東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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漁夫の利

「……何か、来ます。」

 

とある日、昼頃にお使いと言うことで陽達は博麗神社へと向かっていた。紫に頼まれた荷物を運ばなければダメだからだ。

この頼みを受けた陽は博麗神社に向かって歩き続けているが、その道中に月魅が後ろを向いて上の一言を発した。

 

「何かって……何が来るんだ?」

 

「私にもわかりませんが……とりあえず、嫌な奴に会いそうな……そんな予感がします。」

 

月魅のその一言で全員が警戒していつでも攻撃できるように戦闘準備を整えていく。

そして、『それ』は来た。

 

「……んだよ、もう1人増えたっつーのは知ってたがよ……まさか天使だとは思わなかったぜ。」

 

「……あれ、は……?」

 

「自称神だよ……たった1人の元人間の妖怪を追いかけ回して殺そうとする……サイコパスだけどな。」

 

陽は悪態をつきながら出てきた自称神、ライガを睨む。ライガは全員をまるで品定めするかのように見渡してから一言を発する。

 

「陰陽に闇光……とことん暗いのと明るいのが好きなやつだな、お前は。自分でそんなに矛盾したもの集めて楽しいのか?」

 

「お前にとやかく言われる筋合いは無いし、この子達は物じゃない……いい加減お前と喋るのも飽きてきた……」

 

「いいね、それに関してはお前と同意見だ。」

 

そのライガの言葉の後は誰も言葉を発さなくなる。陽はそのまま警戒しながらタイミングを狙う。

そのままじっと待つ2人……そして、風によって飛ばされてきた小さな紙が二人の横を通り過ぎた瞬間……火蓋が切って落とされた。

 

「うおらぁ!!」

 

「うおっ!?ちいっ!刀を投げるなんざ相変わらず無茶苦茶な事をやってくれる!!」

 

そう言いながらライガは陽の投げて地面に落ちた刀を拾い上げて、投げた瞬間に突っ込んできた陽に対して振り下ろす。

陽はもう1本の刀を作って受け止めようとしたが、その刀身が黒く濁っているのが見えたために咄嗟に回避する。

 

「無茶苦茶なこと上等!!てめぇこそ俺の投げた刀になんか変な小細工しやがったな?刀身が真っ黒の刀なんて気味が悪くてしょうがないぜ。」

 

「ちょっとした能力の応用さ。かすり傷でも相手を殺せる刀、って言ったところか。」

 

「ちっ………相変わらずめんどうな奴だな……だったら━━━」

 

陽は持っていた刀をライガに向けて投げてからすぐに別の武器を作り始める。

投げた刀はライガの一撃によってまるで一瞬で腐食したかのようにくずれさってしまった。

だが、一瞬さえあれば容易にものを用意することが可能、それが陽の『創造する程度の能力』である。

 

「ついでに追加じゃ!物体じゃないこいつならばその剣の対象外じゃろう!!」

 

「てめぇらのその考えが甘いんだよ!!」

 

黒音が隙あらば、という感じでライガに向かって魔力弾を放つ。それに習って、陽鬼は炎を、月魅は結界の応用の斬撃を飛ばし、光は矢を放った。

しかし、それらは尽くライガの一撃によって消しさられてしまう。だが━━━

 

「……んだと?」

 

光の矢の一撃が、ライガの持っていた刀の刀身を元の銀色に戻していた。光の矢の影響で浄化されたのだと、陽達は後になって気づいていた。

 

「……なるほどなぁ、そいつの光の力はとことん俺の能力と対象が悪いみたいだな。

殺意という感情が元になったとも言える俺の力は天使の浄化の対象と取れるわけだ。

しかも、恐ろしい事にこの刀にはもう力を込めても何も起きやしねぇ……いやはや、随分と恐ろしい能力……おっと。」

 

「……ぺちゃくちゃ喋ってる暇があるということは俺にぶっ殺されても文句は言えない訳だ?」

 

「……ふん、でも殺せてねぇあたりお前には俺は殺せねぇよ。」

 

「殺さないさ……お前は、殺すよりもそのまま捉えて閻魔にでも突き出してやるよ。地獄で一生後悔させるためになぁ!!」

 

「やれるもんならやってみろよ雑魚のくせに!!」

 

ライガは弾幕を放ち、陽はナイフを投げながら銃弾も発砲していく。ナイフを避けた瞬間に銃弾で相手を戦闘不能まで追い込むために。

 

「ははは!あたらねぇあたらねぇ!てめぇら5人掛りで俺に一撃も与えられねぇのかぁ!?」

 

「あまり調子に乗っていると……」

 

「痛い目にあいますよ。」

 

