「……私、ここには珍しく外に出てきた動かないはずの大図書館がいるって話を聞いていたんだけど。」
「あら、それは残念ね……けど代わりに私が遊んであげる!」
人里離れた森の中。そこには赤い巫女服を纏う霊夢と、色とりどりの宝石を羽につけたパチュリー……ではなく、フランドール・スカーレットがそこにはいた。
「…って言うかあんたのところの門番はこの辺りにパチュリーがいる、みたいな話をしていたんだけど。嘘を履かれたのか嘘をつかれていたのかどっちなのかしら?」
「パチュリーはここに来るまでに喘息が悪化したから小悪魔に運ばれて紅魔館に戻っていったわ。流石に外で歩くのはダメだったみたいだよ?」
「あぁ……悪化したのならしょうがないわよね。うん、理解したわ。」
パチュリーの体調のことを少し考えながら霊夢は改めてフランに向き直る。そして、また別の疑問が生まれていた。
「あんた、まだ太陽出てる時間だけど日差しの元に出て大丈夫なのかしら?」
「竹林のお医者さんが薬を作ってくれた、って咲夜が言ってたわ。塗ると太陽の光を浴びてる間は大丈夫なんだって。でも夜になったら効果が切れるって言ってた。」
「永琳……いえ、永遠亭全体も今回の異変に1枚噛んでたって訳ね……あの竹林のお姫様がこういうことを逃すはずがないもの……ま、いいわ。3番目が末恐ろしい悪魔の妹になったけれど、私は博麗の巫女としてここを通らなきゃいけないの。
私が勝ったら次のヤツの場所を教えてもらうわよ。みんな誰がどこにいるかとか全然把握出来てないんですもの。」
「そういうセリフは……私に勝ってから吐くことね!禁忌[フォーオブアカインド]!」
スペル宣言と共にフランが四人に分身する。そしてそれぞれが別方向に飛んで霊夢を囲うように弾幕を放ち始める。
「また随分と恐ろしいほど全力で来るわね……いきなり四人分身されることは驚いたわ。そのままスペカ四連発されると私でも勝てるかどうかわからないわね。」
霊夢のふと言った言葉に4人のフランは『弱点見つけたり!』と言わんばかりの表情でそれぞれスペルカードを取り出す。
「言ったわね?なら本当に勝てなくしてあげる!禁忌[かごめかごめ]!」
最初のフランのスペルカードで霊夢の周りに光弾が現れ、霊夢を取り囲み始める。
「包まれたら負けよ?禁忌[レーヴァテイン]!」
そして、その狭い範囲の中で大型の紅い剣が振るわれる。それの軌道で赤い弾幕も直線上で動くために更に逃げ場が無くなる。
「囲まれて切られれば更に避けられなくなるわね!禁忌[フォービドゥンフルーツ]!」
そしてそこからかごめかごめに重なるように、更に霊夢を囲んでその中へと直接弾幕が放たれていき最早霊夢には一歩も動くスペースは残っていなかった。
「それじゃあここでおしまい!禁弾[スターボウブレイク]!」
最後に、色とりどりの弾幕が霊夢に向かって落ちてくる。フランはここで確信していた『この組み合わせなら勝てる』と。
しかし霊夢は一切表情を崩さずにスペルカードを取り出した。
「夢符[封魔陣]」
瞬間、大量の札が飛ばされる。勝てると確信していたフランはここから反撃された事に驚いていた。
そして、霊夢のスペルカードに一瞬反応してしまったために動きを一瞬止めてしまったレーヴァテインを使うフランが札によって落とされる。
「あっ!?」
「こらこら、一瞬でも余所見をすれば……終わるわよ。」
「しまっ……!?」
そしてかごめかごめを使っていたフラン、スターボウブレイクを使っていたフランまでもが落とされる。落とされた3人のフランはモヤのようにゆっくりと消えていった。
「あら、貴方が本体だったのね。毎回毎回最後になるのがいつも本体なせいで私の運って悪いのかと考えてしまいそうよ。」
「い、一瞬だなんて……」
「最後まで油断しなかったら流石に危なかったかもしれないわね?けどお陰でスペルブレイクが出来たから相手する時ならいくらでも油断しててほしいわ。
それじゃあ……霊符[夢想封印]っと。」
「そんなぁー……」
こうして霊夢のフランとの戦いも終わった。霊夢は、フランから咲夜の居場所を聞き出し、その場所へと向かって行ったのだった。
「……そう、パチュリー様は紅魔館に戻ったのね。そして代わりに妹様が来てて貴方の相手をした、と。」
