東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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蛇と向き合い

「はぁはぁ……流石に、広すぎやしないか……?」

 

陽はずっと走り回っていた。蛇達の妨害に逢いながらも、陽鬼達や八蛇を探す為にずっと走り回っていた。

しかし、一向に見つからない。少しづつ何かがおかしいと陽は思い始めていた。どれだけ走っても見つからない陽鬼達。これが結界ならば即座に月魅が何かしらの方法で結界を破れるのを陽は知っていた。

しかし、そのようなことは微塵も起きていなかった。それに、蛇達の妨害しかないこの状況で八蛇のやりたい事が時間稼ぎだとすれば一体何に対しての時間稼ぎなのか分かっていなかった。

 

「……もし、仮に陽鬼達の方が目的なんだとしたら……なんとかしてこの結界を見つけないといけないが……結界の壁がないとこっちからは切れそうもないし……下手したら人里ほぼ全域を覆ってるこの結界をどうしたらいいのやら……結界の外にいる陽鬼達に任せるしかないのか………?」

 

陽は、そう言いながら空を仰ぐ。空は、いつもと変わらない青空だけが広がっていたのだった━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陽!ちょっと陽!?しっかりしてよぉ!!」

 

永遠邸、そこの一室にある布団では陽が横たわっていた。眠っているかのように目を瞑っていて、陽鬼がどれだけ叫んでも反応すらすることがなかった。

 

「……突然倒れたのね?その直前にあったことは川を泳いでる蛇を見ただけ……本当にそれだけなのね?」

 

「うむ……妾が蛇を見て主様が妾に続くように蛇を見たのじゃ。その後、妾はしばらく意識を失っていたのじゃが……恐らく、敵の術にかかっていたのじゃろう。妾はその後すぐに目覚めたのじゃが、主様が起きない事を考えると……未だ敵の幻術の中におるのじゃろう。」

 

黒音が言ったことをメモしていく永琳。

そもそも、彼女は術に関しては解くことが出来る薬を作れる訳では無いので何の意味もなさないのだが、月魅が今霊夢を呼んでいる最中なので、その際にこれを見せようと思っているのだ。

 

「にしても……まさか蛇を介して術をかけてくるような人物がいるなんて驚きよ、ほんと。

そうなってくるともうオチオチ外に出歩けないわね……」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないのじゃ……今回、何が目的でこんな事をされているのかが妾達には分からぬからな。」

 

「……確かにそうね。貴方達が狙われるわけでもなく、特に苦しんでいる様子が無いのを考えても、彼が何かしら術の中で苦しめられているという訳でもない……時間稼ぎ……にしても、ほかの事件が起きているわけじゃない。何なのかしら、これは……」

 

その答えが分かるものは少なくともこの場にはいなかった。沈黙が暫く続いた後、その静寂を破るように勢いよく襖が開かれる。その襖を開けたのは霊夢だった。

 

「霊夢を連れてきました。」

 

「……なるほど、こりゃあ時間かかりそうな術をかけられてるわね。」

 

「あら、見ただけでわかるなんて素晴らしいわね。それで、どれ位時間がかかりそうかしら?」

 

「……早くて30分って所ね。何せ、本来使えるような術式の組み合わせじゃないもの。なんというか……幻術系の術式を片っ端から無理やり繋げた術をかけられているんだもの。

絡まって解けなくなった紐みたいな感じね……一つ一つ丁寧に解除していくから時間がかかるわ。」

 

霊夢のその真剣な表情に三人は押し黙る。しかし、黒音が何かを思い出したかのように陽の服を探り始める。

止めようと永琳は立ち上がりかけたが、陽を目覚めさせるような手を思いついたのだろうと考えて、そのまま動かないでいた。

 

「あった……これなのじゃ!」

 

そして、黒音は陽の服からスペルカード、狂闇[黒吸血鬼]を取り出す。そして取り出したそのスペカを陽の体の上に置いて部屋にある椅子に座る。

 

「……このスペルカードでどうするつもりなのかしら?」

 

「幻術の中であっても……妾ならこのスペルカードを介してなら容易に入れるのじゃ。ただ、その為にはこのスペルカードを主様が幻術内で使わねばならない。

そして妾が中に入ることが出来れば……中から術式を無理矢理壊していくことが出来るのじゃ。外側からなら何かしらの影響があっても内側からなら……」

 

