東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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逃走

「ぐっ……!なんだこの動きは……!」

 

「貴様の動きに対応するためには……月化が一番丁度よかった。貴様の剣の速度は確かに早い。人間のそれにしては大剣を片手で……それもまるで攻防一体となった戦い方が出来る……相当なものだ。

だが、ならばそれを上回る速度で……一番速度の早いこの月化なら……我は貴様以上に早くなる……!」

 

凄まじい斬り合い。人里上空に上がり斬り合いを続ける月魅を憑依させた陽とツキカゼ。

戦いは陽の方が優勢になっていた。陽が一撃を放ち、その一撃をツキカゼが防げば、その隙を狙って陽が新たな一打を加え続けるという光景が出来上がっていた。

 

「……確かに……面倒だな。だが、そこまで早いのなら俺は手数を増やせばいい……!」

 

『合致[ツーペア]』

 

『合致[スリーペア]』

 

『合致[フォーカード]』

 

その音声とともにツキカゼは三人に増える。そして一撃を四連撃に、叩きつける一撃の重みは倍となる。

陽はその三人のツキカゼに襲われても依然として押されることは無かった。攻撃を刀で受け流し、避けて、逆に弾き返すなど問題なく戦えていた。

 

「何故だ…何故そこまで強くなっている……!」

 

「……強くなった訳では無い。だが、憑依さえさせてくれればこちらのもの、という訳だ。

貴様にはスペルカード無効化のスペルカードがあったな?あれを使われれば終わりだが……どうやらその様子だと使用直後でないと発動しても意味が無いのではないのか?」

 

「……たった一度でよく感づけたものだ。」

 

「いいや、確信を得たのは先程の煙さ……だが、それが俺にとって千載一遇のチャンスをくれたという訳さ。」

 

一度距離をとる二人。だが、距離を取ったすぐさまにツキカゼは攻撃を仕掛けていく。

陽もそれに対応するためにさらに素早く動く。

 

「煙、か……あれはお前の吸血鬼が仕掛けたことだろう?魔法で、驚かす程度のものだけを用意していた……残っている三人の力は借りぬのか?そうすればお前はもっと勝ちやすくなるだろうな?」

 

口角を上げて笑みを浮かべるツキカゼ。しかし陽はそのツキカゼに対して凛とした態度で応戦する。

 

「あいつらの力は借りない……今3人には俺とお前の攻撃で発生した余波を打ち消す役割を果たしてもらっているからな?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。とうぜんその流れ弾を消さねばお前の思いどおりになってしまうのも分かりきっている。」

 

「ふん……だったら正真正銘二人の対決というわけだ……!」

 

さらに苛烈になっていく二人の斬り合い。陽はひたすら滑らかに動いて、ツキカゼの動きを完全に把握しているかのような戦い方をしていく。

風のようにひらりひらりと攻撃を避け、時に向かい風が吹くかのように強烈な一撃を叩き込んでいく。

 

「ちぃ……三人でダメなら……もっと増やしてやろう!!」

 

『06[フランドール・スカーレット]』

 

機械音声が鳴り響き三人のツキカゼはフランの姿を取る。そして更にそこからスペルカードを取りたして発動させる。

 

「追加だ……禁忌[フォー・オブ・アカインド]!」

 

そして三人のツキカゼは一人一人がそれぞれ4人のフランとなり……この場には12人のフランドール・スカーレットが揃った。

それぞれのフランが即座にいっせいに弾幕を放つ。それは回避不能、前後左右上下全方位360°の方向から迫り来る弾幕。そこまでの密度、回避不能。ならばやるべき事は一つと、陽は……()()()()()()()

 

「何っ!?」

 

「……月光[(しん)]」

 

そのスペルを唱えた瞬間、周りにあったすべての弾幕が消え去った。まるでなにかに打ち消されたかのように。そして弾幕が消えたのと同時に陽の持っていた刀も消えていた。

 

「……何だ、何が起きた。」

 

「……答えを直接言うのは面白くない……ならば、ヒントをやろう。

新月は……()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

そう言って陽は両手を掌底の構えでツキカゼ達に飛び込んでいく。ツキカゼは頭の中で今何が起きたかを整理しながら陽と応対する。

弾幕と陽の刀がすべて消えた、スペル宣言の前に刀を折った、そして先程の陽の言った言葉……それらの要因が一体何を意味するのか。

 

