東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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一旦ここで区切り、って感じですかね


結果的に

人里の火災事件。これは異変としては扱われず、ただ仕組まれた事件だったという事になった。

『道具達が火をつけた』という噂に、鬼人正邪の姿を見かけた者もいることから最初こそ鬼人正邪がまた起こしたものだと思われていたが、実際のところは鬼人正邪が操られていた、という事実で彼女でさえも被害者だということが判明していた。

八雲紫と八意永琳、それに博麗霊夢や霧雨魔理沙などの幻想郷での実力者達が全力で火を消してくれたために、死傷者は0という形で幕を閉じた。

というのは表向きの話である。火災に乗じて行われた聖白蓮、豊聡耳神子の一派の襲撃事件。これにより物部布都、蘇我屠自古両名が負傷して永遠亭でしばらく療養することとなった。

そして、紅魔館襲撃事件。謎の爆破により紅魔館は半壊、建て直しをするためにしばらくは紅魔館には誰もいれないように、というのがレミリア・スカーレットの言い分である。

そしてもう一つ、レミリア・スカーレットが伝えた文章がある。

『幻想郷の強者よ、気をつけろ。直角があれば、狼が現れる。』この文章は何を意味するのか、一体何故こんなことを言うのか━━━

 

「『記者はこのことをもっと突き詰めて詳しく調べることにしよう』……ね。あんたにしては随分珍しくまともな新聞じゃない……文。」

 

「とは言っても紫さんにこの新聞を人里で出すな、って言われちゃいまして……せいぜい見せていいのは霊夢さんと自分くらいだー……って。」

 

博麗神社にて、天狗の射命丸文と神社の巫女の博麗霊夢が談笑していた。事件が終わった翌日、文が朝から霊夢のところに新聞を持ってきて読むように催促していたのだ。今回の事件をまとめて情報整理しようと考えていた霊夢は文の持ってきた新聞を手に取って読み始めていたのだった。

 

「ふーん……にしても、直角なんて人里どころかうちの神社にも、最悪幻想郷にいっぱいあるわよ。レミリアは一体何をどう対策しろ……って言う気かしら……」

 

「さぁ?私は話を聞いただけですし、多分これ以上追求されても喋ることはないでしょうね。私だってどういうことか聞いたくらいですもん。

それより……今回の件で、鬼人正邪が関わっていたという話……結局彼女はあれからどうなったんですか?」

 

文に催促されて霊夢は事件が終わった後のことを思い出す。霊夢、魔理沙、紫、陽、永琳の主にその五人が集められて話し合った時のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あんた、今なんて言った?」

 

「だから、今回の事件に関しては鬼人正邪は首謀者じゃない。俺はそう言ったんだ。だから仮に罪を裁くことになってもこの事だけは正邪は何もやっていないから裁くことはない、そう言いたかったんだ。」

 

陽がそう言うと霊夢は近寄って胸ぐらを掴む。その目は何かを訴えているような、見定めているような断定しづらい目だった。

 

「あんたが何を考えているのかはわからない。けれど一時の感情に流されてしまった妖怪がどんな目にあうかわかるかしら?退治されて、三途の川を渡って裁判で黒を叩きつけられて終わりよ。

仮にこのことが無かったとしてもこいつは黒になる、確実に。あんたが言っているのはつまり『こいつは流されただけだから黒にするな』とほぼ同じ意味よ。」

 

「そう思えるのならそう思ってもらっても構わない。だが、いくら犯罪者だからと言ってやってもいない罪を被らされるのは嫌になるだろう。」

 

「……仮に、あんたの言う通りこいつが操られていたとして。なら操っていた犯人は誰?確かにあの傘の付喪神や面霊気も操られてはいたけれど、だからこそこいつが犯人だと疑われているのよ?もしそれ以上に黒幕がいたとして、それをあんたが言ったなら……あんたも怪しい人物に入ることになるわよ。」

 

「そうしてもらって構わない。俺には思い当たる人物が一人いるし、それを言うだけだ。それで怪しまれるのならそれでいい。」

 

陽が視線を返しながら言うと、溜息をつきながら霊夢は陽から手を離して離れる。呆れたのか本当にリスト入りしたのかは陽は分からないが、気にしてられないとそのまま永琳に向き直った。

 

「……まぁ、結論として操られていたことは本当かもしれないわね。何かしらの術がかけられていたことが紫と一緒に調べて分かったのだけれど。

けど……それが操られているかどうかは不明、同じように付喪神の多々良小傘と面霊気の秦こころ……彼女達もまた、似たような症状みたいだけれと操られているかどうかはこちらも不明。