5人の攻撃を避け続けていたと思っていたライガ。しかし、いつの間にか陽鬼と月魅が後ろにいたことで、不意をとる形となっていた。

 

「っ!」

 

すんでのところでライガは陽達の方に突っ込む、つまりは前に出る形で回避するが、その方向には光と黒音の二人しかいなかった。

そして黒音もライガに向かって同様に突っ込んでくる。

 

「銃を打つしか脳がない蝙蝠が何をしに来てんだよ!!」

 

そのままの勢いでライガは弾幕を放っていく。黒音もそのままの勢いで弾幕を放って打ち消していく。

そして、ある程度近づいたところで黒音は二つの銃の上部を向きを一緒の方向で合わせる。

すると、銃二つが光り輝いてその形を変えて戦斧の姿に変わっていた。

 

「随分と面白い術を使うもんだ……!」

 

「偶にはこういう戦法を使っておかないといけないからのう!!名付けて『銃斧(じゅうき)血斧盛(けっきさかん)]』じゃ!!それと……魔法といってもらおうかのう!!」

 

「無駄にデケェ斧振り回してんじゃあ……ぐっ!?」

 

ライガが振られ続ける斧を回避し続けている時、背中に強烈な痛みが走る。即座に確認すると、ライガの背中には炎を吹き出してライガの背中にめり込んでいる篭手があった。

 

「なっ……!?」

 

「これやったら拾いに行かないといけなくなるのが玉に瑕(たまにきず)なんだけどね……しかも、一直線じゃないと当たらないから本当に使うところは限定されるけど……名付けて『炎鬼(えんき)砲弾拳(ほうだんけん)]』って所かな。」

 

「そして……妾の攻撃も忘れるでないぞ……!」

 

篭手に気を取られていたライガ。振り下ろされる斧に対してギリギリで避けたものの、振り下ろした時の風圧で吹き飛ばされていた。

 

「ちっ……流石にレベルアップしてるってことかよ……」

 

「そういう事……です!!」

 

隙をつく形で月魅はライガに突っ込んでいく。振るわれる刀を何とか避けていくが、光の矢や黒音の魔力弾などでギリギリの戦いを強いられていた。

そして、ふとここで気がついた。『陽はどこに行ったのか』と。

 

「こ、こ、だぁぁぁぁぁぁああああ!!」

 

上から聞こえてくる大声、そこには飛べないはずの陽が生身で落ちてきていた。

 

「なっ!?」

 

完全に予想外からの不意打ち。巨大な角材を持って陽は、ライガの頭に強烈な一撃を見舞った。

 

「が……!」

 

「まだだぁ!!狂闇[黒吸血鬼]!!」

 

スペル宣言、黒音を憑依させてそのまま怯んでいるライガに向かって魔力弾を放ち続ける。

角材で殴られて頭から軽い出血をしているライガだったが、この魔力弾では歯が立たずにライガの弾幕で掻き消されていく。

 

「だったら……これで終わらせますヨ!」

 

そう叫び、陽は手に取ったマスケット銃2丁の上部同士を今度は片方を反対にして合わせる。

再び銃の形が変わり、今度は円形の刃を持った武器へと変貌する。

 

「……チャクラムか。また微妙な武器だなおい。」

 

「これは普通のと違い、中に柄があるものですけどネ……それじゃあ……踊りなさイ!!」

 

そう言って陽は巨大なチャクラムを投げる。しかし、巨大な獲物である為に避けることはたやすく、正面から飛んでくるものは避ける。

 

「……んで、結局戻ってくるんだろうよっ!!」

 

そう言いながら振り向いてそのままの勢いで、ライガは跳ねてチャクラムを蹴り落とす。

チャクラムは甲高い金属音を上げながら勢いを無くして地面に落ちる……と、ライガは思っていた。

 

「円形で戻ってくるなんておかしい事起こるわけないですヨ!今一歩考えが及ばなかったご様子デ!!」

 

地面に落ちたことは地面に落ちていた。しかし、勢いを無くしたかに思われたチャクラムはその場で再び回転を始めて、陽の方へと戻ってくるように飛んでいく。

 

「……魔力で動かしていた、って訳か。なるほど、確かに銃が七変化するくらいだ……魔力で物体の動きを変えるなんてこと……造作もねぇわな。」

 

「そういう事ですヨ……だったら、もっと本気を見せてやりましょうカ!!」

 

再び陽はチャクラムを投げる。軌道が変えられることがわかった以上、ライガはよく見て避けようとし始める。

しかし、今度はチャクラムが高速で分裂していき何10枚ものチャクラムがライガに襲いかかろうとしていた。

 

「っ!見た感じ殆どが幻術か……なら!意地でも消させてやるよ!」

 

「はッ!」

 

