東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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また新キャラです。
ラッシュですよ、本当に。


新しき吸血鬼

「という訳で、引き取ってほしいのよ。吸血鬼である彼女を。」

 

「……誰をなんでどうして俺が、というか八雲家で引き取らなきゃいけないのかまず一から説明してほしいところなんだけど。」

 

紅魔館、そこに陽が呼ばれたので陽鬼達と共に向かい、いざ扉を開けて入ってレミリアに会おうとしていた。しかし、屋敷内に入ったのは良かったのだが、レミリアがすぐそこで待っており見知らぬ褐色の少女を指差しながら冒頭のようなことを言ったのだった。

 

「……え?必要なのかしら?あなた世間じゃ見た目幼女の妖怪を無償で引き取ってるって噂があるわよ?まぁその噂にも尾ひれが付きすぎちゃって手当り次第に取って食ってるみたいな噂立ってるけれど。」

 

「うん、まぁ引き取るのはいいけどその噂流したの誰だ。というかここに来るのは文くらいだし外に出るのは咲夜だけだけど……どっちなんだよレミリア。」

 

「そんな噂なんてどうでもいいじゃない。そんなことより彼女に名前を与えるのと引き取る事だけでいいのよ。」

 

陽の言ってることを全て聞き流して自分の言ってほしいことだけを伝えるレミリア。陽もジト目でレミリアを睨みつけていたが、レミリアにはどこ吹く風だった様で無視されてしまっていた。

 

「……けど一応聞かせてもらうけどさ、今は朝なんだけど?吸血鬼……なんだよな?吸血鬼に取ったら今は寝ている時間で外に出てたら焼けてしまうんじゃないのか?」

 

「あぁ……それは問題ないわよ。あの子昨日の朝に美鈴が門の前に倒れてたのを見つけて運んできたんだから。

パチェに体を調べてもらって、そこでようやくあの子が吸血鬼だってわかったのよ……しかも、太陽の光を浴びても体に何の害も起きない珍しい吸血鬼よ。」

 

その事を聞いて陽は褐色の少女に目線を向ける。ドレスのような服を着ていてツインテールにしている少女は、じっと陽のことを見ていた。

 

「……真面目に話してほしいんだけどさ、何で俺に預けようと思ったんだよ。」

 

「私とフランという同種がいるからよ。しかも彼女と違って私達は夜に活動する。流石に同じ同種が夜に起きて朝に寝ているのを見せて、何か思わせるようなことは避けたいからよ。

今は朝に起きてるけど私だって毎日朝まで起きてることなんてないわよ。今だって少し眠いもの……」

 

レミリアの眠そうな顔を見て溜息をつく陽。流石に眠いのを我慢してまでこちらの時間に合わせてくれたという所を考慮すれば彼女を預かってもいいかもしれないと陽は考え始めていた。

だが、その前に彼女の意思を聞いておく必要があったので、陽は彼女の目の前まで行って目線を合わせて話し始める。

 

「……君はレミリアと共にいるのがいいのか、それとも俺とついて行きたいか……どうしたい?」

 

「妾は目立ちにくい場所に住めるだけでいいのじゃ。同種のレミリアやフランと話すのは楽しいが二人に迷惑と負担をかけさせるわけにはいかないのじゃ。

よって、お主についていくのじゃ。」

 

思ったよりも簡単に決めたので陽は少し困惑したが、まぁ目立ちにくい場所という点では八雲邸は思いっきり目立たないのでいいかもしれないと、考えていた。

 

「……まーた、女の子が増えたよ。」

 

「存外マスターも異性に囲まれるのが余程好きな様で……」

 

反対に陽鬼達がものすごく機嫌が悪くなってるのが何故かとても陽は気になっていたが、もう決めたのでスルーを決め込むことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また増えたの?」

 

「紫も言うのか……しょうがないだろ、レミリアがわざわざ徹夜してくれてまで起きてくれたんだし……徹夜?」

 

「彼女達の場合は徹夜というより徹朝な気もするけど……ってそうじゃないのよ。別に増えることは問題じゃないけれど……さすがに三人目ともなると……人里の噂が本当になったとか言われてしまうわよ?」

 

陽と紫が話し合っている間に褐色の少女はじっと二人の様子を見てから二人の間に入る。そして少し見上げてから口を開く。

 

「この姿だと駄目なんじゃろ?なら大きくなろうか?」

 

「え……大きくって……なれるの?」

 

「この姿でいる方が楽なだけで本来の妾の姿は大人の女じゃ……人間基準で考えての。」

 

