「……思ったんだけどさ、俺達なんか変な団体みたいになってきたような気がするんだよ。」
「何故じゃ?ただ人里に買い物に来ているだけじゃろう?主様。」
「そうですよ。別段何も変わった事はありません。人里に妖怪がいることが珍しいというのならまだしも、人里にも少なからず妖怪は住んでいたり買い物に来ていたりするのですから何も問題はないと思われます、マスター。」
「そうそう、それに毎回全員連れていかないと何言われるかわかったもんじゃない、って言ったのは陽の方だよ?陽って偶に変な心配する時あるよね。
そんなに魔理沙に言われた言葉が気になるの?そんなに幼女好きとして見られるの嫌なの?」
「嫌って訳じゃないが、一々白い目で見られたり店先のおっちゃんとかに哀れな目で見られたりここら辺の主婦達に変な噂立てられたりしてたらそりゃあ嫌になると思わないか?いくら俺でも怒るときは怒るぞ?」
人里で、買い物に来ていた陽、陽鬼、月魅、黒音。しかし、買い物で店に入る度にあらぬ噂が段々と現実味を帯びてきたと言われかねん視線、店主の生暖かい眼差しとか哀れみの目とか。
そういうのに晒されて少しだけ陽はキレていた。
「私達に当たらないでよ……いやまぁ、言いたいことは凄くわかるけどさ。しょうがないじゃん、どっちにしろ嫌な噂なんてすぐ立つに決まってるよ。例え黒音を預かってなかったとしても私達とっかえひっかえで買い物連れていってる時も嫌な噂立ってるんだし……もう消えるまで待った方がいいよ。」
「消えたらいいんだけどな……」
「むっ……?」
他3人が喋ってる間に、黒音は自分の視界の端に映る白と緑の物体を目にしていた。白が猛ダッシュで飛んできていて、緑がそれを追っているような状態である。
そして、それがこっちに近づいているのをしっかりと確認してから陽の服の裾を引っ張って呼びかける。
「主様、ようわからん物がこっちに近づいておるのじゃが。白と緑の二つが。」
「白と緑?大根じゃあるまいし……って本当になんか近づいてきてんな。もしかしたら何か急いでる可能性もあるから━━━」
「見つけたぞ諸悪の根源月風陽!!お主を今から退治してくれよう!!この物部布都がなぁ!」
瞬間、陽達は絶句していた。何の諸悪の根源なのか、何故退治されないといけないのか、そもそも目の前にいる彼女と明らかに幽霊だと分かる足がふよふよしている、緑色の服を着た少女は何者なのかだとか……それらの疑問が一気に襲いかかってきたのと、物部布都と名乗る少女がドヤ顔をしているために生まれている呆れで絶句していた。
「……どうだ屠自古!あやつらは我の威光に恐れ慄いて声も出すことが出来なくなっておるようじゃぞ!!」
「どう考えても違うだろ、どう考えてもお前のアホさ加減に呆れてるだけだろ。お前じゃ話にならねぇから下がってろ、お前だとすぐに暴れて周りを火の海にするだろうからな。」
「我が放火魔と申すか貴様!おい屠自古!聞いておるのか屠自古!もしかして聞いておらぬのか屠自古!?」
布都を完全に無視しながら屠自古と呼ばれた少女は陽に近づく。無愛想だが、まだ会話が成り立ちそうだと少しだけ陽は安心をしていた。
「おい、何でそんなに妖怪の子供を連れ添っている?お陰でお前に白い噂が立ってるのは知ってるだろう?本当に噂通り子供をそういう目で見ているやつってことか?
