「……流石にあれだけ深いと再生しづらいんだな。」
「あなたの治癒能力自体は既にとんでもないくらい働いたわよ……火傷跡の下から徐々にとはいえ再生していってたんだから並の回復力でないことだけは確かよ。
今のその傷痕は貴方の回復力が完全に治せなかった……つまり、歪んでしまったのよ、二度と体の形が戻らない形としてね。戒めとして起きなさい、治癒能力に頼りすぎる戦い方はダメだってね。」
永遠亭、陽は既にそこを退院して今すぐに帰る体制となっていた。だが、ツキカゼに貫かれた傷痕は完全には治らず、うっすらと繋ぎ目のように残っていた。
「心に刻んでおくよ……じゃ、ありがとうな。」
「いいわよ、あなたが何度も来てくれるおかげでお金が困らなくなるもの。
……まぁ、冗談はこの程度で止めるけど……貴方、傷痕の事もそうだけれど今の戦いを続けていたら本当に命がいくつあっても足りないわよ?自分の体が再生してるからいくら失っても痛くない……なんて闘い方妖怪でもしないわ。
だから……医者からの忠告よ、戦うなとは言わないけれど……もっと攻撃を避けなさい。当たっても回復すればいい、なんて言うのは自殺志願者よ……それをして泣かせる人がいるんだから……気をつけなさい。」
「……その忠告も、受け入れたよ。」
そう言って陽は永遠亭から離れていく。しかし、永琳の顔も陽の顔も晴れやかではなかった。
永琳は多分またここに来ることになるだろうな、というしたくもない予想をしてため息をしており、陽はまだ自分は弱いと自虐を内心でしていたからだったためである。
「陽ー!」
「あだっ……ただいま、陽鬼……」
八雲邸に帰ってきた陽。そして帰ってきた途端に力強く抱きついてくる陽鬼を苦笑しながら撫でていき、帰ってきたことを再確認する陽。
しかし、いつまで経っても陽鬼以外のメンバーが帰ってこない事に気づいた陽は、とりあえず陽鬼を抱き上げて家の中へと上がっていく。
「……みんな居ないな。陽鬼、他の皆はどうしたんだ?」
「月魅、黒音、光は三人で人里に向かったよ。自警を促しているんだってさ。
紫と藍は仕事に向かってるよ。私はここで陽が帰ってくるのを待ってたんだよ。」
「そうか……ありがとうな、陽鬼。」
事情を聞いた陽は陽鬼の頭を再度撫でる。気持ちよさそうに目を細める陽鬼を見ながら、陽は最近まともな飯を食べていなかったことに気づいた。かと言っていきなり重いものは作れないので、とりあえずお粥を作ろうと考え始めていた。永琳にも、千切れていた内蔵はすべて繋がっているのを確認してもらっているため既に食べても安心な状態ではある。
「あれ?陽どこか行くの?」
「ん?いや最近まともな飯を食べれてなかったし、丁度いいからお粥でも作って見ようかなって思ってさ。」
「ん、分かった。」
一人で台所に向かい、お粥を作り始める陽。運動は禁止されていたものの、軽い筋トレ程度なら許されていたので毎日適当な重さのものを作ってはそれを片手で持って、持ち上げては下げて持ち上げては下げてを繰り返していたため、別段筋力の低下で鍋が持てないという弊害は起こっておらず、スムーズに住んでいた。
「……ちょっと様子見に来たけど思ってたよりてきぱき進んでるね……」
「……皿、出してくれるか?ちょっと量を多めに作っちゃったみたいだからさ。」
「っ!うん分かった!!」
陽は、陽鬼にそう言って皿を取りに行ったのを確認すると、もう一つ鍋を用意して半分ほどもう一つの鍋の方に移してから、色々な調味料や材料を用意して、片方のお粥に突っ込んでいった。流石に自分のものと同じものでは飽きるだろうと、陽鬼の好きな味付けと材料を選んでそれらをトッピングしたのだ。
「お皿持ってきたよ!!」
