東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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終わり際からの直接繋がっています。


狂気の傘

夜、月の出るその時間帯では人里の者は皆蝋に火をともして生活をする。幻想郷ではそれがとても当たり前なことであり、電気の通わない生活をしている彼らはそういう生活をするしかない。

そして暗闇が支配するこの時間帯は、物の怪が活発になる時間帯でもあるのだ。声さえ出さなければ誰かがいることなんて一般人にはわかりようもない、音を出さなければ近づかれていることすらわからない。つまり、何かが起きた場合には大体手遅れになってしまうのだった。

 

「村紗!消して回ってたんじゃこんなの間に合わないわよ!?」

 

「そんな事言っても……!家屋を潰して火を消そうにもあちこちから火が出てたんじゃ消してる方が早いじゃん!!」

 

「村紗!あなたはそのまま消化活動を続けて!一輪!貴方は雲山を使って他に燃えている家がないか探して!すぐにほかの者達に消火活動を手伝わせます!!」

 

命蓮寺、妖怪と人間の共存を目指すこの寺の者達は全員何かしらの形で人外ではあるが、その全員が尼僧たる聖白蓮に付き従っている。今、その者達全員を掻き集めて、指示することにより現在人里で起こっている同時火災を食い止めていた。

 

「聖!?どこに行くんですか!?」

 

「私は豊聡耳神子のところへ行きます!少し気がかりなことと……それに、あの者達の助けも借りねば行けません!!私たちでは限界があります!!ナズーリンはネズミ達を使って逃げ遅れた人がいないかの確認をしてください!星はそのお手伝いと私が戻るまでのみんなの指示を任せます!」

 

「は、はい!分かりました!!」

 

そう言って聖白蓮は走る。彼女が気になっていること……それは、最近寝泊まりしていたはずの多々良小傘が突然いなくなっていたことである。そして今回の火災にて……小さい『まるで道具のような』ものが火をつけ回っているという話も聞いていたのだ。真偽は不明だが、それが真実だとすれば彼女に取っては少し身に覚えのある事件と化すからだ。

 

「聖白蓮、状況の説明を頼むわ。」

 

そして、唐突に彼女の前に現れる八雲紫。そして月風陽達もこの場に来ていた。すぐさま応援が来たのだと思い、この場の状況を説明し始める。

 

「今人里で何件もの火災が同時に発生しています。しかも、この火災には小さいまるで道具のような者達が火をつけた……なんて話も出てきています。今のところ死傷者は出ていませんがいずれこのままだと……」

 

「分かったわ……とりあえず私は手当り次第に声をかけてみるわ。天狗達には協力は仰げないと思うから……とりあえず霊夢達に声をかけてくるわ。

陽、貴方はなるべく避難してきた人達の避難先の案内をお願いするわ。いいかしら?」

 

「分かってる。陽鬼達にも火災鎮火を頼むつもりだったしな……行けるか?3人とも。」

 

その陽の問に三人は静かながら力強く頷いた。それを確認して陽は白蓮に避難先を教えてもらい、そこに走って向かう。紫は応援を呼びに、白蓮は豊聡耳神子のところへ、陽鬼達は鎮火の為にそれぞれ動いき始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「押さないで行ってくれー!ちゃんと全員助かるようにする!知り合いが見つからないって人は教えてくれー!……ん?」

 

避難先への誘導をしているさなか、陽は人影を見た。勿論火災から避難してきた人ならまず間違いなくこっちに来ない、なんてことは無いはずである。避難先から逃げるなんてことする者はそうはいないからだ。

そして、明らかに何かを観察しているような、そんな感じの視線を陽は感じ取っていた。そして、陽に気づかれたと知るや否やその場から走り去る。

 

「……まさか、この騒動を起こした犯人?っ待て!!」

 

「むっ!?おいどこに行くのじゃ!」

 

陽は影から見ていた人物が気になり、追いかけ始める。その姿を狸の妖怪である二ッ岩マミゾウが止めようとするが彼女も案内を任されていたために簡単に離れることが出来ず、簡単に陽の姿を見失ってしまうのだった。

そして陽は、そのまま逃げた人影を追いかけ始める。しかし、いつの間にか陽の周りを焼けて焦げた木材が囲む様に倒れていた。

 

「なっ……これじゃあ後ろにも前にも……」

 

「うらめしや~……どう?驚いた?驚いた?いつの間にか自分が焦げた木材で囲まれてるだなんて……驚いた?」

 

「誰だ!?」

 

