「……前までならもう少しゆっくり時間を経たせるつもりだったのだが……如何せん、チンタラさせられるのはどうやら嫌いらしい。自分の事ながら意外だったよ。」
「丁度いいさ。俺も早く誰からも襲われない生活を楽しみたいんでな。本来なら巫女とかの仕事なんだろうけど………八蛇、お前を退治させてもらう。」
そう言い合いながら二人は対峙する。互いが相手よりも早い速攻で一撃を相手に決めるために。
数秒か数分だったか……短いような長いような時間が続いていく。
そうやって対峙し続けて……唐突にその戦いは始まった。八蛇が体から蛇を出して陽に速攻を決める。
対して陽は右手に手榴弾、左手に大木を同時に作り出す。蛇達の前に大木を倒して蛇達を下敷きに。潰されてしまったのでその腕の蛇は使い物にならなくなったので切り離しつつ、余ったもう片方の腕で蛇を出す。
「遅い……!」
しかし、潰されて生まれた一瞬の隙を付いて陽はそのまま手榴弾のピンを引き抜いて八蛇の方に投げる。
「くっ……!」
攻撃に利用するつもりだった片方の蛇達は手榴弾の処理の為に大量に向かわせ、手榴弾の上から上からと次々と巻き付かせた。
手榴弾は爆発するが、爆風自体は起こらずに蛇達で抑え込むことに成功していた。
「……無茶苦茶だな。もし今のを防げていなかったら全員仲良くまとめてお陀仏になっていたぞ?」
「防ぐって分かっていたからな……だからあの手榴弾は囮さ。本命は━━━」
陽が言い切る前になにかに気づいた八蛇は咄嗟に洞窟の天井に張り付くくらいに勢いよく飛んだ。
そして、さっきまで八蛇のいた場所には刀を振り切っている月魅と、拳を撃ち抜いていた陽鬼がいた。
「……なるほど、1対3、いや1対4という訳か!」
そして、そう喋りながら八蛇は黒音の銃弾から逃れるようにひたすら洞窟の奥へと逃げていく。
「悪いな………こっちだって本気なんだ。汚いと言われようがなんだろうが意地でもお前を倒したいんでな。
数で押させてもらうぞ。」
「ふん……ならば、趣向を変えてこうしてみよう。」
そう言って八蛇は大量の蛇を展開する。しかし、それは陽達には飛ばさずにまるで羽のように広げている。
そして、そこからまるで蛇の1匹1匹が銃であるかのような激しい弾幕が放たれる。
「なっ!?」
流石に意外な攻撃だったようで、陽達は避ける事に専念するしかなかった。
しかし、一匹一匹が独立した動きをする上にその1匹から放たれる弾幕の量も凄まじいものがあった。
時折、レーザーのような物を放つ者もいて陽達はその攻撃に翻弄されっぱなしであった。
「くっ……!」
「ははは、形勢逆転だな。このままこの攻撃を続けていけば1人、また1人と倒れていくだろう。避け続けるばかりでは無駄に体力を消耗するだけだがどうするつもりかな?」
陽は何も考えていないわけではなかった。しかし、考えているのはスペルカードを使う事なのだが如何せん攻撃が激しいせいで取り出している暇すらなかった。
何とかして蛇達を潰さないといけないと思いつつも、限界を無くす能力と創造する程度の能力を今使っている状態なので近づく為には今以上に限界を無くす程度の能力を使う必要があったのだ。しかし使い慣れてきているとはいえ、リスクが軽減された訳でもないのでこれ以上能力を使ってしまえばこれ以上速攻で倒さねばいけなくなるのだ。
「ほらほら、どうしたどうした?ただそこで踊っているだけではつまらないぞ?」
「だったら……一緒に踊ろうや!!」
だが陽は遠慮なくリミッターを外した。限界があるというのならその限界なんてなくせばいい。視力と筋力の強化により、陽は弾幕を避けながら蛇に向かって1発1発を丁寧に打ち込んでいく。
それに紛れて1発だけ八蛇に向けて放ったのだが、流石に見切られていたらしく、それだけは回避されていた。
「ふふ……悪いな、ダンスは初心者でね……傍観しているだけで充分さ。」
八蛇は全部潰された瞬間に咄嗟に蛇達を陽達の方向へとぶちまける。完全に不意を突かれた陽達の視界はそれで一瞬封じられたが、ここで手加減せずに八蛇はスペルカードを数枚取り出していた。
「憤怒[怒りし者]
邪悪[悪しき者]
