東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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陽鬼と散歩に行く話、どこに行くかはタイトルで察せる………と思いたいです。


剛力の鬼

陽鬼(ようき)……太陽の陽に、鬼と書いて陽鬼……悪くは無いけれど……」

 

鬼の少女……陽鬼に名を与えた日の翌日。朝になった後で陽鬼に確認を取ってから陽は昨日の事を全て紫と藍に話した。陽は、勝手に名付けた事に対して怒られないかとヒヤヒヤしていたが特にそんな事も無かったみたいなので少しだけ安堵する。それと同時に紫が何やら危惧しているのが気になってしょうがなかった。

 

「えっと……一体何が気になってるんだ……?」

 

「……いえ、苗字は与えてやらないのね。細かい事だけれど何となくそこが気になっちゃって……」

 

「そう言えば昨日名前を与えてはくれたけど苗字が無かったよね。もしかして苗字は考えてなかったとか?」

 

紫と陽鬼の素朴な疑問の眼差し、藍は無言でこちらを見ていた。まるで『そこまで深く考えていなかったのか』と言わんばかりのジト目で。

 

「え……苗字は俺と同じ月風にするつもりだったけど……月風陽鬼……けど、苗字呼びする事もそんなに無いだろうし名前だけでも問題無いって判断したんだけど……」

 

「た、確かに問題ないだろうけど……まぁいいわ。貴方が考えて決めた事だもの、あまり口を挟んでは野暮というものね」

 

扇子を広げて口元を隠しながら話を切り替える様に目を瞑って、数秒経ってから目を開いて扇子を閉じてから紫は再度陽に問い始める。

 

「ところで……昨日までかなりその子の髪ボサボサだったのに何で今はやけにサラサラでしかも若干艶が出てるのかしら……見違える程に綺麗になってるじゃないその子……昨日の櫛かしら?」

 

「昨日の櫛だよ。椿油を染み込ませてあるから髪にそれが染み込んで髪の毛がサラサラになりやすいんだよ」

 

そう言いながら陽は陽鬼の髪の毛の触り心地を確かめるかの様に髪の毛をわしゃわしゃし始める。

 

「わ、わ、や、止めてよ恥ずかしいからぁ!」

 

「えっ━━━」

 

陽鬼はその両腕で自分の頭を撫でている陽の腕を掴んだ後そのままぶん投げるように掴んだまま振り下ろした。

そしたら案の定、陽は正面に向かって飛んでいった。

 

「藍」

 

「はい」

 

投げられる直前に、紫は藍に命令して正面の(ふすま)を一瞬で数枚開かせて道を作っておいた。

そのお陰か、陽はぶん投げられても襖にぶつかること無くそのまま少し飛んでいった後に畳とキスをしていた。

 

「ぶべらっ!?」

 

「……あまり気安く女の子の頭を触らない方がいいのよ。そうなっちゃうから」

 

陽は撫でただけなのに少し理不尽ではないかと思ったが、まだ感情に振り回されて陽鬼に嫌な思いをさせてしまったのではないかと思い直して反省した。

陽鬼本人は、顔を赤くして頭を押さえているせいで陽を投げた事にも気付いていない様だが。

 

「いてて……」

 

「それで……陽鬼、あなたは一体何が出来るのかしら? 昨日見た限りだと私は貴方の印象がただの大食らいだから他に出来る事が無いかちょっとだけ興味があるのだけれど。まぁ今見た限りだと力は強そうね」

 

「うぅ……え、え? わ、私が出来る事? え、えーっと……炎を出せる! はず……」

 

「はずって……自分の能力くらい把握しておいた方がいいと思うのだけれど。それともまだそのあたりの記憶が戻ってないのかしら?」

 

紫のその言葉に陽鬼は悩み始める。腕と足を組み、うんうん唸りながら一生懸命記憶を捻り出そうとしているみたいだ。

 

「え、えっとね……炎を出せるって言うのは合ってるんだよ。けど今体の調子が悪いせいか何故か出づらいんだよ。一応出すだけなら簡単だけど高火力を出そうとしてもうんともすんとも反応が無いから……だから、はず……」

 

頬をポリポリと掻きながら陽鬼は紫に伝える。紫はまだ本調子じゃないから出ないのかそれともまた別の原因があって出ないのかの二択を頭の中で出したが、如何せん情報が少な過ぎる為に何とも言えずに一旦これを置いておいて後から考える事にした。

 

「まぁ、出せないのならしょうがないわね……敢えていうなら『炎を出せるはずだった程度の能力』かしら……」

 

「一応炎は出せるって言ったよね!?」

 

「けどまぁ……どちらにせよ室内で高火力出されても困るけどな。家が燃えてしまうからな」

 