そう言って2枚皿を出してきた陽鬼。陽はそのうち一枚を取って何も具が入っていないお粥を並々と入れていく。そして、もう一つのお皿にもう一つの方の陽鬼仕様な方を入れていく。
「こっちの方が陽鬼の、こっちの方が俺の……お代わりしたかったら言ってくれよ?俺が入れてあげるからさ。」
「うん!!頂きます!!」
元気よく叫びながら陽鬼はお粥を流し込むように食べていく。元々かなりの量を食べる陽鬼。お粥に材料を入れるくらいしなければ量を誤魔化せないだろうと、陽は内心考えていた。
「おかわり!」
だが、結局すぐに食べ終えて鍋の半分あった量があっという間に無くなったのだが。
しかし、陽はこの状況を見て帰って来れたことがとたんに嬉しく思えるようになっていた。自分の作った物がいっぱい食べられる、そういうのを見てこれからまたみんなのためにご飯が作れるのだ。という楽しみが出来ていた。
「……?陽、何でそんなにニコニコしてるの?なにか楽しいことでも思い出してた?」
「……まぁある意味楽しいことを思い出してたな。今度からまたその楽しみが味わえる、って考えてた。」
「わっ……そんなに頭撫でないでよ~……擽ったいから~」
陽が頭を撫でると、照れる様に陽鬼は頭を振っていた。しかし、抵抗する意志はそこまで無いようなので、陽はそのまま満足するまでずっと陽鬼の頭を撫で続けていたのだった。
「ただいまー……ふぅ、疲れたわ……」
「ただいま戻りました……」
「おかえり、みんな。」
しばらくしてから、日も沈み始めた夕焼けの時間帯にみんなが帰ってきていた。
陽は眠っている陽鬼をまるで人形のように抱きしめながら全員を迎えに行ったのだが。
「……何故陽鬼をそうやって抱いて持ってきているんですか?」
「そうよ、眠っているならわざわざ持ってこずに寝かせてやれば……」
「いや、これ……腕ダラーンとしてて分かりにくいかもしれないけれど、脇に腕が挟まれてうんともすんとも言わないんだよ……ぜんっぜん動かないもんだから仕方なく陽鬼事こっちに持ってきた、ってこと。」
「……本当なのです。陽鬼、脇でご主人様の腕をガッチリ固定しちゃってるのです。」
光が軽く確認してからそう答える。それを聞いた紫達は苦笑しながら納得をしていた。
何せ、本気で陽鬼に抱きつかれたら腕力では絶対に離れないからだ。
「まぁそういうことならしょうがないのじゃ。というか主様は良く痛みを感じないの……とんでもない馬鹿力の筈じゃろ?」
「あぁ…なんかもう慣れてきた部分もあるから。それに体が妖怪化していってるしそれも余計にあるのかもしれないな。割と頑丈になってきているしな。」
「……まぁ、離れられないならしょうがないわよね。晩御飯は私達が作りましょうか?」
「うーん……じゃあ頼もうかな…直前までに陽鬼が起きなかったらそうさせて━━━」
と陽セリフを言い終える前に月魅が陽鬼に近づく。それに気づいた陽は何をする気なのかを聞こうとしたのだが、それを言う前に月魅が陽鬼の耳元へと口を寄せる。
「起きないとご飯が食べられませんよ。」
「ご飯っ!?」
そして月魅の一言により、陽鬼は目を覚ます。そして辺りを見渡そうとするが……
「陽鬼!角!角が引っかかって痛い痛い!!」
陽鬼の角は後ろ向きに伸びているため、抱き上げている時は陽の肩に乗せる形で問題なかったが、いざ首を回そうとすると陽の首に角がクリーンヒットする為、陽鬼は角を思い通りに回せない状態となっていた。
「ご、ごめん!今降りるから!!それで、ご飯はどこ!?」
「ま、まだ出来てないですよ……単純に貴方の目を覚まさせるためだけの嘘です。」
「……そっか……」
夕飯がまだ出来ていないことを知った陽鬼は、陽から降りて凹みながら部屋へと戻っていく。
「……流石に、ご飯関連の嘘はつかない方が良かったんでしょうか?」
