東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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剣を操りし男

「……えっ、あれ……」

 

「あら、どうしたのかしら?いきなりそんな驚いた顔して……変な白昼夢でも見ちゃったのかしら?」

 

気づけば陽は八雲邸にいた。先程までとは別の場所にいたことだけは確信できるが、その後どうなったかが全く思い出せ無いのだ。

まず、陽にある直前の記憶は紫の姿をした何かに斬られた……かもしれないということ。

斬られた感覚を味わってないので今一現実味が湧いてないが、あれは現実だったと確信だけはできた。

 

「え、えっと……なんで、俺ここに……」

 

「……?なんで、ってここはあなたの家じゃない。私と貴方の……二人の家……そんな事も忘れちゃったのかしら?おばかさんね。」

 

目の前にいる紫はクスクスと笑う。『違う、これは紫じゃない』と思いつつも目の前にいるのを紫だと陽は認知していた。

紫ならば二人の家なんて言わない、一緒に住んでいる家族の事を紫が忘れるはずはない。と頭に言い聞かせていた。

 

「俺、は……」

 

「いいのよ、たとえ貴方が私のことを忘れてもわたしが何度でも新しい思い出を作ってあげるもの。」

 

そう言いながら紫は陽を抱き締めて頭を撫でる。そのまま流されていきたい感覚になったが、陽は理性でそれを振り切って紫から離れる。

 

「陽……?本当にどうしちゃったのよ。」

 

「……これは、現実なんかじゃ……無い……!」

 

そう言い聞かせながら思いっきり自分の顔面を殴る陽。全力で殴ったのが効いたのかそのままふらついて倒れる。そして意識がまたしても落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし、ここまで力が戻ったのなら……」

 

とある森の中。先程まで結界が張ってあったそこに結界はもう既に存在しておらず、その森の中では横たわる陽と白土がおり、それを殺そうと今か今かと待っていた男が一人いた。

そして、その男の後ろにはフェンリル、ケルベロス、ティンダロスの白土に付いている者達と、陽鬼、月魅、黒音、光の陽に付いている計7人が倒れていた。

 

「月風陽……貴様を殺して、俺は……!」

 

男は手に持った独特なデザインの大剣を振り下ろす。そしてその刃が陽の首に届く瞬間にその剣は動かなくなっていた。

 

「……貴様…幻術から目を覚ましたのか。」

 

「生憎……直前にやってきたことを忘れる程……物忘れが激しいわけじゃないからな……!」

 

ギリギリの所で、白刃取りで受け止めた剣をそのまま陽はぶん投げる。妖怪としての力ならば男ごと剣を投げれることが可能ということだけが分かったので不意打ちさえ食らわなければ四人を連れて逃げることも可能ということだけはしっかり理解していた。

 

「ふん……目覚めたばかりでそこまでの力を出せるのなら問題は無いだろうな。」

 

「綺麗に着地しても、お前の力じゃ俺に勝つことなんて不可能なんだよ……!ていうか……誰だ、お前は……」

 

「お前に名乗る名など……!」

 

男はそう言いながら剣を構えて陽に突っ込んでくる。陽はそれを盾を創り出して受け止めるが、瞬時に男はその剣に取り付けられているレバーを一度倒して元の位置に戻す。まるでスロットに取り付けられているレバーのように。

そして、剣の(つか)(がら)が回転を始める。本当のスロットマシーンのように。

そして、一つの絵柄のところで止まる。

 

『合致[スリーカード]』

 

機械の音声が剣から響く。一瞬驚いた陽だったが、それが隙となり男に反撃の機会を与えてしまっていた。

いつの間にやら男は三人に分身しており、それぞれが独立して攻撃を仕掛けてくる。

 

「くっ……なら月化[月光精霊]!」

 

三人とはいえ相手は剣、月魅に負担を強いることにはなってしまうが、陽は月魅を憑依させようとスペル宣言を行う。

しかし、それに合わせて男の1人がまたレバーを引いて先ほどとは別の絵柄を出す。

 

『合致[ワンペア]』

 

その音声と共に月化は鎖に巻かれて陽のスペカホルダーへと戻っていく。使うつもりだったスペルカードが使えなくなったことで陽は生身で戦わなければいけないと思ってしまう。

 

「スペルカードが無ければ、あの四人の少女がいなければまともに勝てないくせに何を頼ろうとしている!貴様は……主失格だ!!」

 

三人の男がそれぞれレバーを引く。絵柄は3人とも全く同じのを引き当てていた。

 