先ほどの犯人かと思い、声を荒らげた。声の方向、まだ燃えていない家屋の屋根の上に居たのは水色の髪、そして特徴的な赤と青のオッドアイ、そして何よりもその手に持つまるで生き物のような舌が生えている傘が特徴的な少女だった。

 

「お前がこんなことをしたのか?」

 

「お前、じゃないよ~……私の名前は『多々良小傘』傘の付喪神だよ~

でも……案外驚かなかったの?普通の人間の癖に肝が座っているというかなんというか……面白い人間ってことだけは分かるよ。

それと、私がやったことは何一つないよ。ただ、その木達には『倒れたら楽になる』って言ったんだよ。そしたら綺麗に貴方を取り囲んでくれた。火災を起こしたのも私じゃない。起こしたのは今まで人間に散々な扱いを受けてきた道具達だよ。

とある人が起こしたのよ、この火災……『異変』をね?」

 

「……何もしていない、と言うのなら何故そんな所にいる?なぜ俺を足止めしようとする?」

 

陽の問に小傘は静かに微笑みながら飛び降りる。ゆっくりと着地して陽を取り囲んでいる木材よりも外側の位置に降りていた。

 

「足止めしよう、なんて一切考えてないよ。私は貴方を殺すの。最初はなんの恨みもなかったけれど、全くもって関係もなくただの他人としか見れてなかったけど……私のやる事に驚かない人なんて私は嫌いだし、死ねとも思うし……殺したくなっちゃうよ?」

 

『正気じゃない』と陽はまず最初に思った。笑いながらくるくると愛らしく回る彼女。しかしその顔は狂気に取り憑かれているそれであり、恐らく彼女は何かに操られているのでは?と思えてくるのだ。

 

「俺は君のことは知らない……が、俺は奴を追わないといけないんだ。」

 

「奴?あぁ、あの人を追ってたのね?けれど私には関係ない。私に驚かない人なんてこの世界に入らないし私の視界にも入らないでほしい。そういう理由で殺すの。だからお願い、死んで?」

 

そう言いながら彼女は弾幕を放つ。しかし陽は周りを既に囲まれているために避ける事が出来ずにその場で棒立ちになっているしか無かった。

 

「ぐっ……!」

 

「あははは!痛い!?痛いよね!?ごめんね?痛いの嫌いだろうし私も嫌だよ?痛くするのも痛くさせるのも私の心が痛いんだもん。けど貴方が驚かないのがいけないんだよ?素直に驚いてくれたら良かったのに何も感じてくれなかったんだもん、本当に驚かなかったんだもん。あれ?そうなると初めから驚けなくなるってことなのかな?でもまぁいいや、あなたを殺さないといけないんだから……あれ?そもそも貴方を殺す理由ってなんだっけ?まぁいいや、気にしないでおこうっと。」

 

小傘が操られていると、今の台詞で陽は確信していた。自己矛盾の無意識的な逃避、先程まであれほど驚かなかったことに執着していたのに唐突にその理由すらも忘れる事など。

明らかにおかしくなっている事が初対面とはいえ分かっていた。元々こんな性格ならどうしようもないのだが。

 

「あはは!あはははは!」

 

笑いながら弾幕を飛ばしていく小傘。その弾幕により家屋の骨組みが崩れていき、後ろは完全に閉ざされてしまう。そして崩れてきたまだ燃えている木材でほとんど動けないだったのがさらに動けなくなるほど幅が狭くなっていった。

 

「っ……!」

 

「凄い凄い!そんなに血だらけになって体もボロボロになってるのに立ってられるなんて!貴方本当に人間なの?あの博麗霊夢や霧雨魔理沙みたいに飛べるとかじゃないみたいだけれどその分あなたの体は頑丈なのかしら?ううん、違う。貴方は体が頑丈な訳じゃなくて単純に軽い傷程度なら治せるってことだよね?だって明らかに怪我しているところが治ってきているもの!」

 

そう言って小傘は一旦弾幕を放つのを止める。何事かと思い、陽は息を荒らげてながらも、整えながら小傘を見る。

 

「そんなに丈夫ならぁ……一つだけ気になったことがあるの!心臓を抉ったり頭を吹き飛ばしたりしたらあなたは死ぬの?それともちゃんとそこも再生するの?もし再生するなら貴方は立派な妖怪……ううん、妖怪からも気持ち悪がられる存在かもね?で、どうなの?実際のところ。」

 

「さぁてね……確かめてみたらいいんじゃないか?吹き飛ぶか再生するかをさ。」

 

「そうね!私考えるの苦手だからその方が手っ取り早く終わらせられる気がするわ!それじゃあ……ふふ。」

 