「運頼みすぎる作戦ね……私の解呪術も同時並行で行わせてもらうわよ。」

 

「分かってるのじゃ、霊夢の方が早いじゃろうが念には念を入れるべきなのじゃ……」

 

「んじゃあ……面倒臭いけどちゃっちゃと始めるとしますか。」

 

そう言って霊夢は札を何枚か展開して解呪術を始める。陽鬼や月魅、それに黒音の3人は自分が今この瞬間に何も出来ないでいることに、歯がゆい思いしかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に何もないな。

どれだけ走り回ってもいくら走っても終わりがない。蛇達は凄い数湧いてきてるのにな。」

 

陽は幻術の中で未だに走り続けていた。増え続ける蛇達を時折数を減らすようにしながらひたすら幻術の人里を走り続けていた。

 

「なんか本当におかしいぞ……人里ってこんなに広くなかったはずだ……結界だったとしてもなんか違和感があるし……ってまた湧いてきた……!吹っ飛べ!」

 

手榴弾を作り、投げては蛇達を爆破していく陽。しかし、最早爆発しても減るどころか増えているような印象を受けるくらいには、増え続けていた。

 

「くそ、どんだけ爆弾を使っても減ってる気がしない……逆にどうやったら減るんだよ……」

 

蛇が減らないことのイラつきを抑えながら陽は蛇達から逃げていく。そうして走り続けている間にも、蛇は増え続ける。

走りながら、陽は一つとある仮定を立てていた。

 

「……仮に、この場所が結界で囲われている空間だと仮定して。

ただ囲ってるだけだったらすぐに出入口に辿り着くはず。ならなんでいつまで経っても人里から出られないのか……もしかして、人里の配置物はそのままに内部の距離感がおかしくなる結界何じゃないのか?

実は黒音達とは全然はぐれてなくて……遠くにいるように感じるだけで、実は滅茶苦茶近くにいる、って事なのか……?

じゃあ試しに……スペル宣言、やって見るか……陽化[陽鬼降臨]!」

 

しかし、陽化のスペルを唱えてもスペカは反応しなかった。陽化は使えなかったが、やれる手はすべて使いたいと陽は考えているので次のスペル宣言に移る。

 

「月化[月光精霊]!

……くそ、こいつもダメか……ちっ!しつこいんだよ蛇共!!」

 

逃げながら三枚目のスペルを取り出す。陽化と月化が無理なら2重も無理と判断して最後の憑依スペル、黒音に渡されたスペルカードを取り出す。

 

「……狂闇[黒吸血鬼]!」

 

陽はスペル宣言をした。そして、それとほぼ同時に陽の体から黒いモヤが出始める。陽化と月化の時と少し違った状態。いつもなら陽鬼達が陽自身の体に纏わせる様な変化の仕方なのに、今回は自身の体から溢れてきていた。

しかし、黒いモヤが出てくれば出てくるほど陽はこの空間のこと、今起きている事態の事をだんだと理解し始める。

 

「あぁ……なるほど、そもそもここは人里じゃあなかった訳だ。そりゃあ幻術の中ならいくら走っても終わりが見えるわけないよな……」

 

『そういう事じゃ主様……では、現実に戻って蛇公を倒しに行くとするのじゃ。』

 

頭の中に響く黒音の声。自分の為に頑張ってくれた彼女達の為に、陽はまた新たな姿へと変化する。

背中には黒い2対のコウモリのような羽、髪は黒く変色してオールバックになる。犬歯が伸び、完全な吸血鬼と化す。

変化し終えた自分の姿を軽く確認してから、羽を羽ばたかせて陽は上へ上へと飛んでいく。

 

「おいおいおいおい……これは一体どういう了見だ?何故姿が変わる?何故憑依出来る?この空間内ではそんなことは不可能のはずでは……」

 

聞こえる八蛇の声。その声を聞いて一瞬目を配らせるが、すぐに視線を真上に戻して陽は両手に構えている2丁のマスケットを上に向け、魔力を込める。魔法陣を幾重も張り巡らし、それに向かって陽はマスケットの弾丸を二つ同時に放つ。

魔力で出来た弾丸は魔法陣を一つくぐる度に巨大化していく。そして、最後の1枚をくぐり抜けた瞬間にその魔力弾は巨大な光線となり、八蛇の作り出した幻術を無理矢理ぶち抜いていく。

