東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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超越

「禁忌[レーヴァテイン]!!」

 

「本人のそれとは違って使いこなせてないのが丸分かりよ。所詮、他人のスペルカードの使い方なんて本人以上には出来ないわよ。

それでもまだやると言うの?貴方がいくら強い妖怪の力を手にしていたとしても、それは本人には遠く及ばないわ。」

 

マヨヒガで行われる戦い。フランドール・スカーレットに化けた男3人と、八雲紫。3対1での戦いが繰り広げられていた。

だが、どれだけ強力なスペルカードを使おうとも紫はスキマを広げてすべて受けきっていく。

そのせいで男は段々と消耗してきていた。

 

「そろそろ藍もこっちに来るわよ?本人より使いこなせていない時点で私に勝てると思わない方がいいわ。

能力を使おうにも私には効かない、そして何故か貴方は藍には使わなかった。

何故かしら?まさか、使いこなせていない……あからさまに体に負担のかかるその力で本当に私たちに勝つつもりでいたのかしら?」

 

「ふ……そんなつもりじゃないさ……ただ、標的以外は殺したくない、ってだけだ。殺したい奴はただ一人さ。

そいつ以外を殺そうと殺すまいと俺の勝手だろ?」

 

「そうね、確かに勝手だわ……けれど、時にそれは相手に舐めてかかっていると思われるのよ。

そういう不快な思いをした相手は……一体どういう行動に出ると思うかしら?特に、今この時……私はあなたにそういう感情を抱いてしまっている時は……どうするつもりかしら?」

 

「そんなこと、俺が知るか……!」

 

そう言って男は紫に再度襲いかかる。紫はただ淡々と、男を排除するためだけの動きに取り掛かる。

スキマを広げてそこから数え切れないほどの武具が飛び出してくる。斧、槍、銛、刀、西洋剣……ありとあらゆる武具が男に襲いかかる。

これは弾幕ごっこではない、そうなれば紫も当然相手を排除する……自分の敵を殺すための本気を出す。

 

「ぐっ!?」

 

男はフランの能力をフル活用して武具を一斉に破壊していく。視界に入るかつ把握できるだけの武器の目を自分の手のひらに移して全てを壊していく。

分身体の二人もそうである。しかし、それでも追いつかない。3人であろうとも5人であろうとも、10人であろうとも変わらず追いつかなかっただろう。

 

「が、ぐっ……!」

 

次第に分身も本体にもダメージが入っていく。武器が掠り、血が滲む。痛みに顔を歪ませるが関係なく武器全てが襲いかかってくる。

そして、変身は解ける。フランの姿から元の男の姿になる。制限が来たのだ。そして、フランの力を使えなくなってしまっては武器を簡単に破壊する術は無くなってしまう。

男は咄嗟に剣を前に出して自分の体を隠す隠れ蓑にする。剣だけは武器が勢いよくぶつかっても壊れることは無かった。

だが、それで壊れないのはあくまでも武器だけである。

 

「ぐがっ!」

 

「ぐはっ……」

 

分身2体が消え失せる。武器に貫かれて、一瞬である。紫は中々しぶとい男に業を煮やしてスキマを男の後ろにも作り出す。

そして、後ろのスキマと前のスキマを繋げる。これで、武器が永遠に発射され続ける状態となってしまう。そして、前のスキマから出てくる武器は発射されているので当然加速がかかっている。

故に、後ろのスキマで回収された武器はさらに加速がかかるのだ。

 

「ぐ、ぐぁ……!」

 

「そろそろ諦めたらどうかしら?その剣がどれだけ丈夫であってもあと数分もすれば貴方を襲う武器達の速度は音速を超えるわよ?音速を超えてしまえばその剣が何で出来ていても壊れるのは明白よ。」

 

「ふん……お前に俺を心配する理由もないだろう……それに、お前がこうやって武器をこの剣にぶつけさせて壊れさせ続けている事で……得をする事もあるんだよ……!」

 

「え……?」

 

紫は男の言っていることが分からなかった。いや、文面的な意味で理解すれば、武器をぶつけさせてその武器が壊れていく。その状況が男に取って理にかなっているということだけが理解出来た。

だが、その真意は分からない。だが、分からない間にこれ以上あの男の思い通りにさせてはいけないと紫は感じていた。

『男が言ったことは嘘ではない』と紫の中の直感がそう告げていた。

だが━━━

 

