東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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後始末の後始末

「あらあら、こんなところまで来るなんて随分殊勝なことなのね。」

 

「……普通の人間は白玉楼に入れない、かと言ってまともな場所だと人が来てしまう……だからまともじゃない場所に人を入れるもんかと思ってたけど、実際は全然違ったわけね。」

 

「灯台もと暗し、って奴よ〜

白玉楼でも、紅魔館でも無くて私達が隠れ蓑に使えそうな場所といえば一つしか無いわけよ。」

 

「……だからって普通私の神社を選ぶかしら!?また変な噂が立つから困るんですけど!!そもそも!こんなところも何もここは私の家よ!」

 

今、博麗神社にて西行寺幽々子と博麗霊夢が睨み合っていた。西行寺幽々子が選んだ場所、それは博麗神社だったのだ。

 

「というか……いつから私の神社にいるのよ。少なくとも私が解決のために動き始めた時にはあなたはいなかった気がするのだけれど?」

 

「簡単な事よ〜、紫が貴方にgoサイン出したのは私たちの準備が整ってからってことだったもの〜なら、準備ができたタイミングって言うのは人質をどこかに隔離し終えたこと……適当な場所にいておいて後から紫のスキマで移動しただけよ〜

私からしてみればここを教えられていない限り場所がわからないはずなのにどうしてここを選んだのかしら〜」

 

「……地霊殿、天界、妖怪の山、紅魔館、彼岸、白玉楼……後魔法の森。まずこの七つが除外されるわ。紅魔館は立て直し中だしそれ以外の場所は生きている人間基本お断りの場所じゃない。魔法の森は問題ないだろうけど外縁部くらいなら普通の人間も入れるから駄目ね、見られたら終わりだもの。

後あそこは魔理沙とアリスがうるさいわ。

じゃあ他にどこがあるの?って話だけれど………私の神社、竹林、守矢神社の三つが出てくるわけよ。で、迷いの竹林は永琳が認めないでしょうね。その場関係なしに喧嘩を始めてしまうどこかのお姫様と白髪の案内人がいるもの。守矢は何か大きなことをする時は基本的に妖怪の山……取り分け天狗のところに言いに行かないといけないから時間がかかるし、何より天狗が人間の為に動くはずがない。

って考えたら残って集められるのってここくらいなのよ。」

 

「あらあら、無茶苦茶な問題文にヒントなしで正解するなんて大したものね〜」

 

笑顔を崩さずに霊夢を褒める幽々子。霊夢は煽り抜きで褒めているのかそれとも煽りで褒めているのかいまいち掴めなかった。幽々子はいつでもニコニコしているからである。

しかし、一応名目上は異変の主犯側と退治側に分かれているのだからやることはきっちりやろうと思考を切り替える。

 

「そうそう、作戦はある程度成功したらしいわよ〜根っからの過激派だった人は兎も角として、例の二人が襲われた件で過激派についた人は白蓮派に移ったとかなんとかって。」

 

「あぁそう……ならこのままなし崩し的に解散とかにならないかしら……なる訳無いわよね……ああもう、さっさと終わらせるわよ。構えなさい幽々子。」

 

「ふふ、私激しい人も好きよ〜」

 

お互いに構える二人。霊夢は冷静に、幽々子は微笑みながら。

先に動いたのは幽々子だった。不意に飛び上がって弾幕を霊夢の方へと放っていく。

霊夢はそれを避けて隙を着いてお札や弾幕を放っていく。そして幽々子も同じように避ける。

 

「相変わらず蝶のように舞うわよね、あんたは。」

 

「あらあら褒めてくれてありがとう。けれど、褒められてからと言って手を抜くつもりは無いわよ?忘郷[忘我郷-さまよえる魂-]」

 

そして幽々子はスペル宣言。波打つ色とりどりの弾幕に混じらせて一直線に伸びるのを回しながら舞う。

霊夢は避けていくが、流石にあまりに近寄りすぎると避けられないので少し離れながら応戦していく。

 

「あらあら、そんなに離れると私の舞が見えないのじゃないかしら?もっと近づいてみてもいいのよ?」

 

「お断りよ、私の目はそこまで悪くないんだもの……夢符[2重結界]!」

 

そして霊夢も負けじとスペル宣言。霊夢の周りに2重の結界が出来、そこから放たれる弾幕と外側の結界を使って幽々子の弾幕を打ち消していく。

 

「あらあら、まさかそういう防ぎ方されるなんてねぇ……少なくとも、本気ってことかしら?」

 

「私は前からあんたの本気を見てないのよ。前の異変の時も、その前の異変の時も……今日こそ見させてもらうわよ、白玉楼のお姫様の本気ってやつをね。」

 

