝撃の新事実。驚く私を尻目に、駆け足で動き出した紫さんを追いかける。

 

「何年前から来てるんですか!?」

「春季は今年が十五回目だから、十五年前かしら?」

「うわあ、最古参だ」

 

 そりゃあ慣れてるわけだ、と一人納得。その後は紫さんについて回り、リズムゲームで遊んだり、祭りっぽい縁日のゲームに興じたりして遊んだ。

 

 

 

 

 

 

「いやー、楽しかったー!」

「ふふ、誘ってよかったわ」

 

 閉会の時間になってしまった為、帰ることになった。アフターイベントもあるらしいが、紫さんは眠いので帰るらしい。マイペースだ。

 

「小説に漫画、音楽にゲームにグッズとすごいレパートリーですよねえ……しかもみんな、プロじゃなくて一般の人がやってるなんて」

「最近は、プロと呼ばれるような人も参加してるわね。同人活動が切欠でプロになる人もいるし」

「好きこそ物の上手なれ、ってことですかね。自由な感じがして、熱気があって活気があって、すごく良かったです」

「それもこれも、()があってこそってことを忘れちゃいけないけれどね」

「……そういえば、何で紫さんたちが」

 

 ふと浮かんだ疑問を投げかけようとした時、紫さんが胡散臭い微笑でこちらを見つめているのがわかった。「知りたい?」と言いたげに。

 こくり、と頷く。

 

「それは、ね……」

「……それは……?」

 

 

 

 

 

 

「私の方が早く酔い潰れたら教えてあげましょう」

「えっ」

 

 いくら何でも妖怪より飲むなんて厳しすぎるっ!?

 行きのように私の手を掴み、紫さんはスキマを開く。

 

「打ち上げといえば焼肉にビールよね♪」

「え、私お金持ってないんですけど!?」

「私より飲んだら奢ってあげましょう。負けたらその時は、体で支払ってもらうしかないわね?」

「……上等っ!」

 

 肉の香りとビールの喉越しを思い、想像するだけで心を踊らせながら、彼女に手を引かれスキマを潜るのだった。








例大祭行く度に東方ってすごいよなあって思いますね。いつかはサークルで何か出してみたい……
これっていいのか……?って書きながら首傾げてたんでダメそうなら消します

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