「もう遅い!!」

 

男は紫が武器を出さなくなった瞬間に剣を構えて突っ込んでくる。そしてその刀身が黒く染まっていき、剣から声が聞こえてくる。

 

『合致[ダブルジョーカー]』

 

「物にも微かな魂は宿る……何故かは知らないが植物よりその命はこの剣の糧になりやすい……そして、壊された瞬間に願う事は……『恨み』だ。この力は……壊された物達の怨念で成り立っている……技だ!!」

 

そう言って切りかかる。紫は咄嗟に避けるが、既にその時男は紫が避けた方向に蹴りを繰り出そうとしている状態だった。

 

「っ!?」

 

焦った紫は咄嗟に空中へと飛び上がる。だが、飛び上がった時には既に()()()()()()()()()()()()()()()()

飛び上がった瞬間で避けることが出来ない紫はそのまま吹っ飛ばされる。何とか空中で一回転して地面に着地する事が出来たので墜落ダメージこそ無かったものの、腹にパンチされたダメージは微かに残っていた。

 

「……今のは、何……?」

 

「まぁネタバレこそ散々してきたが……今回ばかりは自分で考えな。案外、簡単なところに落とし穴があるかもしれないぜ。」

 

そう言って男は走り去ろうと動き始めた。しかしその瞬間に上から何かが来ると直感で感じ取り、横に避ける。

その瞬間に地面に何かが落下して、とんでもない風圧が男と紫を襲った。

 

「くっ……そうか、そう言えば分身達も当然消えていたんだったな……だが、いささか来るのが遅かったんじゃないか?八雲藍。」

 

「……少しばかり、無茶をしてしまってね。情けないことに少し気絶してしまっていた。

偽物とはいえ、あのフランドール・スカーレットを9体も相手にしていたんだ。多少の無茶をしなければどうしようもなかったよ。お陰でいつもは使わないところまで妖力を使わされてしまった。

……が、これでもう終わりだな。お前のその剣もとっくにエネルギー切れをしている上にお前自身の体もかなりガタがきている。

ここが私たちの家の目の前であったなら……チャンスはあったかもしれないが、もう終わりだよ。」

 

男は藍にそう言われて無言で俯く。勝負はあった、と確信した藍がゆっくりと男に近づいてその爪を男の首筋へと伸ばす。しかし、まだ命を取るようなことはしない。

反撃を受けないように剣は足で押さえつけているが。

 

「……だが、お前には色々と聞きたいことがある。お前は誰の命令で動いている?」

 

「……誰の命令でもない、俺自身があいつ自身を殺したいと願うから殺そうとするのさ。」

 

藍の尋問が始まる。藍は紫の事もあってすぐにこの男を殺したい衝動に駆られ続けているが、それを全部中に押し込めて理性的にそのまま尋問を続けていく。

 

「……その剣を作ったのは誰だ?どうして色々な人物に変身する事が出来る。」

 

「それは答えられない……そうだな、強いて言うんだったら幻想郷でこれを作れそうなやつ……たった1人だけ存在しているんだよ。この剣を……機械仕掛けの剣を作れそうな奴がたった1人。

それが製作者だ。まぁ……今聞いたところでそいつは何のことかさっぱりわからないだろうけどな。」

 

「……じゃあ次だ。何故ここまで来れた?ここに来れるのは八雲に通ずる者達だけしか入れない道だ。かと言ってお前が誰かの後を追ったとしてもすぐにバレる……何故この道を知っている?」

 

男はその質問に対しては少し黙ったが、数秒経った後からその質問に対しての答えを喋り始める。笑みを浮かべて。

 

「……お前も気づいているんだろ?八雲藍。いや、気づいているというよりかは、思いついている答えに沿って質問している……という感じか。理性的になっているからこそ自分の願いに忠実になりやすい。

いくらでも理由付けが可能になるからな……で、だ。お前が考えているであろうことが答えなんだよ八雲藍。

九尾であるお前であるからこそ八雲紫より分かることがある。自身の絶対的な獣という特性で判断した答えが俺の回答だ。」

 

「……では、やはりお前は……」

 