仮に操られているとしたら一体いつ、どこで操られてしまったのかは気になるわね。秦こころはともかくとして多々良小傘は人里から出ることはなく、命蓮寺で厄介になっている事から考えると聖白蓮達の警戒を掻い潜って潜入出来る人物、ということになるわ。」

 

「正邪は操られている前提として、そう考えてみると論外になる。となるとレミリア達を襲った人物って事なのかしら?」

 

霊夢のその質問に永琳は答えられない。ここで、ずっと黙っていた魔理沙が口を開く。

 

「そもそもよ、今回なんで人里を焼いたり紅魔館に喧嘩売に行ったりしたんだろうな?ずっと気になってはいたが誰も聞こうとはしないからよ、もしかしてみんな分かってたりすんのか?」

 

その魔理沙の疑問に対して、紫が口を開く。

 

「……それが分からないから後回しにしてるのよ。1番思いつきやすいのは時間稼ぎかしら。けれど時間を稼ぐにしたってここまで大がかかりな事をした意味がわからないもの。

紅魔館を襲ったのは聖白蓮と豊聡耳神子を追っていた男が紅魔館に入った二人を追いかけて…って話だったみたいだし。」

 

「まぁ確かに……別段燃やした家で線を引いて何かの図形が出来上がるということでも無く、燃やした家になにか特徴があるってわけでもない。共通点もないし燃やした家同士で線を結んだその中心点に何かがあるというわけでもない。

確かに、確かに時間稼ぎにしてもそうなんだけど……なんだかなぁ。なーんか引っかかるんだよな。何かの実験とかか?他にありそうな説としては。」

 

紫や他のみんなも黙る。何も分からないことだから、何も答えられない。何故聖白蓮達を襲ったのか、何故人里を焼き討ちにしたのか。それらの答えは全くもって謎であったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけで結局鬼人正邪は今回ばかりは……って事で紫が映姫に頼むらしいわ。けど今回のこと以外は問答無用って事で地獄で裁判することになったそうよ。」

 

「そんな話し合いをしてたんですね〜……あれ?でも今の話の流れで彼女をどうこうしようって結構前半だった気がするんですけど……その後でなにか話したんですか?」

 

「そのままなし崩し的にその場は解散、人間の男に甘々な紫がそいつを助けるために反逆者の罪を一つ減らす、そういうことが起こったのよ。ホント意味不明よ。」

 

珍しくキレている霊夢を見ながら文はふと思ったことを口に出した。

 

「にしても本当に紫さんは甘くなったような気がしますね〜……残念ですが陽さんにそこまでする義理は彼女にはないと思うんですけど。」

 

「今頃になって母性とかが働き始めたんじゃないかしら?妖怪だって母親になれるみたいだし長い時間生きてきたあいつにとってあれは息子みたいなものだと感じてるんでしょうね。だから甘い。」

 

「……何か霊夢さん、いつもより厳しくありませんか?人のことにあんまり関心を持たないさっぱりした霊夢さんが……珍しいですよ本当に。

いつもの霊夢さんなら『まぁどうでもいいけど』くらいには言うと思ってました。」

 

「……まぁ、それもそうなんだけれどさ。流石の私も何がおかしいかおかしくないか、ってことくらいの価値観はあるわよ。

聞くけど文は今回の事、どう思ってる?」

 

霊夢の質問に文は軽く考えながら首を傾げる。自分に話が振られると思ってなかったので、いきなりの質問に即座に対応出来なかったのだ。

 

「……どう、と言われましてもねぇ。私は今回新聞を作り上げただけですから。実際のところはよく分かってないんですよ。

まぁ鬼人正邪を庇うか庇わないかの話をすれば……個人的な視点で見れば庇いたくありませんが、客観的……でもないかもしれませんがそういう視点で見れば、今回の件だけなら無実だと庇う……という所でしょうか。」

 

「客観的、ねぇ……元々あいつが下克上を成功させていれば今の幻想郷は崩壊、大体の妖怪は人間に使われるようになって終わる……と言っても人間の上に付喪神やら道具達やらが立つことになっていたでしょうね。

鬼人正邪が上に立つ………なんてことは無いんだけど。

私がおかしいのかしら。」

 

「……というか、多分霊夢さんは自分で気づいていないだけで鬼人正邪の件とは全く別のことで不機嫌になっていると思うんですよね。」

 