そう言ってから魔法を発動させる少女。その様子を眺めていた4人は魔法発動後に出てきた彼女の姿を見て唖然としていた。

 

「どうじゃ?これくらいの体の大きさならば問題ないじゃろ?」

 

陽が見た時まず思ったことが『色々と大きい』だった。とは言っても身長的には自分よりも少し高いくらいであり、自分の姉と言っても存外信じられそうな見た目をしていた。

ただ目のやり場に少し困ってはいたが。

 

「……胸が……」

 

「……陽鬼は成長してませんからね。恐らく一生あの大きさには勝てないでしょう。」

 

陽鬼達が何やら自分が聞いてはいけないような会話をしていることが陽は少しだけ気になったが、とりあえず今は少女から少しだけ目線をずらしていくことにしたのだった。

 

「なら主らも大きくしてやろうか?妾の見た感じこの魔法が使えそうな気がするんでの。」

 

「ほんと!?やるやる!」

 

「……やります。」

 

そう言いながら部屋に上がっていく陽鬼達。紫と陽はそれを眺めながら後から付いていくように八雲邸へと入っていた。

尚、この後に陽鬼達も少女と同じように魔法をかけて成功したは成功したらしいのだが、何故か陽鬼だけが『胸が……胸が……』と言いながらひたすら落ち込んでいたのが陽には少し疑問だったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のう、妾に付ける名前は考えてくれたかの?」

 

「……まさか、自分には元々名前が無かったなんて言わないよな?自分も記憶喪失だ、なんて……」

 

「気づいておったのか。」

 

夜になって。陽が縁側で月を眺めていると少女が隣に座る。どうやら疲れたらしく大人の姿から元の小さな子供に戻っていた。

 

「だって……君は陽鬼や月魅とは違う。何かから逃げている。その隠れ蓑に紅魔館や八雲邸(ここ)を使っているだけだ……何から逃げてるんだ?君はそんなに弱い子じゃないだろう、魔法の腕も素人ながらにかなり強そうに見えるけど?」

 

「過大評価じゃ……じゃが、何かから逃げているというのは的確じゃな。妾は……どこかの雪国にある実家から逃げてきたんじゃよ、ヴァンパイアハンターや実家の追手からもな。」

 

そう言って少女も同じ様に月を眺める。静かに地面を照らす月は二人をも照らしていた。縁側から降りて、少女は月をバックに仁王立ちをし始める。

 

「じゃが、逃げ延びて逃げ延びて……今ここにいる。もしかしたらこの世界まで追ってくるかもしれん。しかし……そこで妾が元の名前ではなくまた別の名前でいたら……少なくとも実家は諦めるかもしれんの。

レミリア達がここにいるということはヴァンパイアハンターもここまではこれん、という事じゃし。」

 

「……君は、本当……色々考えてるわけだ。うん……そういう事なら匿わせてあげる……って俺が言えることじゃないんだけど……けれど、名前は決まったよ。君似合いそうな名前がね。

……『黒音(くろね)』それが君の新しい名前だ。」

 

「黒音、黒音か……うむ!気に入ったのじゃ!」

 

そう言いながら微笑む黒音。しかし、ふと真顔に戻ってから何かを少し考えた後、陽に視線を戻して尋ねる。

 

「黒音……の名前の由来は何なんじゃ?この際陽鬼達の由来も知りたいのじゃ。」

 

その事を聞かれた陽は少しビクッとしたが、軽く溜息を付いてから恥ずかしがる様に話始めた。

 

「えーっと……陽鬼は、その……太陽の様に明るい鬼の子、って意味合いで付けて……月魅はまるで月の様に魅せられる様な美しさ、って感じで……黒音は……何か、黒っぽいのと個人的にその喋り方とか好きだから……音……って感じなんだけど……」

 

そして、名前の由来を聞いた黒音は少しだけ顔をしかめて、陽に近づいて軽く睨んでいた。だが、いくら睨まれても今の黒音は小さい子なので陽にとっては苦笑しか出来なかった。

 

「……適当に付けられると少し悲しいのじゃ。」

 

「いや、別に適当に付けたわけじゃ……あ、いやでも……なんかごめん。で、でも……可愛いからよく似合ってると……思うよ?」

 

陽がしどろもどろにそう言うと、黒音は顔を上げて更に陽に顔を近づける。

 

「本当か?妾可愛いか?」

 

「か、可愛い可愛い……すっごい可愛いよ?髪型も声もその顔も喋り方も……」

 

「……そうか、可愛いか……可愛いか………」

 

そう言いながら頬を染めて微笑みながら照れている黒音を見て、陽は『そういうところが可愛いかも』とか若干思ったりもしていた。

 