「考えさせる暇など与えん……!」

 

そう言って陽はその場で分身体の一体に視線を向けて腕を振り下ろす。その分身体のツキカゼは陽の行動から咄嗟に大剣を自分の体に被せるようにして何かから攻撃を防ぐような体制をとる。

だが、それはなんの意味をなさずに分身体を切り裂いて分身体は消えてしまう。

 

「……あまり手の内を見せるのはな……だからこそ……!」

 

本体のツキカゼは陽が構えた瞬間にとっさに上に向けて飛ぶ。陽はそのまま縦に横、更に斜め二方向で全て円を描くように体を動かす。

分身体達は何が起こったのかわからないまま攻撃を受け、そして消え去った。

 

「逃がしたか……だが、距離を開けられた程度で……!」

 

そう言いながら上に飛んだツキカゼに迫る陽。ツキカゼの速度よりも早く飛んでいる陽はそのままツキカゼに追いつき、まるで何かで突くような行動を取ろうとする。

だがそれに気づいたツキカゼは、大剣を自分の体に被せるようにして防御態勢を取る。陽はそのまま突きを繰り出す。すると、金属音とともにツキカゼが吹き飛ばされる。

 

「ぐっ……!」

 

「見切られていたとしても……次の一撃は防げるか……!?」

 

吹き飛ばされたツキカゼに高速で迫り、一気に追いつく陽。ツキカゼは大剣を振り抜いて陽を自分の間合いよりも遠い位置に移動させる。

 

「……気づいたのか?このスペルの能力を。」

 

「……刀が消えて、攻撃も消された。そして腕を奮ったら同じタイミングで分身体が切り裂かれた。

考えうるに『見えない刃』があるようなものだと察していた。だが、そう簡単なものではないということも良くわかった。俺の予想が正しければこれは……『見えない刃』とお前の『イメージ』が合わさって出来た視界=攻撃範囲という何とも恐ろしいスペルカードだ……!」

 

台詞を言い終える前にツキカゼは陽に切り込んでいく。陽は器用にそれを避けていくが、ツキカゼは攻撃を避けて隙の出来た陽に対して手のひらを当てた瞬間にスペル宣言をする。

 

「禁忌[レーヴァテイン]!!」

 

「ごはっ……!?」

 

スペルを唱えた瞬間に、陽の体に当てたツキカゼの手のひらからレーヴァテインが生成される。それは陽の体を貫き、その傷をレーヴァテインの炎によって燃やしていく。

 

「が、ああああ……!ぐぅっ!!」

 

「ぐっ……!」

 

陽は咄嗟にレーヴァテインを持っているツキカゼの腕の肩に向かって何かで突くような動きをする。それはツキカゼは防ぐことが出来ず、そのまま突き刺しっぱなしとなっていり、ツキカゼは力を込めることが出来ずに手を離すことになった。

 

「ぐ、が……はぁはぁ……!」

 

陽はレーヴァテインの柄を持って、レーヴァテインを無理やり引き抜いて投げ捨てる。主のいなくなった剣は一人でに消滅してしまう。

それを見て少しほっとした陽だったが、貫かれた腹の痛みでスグにレーヴァテインのことを頭から消さないといけないくらいになってしまっていた。

幸い、焼かれていたことで止血が偶発的に行われていたらしく、血は出ていなかった。

 

「……だが、それも意味をなさない。傷を焼いたからな……焦げた部分が邪魔をして再生ができないだろう。」

 

「問題ない……貴様の焼きなど関係ないくらいに俺の治癒能力は高いからな……こんな傷、すぐに回復するさ……!」

 

実際、貫かれた傷は徐々にだが回復はしていっていた。しかし、治っていってるといってもその速度は本当に微々たるものであり、少なくとも10分20分なんて時間で回復する傷でもなかった。

 

「強がりもそこまで来ると滑稽だな……しかも、お前の先程の攻撃でスペルの時間切れでも来たのか?刀の姿がはっきりと見えているぞ?」

 

「……時間制ではないさ。そして……これが来るのを我は待っていたのさ。」

 