「そういう事よ。という訳で何処に人を攫っていったか答えなさい。私は異変解決をしろとしか言われてないのよ。一々他の奴に次のヤツの場所を聞くのもアホらしくなってきたから直接向かうわ。」
「教えるわけないじゃない、異変の主犯格に人質の場所はどこですか、なんて聞くバカでもないでしょ貴方。」
「だから倒してから聞くのよ。聞くのは貴方で最後にするわ。」
少し霧が出ているどこかの平地。そこで霊夢と咲夜は睨み合っていた。互いが互いの隙を見つける為に。
しかし仕組まれた異変とはいえ、主犯格であることには変わら無いために咲夜は本気で霊夢を倒す気でいた。
故にまずは小手調べで時を止め、霊夢の真後ろまで移動してからナイフを1本霊夢目掛けて投げ、そしてそのまま元々立っていた位置にまで戻っていた。
「……と、いきなり不意打ちかしら?」
しかし、霊夢は後ろを一切見ることなく、何の躊躇もなく後ろのナイフを弾いていた。咲夜は霊夢が手に持ったお祓い棒で弾かれることは予想していたが、改めて見ると呆れるしかなかった。
「……それ本当に木製なのか偶に疑いたくなるんだけど。何で鉄製のナイフを無傷で弾けるの知りたいわね。」
「あー、霊力よ霊力。というかそれ言い始めたら何であんたが飛べてるのか未だにわからないんだけど。」
「時間操作の応用よ応用。なるほど、お互い様というわけね。」
咲夜のその台詞の瞬間に霊夢の周りにナイフがばらまかれるが、霊夢は結界を貼ることで冷静に回避する。咲夜も淡々と次の手を打とうとしていた。
「全く……未だにあんたの時間操作の攻略法が分かんないわ。どうすればいいのか教えなさいよ。教えるわけないでしょうけど。」
「攻略法が分からないといいつつ的確に弾いてるのを見ると、呆れてものも言えなくかるわね。見ずに弾かれることが案外心にダメージを与えてるのよ。メイド秘技[殺人ドール]」
スペル宣言後、ナイフをばらまく咲夜。霊夢が避けようと動いた瞬間に時を止め、更に追加でナイフをばらまく。時を止める以前は十字のように、しかし時を止めている間は手当り次第に。
「この技……1度見切られたくらいで破れる技じゃないことは……貴方も知ってるはずよね。さぁ……操り人形のように踊りなさい。」
霊夢は淡々とナイフを避けていく。しかし、避けながらもどこか違和感があった。本当に操られているような感覚に陥っているのだ。逃げ場所を、避け方を。
「そこっ!」
そして、完全に逃げ場を失った霊夢に向かって咲夜はナイフを投げる。殺人ドールは囮、つまりは逃げ場の制限のためにしか使われていなかったのだ。
「しょうがない……すー………はー……」
そのナイフ一本を弾いて霊夢は極限に集中する。だが、咲夜はその隙を見逃さずにナイフを次々と投げていく。それも集中しながら弾いていく霊夢だが、遂に弾けなくなる数が投げられる。
「これで終わりかしら?博麗の巫女にようやく勝て━━━」
「━━━[夢想天性]」
静かに、しかし耳に聞こえやすい声が聞こえてきた。咲夜はその声が霊夢のものだと気づくのに一瞬時間がかかっていた。しかし、その一瞬が既に勝敗を分けていた。
「なっ……霊夢の姿が……一体……!?」
「ここ……よっ!」
「ぐっ!?」
霊夢の姿は消えたと思った瞬間の蹴り。瞬間的だったとはいえ、あのナイフの山を避けた事に咲夜は驚いていた。蹴りこそ防げたが、落下速度をプラスした蹴りは咲夜の体を吹き飛ばした。
「こ、こんな勢いで地面に激突したら大変なことになってたわ……ってまた霊夢の姿が……!?」
再び消える霊夢、そして咲夜の目の前には既に大量の弾幕が張られていた。それを目視した瞬間、咲夜は負けを悟ったのであった。
「……まさか、吸血鬼が冥界に繋がる道の前にいるとはね。現世にいるのに飽きたのかしら?」
「まだまだ飽きるわけないじゃない。運命を操れる、って言われてる私だけど人生は操られないからこそ飽きないのよ。人間とは違って元々長寿なんだから……長寿には長寿の生き方があるのよ。」
「運命を操るって……それはあんたの自称でしょ?操れるならとっくに私はあんたに紅魔異変で負けてるわよ。」
「あら……戦いで能力を使ったら面白くないじゃない。それに、私の能力は能力故に実力で勝った気がしないのよ……だから操らない、私は私の実力で勝ってみせる。」