『『『合致[フォーカード]』』』

 

3人がそれぞれ別の方向からの攻撃を仕掛けてくる。二人までならともかく、三人一斉に襲いかかってくるとなると防ぎようがないので、陽は限界をなくす程度の能力を持って三人の攻撃をそれぞれ避けていく。

いとも簡単に避けれた事に少しだけ疑問を持った陽だったが、その理由はすぐに判明した。

 

「ぐっ………!?避けた筈なのに……!」

 

斬撃が空中で残っていたと言うべきなのか、陽が避けた直後にそのまま攻撃を仕掛けようとすると、突然手足が斬られる感覚に襲われてしまう。

何も分からないままその場でよろけてしまう陽。男がそんな隙を逃さないと言わんばかりに再度攻撃を仕掛けてくる。

 

「っ……防御[絶対の守り]……!」

 

陽自身のオリジナルスペルカード。防御に向いているそれは男の攻撃をすべて防ぎきっていた。

その間に陽は傷をなるべく早く回復させようとしていた。

 

「その防御力……ヒヒイロカネか……!だが、ヒヒイロカネといえども所詮は金属、劣化さえしてしまえばいい!」

 

「劣化って……どれだけ長い時間待つつもりだよ……!」

 

「長い間待つことは無い……一瞬で終わる。」

 

そう言って男は剣を反転させて柄にあるボタンを七回押す。嫌な予感がした陽は、男がボタンを押している間にヒヒイロカネの盾を投げつける。

そして、押し終わった剣からはある音声が流れる。

 

『07[十六夜咲夜]』

 

その音声とともにヒヒイロカネは瞬時に粉塵となって消えていく。陽には理解出来た、ヒヒイロカネという金属を風化させるまで時間を一瞬で進めたのだと。

 

「……その、姿は……」

 

「この剣の力で俺は幻想郷の特異点たる人物達になる事が可能だ。その力、能力を一切のリスクを問わずに使用することが出来る。

あのヒヒイロカネは、少なくとも人間どころか妖怪ですら耐えられないような膨大な時間を与えた。この十六夜咲夜の力を持ってしてな。

が、お前相手にはこの能力を使ってもあまり意味は……ちっ……もう時間切れか。」

 

咲夜の姿となっている男が、悪態をつくと同時に男は元の姿へと戻される。時間制限だけはあるようなので、それだけは陽は安心していた。

 

「……まぁいい、ならばただの実力で葬るだけだ。戦い方すら慣れでやってるような奴に……!」

 

男は剣を構えて突っ込んでくる。限界を無くす程度の能力を持ってしても、いずれは限界が来るのはわかってはいるが、しかしそうしないと避けることすら許されない程素早く的確な剣さばきを男は持っていた。

陽は刀を一本作って鍔迫り合いに持ち込もうと構える。

 

「そんな脆い剣で!!」

 

しかし、その一撃によって刀はいとも簡単に砕かれる。パキンパキンと作れば作るほど壊されていく。

反撃すらも許さない男の気迫に陽は知らず知らずの内に押されていた。そして、遂に陽の後ろには木があり、避けられなくなってしまった。

 

「っ!?こんな所で……」

 

「終わりだっ……!?」

 

男が陽にトドメをさそうとした瞬間、男と陽の間を一つの槍が通り過ぎる。

2人が槍が飛んできた方向を見ると、そこには息を切らしながら立っている白土の姿があった。

 

「……何のつもりだ、お前はこいつを殺したいのではないのか。」

 

「あぁ殺したいさ、杏奈の為に殺したい。

けど……けどなぁ……あんな胸糞悪いのを見せられてお前から先に殺すって選択肢にならない方が無理な話なんだよ!!」

 

両手に剣を構えて白土は男に突っ込む。しかし、改造する程度の能力では流石に自身のポテンシャルはそこまで劇的に上がらないのか、すぐに白土の持っている剣は弾かれてしまっていた。

 

「満身創痍……お前が見た幻の内容は俺は分からないが、余程堪えている様だな。お前が望んでるって事なんだよ、お前の見た幻はな。」

 

「うるせぇ!テメェが見せた幻が俺が望んでることなんて有り得ねぇんだよ!!」

 

弾かれた直後に、地面に生えている雑草を能力により槍に変換。そのまま薙ぎ払うように攻め続ける。

反撃で折られても折られても、何かものさえあれば白土の武器はいくらでも作り出せる。

 