「ガチで凹んでたもんな……まぁご飯すぐ作ればき機嫌治ると思うけど……どれだけ腹が減ってたんだろうな……とりあえず飯作るか。」
「私も手伝おう。何を作るかは任せる。」
そう話し合いながら陽と藍は台所へと向かっていった。残された4人は顔を見合わせてから、陽達について行く様に台所へと向かったのだった。
「ごっ飯ー、ごっ飯ー……まだかなぁー……」
リズムを取りながらまるで歌でも歌うかのように夕飯の完成を待つ陽鬼がそこにはいた。
月魅達も自身の席へと座って料理を作る二人を観察しながらじっと待っていた。
「……料理、のう……妾も作れるようになった方がいいんじゃろうか?いつもいつも二人にばかり作らせるわけにはいかんからの。」
「……そうですね、そうなると私も作れるようになった方が良さそうですね……」
「なら、私も作れるようになりたいのです。」
「なら私が教えてあげるわ。これでもお粥は作れるようになったのよ。」
三人が話し合っている中、自信満々に胸を張って自信に満ちた顔をする紫。しかし、その自信は三人の冷ややかな目線によりすぐ壊れそうになっていた。
「……な、なによ三人してそんな目をして私を見るなんて……わ、私なにかまずい事言ったかしら?」
「……流石に妾達も━━━」
「お粥くらいは━━━」
「作れるようになっているのです。」
三人で息の合った台詞を続けていく。紫は少し渋い顔になったが、一応お粥以外も練習したんだぞ、という事を言おうと口を開こうとした時、その場で独特なリズムを取りながら歌っていた陽鬼が会話に割り込んできた。
「何々?みんな料理出来るの?」
「え?え、えぇ……マスターほどとは言いませんし、本当に簡単なものだけしかできませんが…」
「じゃあ食べてみたい!みんなの!」
「ご飯出来た……って皆してなんの話してんだよ?食べるって……どういう事だ?」
飯の用意が出来た陽と藍が戻ってくるが、陽は陽鬼達の話の内容がイマイチ掴めないため、頭に疑問符を浮かべていた。ちゃっかり自身の耳で音を聞いていた藍が、代わりに掻い摘んで説明することとなった。
「なるほど………俺と藍と陽鬼以外の4人がそれぞれ料理を作ってそれを食べ比べしたい、っていう話だったのか。」
「そういう事だ……しかし、私はその案には反対だ。万が一そのせいで紫様が怪我でもなされたら式神失格だからな。」
「藍……自分の怪我は自分の責任なのだから、貴方が私の怪我の安否を気にしなくてもいいのに……それに、私は怪我なんてしないわよ。料理に慣れてるんだから。」
「お粥しかできないと言っていたのに……何でこう自信に満ちているんですか……お粥ってせいぜい火傷くらいではありませんでしたっけ……いえ、偶に食材を入れる事もありますから包丁を使う時は使いますね……」
自信に満ちている紫を見ながらポツリと月魅はそう呟いていた。途中で紫が睨みを利かせてきた為に、即座に否定の言葉を入れたのであった。
「だが、発想は面白いな。料理対決みたいなの見ているようでさ……ならいっそのこと、料理対決でもしてみるか?」
「どんな風にするの?」
ポツリと陽が言った言葉に陽鬼が食いついた。別に答えない意味は無いので、陽は陽鬼に料理対決とはどういう意味を言った。説明が終わると、陽鬼はまるでその料理対決が起きないか、と言わんばかりの期待に満ちた目をしていた。
「……じゃあ、してみましょうか?その料理対決とやらを……」
「……そうだな、偶にはみんなの息抜きもしたいところだしな。じゃあしてみようか……料理対決。」
こうして、急遽紫、月魅、黒音、光の4人の料理対決が始まることとなったのだった。そして、陽、藍、陽鬼は審査員かのような立ち位置でもある。試合自体は、翌日から行われる予定となり、八雲邸は料理の勝負場となったのであった。