小傘は再び弾幕を放ち始める。しかし、今回の狙いは陽の頭と心臓を中心で狙おうとしており、陽はそれに対して壁を用意して防ぐことしか出来なかった。

 

「……」

 

「アハハ!防いでばっかりじゃ私を倒して先には進めないわよ?けどあなたには反撃できないよね?私を倒さないと進めないのに私を倒すことが出来ない……つまり、これって詰みって言うのよね?!そうよ!きっとそうに違いないわ!」

 

「まったく……何がそんなに楽しいのか理解に苦しむよ。というか、そんなに暴れて音を立てて大丈夫か?」

 

「へ?貴方何をんがっ!?」

 

突如上から降ってくる大きな拳。陽はその拳を放った本人達を見上げて少しだけため息をついた。

 

「ちょっと貴方大丈夫!?ボロボロじゃない!」

 

「あぁ、うん……俺は服がぼろぼろなだけだからいいけど……その子知り合いの人知らない?初対面だけど……何か様子がおかしかったから。」

 

服がボロボロの陽を見つけて大怪我をしているのでは?と心配して声をかけた女性、雲居一輪は陽のその質問に答える前に陽の状態の方が先決と言いかけたが、本当に傷がないことを確認するとため息をついてから質問に答え始める。

 

「……あの子は私の身内よ。多々良小傘……いつもならこんなことをする子じゃないんだけれど……まさか、また付喪神に関しての異変が起こってる……?」

 

陽は一輪がポロッと零したその一言が少しだけ気になり、なんの事か聞こうと口を開く。

 

「付喪神の異変って何のことだ?……えーっと……」

 

「雲居一輪よ、一輪とでも呼んでちょうだい。

それで付喪神の異変っていうのはね……今はお尋ね者になっている妖怪、天邪鬼の鬼人正邪というのが使う能力によって起こされた、道具達の人間への反逆の事よ。

正邪の能力は対象を反対にすること。例えて言うんだったら……私達だったら魚や動物を殺して食べたりすることもあると思うのだけど……逆のことが起こってしまうのよ。そういう物事を反対にしたり能力値を反対にしたりすることが出来る能力。」

 

「反対……普段こういう事をしない子が、こういう事をする………ということはやっぱりその鬼人正邪って奴が関係しているってことにならないか?」

 

陽のその提案に一輪は首を横に振った。だが、彼女も正邪が関係しているのでは?という憶測はできていた。しかし、そうなるとなぜ今までしなかったのかが分からなくなるのだ。正邪の能力がここまで強力なものなら何故ここまでしなかったのか、なぜ今までお尋ね者として逃げ回っているのか。その答えがわからない以上一輪には今回の件の犯人が正邪だとは断定はできなかった。

 

「……ともかく、今は火災の鎮火よ。私は引き続き空に雲山と一緒に火災が起こってる場所の報告をしないといけないから……あまりこういう無茶をしない方がいいわよ。

自分を大切にしていない人なんて人を泣かせるのだけは得意なんだから、ほんと……」

 

そう言って一輪は気絶した小傘を抱えて雲山に飛び乗って飛び出す。陽はそれを見送った後に能力で水を出して周りの木材の火を鎮火させてから先へ進んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、豊聡耳神子のところへ向かっていた白蓮は既に神子と対峙していた。

 

「……やはり、そちらの傘の付喪神もいなくなっていたか。そしてこちらはこころがいなくなっている。それだけじゃない、人里の火災は道具達が火をつけたという噂もある……となると、やはり犯人は鬼人正邪になるのか?」

 

「いえ……だったら何故今人里に火をつけるのかが分かりません。彼女がやりたい事は下克上……いくら人里に火を放ったところでそれが達成されるとは思いません。」

 

「……囮、にしては大掛かりすぎるな。わざわざ火を放つ事をしなくても静かにしていれば問題なかったようにも思える。力の誇示にしても火をつける意味が分からない……」

 

その時、二人のいる部屋に轟音が響き渡り、襖と共に屠自古と布都が吹き飛ばされてくる。一瞬二人を心配した神子達だったが、それ以上にこの二人を吹き飛ばしたであろう人物を睨みつける。

 

「おやおや、こんな所に聖徳太子と聖白蓮がいるじゃないか……せっかくだから俺の餌になれよ。力、貰ってやるからよ。」

 

「誰ですか、貴方は。」

 

白蓮が目の前にいる男に声をかける。その男は気味の悪い笑顔を浮かべながらゆっくりと口を開く。

 

「━━━黒空、白土……お前達の敵(捕食者)だ。」


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