そうなるとお前の家に強制的に立ち入らせて貰うことになるが?」
「連れ添っているのは俺がこの子達を預かっている立ち位置だから、嘘だと思うなら竹林にある永遠亭、それと紅魔館にでも行って確認来てくるといい。この三人は八意永琳とレミリア・スカーレットから引き受けた存在だ。
それに、俺の家は八雲紫が住んでいる八雲邸だ。仮にそんなことをしてしまっていたら結界管理者の関係者として申し訳立たなくなるからそんなことするはずもない。
これでもまだ不満があると言うならどうぞ調べるなりなんなり確認してくれ。」
「そんな嘘が通るとでも……屠自古?」
陽の言ったことを否定しようと布都が声を荒らげるが、それを屠自古が手で静止させる。相変わらず表情は無愛想そのものだが、何かを考えるように腕を組み始めて陽をじっと見始める。
「……よし、帰るぞ布都。問題ないから帰る。」
「お主は何を言っておる!?ここに!幼き少女の!妖怪を束ねている!変態が!いるのに!無視!すると!!言うのか!?」
「喧しい!一々叫ぶな鬱陶しい!私が判断したんだから帰りながら話をしてやる、とりあえずこいつは……いや、こいつらは別にお前が言うような奴じゃない、ってことだ。」
「お主は一体何を言っておる!?はっ!?ま、まさか既にあの男の毒牙にかかっておりゅりゅりゅりゅりゅ!?」
布都が何かを言おうとした矢先、突然屠自古の手から電撃が放たれる。それをまともに受けて、布都は体を痙攣させながら倒れる。その光景を終始見続けていた陽達は呆然としていた。もはや目の前で何が起こっているのかすらも分からないくらいだった。
「……すまんな、こいつは今度後でちゃんとお仕置きしておくから今までの無礼は忘れてくれ。あぁそれと、私達は豊聡耳神子……聖徳太子様の一派のものだ。もし会いたいとか何か話がしたいとかなら……命蓮寺の寺に墓がある。そこに行けばキョンシーがいるから頑張って会話してみろ。運が良ければ通してくれる。」
そう言って屠自古は離れていく。そして、ある程度離れたところで姿を消した。何かの術で移動したと陽は軽く予想はしていたが、まずこの場にいる四人全員に共通して思っていたことがある。
「……あいつら、なんだったんだ?」
「私に聞かないでよ……私達も困惑してるんだからさ……」
「しかし、一つだけ分かったことがありますね。」
「うむ……あやつらは━━━」
『ひたすらに騒がしい奴ら』だという事が、彼らの彼女達に対する印象だったのであった。
「あっ。」
「むっ!?また会ったな!今日こそその首貰い受けりゅりゅりゅりゅりゅりゅ!?」
「お前は一々人に喧嘩を売らないと会話も出来ない危険思考の持ち主なのか、そうなのか。」
翌日、また人里に買い物に来ていた陽達は再び屠自古達と出会っていた。出会い頭に臨戦態勢に入っていた布都を屠自古が電撃で戒めていた。
「おう、また会ったな。今日も出会ってなんだが流石にそろそろ幼女連れくらいは止めておいた方がいいと思うぞ私は。」
「とは言っても買う荷物が多いから分担して持ってもらわなくてもいけなくて……」
「あぁ……みたいだな、山のように荷物が積まれてるのが今見てはっきりした。」
「私がよく食べるからね!」
横で電撃による痺れで体を痙攣させている布都を他所に他の五人で談笑していた。しかし、陽達からしてみれば気にならないということは無く先程からチラチラと布都の様子を見ていた。
それに気づいた屠自古が『問題ない』と言い再び談笑に戻り始めた。
「と、屠自古がクズ男の毒牙にかかってしまったぁ……これは、太子様に報告せねば……なら、ない……」
「おいてめぇ、それで太子様の説得に私がどれだけ時間を費やしたと思ってんだ。お前が本気で信じ込んでいるせいで太子様がガチで信じるパターンはもう飽き飽きなんだよ。お前のアホな脳みそはもう成長しねぇのか、しねぇのか?」
「うががががご!」
そして再び電撃を与えていく屠自古。そこでふと何かを思い出したかのように電撃を辞めて陽達の方を振り向き直す。
「そういえばまだ名前を名乗っていなかったな。私は蘇我屠自古、横でぶっ倒れてるのが物部布都だ。」
「蘇我とか物部とか……よく見る名前だ……」
「そういや寺子屋のワーハクタクが言ってたな。私達は歴史に名前が載ってるって。何か微妙に違ってたりもするが……まぁ、だから何だって話だが。
っと忘れてた……買い物に来てたんだったな……すまんな、変に時間取らせちまって。私らはもう用事は終わってるしもう帰らせてもらうぞ。この馬鹿ををまた家まで連れて帰らないといけないからな。」
