「屠自古、布都……この2人を貴方一人で倒したというのですか?」
「あぁそうさ……だが、この姿だと信じてもらえなさそうだな?まぁ人間の姿をしているから信じられなくても当然かもしれねぇがな?その2人も充分強い実力を持っているが今の俺には勝てなかったってことだな。」
「……」
一部屋にいつの間にか追い込まれている様な状態にされていた神子と白蓮。反撃しようとも考えたが、屠自古と布都がいる以上暴れて巻き込むわけには行かないと、2人は考えていた。
そして、目線を合わせて同時に頷くと2人で同時に白土に向かって弾幕を放ち始める。
「無駄なんだよ………あ?」
一瞬でスペカを発動し、自分に神狼達の能力を取り込んでその能力で弾幕を掌に触れて喰らわせる。しかし、その一瞬の隙に姿が消えており白土はそこでようやくあの弾幕は囮なのかと悟った。
しかし、今の白土は狼同然なので臭いを嗅ぐことにより追うことが可能なのだった。
「………なるほど、こっちに逃げたか。待ってろ、すぐ追いかけてやるよ……!」
白土の体から大量の毛が生えてその体が変わっていく。そして、白土の体は狼そのものとなりそのまま匂いのある方向へと走って追いかけていくのだった。
そして、白蓮達が逃げ去った頃と同時期に陽は人里でもまだ火災が起こっていない地域まで走っていた。小傘と対峙していた所から一本道でここまで来ており、既に見失った怪しい人物もおそらくここら辺にいるだろうと踏んでここに来ていたのだった。しかし、それらしい人物は周りには見当たらなかった。陽は仕方なく元の場所に戻ろうとするが━━━
「……誰だ?」
「やあやあ、我は秦こころであるぞ。そこの少年よ、今1度私と戦い最強の称号を手にしてみたいとは思わんかね?いや、最強である今の私に勝てるものなんていないが、誰かに負けるというビジョンが思いつかないわけだが、そういう妄想をするのは楽しいんだ。ほら、笑顔だろう?」
目の前に現れた秦こころというピンクの髪をした少女。その表情自体は無表情ながらも彼女がつけているお面は笑顔の表情になっていた。
「えーっと……そのお面が表情代わりなのか?」
「そう、私は面霊気。お面の付喪神。しかし私にはこの面達のような表情が取れないでいる。故に私は表情を学ぶ。悔しい表情、悲しい表情、怒り狂う表情、自信に満ちた表情……色々な表情を学び私はもっと強くなる。そう、強さだけではダメなのだ……それに伴う表情が無ければ私は真の最強足りえないわけだ。故に少年よ、私と戦え。」
陽は先ほどの小傘の事を思い出していた。連続で付喪神が火災を無視して戦おうとする。その事実に陽はある確信を得ていた。
一輪が言っていた付喪神の下克上。今完全にそれが起きているとこのこころを見ていてはっきりと理解した。
「俺は弱い、それで最強を名乗れるとは思わないがいいのか?」
「私は『理不尽に戦いを挑まれて困る表情』も見てみたいのだ。そのためにはわざと弱い者に戦いを挑み勝利する必要がある。だが今そんなことをしていても誰も戦おうとしてくれない。そして偶然暇そうな少年を見つけたのだ。故に私は戦いを挑む。」
『随分と自分勝手な奴だな』と陽は少し呆れていた。しかし、小傘の状態を思い出すと恐らく彼女も操られているのだろうと陽は確信していた。しかし、陽一人の力ではまともに戦うことさえ難しいことも理解していた。
「さぁ戦え!私の力を思い知って泣き叫んで現実の理不尽さに涙するがいい!その表情こそ私の新たな力となる!」
そう言いながらこころは弾幕を放ち始める。先ほどの小傘の時と違い、避けるスペースは充分にあるので陽は限界をなくす程度の能力で体の動きを早くして避け続けていく。
「ほう、ただの人間かとも思っていたが……存外やるようだ!ならば私も更に力を発揮せねばなるまいて!さぁ弾幕数を増やすぞ!私の強さについて来れるかな!?」
「少なくとも独りよがりで強さを競うような奴が……最強だとはとても思わないね!おらよっ!!」
さらに限界をなくす程度の能力と創造する程度の能力を使い、陽は大量に作り出したパチンコ玉をありったけの力で投げ始めた。霊力や妖力は持っているものの、それを弾幕に生かせないのなら……ということで作ったパチンコ玉である。とは言っても投げるだけ、それくらいしかできない代物である。咲夜のように時を止めてナイフを投げるわけでもないので完全に見切られる代物である。
