東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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夢から覚めました。


人の身なんて

「あら〜おはよ〜よく眠れたかしら〜?」

 

「お陰様で……まだ横の2人は寝ぼけてるけど……」

 

目が覚めた陽は月魅と陽鬼の手をひいて居間まで歩いてやってきた。部屋に入った瞬間に幽々子に声をかけられて軽く返事を返す。両手が塞がっているので月魅か陽鬼が開けてくれているのだが何故かそれを見てニコニコしている幽々子を見て陽は恥ずかしくなっていた。

 

「……ところで、紫や妖夢は? 見当たらないけど……」

 

「妖夢は朝の修行よ〜、紫の方はさっき起きて顔洗いに行ったわ〜」

 

それを聞いて顔を洗いに行くことを思い出した陽は自分も顔を洗いに行こうと洗面所へと足を向けようとする。

 

「……にしても、随分と面白い夢を見ていた様ね〜」

 

「っ!」

 

その言葉で驚いて咄嗟に寝ぼけた頭が一瞬で覚醒して後ろに振り返る陽。何故夢の内容を知っているのか、幽々子がそんな能力を持っているなんて陽は聞いた事が無かった。

 

「……俺、そんなにハッキリとした寝言でも喋ってたか? それともあんたには紫にすら喋っていない第2の能力があるとかか?」

 

「さぁ? 何故かしらね〜……ただ、夢を見ている様な気分になるという話は本当、という事だけ私は理解したわ〜」

 

陽の予想通りに綺麗にはぐらかされた。もはやどう聞いても期待する返事を返す気は無いだろうと陽は思っていた。だから、もう何も聞くまいと思って溜息を吐くと幽々子が何やらニヤニヤしているのを見ても何も言わなかった。

 

「けれど……何かあっても助ける、とまでは行かないけれど手助けくらいならしてあげてもいいわよ〜」

 

「……手助けって、例えば?」

 

「そうね〜……貴方が望めば、妖夢を師匠にして特訓させて上げるわ。だって貴方……かなり弱いでしょ?」

 

ハッキリと言う幽々子に陽は反論したいところだが、実際問題本当に弱いのだから何も反論が出来なかった。

 

「それに、貴方が刀や銃を扱える事をちゃんと知る機会も答えを出さないといけないわね。その手伝いでもいいわよ?

選ぶのは貴方次第、両方ともやりたいか、両方ともやらないかでも構わないわ 」

 

「……俺が何で扱えるのか理由を知っているのか? それとも単純に調べる手伝いだけする、って意味なのか?」

 

「それは聞くものじゃなくて考えるものよ〜、貴方自身が答えを見付けなければいけない……体力や筋肉をつけるだけじゃ戦えないから意味無いのと同じ事よ」

 

幽々子のいまいち分かりづらい言葉を聞いて、その意味を考え始める陽。その様子を見ながら微笑んでいる幽々子。そしてそれらを眺めるいつの間にか部屋に戻ってきていた紫。

不思議な顔をしながら幽々子と陽の両方を交互に見ていく。

 

「……え、何……二人で何の話してたの?」

 

「さぁ? 男の子って可愛いわね〜って話よ〜

お母さんはそろそろ長女の藍ちゃんにご飯の作り方でも教えて貰ったらどうかしら〜」

 

「誰がお母さんよ……私はまだ子供の1人も産んでないし藍も橙も陽達も子供みたいなものだけれど、子供じゃないわよ。

って、そういう事じゃないわよ……からかうのはやめて頂戴」

 

そうツッコミを入れる紫。しかし、それでもいつもの調子を変えずにニコニコと笑っている幽々子。相変わらず人をからかうのが上手い、と紫は呆れ半分で溜息を吐く。

 

「あ、そうそう……妖夢はまだ戻って来ないのだけど見てないかしら〜?」

 

「へ? 妖夢? さっき台所にいたのを私見かけたわよ? ってそう言えば陽? 陽鬼達はどこに行ったの? 確か貴方と一緒に寝てた筈だから一緒に行動しているもんだと思ってたんだけれど……どこにいったの?」

 

声を掛けられて一瞬陽は意識を紫達に戻したが、そういえば陽鬼達はどこに行ったのかと再び考え始める。幽々子に声を掛けられる前、つまりは顔を洗う為に部屋を出ようとした瞬間まではいたことは彼は覚えていた。

つまり声を掛けられた後、二人は自分で顔を洗いに行ったのではないかと陽は予測した。

それを言おうと視線を紫達に戻すが━━━

 

「……あれ? 紫? 幽々子?」

 

2()()()()姿()()()()()()()。幽々子はともかくとして、紫がわざわざ質問しているのに姿を消す事なんて無い。一応紫のスキマなら音も無く移動する事も可能ではあるが、今そんな事をして驚かせようとするメリットが全く無いからである。