そして屠自古は布都の服の襟を掴んでそのまま地面を引きずりながら引っ張って行ったのだった。
「……しかし、何故あの白い方は妾らをあそこまで目の敵にするんじゃろうか。主様達はあの者に何かしたのかの?」
「いや、俺は何かした記憶はないが……多分、単純に思い込んだら周りの話を聞かないタイプなんじゃないか?それを……屠自古が戒めてるって感じでさ。だって噂がどうのこうの言ってたし。」
「とはいっても……陽一人で置いていくのは駄目だしね、スグやられちゃうだろうし。まだまだ体が鍛えたりないから。」
「鬼のお前と比べられたら一生勝てないような気もするが……とりあえず鈴奈庵寄っていこうか、黒音が好きそうな本探すのもありかもしれないしな。」
「ほう、それは楽しみじゃな。」
さらに翌日。
「ふむ……では、改めて挨拶をしよう。私の名前は豊聡耳神子……聖徳太子とも呼ばれているね。君は私のことは知っているだろう?それで、私が君を読んだ理由を教えようと思うのだが━━━」
「……なんで、こんなことになってたんでしたっけ?」
陽は、聖徳太子……豪族達が住んでいる場所に案内されていた。ちゃぶ台を挟んで片方には豊聡耳神子、物部布都、蘇我屠自古の三人がいて、もう片方には陽、陽鬼、月魅、黒音の四人が座っていた。
何故こうなったのか。ことの始まりは数分前へと遡る。
まず、いつもの様に買い物に来ていた陽達。そこで現れたのが豊聡耳神子であった。
彼女に(半ば強引に)誘われて彼らは豪族達の家に上がっていた。断ることも出来たのはできたが、断った場合その時彼女のの後ろにいた布都が何かしらしてきそうな予感がした、ということで断れなかったのである。断って争いに発展した場合は人里をまた巻き込まなければいけなくなるからであった。
「それはそれとして……うむ、屠自古の言う通りではあるみたいだな。私はなるべく彼女達の話は真剣に聞いていたが、今回ばかりは布都ではなく屠自古の方が正しいと見るべきだ。
彼の『欲望』には布都が言うような卑しいものは存在していない。少なくとも、その子達には欲情はしていないようだ。」
「……」
『なるほど、そういう理由だったか』と思う反面『これ以上突っ込んだら負けだ』という思いも陽の中にあった。最早反応して違うと否定することでさえ面倒くさくなるほどに、この噂は根が深いのだとも陽はうっすらと理解していた。
「しかし……人里を騒がせているのは事実。以前も何度か人里で襲われた側とはいえ、暴れていた様だ。
そこで……だ。君の戦い方を見てみたい、君自身の……戦い方をね。」
「俺、自身の……?」
唐突な申し出。一体何が目的なのかと少し勘ぐった陽だったが、それに気づいたのか、神子は立ち上がりながら襖を開けて外の景色をさらけ出す。
「そう、この庭でいい。この庭で君がどういう風に戦うのかを見定めないといけない。私は、今回は『月風陽を戦闘にて退治する』という目的を持っているからね。
だが、もし勝てなかった場合逃げられてしまうかもしれない。そうなると私達では追うことは難しいかもしれない。そうなった場合、見逃さないといけなくなるね。」
この神子の言葉で少し彼女のやりたいことを理解した陽。要するに彼女は『退治する目的はあるけど、それは建前で本音では力の確認だけをしておきたい』ということだろうと陽は予想していた。
しかし、その言葉に反発する者が一人だけいた。
「なんと!?太子様そのように弱気になってはいけませぬ!我らが力を合わせればかの者を退治することなぞ御茶の子さいさいというやつですぞ!」
布都である。どうやら神子の言ったことを文字通りに受け取ってしまったらしく神子に発破を掛けていた。しかし、当の神子本人は苦笑を浮かべており、どうして良いものやらわからないという状態だった。
「てめぇは少し黙ってろ、話が進まねぇから太子様の言うことを素直に受け取ってなんの文句も言わず付いてくりゃあいいんだ。」
「あばばばば!?」
そしてこの数日間で何度見たかわからない屠自古の電撃を受けさせられる布都。再び痺れながら倒れるのを確認すると、神子は仕切り直しと言わんばかりに再び陽達に向き直した。
「では、妖怪退治と行きましょうか。」
「……悪役を演じさせられるハメになるとは……まぁ、断れないようにさせられてるしやるしかないか……」
こうして、豪族達との戦いを陽はすることとなったのであった。
戦いは次回