陽が先程折った刀は確かに陽の手元に戻っていた。だが、陽は焦らずに逆に余裕を見せる。ツキカゼは陽のその態度に疑問を感じたが、行動しなければその疑問を確認する事も、陽を殺す事も出来ないと思い直して使える腕で大剣を構える。

 

「強がり……では無いみたいだな。となれば……さっさと殺してお前のやりたいことをさせなければいい!」

 

ツキカゼはフランの姿を解いて陽に切りかかる。陽はそれを何とか刀で防いでいく。

だが、陽は傷の痛みのせいでまともに動くことすらできない状況である。再生はすれど陽の体自身に痛みがない訳では無い。それを陽は限界を無くす程度の能力で理性を強化していた。痛みを無視できる程の理性を作り出しているのだ。

 

「ははは!驚いたな、その体でここまで動けるとは……だが、その無茶はいつまでも続けられると思わないことだ!」

 

ツキカゼが切り込みながら高笑いする。陽もそんなことはとっくの昔に理解していた。しかし、それでも無茶をしなければツキカゼを倒す事なんて出来るわけもないと考えていたのだ。

陽は隙を探していた。その隙に現状最後の切り札を叩き込む………その為の時間稼ぎを今行っているのだった。

 

「だが、俺も今は片腕しか使えない……だからこそ、このまま決めさせてもらう!!」

 

「貴様の言っている事なぞどうでもいい!ぺちゃくちゃと喋っている暇があるのならさっさと退場してほしいものだな!!」

 

「そんな事は百も承知だ!このまま、決めさせてもらうぞ……!月風陽、お前を殺して俺は祈願を達成する!!」

 

そう言ってお互いの一太刀により距離を空ける陽とツキカゼ。互いが互いに強烈な一太刀を相手に浴びせようと自らの武器を構える。

 

「……月光━━━」

 

「終わりだっ……!!」

 

そして、同時に飛び出す。だが陽は飛び出した直後にスペル宣言をし始める。ツキカゼは陽がスペル宣言をし、自分は片腕を使えなくなっている事によりスペルを使用できない状態なのを理解していた。それでもツキカゼは陽に向かってその強力な一太刀を浴びせようとしていた。

 

「━━━[(みちる)]」

 

青白く光り輝き始めたその刀はいとも簡単にツキカゼの大剣を弾き飛ばし、そしてその刀身はツキカゼへと迫っていく。

だが、それがツキカゼに届くことは叶わなかったのだ。

 

「……消え、た……!?」

 

スペルカード、月光[満]は相手を消すスペルカードでは無い。その効果は相手に強力な一太刀を浴びせて気絶させた後、斬った相手を全回復させるスペルカードである。

だが、今こうしてツキカゼは消えている。その事実が、陽にとってはツキカゼが逃げたと理解するのに充分な情報だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、まぁたあんたは厄介事を起こしたってわけ?」

 

「いや、別に俺は……はい……」

 

数分後、陽は霊夢にお説教を食らっていた。彼女には悪いと思ってはいるが、こればかりはどうしようもないだろうと言う愚痴も若干心の底で思っていた。

 

「まぁいいわ、被害を出してないだけまだマシだもの。なにかの建物が倒壊していたりすれば私が手伝う羽目になるんだしね……でも、まともな異変でもないのに呼び出されるのはゴメンなのよ。これ以上は無しにしてもらいたいわね。」

 

「はい……分かりました……」

 

霊夢は、しばらく黙った後に陽を見てじっとある部分を見つめ始めた。ぶっ刺されて穴が空いた腹部である。霊夢は訝しげな表情を浮かべてその腹の傷と陽の顔をチラチラと交互に見ていた。

 

「……にしてもあんたよくその傷で平気そーな顔してられるわね……普通の人間……いえ、妖怪だったとしてもこんな傷でアンタみたいな間抜け面は出来ないわよ。」

 

「……あ、やば……その事をすっかり━━━」

 

セリフを言い終える間もなく陽は倒れた。血こそ流れてはいないものの深い傷であることには変わりないと、霊夢は冷静に近くにいる人間を呼んで、永遠亭に連れていくように頼むのであった。

 

「にしても……あんた、痛み無視は私にも中々ないわね……本当に、よくやったわ。」

 

そう言いながら霊夢は少しだけ陽に対して微笑むのであった。


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