嫉妬[妬む者]……さぁ、スペルカード三連発だ食らってみるといい。」
威力を上げ、横から襲いかかる鍬型の弾幕を放ち、正面には紫色の炎を放つ。逃げ場は後ろだが、もし後ろに逃げれば反撃を許してしまうと思った陽は即座にスペルカードを取り出す。
「狂闇[黒吸血鬼]!」
「っ!新しいスペルカード……幻術にハマっている時に使っていた奴か……!」
陽鬼と月魅は後ろに下がる。代わりに、闇となった黒音を纏っている陽がその場所に留まり、悪しき者を弾く。
纏われた闇が弾ければ、そこにはいつもの陽の姿はなく吸血鬼としての陽の姿になる。
「……こんなもの、私の魔法で弾いて上げますヨ。狂悪[血ヲ被リシ暗黒ノ帝]」
陽がスペルカードを唱えると、陽の前と左右に魔法陣が展開される。一度は弾かれたが、戻ってきた邪悪[悪しき者]が再び遅いかかる……と思われていたが、八蛇の攻撃系の2枚のスペルカードは消えていた。
「……なんだ、今何が起こった?」
「今発動したスペルカード……それは、『相手が発動したスペルカードと同じ効果を得る』という効果なのですヨ。今回は一枚で三枚分の効果……とてもとてもお得ですネ。
2丁のマスケットをスペルカードから取り出しながら陽は構える。八蛇は表情は冷静そのものだったが、自身のカードが3枚も無力化されたことに対しては内心とても焦っていた。
「……まぁいい、スペルカードはまだあるのだからな。」
「そうですネェ……まあ、蛇狩りといきましょうカ。」
そう言ってじっと対峙する二人。しかし、ずっとそうしているわけにも行かない。既に暴れ回ったせいで洞窟に少しづつダメージが入っているのだ。
そして、二人が考えていることはただ一つ。『相手を生き埋めにして自分は逃げ出す』ということである。
八蛇はそもそもそれだけのために戦う場所を洞窟にしたのだから。
「……はっ!」
「ふっ!」
そして、どちらも合図なしで同時に弾幕を放つ。八蛇は先程と同じように袖から出した蛇達を使って数の弾幕を放ち、陽はマスケットから強力な1発1発を繰り出していく。
強力な1発は数に当たればいずれは相殺しきられるが、それまでに何発もの『数』が強力な1発によって消し飛んでいく。
「……月魅、あれ入っていけそう?」
「無理ですね、入れば即巻き込まれます。洞窟のことなんて一切何も考えていない攻撃同士の間に入るのはあまりにも無謀過ぎます。」
「…だよね。」
陽が一発放つのなら八蛇は10放つと言わんばかりの攻防、互いがこの状態で拮抗するのはまずいと踏んでいた。
陽はこのままだと魔力が完全に尽きてしまうという確信が、八蛇はこのままだと完全に押し切られてしまうという確信が、それぞれ二人の中には存在していた。
しかしその均衡は簡単な行動一つで簡単に変わる。
「暴食[食らう者]!」
八蛇が弾幕を放つのをやめてスペルカードによる弾幕吸収へと戦法を変える。しかし、このスペルカードで食える量も限られているために八蛇もかなり賭けに近いことをしていた。
「っ!しまっ━━━」
陽も1発を打ち出した後にそのスペルカードが発動したことに焦った、驚いて焦ってしまったのだ。それが弾幕を吸収出来るものだと知っているから、つい反撃の手を緩めてしまう。
「ぐっ……!存外、いけるものだ……が、吸収しきったぞ……月風陽よ。」
「っ……それが、どうしたって話ですヨ。いくら吸収しようとも、上がるのはパワー……ならば当たらなければどうということは無い、ですヨ。」
「本当に当たらないで済むかは……自分自身の体で確かめる事だな!」
そう言って八蛇は先ほどと同じように弾幕を放つ。そして陽もまた弾幕を放っていく。
しかし、先ほどと違うところが一つだけあった。簡単な話である、『数』の弾幕で押していた八蛇の弾幕に『強力な1発』が組み合わさったのだ。当然その威力は上がっている。ならばどうなるか。先程と違い、強力な1発が消える速度が早く、逆に数と威力の弾幕が保ちやすくなっているのだ。
当然、その条件では陽が押されることも想像に難くない。
「ちっ……これハ……!」
「ふはは……どうだ?自分の力によって苦しめられるのは……だが、当たった時の痛みは一瞬だ、覚悟しておくことだな。一瞬でも痛いものは痛いからな。」