「ほう……飛び道具か。だが私にそんなものが通用するかな!?」
扇子を持って飛び回り、時に弾き時に避ける。陽が投げたパチンコ玉は一切直撃することなくこころにダメージを与えることは出来ないままであった。
「うぅむ確かに弱い、弱すぎる力だ。だが逆に考えてみよう……『もしかして本気を出せないのではないか?人里という区切りがあるせいで物を破壊してしまう不安にあるのではないか?本気を出すために別の要因が必要なのではないか?』と考えるとしよう。
だがしかし!例えそうだったとしても私の感情ばかりはどうしようもできない!何故ならば、本気を出せないような状況を自ら作り出すのは愚の骨頂だと私は考えているからだ!ならば私が少年のその腐った性根を叩き直してやると!とまぁそういう事で今の私は私は正義の怒り、という感情に目覚めてしまっているわけだ。」
「自分勝手な正義の怒りに目覚められても俺は困るしかないんだがな。そもそも俺は戦うことなんて全く想定していなかったわけで……」
「ええい!言い訳なんて見苦しいぞ!少年よ!私の方が正しいと勝負で教えてやろう!」
「こいつ話聞かねぇ……!」
襲いかかるこころ。弾幕や殴る蹴るの攻撃にスペルカード、不意打ちで相手を怯ませてその間に一撃を加えていくというその戦法に陽は段々と押されていっていた。
「ふむふむ、どれだけ攻撃してもその体が壊れることは完全にないわけか!不死身……では無いな、単純な再生能力でその強さを誇っているわけか!いや、少年は実力ではかなり弱いとても弱い。だがその再生能力は大体の相手に持久戦を挑むことが可能となっている、私でも持久戦に持ち込まれた場合人間に勝つことすら怪しいからな。付喪神と言っても疲れることは疲れるのだ。いやはや、持久戦とはなんとも恐ろしい戦い方よ。体力があればどれだけ強い相手でも勝ててしまう実力詐欺なのだからな!」
こころの話しを話半分で聞いている間、陽はその喋り方を何処か演劇っぽいと考えていた。そして、同時に独善的で『傲慢である』と。
小傘の時は考えもしていなかったが、小傘の『驚かない人はいらない』という考え方は実に『強欲』に近い物を今更ながらに感じていた。
そして、傲慢と強欲という単語に陽は一人の男を思い出していた。八蛇である。そして、八蛇が付喪神達を操っているのでは?と陽は考えていた。
「だったら余計に……何で操るまでのことをしたのかが分からねぇ……人里に火を放ってまで俺をおびき寄せようとする意味もわからない、何か……焦ってるってことなのか……?」
「何をごちゃごちゃと!私と戦っているというのに別のことに気を取られるなど……言語道断だ!地獄の閻魔に変わり、私が貴様の体と魂と心を粉砕してやろう!さぁ!かかってくるがいい!貴様をぶち殺すために私はお前の再生能力を上回り、何者かを殺した時のその末の感情も手に入れるのだ!そうすれば私は感情をもっと知ることが出来る!表情も知り!仮面も増える!」
「さっきまでそんなこと言ってなかっただろうが……」
「意見することなぞ許さん!私は私だ!少年のその醜い心の闇を私の拳で粉々に砕いてくれる!!」
そう言って再び攻撃を仕掛け始めるこころ。喋る度に動きを止めるのはある意味で陽には有難かったが、唐突に攻撃を再開するのは心臓に悪いと陽はイラついていた。
「そもそも腐った性根だとか醜い心の闇だとか……鬱陶しいんだよほんと……!お前に決める権利はないだろうに、好き勝手に人の事を罵倒してくれやがって……!」
そう言いながら陽はスーパーボールをいくつか作る。そして、それら全てをこころが自分の目の前に飛んでくる寸前で地面に投げる。
「なっ……がっ!」
地面に投げつけたスーパーボールはそのまま勢いよく跳ねて、陽の目の前までに近づいたこころの顎や腹、そして胸に全て直撃する。直撃した一瞬の隙を突いて陽はこころの服を掴んで能力もフルに使った全力投球でかなり遠くまで吹っ飛ばした。勿論、自分か向かう方向とは真逆である。
「投げ飛ばすとは卑怯な━━━」
大きく叫んでいたこころだったが、勢いよくぶん投げられているせいですぐに遠くなり聞こえなくなってしまった。
それを確認した陽はそのまま走って元の場所に帰ろうと移動をし始めたのだった。