冥界へ続く階段、そこに一番近い場所にレミリアはいた。既に夕方になっているが、太陽で弱っている所を見ない限りやはりフランが使っていた薬を使っているのだろうと霊夢は確信していた。
そして軽い話し合いの末にレミリアは霊夢よりも高い場所に浮かんで霊夢を見下ろしながら不敵な笑みを浮かべる。
「さぁ……私に勝てば、連れ去った者共がどこにいるのか……西行寺幽々子がどこにいるのかを教えてやろうじゃないか。流石に冥界には連れていけないからな。
早くせねば……段々と人が攫われてしまうぞ?」
「……攫えるやつって他にいたかしら?」
「そこら辺は……確かプリズムリバー三姉妹とか言う奴らに任せた。人の感情を音楽の力を使って多少は操れるらしいからな。ハーメルンの笛吹男……それを演じてもらうわけだ。人攫いには適しているからな。」
「……まさかまだ手を貸してる奴がいたとは……私、紫から何も聞いてないんだけど?」
「方法は任されていたもの。後はそうね……目的が『人里を一致団結させること』ならば白蓮派の人間だけとは言わずに他の人間も攫うべきなのよ。だからあの3人には『人間が一致団結するまで音楽を使って集めろ』って言ってあるわ。抵抗する仲間が一緒にいればいいって話だもの。」
レミリアの言い分に霊夢は溜息を付いていた。その通りと言えばその通りだが、彼女が若干やり過ぎているような気もしているのだ。やりすぎて妖怪の出入りが厳しくなれば本末転倒だからだ。
とは言っても、霊夢は人間なので妖怪側が何を考えているかは皆目検討つかないために、あまり気にしないようにし始めたが。
「まぁいいわ……妖怪は退治するだけだもの。屋敷が直る前に返してやるわ。ほら、さっさと構えなさいよ。」
「えぇ、今日は返り討ちにしてあげる……貴方を倒してついでに幻想郷を私達のものにしてあげるから。
いくわよ……神罰[幼きデーモンロード]」
唐突なスペル宣言、そしてそれからなし崩し的に戦いが始まるが如何せん唐突なものだったために一瞬だけ霊夢の判断が遅れてしまった。そのせいでレミリアの弾幕に囲まれてしまう。
「ちっ……さっき夢想天性使ったせいで体力が若干消耗しているわね……もうちょっと余裕持てばよかったかな……」
「連戦になるとわかっていて体力を取っておかないなんて……最近異変が起きてないから体が少し鈍ったんじゃないかしら?そんなんじゃ私には勝てないわよ?」
「分かってるわよったく……時を止めるあんたの所のメイドのせいで思わぬ体力消費だわほんと。夢符[夢想封印]!」
負けじと霊夢も応戦して夢想封印を発動。自分の周りとレミリアが出している弾幕をすべて吸収していく。
「よくやるわね。けどまだまだこんなものじゃないわよ……神槍[スピア・ザ・グングニル]!」
お得意のグングニルによる接近戦……ではなく、周りからエネルギーを集め、それを槍の形に形成、投擲を繰り返し始める。
「ちっ……前から後ろから忙しいわね……」
「避けてばかりじゃ話にならないわよ?ほら避けてばかりいると……こうなるのよ!」
そう言ってレミリアの投げた先は霊夢ではなく、霊夢の陰陽玉であり、その陰陽玉はレミリアの攻撃により砕け散ってしまう。
「ちょっ……これ一つ作るのにどんだけ時間かかると……まぁいいわ……なら……!」
何かを考えついたか、霊夢はレミリアに向かって突進していく。この中で突進するのは何か策があるのだろうと考えたレミリアは、投げようとしていたのを投げずに手に持ったまま霊夢に向かって飛んでいく。
そして霊夢はお祓い棒を、レミリアはスピア・ザ・グングニルを構えてお互いがお互いの獲物で『敵』を倒そうしながら……交差した。
「……」
「……なーんで、木製の木の棒なんかに負けなくちゃいけないの……かし、ら……」
互いの一撃が交差し、勝ったのは霊夢だった。近接戦闘による一撃、霊夢はお祓い棒でスピア・ザ・グングニルを一瞬弾いた後に、お札をレミリアの頭に貼り付けて貼り付けた部分に強力な一撃を入れていたのだ。
それによりレミリアは気絶し地面に落下、さほど高い位置にもいなかったこととレミリアの体が普通の人間よりも頑丈なことを踏まえておそらく大丈夫と考えた霊夢は幽々子のところへと向かう。
普通の人間を白玉楼に入れることは無い、そう考えていたので霊夢はそれ以外の場所へと向かっていったのだった。