東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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説教

「……あなたの命を狙う1人、八蛇という男をあなた自身が倒したことは誇らしいわ。

陽鬼達の協力があったとはいえ、一対一の勝負じゃなかったとはいえ、貴方は自分自身に降りかかる脅威を自分で跳ね返したのよ。これからも自身に降りかかる脅威を自分で振り解ける強さを持ってほしいわ。」

 

「………はい。」

 

「けれど私のいいつけを破ったことと、それをしたおかげで周りに迷惑がかかってることが分かってるのかしら?」

 

八雲邸にて、陽は紫に説教を食らっていた。本来ならば正座をする場面なのだろうが、初めての黒音との憑依に加えて二重憑依もしていた。その体力の消耗、更には限界を無くす程度の能力の弊害により陽は部屋で横たわっていた。

 

「まったく……まぁ理由を説明しなかったのは私の責任かもしれないけれど……」

 

「……そう言えば、何であの時は人里に行くなって言ったんだ?」

 

「……霊夢と守矢の巫女に頼んで人里に結界を張ってもらったのよ。結界になにか良くない者が……悪意を持つものが入ってしまった時には私が出れるように。

結界が無理矢理破られれば追加で二人が入るような感知結界を張っておいたのよ。それで……」

 

「悪意を感じ取ったから人里に行くことを禁じた、と……」

 

陽の言葉に紫はコクリと頷く。陽は反省はしていた、紫の言ってることの意味をよく考えず何か問題があるなら解決をさせようと。

しかし、実際は幻術をかけられて危うくやられかけていたという事態である。言い訳のしようも無いのだ。

だが彼は後悔はしていなかった。八蛇を倒せたのだから自分にとってはプラマイゼロであると。

 

「……今度から私も説明するようにはするわ。けど、あなたもちゃんと私の言いつけを守ってなさい。貴方は弱い、さっき言ったことと矛盾してしまうけれど、貴方は陽鬼達の力を借りないとすぐに死んでしまう位には弱く、脆く、壊れやすいんだから。」

 

「……分かってる。」

 

それが一番わかっている、と陽は言いたかった。しかし言えない。実際問題、分かってないからこそこうなっていた。陽鬼達を自分の道具のように扱わないと勝てないのだと。

道具扱いして、体を壊しながらも勝利。本当にこれが勝利なのか、陽には分からなかった。

 

「……妖怪化したと言っても、あなたはベースが人間なのよ。存在が妖怪化しただけ……体の鍛え上げられる限界というのはあるのよ。人間なんて妖怪に比べれば圧倒的に弱い。それは妖怪化しても一緒。だから……あまり無茶をしていると、本当に死んでしまうのよ。

その辺りを……分かってちょうだい。」

 

それだけを伝えると紫は部屋から出ていく。陽は開いた障子から見える空を眺めながらゆっくりと考える。一体自分は何をしたら正解だったのだろうかと。

少なくとも、自分に降りかかる火の粉を払った事は正解だろう、しかしその過程は果たして正解なのだろうか?と自問自答を繰り返し続けていた。

 

「マスター、体の調子はどうですか?どこか痛いところとか……痒いところはありませんか?」

 

「月魅か……いや、大丈夫だよ。心配しなくてもしばらく寝ていたら治るからさ。」

 

「…そうだと、いいのですが……何せ、マスターは体力を今までで一番消費しています。何があるか分かったものじゃありませんから。」

 

「……うん、分かってる。さすがにむりはできないことくらいは分かりきってるからさ。」

 

そう言って陽は月魅に微笑みかける。月魅はそれで渋々納得したのか、それ以上何も言うことなく陽のそばに座る。

そのまま黙ってしばらく時間が経った後、部屋の向こうから誰かが大急ぎで走ってくる音が聞こえてくる。

 

「よ、陽!?大丈夫!?」

 

「……陽鬼?どうしたんだそんなに大慌てで……」

 

部屋に入りたかったのだろうが、襖を貫通しながら飛び込んでくる辺り相当焦っているのだろうと思ったが、冷静になってから伝える事にして後回しにした。

 

「お、大慌ても何も……陽が起きたってさっき紫から聞いたんだよ!?洞窟で決着付いた後に陽いきなり倒れちゃったし運んだら運んだで紫から面会謝絶くらっちゃったし!」

 