「……あの男、まだ追ってきています。時折止まって何かをしている模様ですが……こう、鼻を少し高く上げているのは確認出来ています……行きましょう、あの男がまたこっちに向かってきています。」
「嗅覚か……まさか私達の匂いを嗅いで追ってきているとはな……その千里眼の魔法のように匂いを消せる結界は作れないのか?」
同時刻、白蓮達は未だに白土に追いかけられていた。白土の嗅覚が強いせいで未だに逃げ切れる気配もなく、ひたすらずっと追い掛け回されていた。
「あんまり無茶言わないでください……出来ないこともないですが今ですらなるべく精度を落とさずに千里眼と消音の結界を使いながら移動しているんですから……これ以上精度を落としてしまうとあの男がどこにいるか判別出来なくなるか一切音を立てること無く移動しなければならなくなるかの二択になってしまいます。」
「……?音を立てても問題ないのではないか?」
「恐らく私達の予想よりも、あの鼻はかなり利くほうなんでしょう……でなければ、空中を飛んでいる者の匂いなんてそうそう終えるはずがありません。香水の類や何かキツい匂いのする状態ならばともかく……」
「……確かに言われてみればそうか。しかし、済まないな……魔法を任せるだけでなくこうやって二人を担いでもらって。」
巫女のその言い分に白蓮は怒ることも笑うことも無く、そのまま前を向きながら返事を返す。
「いいえ、1人ずつ担いでいるより持てる方がお二人を担いだ方がいいと判断したんですよ。そうした方が片方がいざと言う時のために戦いやすくなりますし。私の方がお二人を担げるのでしたらやった方がいいというものです。
その代わり、戦闘は任せましたよ?いつか追いつかれる可能性もありますから。」
「あぁ、分かっている。二人を守ってくれ聖白蓮。にしても……人里から随分離れているようだが……どこまで逃げる気だ?」
「……紅魔館に行こうと思っています。あそこなら比較的人里に近いのと頼めば後で何かを要求されること覚悟でいけば……助けてくれるでしょう。」
白蓮の言うことに苦笑する神子。しかし、紅魔館に逃げ込むことは彼女も内心で賛成していた。地霊殿は地底に行かないといけない上に最悪地底の街を壊しかねないので地霊殿は不可能。天界は逃げた所で嫌味にされるのが目に見えている。白玉楼は彼女達が場所を知らないこともあり不可能。となった故に紅魔館ならば……と神子は結論に達していた。
「だが……あの男の能力を私たちは知らない。どうするつもりだ?逃げた先でレミリア・スカーレット達と共闘するのは問題こそないが、あの男の情報を一切持ってないと最悪全滅も免れないぞ?」
「えぇ……分かっています。だから最初は情報収集の為に様子見を提案してみるつもりです。血気盛んでいきなり攻撃を仕掛ける可能性もありますから……」
「まぁ、それがいいだろう………とりあえず二人を安静にできる場所に連れていかないとな。」
「なるほど……それでこの私のところに来た、という訳ね?そこの2人がやられて……けれど安静にして無いといけないからここまで来た、と。」
紅魔館。そこについた2人は美鈴を無視して大急ぎで屋敷に転がり込んだ。最初こそ咲夜などに警戒されたものの、事情を話せばすぐにその警戒を解いた。
「えぇ……あの男は……狼の力を持っています。私達を追いかけている時は狼の姿をしていましたが、いざ人の姿になった時の力は未知数です。だから━━━」
「ふっ……皆まで言わなくていい……たかが犬っコロ如き倒せないようではレミリア・スカーレットの名が泣くからな。咲夜、パチェとこあを呼んできなさい。」
「了解しましたお嬢様。」
そういって咲夜は消えた。そして白蓮はもうすぐ敵が来るというのに随分余裕そうな態度をしているレミリアに『真面目にしろ』と言いたくなって顔を上げたが……レミリアの表情を見てその言葉は出てこなくなってしまった。
「ふふ、犬なんぞ八つ裂きにして食ってやってもいいな……」
レミリアはいつもの気品のある口調をつい忘れてしまうほど……狩人の目をしていたからだ。白蓮は悟った。レミリアがこれから行うのは敵の排除ではなく、獣の狩猟なのだと。
この小説のレミリアはいつもはお嬢様口調だけれども、気分が乗ってきている時は我様口調になります。