「怖いわぁ……私、脅されてて辛いわ〜」

 

「その余裕……すぐに剥がしてあげるわ霊符[夢想封印]!」

 

霊夢から大量の光弾が放たれる。その光弾によって幽々子の放つ弾幕はすべて吸収されていく。だが、それでも幽々子は舞いながら避けていく。飛ぶことさえも舞いに入れるために中々自分の弾幕を狙いづらいのに霊夢は少し舌打ちをする。

 

「ふふ、怒ってばかりだと勝てるものも勝てないし見えるものも見えなくなるわよ?」

 

「……何かあんたが言うのもそれはそれで何か違う感じがすごいわ。ただまぁ……言ってることはその通りね。怒ってるつもりは毛頭無いんだけど。」

 

「あら、そうだったの?けど……貴方がどういうつもりでも私は負けないわよ〜一応これでも主犯扱いなんだから〜」

 

「そうそう、それでいいのよ。私とした事が自分の神社使われた事でちょっと怒ってたみたいね。

いや、別に後で何もしなくなったってわけじゃないわよ?何かしらお返しは貰うわ。紫を含めた今回の関係者全員からね。」

 

霊夢のその言葉に幽々子は苦笑していた。だが、やってしまったことは仕方が無い、と内心で開き直ってこのままバトルを続行することに決めた。

 

「夢符[封魔陣]!」

 

「忘郷[忘我郷-宿罪-]」

 

互いのスペルカード、そして弾幕がぶつかり合い打ち消しあっていく。霊夢は冷静に幽々子に向かって弾幕を打つが、幽々子はそれを綺麗に避けていく……が、唐突に止まって霊夢の弾幕を受けていく。

そして地面に落下していくが既のところで止まってそのまま空中で静止する。

 

「あらあら、負けちゃったわ〜」

 

「……ま、異変解決ってことになるんならいいか。私だって長いこと戦いたいわけでもないし。」

 

霊夢は呆れたが、これで名目上は異変解決という事になるので『まぁいいか』とすぐさま深く考えることをやめた。

だが、結局のところ霊夢からしてみればこの異変は起こす必要性があったのか……そう思わざるを得なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、八雲邸には疲れきった表情で横になってる紫がいた。

 

「……問題自体はある程度解消されたのはいいんだけど、まさか両方の過激派が悪化するとは思わなかったわ……」

 

「まぁまぁ、互いが互いを敵視してる派閥同士での争いって聞いてるし……それに、ちゃんと上の二人が抑えてるって話じゃないか。それならまぁ問題ないと思うけど……」

 

「それでも疲れないことには変わりないわよ。第三者として話し合いに立ち会う事……何回目だったかしら。多分10や20は硬いと思うのだけれど。」

 

「正確には喧嘩した者同士の仲裁の為に聖白蓮と豊聡耳神子が出てきてそれの第三者枠として、話し合いに参加したのが8回。

今回の異変……紅魔館と白玉楼の二組が協力したとして名付けられた紅白異変において主犯格扱いのレミリア・スカーレットと西行寺幽々子様との話し合いが3回。

これからの人里の為の話し合いで妖怪側であり管理者でもある紫様が第三者枠として参加した連日の話し合いが7回の計18回話し合いに参加していますね。」

 

「計算ご苦労さま〜……藍〜……」

 

横たわりながら手を振って藍に礼を言う紫。この数日間の間はずっと話し合いを続けていた疲れと、未だこれから行われる話し合いを考えると憂鬱になってしまうのだ。

 

「喧嘩した者同士の仲裁が一番めんどくさいのよ……八回とも全部喧嘩した者同士が喧嘩し始めるから周りが止めようとするし……私達の方が手を上げるわけにも行かないから……余計に疲れるわ…」

 

「お疲れ様……一応お茶入れたけど飲む?咲夜にこの前紅茶の入れ方教えて貰って入れてみたんだけど。甘さが疲れを飛ばすと思うよ。」

 

「んー……ありがとう……」

 

ゆっくりとだるそうに起き上がりながらカップに入れられた紅茶をゆっくり飲んでいく紫。最初の一口で何かに気づき、そのまま紅茶をすべて飲み干してから、陽の膝に頭を載せる。

 

「え、えっと……紫?」

 

「今の紅茶……檸檬と蜂蜜を入れてたの?何かそんな感じがしたけど……」

 

「あぁ、そうなんだよ。咲夜から檸檬を貰ってさ、蜂蜜も取れたらしいからそのまま使ってみたんだよ。味はどうだった?」

 