「……ま、まぁ……名前の由来はともかく、印象はとてもいいものじゃったから別にいいじゃろう……今から妾は黒音じゃ!」

 

そう言って縁側に上がってから部屋に向かう黒音。余程可愛いと言われたのが嬉しかったのか若干スキップになってるのを陽は微笑みながら見ていたのだった。

そして、黒音が部屋に入ってるのを見てから陽鬼達のことを考え始めた。

 

「……黒音は自分の意思でここまで来た。逆に陽鬼達は気づかない間にここに来ていた。黒音は自分が何者でここに入る以前のこともきっちり記憶していた。けど陽鬼達は覚えていなかった。」

 

言葉に出して整理をしてみる。だが、黒音も何故ここまで来れたかを記憶していなかったようにも思える。逃げるだけなら幻想郷まで来れるとは陽は思っていなかったからだ。

白玉楼で見た夢を思い出しながら不安に駆られる。陽鬼も月魅も黒音も皆自分自身のことを主だと慕ってくれるいい子達である。

だが、もし夢の通りなら陽鬼や月魅は死んでいるようなものであり、もし記憶違いなだけで黒音だってそうなっていたのかもしれない。

 

「……」

 

だからと言って、彼には彼女達にこの事実を伝える事は限りなく不可能に近かった。

これを伝えてしまえば彼女達の心が壊れてしまうかもしれない。仲間が全員死んで、自分が捨てられて……これらは全て過去の事であり、彼にはどうすることも出来ないのだ。

 

「……陽?部屋に戻ってこないから心配したわよ?」

 

「紫……」

 

陽の横に紫が座った。黒音は戻ってきたのに陽が一向に戻ってこないのを見て、少し心配になっていたのだ。

そして、隣に座る彼女を見て陽はこの事を紫に話してもいいんじゃないか?と思っていた。だが瞬時に言わない方がいいと思い、このことを心の奥底に仕舞っておくことにしたのだった。

 

「どうしたのよ?そんな風に悩む事が何かあったのかしら?さっきあの子……黒音って名付けられて喜んでいたけれど……もっといい名前思いついちゃったとか?」

 

恐らくは茶化すために言ったことなのだろう、と陽は感じ取っていた。だが、その事では悩んでなかったので、陽は誤魔化すように苦笑しか出来なかった。

 

「まぁ……今悔やんでもどうしようも出来ないってだけだよ。来る時が来れば解決出来るかもしれないなぁ……って話だから。」

 

「……?そこまで思い悩むことでもない、って言うのなら私も何も言わないけれど……出来る限り、話して欲しいわね。私達は家族なんだから……ね?」

 

「……あぁ、そうだな。俺達……家族なんだよな。」

 

内心、陽は真逆の事を考えていた。血の繋がりはなく、何年も一緒に暮らしてきたわけでもないのに『家族なんだから』と言われても彼にとってはピンと来ていなかった。

何故紫が自分のことを家族と言ってくれるのかが、陽には理解出来なくなっていた。元々は気まぐれで一緒に暮らすことになった二人だったが、何故未だにその気まぐれが続いているのかが陽にとっては理解出来ていなかった。

家族らしい家族なんて初めからいないようなものだったのだから、理解できないのもしょうがない、と陽も頭では理解していたが心で納得はしていなかった。

 

「……部屋に戻るよ。風呂が湧いてたと思うから入ってから寝るよ。」

 

「そう?それなら……おやすみなさい。」

 

紫の言葉を聞いて陽も『おやすみなさい』と返し、部屋へと戻っていく。その前に夕飯の後片付けしなくてはならないと思い直し、皿を軽く水に晒して洗っていった。

 

「……黒音も、陽鬼も、月魅も……紫も藍も橙も……そう、『家族』なんだよな。

だから死んでも守らないといけないって望んでしまうし、死なないように守っていかないとって自惚れてしまうんだ。」

 

皿を洗いながら陽はふと思ったことを口に出していた。こうやって増えていくのは家族と言えるのだろうか、と思い耽りながら陽は悩んでいく。新しく出来た『家族』である黒音を迎えて今日も八雲邸で夜を明かす。

家族とは一体何なのか、見つかることのない答えを探しながら、悩みながら。




黒音は褐色黒髪ツインテールの持ち主です。彼女の戦い方は次話で紹介されると思われます。
そして彼女特有の魔法を使えば自分も、本来の姿が大人な人物も大人化出来ますが、その場合陽鬼だけが平地になります。主に胸囲の格差社会的な意味で。

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