飛んでくるチャクラムに一撃一撃丁寧に攻撃を当てていくライガ。殆どが消えていく中、唯一一枚だけ残っていた物があった。ライガはそれを本物だと確信して叩き落とした後すぐにそのチャクラムを掴んで陽の方向へと投げ返す。

 

「ほらよ!お返しだ!!」

 

「ふん……そうやって投げ返したところで無意味ですヨ!!」

 

既にライガの能力によってチャクラムは真っ黒に染まっていた。つまり、触れた瞬間に即死。

如何なる攻撃もあれを止めることは叶わない。そして隙を与えないと言わんばかりに攻め込むライガ。チャクラムを避けた瞬間にライガの攻撃が入り、どちらにしても瞬間的にアウトである。

 

「……そう、()()()()()。元々それは私の魔力の篭った代物ダ。ならば私に操れない道理は……なイ!!」

 

「っ!!」

 

ライガが予感を察知して咄嗟に回避行動を取る。それと同時にチャクラムが分割して、元のマスケット銃に戻ってライガのいる所に空中に浮いたまま発砲を続ける。

 

「今の銃撃で……お前の支配からは逃れられタ…溜まっていたものを全部吐き出させたからナ。

これで手に持てル……」

 

「ちっ……」

 

ライガは今回勝負を仕掛けたことに後悔と同時に喜びを感じていた。異常な速度で強くなっていく陽達の、その成長速度を見誤ってしまっていたことに対する後悔。

そして、この成長速度なら自分達の目標も達成できると言う喜び。その喜びは自然とライガの表情に出ていた。

 

「……何を、笑っていル?」

 

「あぁ……いやいや、面白いくらいに成長したと思ってな……これでもっと本気が出せる!!」

 

そう言いながらライガは弾幕をバラまいて陽に飛ばす。陽は冷静に魔力弾で消していくが、気づけば近くにライガがいた。弾幕は囮で、ライガはその隙をついて陽に直接攻撃を仕掛けるつもりだったのだ。

だが、陽は咄嗟に魔力弾で地面を攻撃して土煙を上げさせる。それに危険を感じたライガは咄嗟に引くが、その引いた瞬間に青色の光と真っ赤に燃える炎が土煙の中に入り、代わりに二重憑依をした陽が中から現れた。

 

「ダラァ!!」

 

「ははは!今現在の最高の力を持つスペルがそれだもんな!!おら!!もっと来やがれ!!」

 

「ちっ……!」

 

拳を振るい、刀を振るい、弾幕を放つ。スペルカードを使い合い、互いの体力が減っていく。

しかし、二重憑依に加えて通常の憑依までこなしている為に陽の体力は予想以上の減りを見せていた。

減った体力は、判断を鈍らせる材料となる。そのせいか、段々と陽はライガの攻撃を受けるようになってきた。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

「ほらほら、そんなもんか?そんなもんなのか?ご自慢の二重憑依もその程度の実力なのか?おお?」

 

ひたすら煽っていくライガ。しかし、陽にはそれに答えられるほどの余裕は残っていなかった。

どうやったら強烈な一撃を加えられるか……それだけを考えていた。

 

「これでも……食らうのです……!」

 

そう言いながら矢を放っていく光。ライガはそれを軽々と避けていくが、黒音が後ろから魔力弾を大量に撃ち出す事で逃げ場を完全に無くす。

 

「主様!!」

 

「っ!助かった!!」

 

2人の援助を受けて陽はライガに向かって刀を投げる、そして避けるであろう方向に、陽鬼と同じような攻撃方法で篭手を二つとも打ち出す。

 

「ちっ……ならお望み通りこっちに避けてやるよ!!」

 

そう言って、ライガはわざと陽の誘導した方向へと逃げる。陽もわざとなのは気に入らなかったが、今更何を言ってもしょうがないのでライガに向けて突っ込み、刀を振り下ろす。だが━━━

 

「ぐがっ……!?」

 

「なっ……!?」

 

ライガの腹から伸びる腕。その腕は更に深くライガに刺さったのか更に出てくる。

ある程度出てきた腕は、曲がってライガに触れる。

 

「っ!」

 

「漸く、漸くだ……てめぇを喰らって……杏奈を助けるこのタイミング……今日この時を待っていた……」

 

ライガの後ろから、腕を突き刺したのは白土だった。白土はフェンリルの能力によってライガを()()()()()

見る見る内にライガは白土の手に吸い込まれ……そして、跡形も無く消えた。

 

「……」

 

唖然としていた。そんな中、白土だけは冷静に陽を見つめて……そして、こう言い放った。

 

「陽……てめぇを殺すのは……後にしておいてやるよ。」

 

そういった後、白土は姿を消した。陽達は……ただただ、唖然とするだけしかなかった。


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