つまり、何かあったので移動したのか? となるが彼は即座にその考えを否定した。ならば一言でも何か言うはずだからだ。聞いていない、という線も一応捨てきれてはいないと心に留めているが。

 

「おーい、紫ー? 幽々子ー? 妖夢ー? 陽鬼ー? 月魅ー? 皆どこいったんだー?」

 

どこからも、誰の声も聞こえてこない。流石に妖夢や陽鬼達の返事が聞こえない事はおかしいと思い、陽は屋敷内を探索し始める。しかし、人の気配が全く感じられなくなった屋敷内を探し回っている内に、彼には一つだけ疑問点が浮かび上がっていた。

何故急にいなくなったのか、何故ここまで音が無いのかという事である。そして、彼が考えている時に暗く影がさした目の前の廊下の空間から声と足音が聞こえてくる。

 

「━━━誰もいなくなったのは別の空間に飛ばしたから。お前を一人にしたのはそうでもしないと邪魔が入るから。それ以上の理由が必要か?」

 

「……白土か」

 

暗闇から姿を現したのは彼の旧友であり、今は殺し合う仲でもある黒空白土だった。

何故ここに来れたのか、そして何故自分たちがここにいる事を知っているのか。それらの疑問を問い質したい気持ちにもなったが、今はそんな事を喋っている時では無かった。

 

「……全部、お前がやったのか?」

 

「おうよ、ちょっとばかし時間が掛かったが……全員隔離したって訳だ。この屋敷には何重もの結界が貼られててな? んで、一枚目の結界の内側にはあの半霊剣士、一枚目の内側に存在する二枚目の結界にはお前の━━━」

 

陽は白土がそれ以上言葉を口にする前に斬りかかっていった。だが陽はここまでされても峰打ちで終わらせようとしていた。

刀を自分が使える事には何ら違和感は無い、その違和感を考えている暇があったら斬りにかかった方が早いからだ。

 

「っと危ねぇな……一応言っておくがいくら待ってもお前に助けは来ねぇぞ? 自称神と蛇野郎が足止めして行ってるしな。

それに、それで足りない分が補える訳じゃねぇがな……八雲紫さえ止めれれば充分だ」

 

「だったら、お前を気絶させれば早い話だ。それだけでも結界は解かれるしな」

 

「そんな簡単に切れる様な結界じゃねぇよ、こいつは。気絶するだけで結界が消えるなら……今頃幻想郷は大結界が外れている頃さ。俺を気絶させても無意味だ、やるなら……徹底的に殺す事を考えるべきだな。峰打ちじゃあ狩れるもんも狩れないからな」

 

陽の剣戟を白土はひたすら躱していく、見切っていると言わんばかりに。

避けられる事が分かったのか、陽は両手持ちだった刀を片手で持ち替えて篭手を腕にはめ込むような形で作り出す。

そして、そのまま白土に特攻をかける。

 

「血迷ったか! 俺の能力はお前の能力の上位互換だって事忘れんじゃねぇぞ!!」

 

そう言いながら白土は紙切れ1枚から大振りの大剣を作り出す。此処は狭い廊下であり、大剣を避ける事は容易では無かった。しかし、陽は大剣に対して一切避けようとする行動をしなかった。

 

「避ける必要なんか……無い!!」

 

「っ!?」

 

陽はピンポイントで白土の作った大剣を殴り壊す。金属が割れる音を聞きながら白土は焦っていた。

『何故ただの人間の一撃で壊れるのか』と。確かに、白土が把握している分の陽の限界を無くす程度の能力だったら、拳で鉄を粉砕出来る程のパワーを身に付ける事が可能だとは分かっている。

しかし、リスクも何も無しでその能力を発動出来るというのは彼は考えてなかった。能力が元々そういう能力だったのか、それとも能力が使っている内に進化したのか……その二つの可能性を白土は考慮し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、陽は自分が大剣を破壊出来た事に内心驚いていた。実を言うと彼は限界を無くす程度の能力を使わずに破壊していたのだ。

篭手を付けたのは腕を怪我から守る為、そのつもりだったのだが、存外破壊出来た事に疑問を抱いていた。

咄嗟だったのだ。無我夢中で『殴り壊す』という事だけを考えていたら何故か破壊出来てしまっていた……という状況なのだ。

 

「……末恐ろしいな。あれだけの鉄の塊を叩き割るか。篭手を付ける意味があったのか? 破壊出来る程の腕力があるのなら……さすがに俺はお前に近接戦闘は挑めなくなっちまうな」

 

「とか言ってても大して驚いてないだろう? 内心『なら銃撃戦をした方が早い』と冷静に考えてそうだ」

 