陽の言う事にそれもそうだ、と紫と陽鬼は同意する。これで一旦話を終わらせるつもりだったのだが……

 

「紫様、陽鬼を地底か博麗神社に連れて行ってみませんか? 彼女達のどちらかと会えれば陽鬼も安心出来ると思うのですが」

 

「……地底? 地下に街があるのか? ってかなんで博麗神社とそこなんだ?」

 

「あら……そういえば説明していなかったわね……そうね、何故藍が博麗神社と地底を選んだか。そのついでに地底について少し勉強しましょうか」

 

そして、陽と陽鬼が気付いた頃には何故か目の前に黒板、自分達の前には机、その上に紙と鉛筆が置いてあったのだ。陽はまるでこの状況は学校みたいだな……と思った。ある意味では正解である、何故ならスキマで幻想郷にある寺子屋の一部屋に移動したのだから。

 

「それじゃあまず何故地底と博麗神社を選んだか。簡単に言えば地底に住んでいるのと博麗神社で居候しているそれぞれ二人の鬼がいるのよ。

博麗神社で居候しているのは伊吹萃香、いつもお酒を飲んでばかりだけど実力はピカイチよ。後、陽鬼と同じく見た目は人間の子供に角を足した様な見た目ね。

次に地底なんだけど……こっちに住んでいるのは星熊勇儀と言われる怪力の鬼よ。萃香と違って人間の大人の見た目ね。額から赤い角が一本生えているわ。こちらも酒を良く飲むけどこの2人は酔っ払っていても人の本質を見極めれるくらいには人を見る目があるわ。粗相は無い様にね」

 

「つまり、陽鬼をその2人に会わせてみたいと?」

 

「そういう事だ」

 

「次に地底の説明だけど━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━っと、少し長くなったわね。と言っても10分程度だからかなり説明出来た方だと思うのだけれど……」

 

「3分くらい経ったところから陽鬼が寝始めてたぞ。勉強は苦手みたいだな……」

 

その髪を撫でながら陽は膝の上でぐっすり寝ていた陽鬼をおんぶして立ち上がる。傍から見たら親子の様にも見える。

 

「……けど、萃香の方はいない時もあるし……少し広いけれど地底の方へ行ってみましょうか。スキマを使えばすぐに付くわ」

 

「では、私は昼食の準備をして起きますのでお気を付けて行ってください」

 

「えぇ、美味しいご飯を期待しているわ」

 

その会話のやり取りを最後に、紫達はスキマへと入り地底へと向かう。しかし、陽鬼がこのまま起きない状態を維持していいものかと思いつつも自分から起きるのを待ってもらうしかないと考えている陽は少し悩みながら薄暗い地底へと━━━

 

「……いきなり誰かと思ったら、貴方ですか八雲ゆか……っ!?」

 

「……貴方もこの子を見て驚くのね……でも、心が読める貴方なら説明する手間はいらなさそうね」

 

歩いている内に紫が立ち止まって誰かと話していた。ぶつかりそうになりながらも何とか立ち止まり、紫が降りたのを確認してから陽もゆっくりとスキマから降りる。

目の前には桃色の髪の少女と白に少しだけ緑を混ぜたかのような髪をした少女が二人いた。そして、その二人の周りに浮遊している眼球の様なもの(片方は閉じているが)が陽は気になった。

 

「……なるほど、拾い子ですか。そしてその拾い子が更に拾い子をしてきたと……で、勇儀に会いに来た。という訳ですか」

 

「全てを正確に理解してくれて助かるわ」

 

「えぇ……こんにちは月風陽さん。私はここ、地底にある地霊殿の主……古明地さとりです。一応言っておきますが貴方より年上ですし、この目は他人の心を問答無用で読んでしまうサードアイ、と呼んでいるものです」

 

陽は驚いた。自分の考えている事に答えてくれたのだから。そしてそれは相手……さとりが自分の心を読んでいる事への確かな証明にもなったという訳だ。

 

「それと……恐らく私の後ろにいるであろう彼女は私の妹のこいしです。本来は人に対して無意識に発動して人から気にされなくなる能力を持っている子です。目を閉じているのは気にしないでください」

 

いるであろう、という言葉に若干の引っ掛かりを覚えたがまぁ無意識なのだしよく分からない事もあるだろうと考えて追求する事を辞めた。そして妹の方に目を向けるとこちらに向かって手を振ってたかと思っていたら何故か置いてあったソファにダイビングをして跳ねていた。無意識だから、という事で陽はまたも考えるのを止めた。

 

「あぁ、それと勇儀は今日は用事が無いと言って酒を飲みに行っている、とお燐が言っていたので案内をさせましょう。……ほら、お燐行ってらっしゃい」

 