「くっ……!狂悪[闇ヲ纏イシ黒キ王]!」
陽は攻撃することを止めて、避けることに集中し始める。そして、1枚のスペルカードを唱えると、陽の姿はまるで影に消えるかの如くその姿は見えなくなる。
「……姿まで消せるとはな……」
姿を消せば逃げる事は容易い。しかし、今のこの状況でそう簡単に逃げるとは八蛇は思っていなかった。逃げる事が容易ければ、同時にそれは攻めることも容易いのだ。
「……ぐっ!?」
唐突に、八蛇の真横から襲いかかる弾幕。八蛇は何とか対処して放たれた方向に若干の遅れがありながらも弾幕を放ち返す。
しかし、壁がえぐれるだけで特に何も起こらなかった。
「……流石に何度も同じ戦法を取っていてはいずれはバレると思わないのか?」
「思っている訳ないですヨ。始末できるタイミングで始末するだけですかラ。」
「……ふん、正々堂々と戦えないのは本当に弱者の戦い方だな……それは。」
「弱者ですヨ……私は。だから卑怯なスペルカードも使うし卑怯な戦法も取る、それだけの話ですヨ。」
八蛇は陽の声がした方向に攻撃を仕掛けようと思ったが、流石に洞窟で反響する上に、スペルカード自体の効果で居場所が絶対バレないようになっている事を察した。
「ならば……こうするしかないか……洞窟ごと巻き込まれて死ぬがいい!」
そう叫びながら八蛇はその場で回転し始める。そして、それと同時に蛇達で弾幕を放ち始める。
放たれた弾幕は洞窟の壁や天井、そして床さえも削り始めて本格的に洞窟を壊し始める。
「ちょっ……あいついきなり過ぎでしょ!」
「見えないならば全体に攻撃して居場所を晒させる戦法でしょう……何も手を選ばないマスターが相手なら、また同時に手を選ばない様になる、という事なんでしょうね……!」
しかし、陽には当たらない事は八蛇も分かりきっている事だった。ならばどうするつもりなのか。宣言した通り洞窟を崩すくらいまですれば、いずれ陽は陽鬼達を背負って逃げると八蛇は確信していた。
だから、その時を狙ってその時まで洞窟を崩すのだ。
「ちっ……ならば……!」
何を思ったのか陽は姿を現す。そして姿を現したその瞬間に、八蛇は回転をやめてその方向に集中的に弾幕を放つ。
それと同時に陽はスペルカードを取り出してそのスペルカードの名前を答える。
「……狂悪[狂ッテシマッタ優シキ主]!」
陽は弾幕に向かって銃を構える。そしてそれは八蛇を狙い定めるかのように構えていて、エネルギーを貯めるかのごとく陽はじっとし始める。
八蛇の弾幕がかすっていくがじっと耐えていく。
どれだけダメージが入っても構わないというくらいに耐えていく。
「がァっ!!」
そして、全力の一撃を放つ。先程までとは比べ物にならないくらい強力な一撃。八蛇も、これは当たればタダでは済まないと思ったのか弾幕を放つのを止めて、スペルカードを取り出す。
陽の放った一撃は、巨大すぎて避けられなかったからだ。
「傲慢[傲る者]!」
そのスペルカードは弾幕を無効化する。無効化された弾幕は消滅する。それは陽の放った一撃も例外ではなかった。
八蛇のスペルカードの元に陽のスペルカードから放たれた弾幕は無効化された。
だが、そこで確信してしまった。八蛇は勝ちを確信してしまっていた。次に陽がどんな行動をとるか……全く予想をしていなかった。
「陽月[双翼昇華]!」
二重憑依のスペルカード。陽はそれを使いながら既に八蛇の側まで近づいていた。人を殴るために武器なっている篭手を付けて、篭手を付けたその手で持った刀を振りかざしながら。
「フンッ!!」
陽は刀を投げていた。そしてそれは八蛇に刺さり、八蛇を吹っ飛ばしながら洞窟の壁へと突き刺さる。
そして陽は1枚のスペルカードを取り出す。
「……月光陽[ルナティックサンシャイン]」
右手に月光の象徴の青白い光、左手に陽光の象徴の炎のような光。この両方を陽は貯める。
そして八蛇は察した、自分は負けたのだと。
「……はっ!」
貯めて放たれたビームは、八蛇に直撃する。洞窟の壁すらもまるで豆腐のように崩れさせながら八蛇を消滅させていったのだった。