東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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治らない傷

「……」

 

「思ってたよりも傷の治りが遅いわね………長くても三日くらいで終わるものかと思ってたけど……5日経っているのに未だに治らないなんてね……何というか、やっぱり傷口を焼かれたのが響いているのかしらね。一応再生はし続けているみたいだけど……」

 

永遠亭。そこで陽は療養生活を続けていた。ツキカゼとの戦闘で腹に開けられた大穴、普通ならば出血死などの原因で寝たきりになってもおかしくないはずなのに陽は立って歩いていた。

歩く分には全くと言っていいほど問題は無いのだが、飯が食べられないために点滴をせざる得ないのだ。

 

「……こうやって毎日見続けていると本当に再生し続けているのか怪しいわね……気持ち回復しているように見えるくらいしかないもの。

ま、相手が傷口を焼いてくれたことが本当に幸いだった訳ね。だからといって感謝しちゃあダメだけれど。」

 

「……一応回復してる感じはある。焦げた傷口が何かずっとむず痒いし熱を持っているように感じるし……」

 

「うーん……なら回復しているのかしらね……ただ再生能力が追いついてない感じね。ただほとんど進行してないような見えるのを考えると、かなり長い間ここにいないといけないわね。

点滴も打ってないといけないし、何より何かあった時に咄嗟に対処できないのは困るのよ。」

 

そう言いながら永琳はカルテに何かを書き込んでいる。陽は自分の回復経過を書き込んでいるのだろうと思い、何も言わなかった。

それよりも陽からしてみれば、たまに少し痛むだけで動くことにもあまり支障をきたしてない以上、こうやってベッドに基本的に寝かされるのはものすごく退屈な事であった。

 

「あ、今度黙って歩き出そうとしたら優曇華にその焦げ跡剥がさせるからね。」

 

「それ優曇華にも精神的ダメージ行かないか……?」

 

患者の傷口を悪化させようとするこいつは本当に医者なのか、と陽はうっすらと思ったが、永琳ならば本気でやらせかねないと思い仕方なく陽は黙って横になり続けるのであった。

何か暇つぶしが出来ないかとトランプを作り出したはいいものの、一人では何も出来ないので結局それは放置されるだけになったのだった。

 

「陽~大丈夫ー?」

 

「マスター、お見舞いに来ました。」

 

「陽鬼と月魅か……ありがと、お見舞いに来てくれて。」

 

しばらくして、陽の病室に陽鬼と月魅が入ってくる。暇を持て余し始めた頃に来たので会話だろうがなんだろうが、陽はこの暇さえ潰せれば何でも良くなっていた。

部屋に入ってきた時、月魅が側に置かれているトランプに気づいた。

 

「おや……これは……」

 

「トランプ、陽鬼は知らないみたいだけど月魅は知ってる?」

 

「……一応、月にいた頃に同僚と遊んでいた記憶があります。」

 

「へぇ……何で遊んでたの、ババ抜き?」

 

「いえ、大富豪で遊んでました。」

 

お屋敷に召使いのような職で住んでいた、というのは陽は知っていたが、そういう立場の者が大富豪というのはいいのだろうか?という気がしていた。

 

「じゃあそれする?他にもルール知ってるのあれば陽鬼に適宜教えていきながらしていけばいいしさ。」

 

「そうですね、そうしましょう。」

 

「………二人共なんの話をしてるの?」

 

イマイチ話についていけていない陽鬼に説明を挟みながら、トランプで色んなゲームをしていく3人。陽は久々に時間を潰せて十分に満足できる日が遅れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と遊んだ様ね。まぁ暴れてないだけまだマシかもしれないけれど。」

 

「う……いいだろ、この頃ずっと暇を持て余してたんだからそれくらい許してくれよ。」

 

「別に怒ってるわけじゃないのよ。ただ、普通ならそんな大傷だと誰とも遊ぶことが出来ないくらいには安静にして置かないといけないのよ?