藍は息が荒くなってくる。今目の前で行っていることが信じられないと言った具合に。

その油断が、隙が、男にとっては十分すぎるほどの時間であり、また今までの尋問の時間も男にとっては休憩するに等しい時間でもあった。

 

「しまっ!」

 

男は藍の踏んでいる剣を握ってそのまま力任せに持ち上げ、藍を投げ飛ばす。藍は空中で一回転をすることで綺麗に着地することができたが、男はその時には既に八雲邸に走り始めていた。

 

「っ!」

 

紫がまだ痛む腹を抑えながら男の目の前にスキマを作る。男は避ける事は出来ずにそのままスキマに飲み込まれる。

だが、その直後に紫の作ったスキマの直線上、八雲邸に向かう一本道に新たなスキマが作り出されて、そこから紫の姿をした男が出てくる。

出てきた瞬間に元の姿に戻り、そのまま走り抜けていってしまった。

 

「今から追います!!」

 

藍はスキマから男が出てきた瞬間にそう言って、八雲邸へと走っていく。紫は思ったよりもダメージが完全に抜けきらない腹をさすりながら、無理やり立ち上がってそのまま歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来ます。」

 

八雲邸。既にそこでは侵入者が来ている事を知っている陽達が念のため、ということで警戒態勢をとっていた。

月魅がその直感力で何かが来ることを感じ取り、全員が一斉に完全な戦闘態勢に移る。

 

「……あの男……まさかこんなところまでこれるなんてな……しかし、なんでここまで来れたんだ?偶然じゃ不可能だし後を追ってきたんだとしたら、なんでこんなに間を空けたのかも謎だしそもそも紫達に気づかれるだろうし……」

 

「確かにそれは気になることじゃが……今気にする事では無かろう。今は侵入者の撃退、それが今の妾達に出来る唯一の事じゃからな。」

 

銃を構えて良く狙う黒音。ある程度狙いが定まったところで、銃を乱射し始める。

男は乱射に一発も当たらないように、一気に飛び上がって剣を盾のようにして突っ込んでくる。

 

「くっ……私の弓矢でも当たらないのです。」

 

「なら守っていようが関係ない私の攻撃で!!」

 

そう言って陽鬼は飛び上がって男の剣に向かってその拳をぶつける。大きな音が鳴り響き、男は陽鬼のフルパワーで吹き飛ばされたが、何とかギリギリ着地してまた再度突っ込んでくる。

 

「あいつ……陽鬼の攻撃が通ってないのか?どういう耐久度してやがる!」

 

「ならば……!黒音、光、援護を頼みますよ。」

 

そう言って月魅は男に向かって自身の刀を構えながら素早く切り込んでいく。刀を震振るえば男がジャンプしてそれを避けようとする。

しかし、避けた先には黒音と光が集中的に攻撃を仕掛ける事は男にも分かっているので、男は月魅と鍔迫り合いを行う事にする。

 

「お前のその華奢な体では簡単に吹き飛ばされるぞ……!」

 

そう言いながら男は一気に力を強める。刀の扱いが陽達の中でも抜き出ている月魅は体重がもとより軽いために簡単に吹き飛ばされてしまう。

吹き飛ばしてしまえば、男は剣を盾にして突っ込んでくるだけである。

 

「っ!!黒音、光!あいつの手前の地面をぶっとばせ!!」

 

「了解なのじゃ!」

 

陽の提案とともにそれに沿って攻撃を仕掛ける黒音と光。男本人ではなく、その手前の地面を狙っていく。

仮に足元が見えない状態でそんなことをされれば舞い上がった土と、凹んだ地面のせいで一瞬足を取られてしまって一瞬だが隙が出来てしまう。

 

「おおおおおりゃあ!!」

 

声を出しながら思いっきり切りかかる陽。男は叫び声で攻撃が来るのが分かったので大剣での防御体制に移る。その瞬間に、男に鈍い衝撃が走る。

陽が振るったのは刀ではなく、斧だった。故にその破壊力もかなり大きい方と言えるだろう。

 

「お前は……誰なんだ!!」

 

「さぁな……勝てたら、教えてやらないこともないだろうな!」

 

剣を攻撃に使うためにそのままの体制から一気に振り回す男。陽はそれを避けて後ろに下がって男を睨みつけていた。

侵入者である男、そしてそれに狙われる陽。戦いはまだ、終わらない。


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