「……えぇ、とても美味しかったわ。ありがとう、陽。」

 

そう言って陽の膝の上で眠り始める紫。陽は紫の頭を恐る恐る撫でていくが、その内慣れてきたようでゆっくり撫でていき始める。

しかし、内心自分が撫でるのではなくどちらかと言えば撫でられたいと少し困惑しながらも、これはこれでいいと撫でていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の件で思った事……言っていいかしら?紫。」

 

「何かしら霊夢。『これ本当に意味があったの?』って聞くこと以外ならなんでも質問してもらって構わないわよ。」

 

「今回の異変の意味ってあったの?人攫いして神社に置いておくことはまぁ百歩譲ってよしとするとして……結局のところあんたがしばらくの間人里の会議に半ば強制的に連れていかれてたことを考えると……あんまり意味なかったんじゃないかって思うわよ。

結局過激派同士の小競り合いがあることは変わらないんだし。」

 

更に数日後、紫は霊夢と共に博麗神社でお茶をすすっていた。晴れた昼下がりの空を眺めながら今回のことについて話し合っていたのだ。

 

「小競り合い自体は前から……それこそ豊聡耳神子が来る前からあったわよ。人間と妖怪の共存を望む聖白蓮が来た時から……いえ、人里に妖怪が住み着き始めた時くらいからかしら?もうその時には親妖怪派と妥当妖怪派の二つがあったわ。その時は相容れないもの同士って事で棲み分けはされていたけれど……」

 

「それが聖白蓮が来て、豊聡耳神子が来て……白蓮派と神子派になっただけってことなのね。そしてその二つの対立問題が今回の件で浮き彫りになった、という事ね……でも白蓮派に過激派なんて存在するのね。そもそもあそこは……」

 

「『共存する』という目的が完成されるってことは……要するに人間と妖怪が手を取り合う事が終わりなわけ。けれど逆を言えば『共存を望まない者』をすべて潰してしまえば共存は成り立つのよ。」

 

「……なる程ね、その状態になった者達が集まったのが過激派って事。なんか納得出来たわ。けど、そうなると白蓮には止められないわよね。止めようとしても自分の事を信頼しまくってる奴らだしね、一応。」

 

霊夢がそう言うと、紫はきょとんとした顔で霊夢を見る。何故そんな顔をされるのかわからない霊夢はムッとして紫を見返す。

 

「何よ、何か間違ってるなら言いなさいよ。」

 

「止められないどころか、むしろ積極的に止めようとしてるわよ。ただ、彼らと同じように暴力はもとい弾圧も出来ないから言い聞かせるようにしかできないのよ。

弾圧してしまえば……多分、今度は彼女自身が狙われることを分かっているから。」

 

「……あいつは保身の為に動くような女じゃないと思うけど。けど、狙われたくない理由があるのかしら?」

 

「簡単な話よ。単純な力比べや暴力を振るわれてしまえば彼らは白蓮に勝つことは出来ない。けれど逆を言ってしまえば……彼女の身内になら人質に取りつつ勝てるという図式が出来上がってしまってるのよ、彼女の頭の中でね。

そんなことは無い、そんなことは無いと思いながらももし起きてしまえば逆上した彼らを止めることは出来ない。だから上手く手綱を引っ張れないのよ彼女は。」

 

あー、とため息混じりの返事をしながら霊夢は空を見上げる。心優しい彼女ならば、そういうことにまでたどり着いてしまうのだろうと内心納得しながら。

 

「頭はいいのにねぇ……過激派の逆上が身内に向かないようにするだけでも必死ってわけね。私なら我慢出来ずに絶対そいつら殴り飛ばしてるわ。話聞けよ、って怒りながら。」

 

「そもそも霊夢が彼女みたいなことできてたら今頃この神社は参拝客もいっぱい来るわよ。良くも悪くも貴方のその性格が今のこの状態になってるんだから。」

 

それに対してまたも霊夢はため息混じりの返事を返す。もうこれ以上はどうにもならないこと。話し合ったとしても問題が解決することは無いだろうとお互いにわかりあった上での話し合い。

 

「……ま、なるようになるって事ね。何かあれば私が動くし。」

 

「どうしてもな時は霊夢じゃなくて私が動けばいいだけの話だもの。」

 

「それじゃあ…帰るわ。藍達も待たしていると思うし。」

 

「えぇ、今度来た時もお茶とお茶請けを持ってくることを約束させるわね。」

 

霊夢のその言葉に返事を返さずに紫はそのままスキマに入る。それを見送った後、軽く空を見上げて霊夢は思う。『何も変わらないのは時間だけ』だと。


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