焦げ目が瘡蓋のような役割を果たしているせいで手術すら出来やしない……そんな状況の傷だと柄にもなく心配しっぱなしになってしまってるわ……」

 

永琳のため息混じりの愚痴に陽は反論することなく気まずそうな顔で目を逸らしていた。そりゃあ治っているが治らない傷を負ってしまっている元気はつらつな患者なんて見ててハラハラするだろう。

 

「……まぁ、無理さえしなければなんでもいいのよ。ただ、その火傷跡で偶然出来た瘡蓋はいずれ無くなるわ。それが完治する前になったら……維持でも治療を受けてもらうわ。触っちゃダメよ?下手したら死ぬから。」

 

「……分かった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、流石の私もそうなると退屈で死にそうになるわねぇ……ほら3カード。」

 

「退屈を潰してくれるのは有難いが……わざわざ夜に来なくてもよかっただろ……傷を見られたら気絶する人がいるかもしれない、ってことでここは一応個室が並んでるところよりも離された隔離エリアみたいなものだけれど…4カード」

 

夜、レミリアがこっそりと陽の病室に入ってきた。永琳や優曇華が気づいてない間に入ったのだろうが、迷惑とか考えないのだろうかと思いながらも、彼女達の暇潰しに付き合っていた。

 

「あら、私が負けてしまったわ……とは言うものの、貴方以外に夜の暇潰しができる者がいないのよ。咲夜やパチュリー、美鈴は夜に寝てしまうし、フランと遊べばどっかんばったんの弾幕ごっこになってしまうもの。

霊夢は起こしたら寝起き悪いから殴り飛ばされるし……だったらここがいいと思ったのよ、丁度あなたが入院しているし。」

 

「人の入院を暇潰しの口実にするなよ……」

 

二人はポーカーをしながら時間を潰していた。陽はろくに動いてもいない為に眠気が来ない、レミリアはそもそも夜行性というのが二人の暇つぶしという目的にがっちり当てはまっているのだ。

故に二人は、トランプをいじりながら時間を潰していた。

 

「いいじゃない、貴方が本当に大怪我に足り得る状態なら私は来ないわよ。いえ、来ていたとしてもわざわざ部屋に入ることはしなかったと思うわ。」

 

「まぁ俺自身でも不思議なくらいピンピンしてるからな……ここで『俺は重症の怪我人だ』なんていっても誰も心配してくれないのは明白だしな……ほんとなんで腹に穴空いてるのにこんなピンピンしてられるんだかわからん……」

 

「まぁ、あなたの体の生存欲求が他の妖怪や人間よりも大きいってことなんでしょう、そうでも無ければそんな大怪我私だったとしても死ねるわ。恐らくそんな大怪我を負えば妖怪であっても大半の妖怪が死に絶えるでしょうね……フルハウスよ。」

 

カードを出しながらレミリアは自分の事を述べる。自分の怪我が即死レベルだと言うのは目に見えて明らかなものであり、自分が異質だというのも明らかなものである。

しかし体の生存欲求が強い、と言われても陽にはなんのことだかよく理解出来ていなかった。

カードを交換しながら陽はそんなことを考えていた。

 

「げ……ワンペアだ……まずこんな怪我して生きていられるのは不死者……蓬莱人だけだろうよ。

俺は蓬莱人じゃないが、傷口を焼かれてるのが都合が良すぎるくらいに運が良かったらしいってな。」

 

「いやいや、私はそういうことを言ってるんじゃないわ。そもそも血がでていようがいまいが、そんな傷を負った時点で死んでいる、って言っているのよ。

蓬莱人なら確かに死なないかもしれないけれど、焼かれてても……いいえ、焼かれていたら余計に死んでるわよ、普通。」

 

「……何を言ってるのかよくわからないな。こんな傷負うことはないんだからそんなこと分からないだろ?人間なら確かに死んでいたかもしれないけど……事実、俺は生きてるじゃないか。だったら……他の奴らだって生きるんじゃないのか?」

 

「貴方の当たり前が私達の当たり前じゃないのよ……考えて見なさい、回復力の強い貴方でさえゆっくりとしか回復できない……なら、回復力が貴方よりも低い私達はどうなるのかしら?はい、ストレートフラッシュよ。」

 

揃っていない手札5枚を1枚ずつ交換しながら、陽はレミリアに言われたことを考えていた。そもそも、彼はレミリア達が自分よりも回復量が低い、だなんて思っていないのだ。

だから、回復力が自分よりも低かったら……そもそも回復さえしないという結論にしかたどり着かなかった。そして、その結論に達してしまったが故に達した答えもあった。

 