そう言って彼女が座っている仕事用デスクの様な所から小さい黒猫の様な生き物が現れた。

そして、机からジャンプして一回転した時にはもう既に……いつの間にかそれは人の姿になっていた。

 

「……橙と同じ猫又の妖怪?」

 

「少し違いますね。彼女は確かに猫の姿を取っていますが妖怪としての名は『火車』という妖怪です。因みに彼女の趣味は死体を集める事ですが、墓あらしなどは行わない礼儀正しい子ですのでよろしくお願いします」

 

「……」

 

想像する前に陽はその情報を頭から叩き落とした。今その情報は確実にいらないものだと認識したのと同時に運ばれる死体の事を想像しそうになって少しだけ気分が悪くなったのだ。

 

「にゃにゃーん。話は聞いてたから案内するにゃー」

 

そう言いながら一体いつ取り出したのか分からない手押し車を動かしながら部屋を出ていく。紫達もそれに付いて行く事にした。危うく忘れるところだったが、陽鬼はまだ寝ている様だった。

 

「にしても……さっきから居酒屋ばかりしか見当たらない様な気がするけど……」

 

地霊殿から外へと出て、地底の街を闊歩するメンバー。陽は何故地底の明るさはここまでなのかとお燐……火焔猫燐に尋ねる。

 

「そりゃあね、ここの住人はお酒を飲む事が好きな奴らが多いんだよ。だからそういう奴らが多くなると自然とそういう店も多くなる……って事さ。酒とつまみが少ない店は地底じゃ弾き者さ。

あ、頭上注意ね」

 

「え……痛っ!?」

 

突然陽の頭に謎の激痛が襲いかかる。そして、辺りには陽の頭とそのぶつかった物の音が響き渡る。

 

「今頭上に襲いかかったのは妖怪つるべ落としのキスメ。一人で出歩いてる時にこの子に食べられない様にしてね? 無口だけどこの子は後ろからぱっくりいかれちゃうから」

 

お燐が今落ちてきた物……否、者であるキスメの説明をしたが、当の本人である陽は激痛が走っている頭に意識が向いていたのでそれどころでは無かった。

 

「私の目の前で彼に手を出すなんて……舐めてるのかしら?」

 

「わわっ! 待った待った! 途中で気づいたからこそ頭にぶつかる程度になったんだって! って言ってるよ」

 

桶の中に入ったまま慌てるような素振りをするキスメ。喋れないのかそれとも極度の無口なのかまでは判断がつかないが紫は殺気をしまった。マイペースに訳をしているお燐に少し毒気が抜かれたのだ。というより、呆れた。

 

「んん……なんかすごい音したしいい匂いするしちょっと薄暗いし……ここどこぉ…………?」

 

「お、おぉ……ようやく起きたか陽鬼…………」

 

目を擦りながら陽におぶられている陽鬼は目を覚ます。そして、何とか痛みが収まってきた陽も陽鬼が起きた事に気付く。

 

「……お酒と、つまみの匂い……ここが地底なの?」

 

「お前そこだけは認識するんだな……あぁそうだよ。ここは地底だ」

 

陽が場所を答えると、ゆっくりと飛び上がって陽の目の前に立つ陽鬼。辺りをキョロキョロ見回しながらよく見れば鼻をスンスン動かして周りの匂いを嗅いでいる様だ。

 

「貴方……まさか起き抜けでお酒飲む気? いくら何でもそれはダメよ?」

 

「なんで飲んじゃ…………の、飲む訳ないじゃん……い、いやだなぁ、もう」

 

ここにいる陽鬼以外の全員が心の中で陽鬼が嘘を吐いたと断言出来てしまった。だが、今は陽鬼ではなく別の鬼を探すのが目的だった事を思い出した紫達は気を取り直して勇儀を探す事になった。

お燐に運ばれている為、キスメも一緒だが。

 

「……あ、ここだよここ。ここでいつも姉さんは酒を飲んでるんだ」

 

「ここか……」

 

がらっと扉を開くと、もう既にそこの居酒屋は満員でどこもかしこも賑わっていたが……その中で一際賑わっているところを陽はすぐに見つけた

周りに人が集まっていることから考えてあそこで何かが行われているのだろうかと思った陽は歩いて近づく。

そして━━━

 

「ぷはぁ! あたしに飲み比べで勝てる奴ァいねぇのかい!?」

 

「すげぇ! これで姉さんは今までの飲み比べ全勝してるぞ!」

 

「流石勇儀姉さんだ!!」

 

「……あの人が、勇儀………」

 

人の集まっているところの中央、そこには男性妖怪と額から赤い角の生えた女性が酒樽を持って飲み比べをしていた。

そして、その女性こそ件の女性……星熊勇儀であった。




次回、主人公のある意味での特技が炸裂………出来たら、いいなぁ………と思っています。

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