「は?」

 

呆れた顔で言う文に霊夢は素っ頓狂な声を上げる。文にそんなことを言われるとは思っていなかったからだ。そして、自分が鬼人正邪の事で不機嫌になっている訳じゃない、と言うのも思ってもみなかったからだ。

 

「じゃあ文は一体どういうことで私が不機嫌になっていると思うのよ。私が博麗の巫女として幻想郷第1にしてないって言うの?」

 

「そうじゃありませんよ、ただ今回霊夢さんが不機嫌になっているのは━━━」

 

「嫉妬してるからだぜ、陽に。」

 

上の方から聞こえてくる声。二人が見上げるとそこには箒に乗った魔理沙が飛んでいた。霊夢は魔理沙の言ったことに対してかなり不機嫌になっていた。

 

「私が?嫉妬?あんなただの人間に嫉妬するわけないじゃない。魔理沙はあれに対して私が嫉妬する理由があるって言うのかしら?」

 

「あぁ、私が言うんだから間違いない。霊夢……お前は紫が構ってくれるあいつに嫉妬してるんだぜ。」

 

「……何を言い出すかと思えば、つまり何?紫が最近来ないんだから寂しいんだろ〜とか、その来ない理由があの男にあるから私が嫌っているとか……そう言いたいわけ?」

 

「そう言いたい訳なんだよ。私にはお前が最近紫が自分に構ってくれずに陽を構ってやってるから寂しくて当たりが強くなってるんだ。長年一緒にいたんだぜ?お前の気持ちくらい察してやれないほど私は鈍感じゃねぇし、友達やってないわけじゃない。

いつもなら『私よりも紫は彼についていた方がいいわ』くらいなら言うのに今のお前は嫉妬心丸出しだ。自分で気づいていないだけで構ってもらえずに拗ねてる子供そのものだぜ。」

 

魔理沙が指を指しながら霊夢に言い放つ。霊夢は魔理沙が言葉を重ねる度に段々と不機嫌になっていってるのが文にも理解出来た。そろそろ止めないとまずいか?と少し考えたが、霊夢が嫉妬しているという珍しい事が起こっているために止めることはありえない、とすぐに傍観に徹し始めた。

 

「魔理沙……貴方、ちょっとは言うようになったんじゃないかしら?丁度いいわ、今のこのイライラとモヤモヤを貴方にぶつけさせてあげようかしら?私が紫に構われなくてイライラしてるなら━━━」

 

「おいおい、八つ当たりは簡便だぜ。霊夢はちょっとイラつきすぎなんだよ、偶には肩の力抜いてゆっくり考えてみろよ。お前にとって紫はある意味親みたいな存在だろ?それを取られたから私は『嫉妬』って言ってるんだぜ?別に変な意味で言ってるんじゃないぜ。」

 

魔理沙の台詞に霊夢が驚きの表情を見せる。意外な一言だったので、さっきまで溜まっていた怒りはどこかへと消えていた。

 

「……親、みたいな?」

 

「……?違うのか?私はてっきり親代わりで紫が霊夢の事育てているように見えたぜ。なぁ、文。」

 

「そこで私に振るんですか……まぁでも、私も初めて二人の話し合いしているところ見た時は本当に親子みたいには見えましたね。もちろん人間の、ですが。」

 

「烏天狗以外烏天狗の家族なんてわからないから最後のは付け足さなくていいぜ。

だけどまぁ、1回今度あいつが来た時にでも甘えてみたらどうだ?あいつなら存分に甘えさせてくれるだろうよ。それだけだ、んじゃあな〜」

 

そう言って魔理沙は箒に乗って飛んでいってしまう。それを見届けた文は霊夢に再び視線を戻して霊夢を眺めていた。

 

「まぁ、霊夢さんが誰かに甘えるのが下手な方って言うのは分かっていましたが……不器用なりに甘えてみたらどうですか?魔理沙さんが珍しくいいこと言ったんですから甘えたいのなら甘えた方がいいですよ。

では、私はそろそろ仕事がありますので。」

 

そう言って文も飛んでいってしまう。独り博麗神社に取り残された霊夢は、魔理沙の言う通り偶には甘えてみてもいいのではないか?と思いながらお茶請けを取り出して紫を待つことにしてみたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔理沙ぁぁぁぁぁぁ!私のお茶請け返せえええええ!!」

 

「気づかない方が悪いんだぜ!」


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