「貴方は、自分の事を遠慮なく捨てれるわ。でも同時にそれが当たり前だとも思い込んでしまってる。異質なのよ……貴方は。その考えも、性質も、生き方でさえも全てが異質で歪に歪んでいるのよ。

分かっている答えを見ようとしないのは愚者の考え、例え信じたくない事実でも信じざるを得ない時は来るのよ。」

 

「……何が言いたい?ただ俺は他より回復力が高いってだけで━━━」

 

「これだけ言ってもわからないなら、私から突きつけてあげるわ。

月風陽、貴方は……()()()()()()()

人間を媒体に、鬼、精霊、吸血鬼……今分かっているのは四つの力を受け継いでいること。そして、新たに増えた眷属の力も……天使だったかしら?その力も貴方は手に入れる。その得た力のお陰で貴方はあなた自身の強さを伸ばしていってる。

けれど、それだけじゃない……陽と陰、闇と光。混ざることのない力の組み合わせを貴方は二つ持っている。おかしくないかしら?パチュリーの様な魔法の力ならまだしも、何故持つことのない性質同士を持っていられるのかしら?」

 

レミリアは微笑みながら陽に問う。陽にはその問題の答えを考える術はなかった。自分の存在の圧倒的矛盾感。妖力では妖怪を浄化出来はしないのと同じように、太陽と月は同じところでは輝けないし光と闇が何も無い空間で同居できるわけもない。しかし、それらが同居しているのが陽なのである。

 

「わかる、分けないだろ……レミリア、お前は自分はなんで吸血鬼としての力を持って生まれたのか、なんて聞かれたら答えられるのか?」

 

「……その質問には確かに答えられないわね。けれど、質問の意味合いが違うわ。私が求めているのは、『ただの人間だった貴方がどうして妖怪の力だけを何の代償もなしに使用することが出来るのか』という質問の答えよ。付け加えるなら『何故相反する属性をその身に宿しておけるのか』という質問の答えも欲しいけれど。

けど貴方が今言ったことは『どうしてお前はその力を持って生まれたのか』という事。生まれながらの性質と後付けの性質を比べないでほしいところね。」

 

「……ただの言葉遊びだ。答えられないことには変わりはない。」

 

「貴方のは揚げ足取りね。さ、私はもう帰るわ……勝負はあなたの勝ちでいいわよ……もっとも、その手札じゃあ必要ないことだったかもしれないわね。」

 

レミリアは陽の手札を見ずにそのまま窓から立ち去る。その手札を、ロイヤルストレートフラッシュになっている手札を見ながら陽は自分の存在は何なのかを改めて考えていく。

 

「俺は……人間でも、妖怪でも……ない………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……咲夜、あなたずっと此処で待っていたの?別に一人で帰れるし待たなくてもよかったのよ?」

 

「私はお嬢様のメイドでございます……いつでも、貴方の傍にいる事こそが私のやるべき事なのです。」

 

「ふふ、貴方のような従者を持てて私は幸せよ。じゃあ、帰りましょうか……月夜をバックに帰るのも、悪くない。」

 

「了解致しました。」

 

そして二人は飛び始める。飛びながらレミリアはあることを思いつき、咲夜の顔を見ながら口を開く。

 

「ねぇ咲夜、もし太陽と月が同時に輝いていて……闇と光が共存し合える世界があるとしたら……貴方はその世界がどんなところか想像できるかしら?」

 

「太陽と月が同時に輝いていて、闇と光が共存し会える世界……ですか……申し訳ありませんが、私目にはそれがどのような世界か想像つきませぬ。」

 

「そうね……私も想像出来ないわ。

けれど……そんなのを体現できてしまったものは……恐らく……矛盾を体現できる者なのでしょう……」

 

月を見上げながらレミリアは空を飛ぶ。咲夜はそんなレミリアを見つめながら、レミリアが言いたいことの意味を考える。

月が輝く夜、一人の主は自分の投げかけた質問にどう決着をつけてくれるのか。一人の少年に期待するのであった。


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