「あぁ……なるほど、それで……通りで静かだと思ったよ……こういう時に一番先に突っ込んでくるのは陽鬼だからな……その声聞いてると少し落ち着くよ……」

 

「……褒められてるんだよね、それ。」

 

「あぁ、お前の明るい声は聞いてると落ち着くって言ってるんだよ。」

 

それを聞くと陽鬼は満足そうにしながら月魅の隣に座る。隣に座った陽鬼を月魅はじっと見つめる。最初は気にしていなかった陽鬼だが、じっと見つめられていくうちに段々と気になり始めて、数分たった時についに我慢しきれずに月魅の方を見る。

 

「そうやって見られてるの凄く気になるんだけど……何?」

 

「いえ、最初は騒ぎ立てたらすぐに注意するつもりでしたが……貴方にしては全然騒がないのでどうしたのかと思いまして。」

 

「あれ、もしかして私いつもそんなに騒がしくしてるの?」

 

「はい、それはもう盛大に騒いでいます。」

 

顔を抑えて軽くため息をつく陽鬼。あんまり自覚していなかったようだが、月魅が言ったことを今完全に自覚したらしく、月魅から見てもとても後悔しているように見えていた。

 

「……すーぐ、私って馬鹿みたいに騒ぎ立ててるよねぇ……」

 

「まぁそれがあなたのいいところですから。無邪気で底抜けに明るいというのは長所です。」

 

「……うん、まぁそうやって言ってもらえるのは素直に嬉しいけどね。やっぱり騒がしくしてるんだなぁって思い知らされるとどうも……」

 

「そういうことを気にしているから黒音の魔法で大人化した時も胸が成長しないんですよ。」

 

「それ関係ないよね!?」

 

陽は二人のそのやりとりを見ていると、自然と心が暖かくなっていた。口喧嘩しているようにも見えるが、微笑ましい場面にも見えたからだ。話の内容はともかくとして。

 

「……ふふ……」

 

「陽?どうしたの?」

 

「マスター?」

 

「いや、ごめんごめん……なんだか二人のやり取りを見てたらおかしくなってきちゃって。何か、一気に緊張感が無くなったなぁって感じがしてさ。

別にそれが嫌ってわけじゃないしむしろ好きだけど……何というか、暖かい気持ちになるなぁって。」

 

二人は陽の言ってることが理解出来ず、互いに顔を見合わせて首を傾げていたが、陽の幸せそうな顔を見て『楽しそうならいっか』と再び落ち着いて陽の側に座り込むのだった。

 

「……結局、何が目的だったんだろう。未だにあいつらが陽を狙う理由らしい理由も分からないしね。」

 

「倒せたのはいい事です。ですが……」

 

「……白土が出てこないのが少し怖いな。どこで何をしているのやら……」

 

「そう言えば……彼には妹がいるんでしたよね。どんな人なんですか?あれだけ野蛮な人の妹となると……」

 

少し怪訝な表情をしながら考え込む月魅。多分想像しているのはえげつない人なんだろうなぁと陽は予測してたが、流石に見知らぬ人物にそういう気なら妄想をされてはもし会った時に何かしらのアクションが起こりそうなので、陽は少しだけフォローを入れておくことにした。

 

「杏奈ちゃんはいい子だよ。月魅が妄想しているような子じゃないよ。

強いて言うなら……ストッパー役立ったな……妹を守ろうとする白土、その暴走気味の兄を止めようとする杏奈ちゃん。

それに追加で俺が入ってくるって感じだったな……まぁ、俺はその時はあんまり気にしていなかったんだけど。」

 

「ふーん……ストッパー、ねぇ……話を聞いてる限り、昔の陽には友達できそうにないんだよね。なのに何で白土とその杏奈って子は陽に付き合ってたの?」

 

「………何だったかなぁ、気づいたらいたって感じだったし……知らない間に杏奈ちゃんが俺と喋るようになってきて……そして知らない間に白土が俺と一緒にいたって感じだったな。

そうやって二人が俺といると……というか、杏奈ちゃんと絡んでいる内に段々いじめられるようになってきたな。

特に気にしてもいなかったけれど……」

 

「いじめねぇ……」

 

ゆっくりと陽は記憶を引き出していく。あの頃は何をしていたのだろうか、ということをゆっくりと……

 

「そうそう、確か杏奈ちゃんと絡んでいる内にいじめられるようになって、それが暴力に変わってき始めた辺りで白土が俺と絡み始めたんだ。

そしたらパッタリといじめが無くなったなぁ。」

 