 

「くっ……流石にこればかりは予想外だったな……しょうがない、生身で決着をつけるとしようか……月風陽……!」

 

そして、八蛇の声はそこで途切れる。同時に天の砕けた世界がほころびを見せ始めたかのようにひび割れ、砕け散っていく。

陽はその光景を見ながら、目を瞑って現実の自分が目覚めるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おはよう陽鬼、月魅。」

 

「陽ー!」

 

「マスター……無事で何より。」

 

永遠亭、寝ていた陽は起き上がり軽く手足をグッパーしながら自分の体が満足に動くかどうかを確かめる。足を軽くあげ、拳を前に突き出す。ある程度動かした後に陽は満足に体が動くと認識し、永琳達の方へ向く。

 

「ありがとう永琳、霊夢。俺を助けてくれて。」

 

「あんたが自分でぶっ倒れて自分で起きた。私は何もしていないわよ、強いて言うなら解呪術をしたけれど間に合わなかったということくらいかしら?実際、私が解決しようとした矢先に貴方起き上がるんですもの、何もしていないようなものだわ。」

 

霊夢はそのまま手をひらひらと振りながら部屋を出ていく。もう少し例を言っていたかったが、霊夢が出ていってしまったので仕方ないと思い再度永琳の方へと向く。

 

「一応言っておくけれど私も何もしていないわ。病人にベッドを明け渡したくらいで恩を売ったつもりはないのだから。」

 

「けどそれでも充分助けられた、ありがとう永琳。」

 

「はいはい、どういたしまして。ほら治ったのなら早く目的の場所にでも向かいなさい。」

 

「あぁ、ちゃんとしたお礼はまた今度だな。じゃあな永琳。」

 

そう言って陽も部屋から出ていく。そしてそれについて行くように陽鬼達も部屋から出ていった。

 

「ところで陽、目星は付いてるの?犯人は八蛇だろうけど……どこにいるのか分からないんじゃ手の出しようがないよ。」

 

「大丈夫……心の中だったとはいえ述をかけていたとはいえおおまかな居場所の目星はついている。

妖怪の山の麓……そこが八蛇のいる場所だろうな。動いてなければ…の話だけどな。」

 

「うむ……妾も感じていた。幻術をかけた者の居場所をきっちり把握しきる……所謂逆探知じゃな。

恐らく向こうも動く気は無いじゃろうし……八蛇は勝負を焦っているのかの。もしくは主様を殺せない怒りで自分でも何をしているかよくわかっていない状態かもしれぬ。

じゃがどっちにしろ……」

 

「あいつとは……今日、妖怪の山の麓で決着をつけてやる……行くぞ3人とも。」

 

「「「おー!」」」

 

元気よく返事した3人に軽く微笑むと陽は妖怪の山へと向かう。とてつもなく強い蛇の退治をするために足を向け、進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来たか。月風陽……幻術を見破ったのはお見事だったよ。

しかし…君の新しい眷属である吸血鬼の彼女は銃を使うのだろう?ならば不意打ちで狙い撃てば良かった話ではないか?」

 

「お前がそうやって思いつく作戦、なら他の作戦を使うさ。お前が提案していると何かしら罠があることだけは理解できるしな。」

 

妖怪の山の麓、そしてその麓にあるどこかの洞窟。八蛇は岩に腰掛けて不敵な笑みで陽を見ていた。

 

「……ほう、直感力だけは確かに高いようだ。しかし、罠に気づいたからと言って……こちらに勝てるのか?大量の蛇相手にお前は……勝てるか?月風陽よ。」

 

指を向けて陽にそう質問する八蛇。陽はハナからそんなもの決まっている、と言わんばかりに視線を投げ返す。

 

「大量の蛇相手だろうがなんだろうが勝つだけさ。燃やして、斬って、撃って……幻術と違って蛇の数は有限だろうしな。」

 

「くくく……分かりきったことを聞くんだな。そうさ、確かに蛇の数はこちらは有限だ。そちらの眷属の吸血鬼の魔力弾丸が魔力が込められる限り無限であるようにな。

だが、それでも……無限が有限に勝てないと決めつけるのは、慢心というやつだ。月風陽。」

 

「だったら……試してみるか?」

 

「あぁ……試すとしよう。」

 

お互いに対峙する2人。その戦いの火蓋は、今まさに切られようとしている所なのであった。


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