お互いがある意味での腹の探り合いを繰り広げていた。鉄の塊を破壊する事なんて人間の体ではどう鍛え上げても難しいだろう。白土はその『人間を超えているであろう陽の力』を警戒し、陽は『破壊出来ない様に何か別のもので仕留めてくるであろう白土の力』を警戒している。

 

「…………っ!」

 

白土がナイフを勢いよく投げる。自分の筋力を能力で底上げしているので普通の投げナイフよりも速い速度で飛んでいく。その数5本。

 

「っ…………?」

 

しかしそのナイフは全て外れて陽の周りの襖や床や天井へと突き刺さる。一瞬何事かと警戒したが、スグに白土がナイフを陽の心臓目掛けて投げる。陽はそれを避けようと体を動かそうとするが━━━

 

「い゛っ……がっ!?」

 

動かそうとした部分の皮膚に何かが食い込む様な激痛によりワンテンポ避けるのが遅れてナイフが刺さってしまう。しかし、多少狙いが外れたのか右胸に突き刺さってしまう。

 

「……心臓からズレたとはいえ、それで立ってられるってお前なんだよ……いつの間にそんなに丈夫になった?」

 

「ごぽっ……はぁはぁ……うるせぇ……」

 

「……血を吐いたって事は少なくとも肺辺りにダメージはあると思ってんだけどなぁ……そのまま放置してても死ぬ事は死ぬだろうけど……まぁいい、一応止めとして一発撃っとくか」

 

白土が銃を構える。その間に陽は皮膚に食い込んだ何かの正体を探っていた。食い込んだ場所をよく見てみると細い線の様な切り傷が入っていた。

 

「……糸か、糸で俺の動きを封じたのか……」

 

「そう、だがただの糸じゃない……ピアノ線って知ってるか?すげぇ丈夫でくっそ切れる糸のことさ。さっきのナイフ投げの時に何本か設置させてもらったぜ。しかも特別丈夫だからな、全身鎧で身を包んでいても最低でも鎧を斬れるくらいさ。ナイフも深く深く刺さってあるから滅多な事じゃ抜けることもないだろうな。

ま、もう関係無いが……な」

 

そう言って白土は銃のトリガーを引いた。そして、弾が発射されてから陽はその光景をまるでスローモーションの様に見れていた。

能力を無意識に使った…………という感じではなかった。『限界を無くす程度の能力』では()()()()()()()()()()()

この直線上だとどうやって糸に当たらず避けれるのか、そういう動き方が今の陽に取って手に取る様に理解出来るのだ。

 

「っ……?!」

 

「なんだと……?」

 

糸と糸の間の隙間が無い訳じゃ無かった。だが、幾ら見えていようともぶつからずに放たれた弾丸を避けるのはほぼ不可能だろうと白土は思っていた。

だが、目の前にいる陽はいとも簡単に避けたのだ。しかも糸の方を全く見ていないだろうと白土は感じ取っていた。

 

「お前……糸の位置を把握せずに避けやがったな? 直感、直感のみで糸も弾丸も避けるとかバケモノじみてんぞ……!」

 

そう言いながら白土は追加の弾丸を放っていく。

だが、陽は刀を作り出して糸を切っていく。勿論弾丸全てに当たらない様にしながらだ。

 

「……能力だけじゃねぇな。能力で強化されてるのかと思ってたが……幾ら何でも直感の限界を越えられたら溜まったもんじゃねぇぞ。お前……直感が未来予知並の能力身につけやがったな……さっきの大剣破壊も能力じゃねぇな。」

 

「……さてね、さぁどうする? お前の能力は通じないぞ? 何せ全部俺が壊していくからな」

 

「……うるせぇ、よ、!」

 

叫びながら又もや白土は巨大な棍棒を作り出す。周りに棘が大量に付いている押し潰すのでは無く重量を使って突き刺すタイプの鉄の塊。白土はこれならば破壊出来まいと考えた。

だが、仮にこれが破壊された時の事も彼は考えて敢えて棍棒を創ってそのまま空中に放り投げる様にしておく。

 

「っ!!」

 

陽は廊下では避けようが無いと篭手に包まれた拳を構える。だが、直感的にこの棍棒を叩き割るのは危険だと確信して、咄嗟に襖を突き破って部屋へと移動する。

その光景を見ていた白土は床に落ちる棍棒を見ながら一つだけ確信している事があった。

 

「……幾ら何でも、ナイフぶっ刺さったまま動ける人間なんていねぇよ。やっぱり人間止めてやがったか……」

 

そして密かに作り上げたチェーンソーを鳴らしながら白土は陽の入った部屋へと向かっていったのだった。


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