「え、何で?」

 

「そもそもいじめられていた理由が杏奈ちゃんと絡んでいたからで……その実の杏奈ちゃんは白土という兄貴がいるせいで声をかけることも許されてなかったんだよな。

確か声をかけたら睨まれる、殴られる、殺される、みたいな噂が立ってたし……ってどうしたんだよ2人とも、そんな顔して。」

 

陽鬼と月魅は陽の話を聞いて少し引いていた。白土にそんな噂が立っている辺りストッパーとして彼女は役に立ってないんじゃないかと。

 

「……そ、そう!何で陽って昔は周りの子と興味無いって言ってたのにそういうことは覚えてるのさ。」

 

「興味なくても何度も見たり聞いてたりしてたら覚えてしまうもんだろ?物に限らずに、さ。」

 

「……なるほど、陽鬼が照れてる時は角を触る癖があるのを私が覚えているのもそういう理由なんですね。」

 

「え、何……私ってそういう癖あったの?全然知らなかった……」

 

「まぁ嘘なんですけどね。」

 

「1回だけでいいから拳骨上げるよ、流石に私もずっといじられキャラじゃないんだからね。」

 

そこからまたギャーギャー喧嘩を始める陽鬼。月魅は陽鬼の言うことをのらりくらりと交わし続けるが、その表情はどこか楽しそうではある。

 

「………病人の前で何をやっとるかおぬし達は!」

 

しかし、それも黒音の拳骨が振り下ろされるまでの間のわずかな時間だった。いつの間にか来ていた黒音は、二人を仲裁するために拳骨を二人の頭の上に落として無理やり仲裁していた。

 

「まったく……というより、何故永遠亭に行かないのじゃ。ここよりも向こうの方が良かったじゃろうに。」

 

「あー……陽が多分永遠亭に行ったら確実に出ていった事がバレるの嫌がるかと思って……」

 

「しかし帰ってきてみれば紫がおったと……アホかお主らは。

まぁ、体力の激しい消耗だけじゃし休んでおけば回復するとはいえのう……やはり、然るべきところで休んだ方が回復も早いというものじゃ。」

 

しかし、そういう黒音には一つだけ疑問があった。何故、紫はここで寝かせているのだろう、と。然るべきところで休ませた方がいいというのは彼女も分かっているはず、なのに何故かここで休ませている。それが何故か彼女にはわからなかった。

 

「……まぁ……そうですけどね。けどこうやって近くにいてくれた方が安心します。マスターはところ構わず無茶をしてボロボロになるような人ですから。

自分がやれないとわかってて、それでもやってボロボロになる自業自得体質の塊のような人ですから。ですから永遠亭で一人にさせる時間が増えるより、こうやって見ていられる時間を増やすほうがいいんです。」

 

「……いや、流石に酷すぎないか。自業自得体質って………そんな頻繁に俺は一人になってないだろ。」

 

「そう思っているのはマスターだけですよ、1度記憶を思い返してみてください。」

 

そう言われて陽は今までの記憶を掘り返していく。思い起こしてみれば、程度のものだったが確かに一人になっている時の方が多いような気がしてきていた。

 

「………いや、きっとそれでも一人になっている時間より誰かと一緒にいる時間の方が長いはずだ。もしくは同じくらい……」

 

「そこはせめて『1人になんて全然なったことが無い!』くらい言い切らなければ駄目じゃろうに……まぁ主様は確かに一人の時間が長いような気がするがの。」

 

「……やっぱりそうなのかなぁ……」

 

そう言って陽は腕で目を覆い隠して大きなため息をつく。すると、また襖が開けられる音が響いてくる。薄目で確認すると、そこには紫がいた。

 

「陽、ご飯出来たから月魅か黒音に食べさせてもらいなさい。お粥だから今の体調にも充分食べやすいものだと思うけど……」

 

「あぁ……ありがとう紫。」

 

「それと……陽鬼、この襖の穴についてちょっとだけお話があるのよ……付き合ってくれない?」

 

「あ……忘れてた……あ、待って服を引っ張らないで!陽!助けて!!陽ー!!」

 

叫びながら陽鬼は紫に連れ去られて言った。しばらくしてから、大声で叫ぶ声が聞こえてきたが……陽達にそれを止めることは出来なかったのだった。


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