「やはり厄介な能力……月風陽を殺すより先に、お前を抹殺した方がいいのかもしれないな……!」

 

男は白土の武器を破壊した直後に蹴りを入れて白土との距離を無理矢理離す。白土は苦悶の表情を浮かべているが、どこか何かを面白がっているのか、口角が上がっていた。

 

「くくっ……お前、鍛えただけのただの人間か?剣を扱う腕は確かに凄いんだろうし、体術とかも存外強い。多分戦い始めて素人ながらに無茶苦茶な戦い方をしてきた俺達より技術という点では圧倒的に勝っている。」

 

「……何が言いたい?」

 

「いくら技術があってもパワーが無いってことだ。天性の才能がある訳でもないし人間離れした超人的なパワーがある訳でもない。かと言って…なにか特別な能力がある訳でもない。

才能もないやつが無理やり技術を鍛えただけのもの。パワーも、重さも、硬さも、何もかもが妖怪やその手の天才達に負けている。努力も大して報われたわけじゃない……ま、技術がある分脅威っちゃあ脅威だけどよ。」

 

「……なるほど、確かにお前の言う通りかもしれないな。」

 

男はあっさりと認める。白土もこの反応は意外だったのか少し拍子抜けしたような表情になっていた。

その反応を見れただけで満足と言いたいのか、男は意趣返しと言わんばかりに口角を上げてニヤついていた。

 

「どうした?無様に否定する様子でも見たかったのか?俺がお前の挑発に乗ってブチ切れて、感情的にお前を攻撃しようとするとでも思ったのか?残念だったな、お前の挑発には乗らないし乗ることもない。

自分の限界は分かっている……だからこそ、食らいつかねばならないからな。」

 

「ふん……その強がりがどこまで持つか……見ものだな。いいぜ、そいつら気絶させた程度で俺が止まると思ったら大間違いだ。

その剣……無償でそんな能力が使えるわけねぇよなぁ?見てたぜ?お前が紅魔館の十六夜咲夜に化けていた時……完全に自分の予想していないタイミングで終わってたんだよなぁ?」

 

「さて……どうだろう、な!!」

 

男は白土に突撃していく。白土はちらっと足元を見ると両手をズボンのポケットに突っ込んで後ろに飛ぶように移動をし始める。

 

「一体何の……なっ!?」

 

「そこら辺の雑草や土、ついでに小石もぜーんぶ……爆発寸前の爆弾に変えてやったぜ、ありがたく思いやがれ。」

 

既に点火済みのダイナマイト。一つだけなら全員回避できたかもしれないが、白土の踏んでいた小石や土や雑草などがどれくらいあったかなんて誰もわからない。

それら全てが爆発物だとすれば、妖怪であっても良くて重症、悪くて肉片すらも残らないくらいぶっ飛んでしまうだろう。

 

「くそっ……!」

 

「自分の眷属すらも巻き込むか……!」

 

陽は陽鬼達の所へ、男は木に飛び移って遠くへと逃げ始める。しかし爆弾の数は表面をパッと見ただけでも2桁では効かない数であることだけがわかるほどの多さ。

よほどの距離を開けないとまず吹っ飛ばされてしまうだろう。それは白土自身でも例外ではない……が、距離に関係なく移動できる手段を白土は持っていた。

 

「狼化[神狼改革]……ティンダロスの能力で逃げさせてもらうぜ……じゃあな、死ぬかもしれんが頑張って生きろよ……どうせ殺すけどな。」

 

そう言って白土はティンダロス達を取り込んで直角の紙の中へと逃げ込む。男は一人だったから逃げられた、白土は能力を使って逃げられた。

しかし、陽の場合は飛んで逃げるしかない。しかも、憑依を使って飛ぶのだ。オマケに三人を抱えて飛ばないといけないという問題もある。

 

「あんまり無理はさせたくないが……すまん、月魅……月化[月光精霊]!」

 

男が離れたことにより使えるようになった月化のスペル。月魅を憑依させて大急ぎで空中に身を乗り出す。

月化は三つの憑依の中で1番速度に優れているため、これならば逃げ切れると陽は確信していた。

だが、思ったよりも爆弾の爆発する速度が早かったのだ。

 

「何っ……!?」

 

三人を抱えながらではいつもよりも速度は出ない。そして、大量のダイナマイトの爆発により轟音響く中、陽の意識は走って飛ぶことだけに向けられていたため、そこから彼の意識はほぼ途絶えたと言っても間違いなかったのだった。


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