東方月陽向:新規改訂   作:長之助

48 / 121
新キャラです。




暗い暗い場所に彼はいた。

自分の姿は見えず、声も聞こえず、歩いているのか飛んでいるのか分からない様なフワフワした様な感覚。

とりあえず前に進もうと足を進める。しかし景色は変わらず進んでいるのか分からない、もっといえばそもそも自分の体が動いているのか分からなかった。

気付けば目の前にドアがあった。視認した途端にそのドアは開いた。いや、もしかしたら自分が開けたのかもしれないとあやふやなものになっていた。

 

「おとーさん……おかーさん……また遊んでくれないの……?」

 

声がした。声の方向に視線を向けると小さな女の子がいた。燃える太陽の様な赤い髪の女の子。

知っている。彼はその少女を知っていた。だがその家の中にいても彼女やその家族に自分をなぜか視認する事は出来なかった。

 

「みんな嫌いだ……ずっとずっと落ち込んでる様なこんな村は私は嫌いだ……」

 

そう言いながら彼女は家を出た。そのまま歩きながら村を出た。誰も気にしない、気にも止めない。

気付きはしていたが関わる程余裕が無かった。そのまま少女は村の洞窟を出ていた。

彼だけは追っていた。いや、足は動いていなかったのかもしれないが彼には追っているという自覚があった。

彼女は旅をしていた。何年も、何年も……彼女は人間じゃない。故に人間よりも長い時間を生きていた。

人間の街を見たり、色々な人間を彼女は見ていた。悪い人間もいればいい人間もいた。彼女に優しくする人間もいれば厳しくする人間もいた。勿論畏怖する人間もいれば尊敬する人間もいた。

そんなこんなで時間が過ぎた、何十年、何百年と時間が経っていた。

 

「……何これ」

 

彼女は久しぶりに村に帰ってきた。自分すらも嫌悪していた村に。

しかし、村は無かった。ボロボロに崩れ、燃やされた様な跡もあった。彼女は走った。村の中を、手当り次第に家に入っては中を捜索した。色々なところを探し回って、村の奥の奥……村長の家に『それ』はあった。

 

「ぁ……あぁ……あ、あぁぁぁぁぁぁ……うわああああああああああ!!」

 

幾多数多の骨、骨、骨。首と思われる部分に縄が結ばれ、掛けられていた。それらが広い屋敷のありとあらゆる場所の天井からぶら下げられていた。

少女は逃げた。何もかもから、いろんな物事の全てから。逃げ出して洞窟を抜け出した、その瞬間に足が不意に動かなくなった。

倒れた体、そのまま何も動かなくなる。疲れからじゃない、足がもつれて転けた訳でも無い。

少女はその時に気付いた。洞窟には異臭が漂っていた。最初それは燃えたりボロボロになってたりした家の匂いだったのではないか? と。

しかし、そうではなかった。簡単な事なのだ、異臭という事はつまりは体に害をもたらす様な『毒』が流されていたのだと。

 

「ぅ……あ……」

 

しかし彼女は歩いている様な錯覚に陥っていた。動かなかい体を左右に少しだけ揺らす様にだけしか動けない。それだけでも彼女は歩いている気分になった。

しばらくすると、彼女も動かなくなった。だが、彼女の体は止まった瞬間に霧散した。何故かはこれの一部始終を見ていた陽にも分からなかった。

 

「うぁ…………歩か、ないと……」

 

一瞬、世界が暗転した。そしてしばらくして彼女は倒れた場所とは別の森へと出ていた。

だが、彼女はそれにも気付く事無く歩き続けた。自身の体の事を全く気に掛ける事無く。全てを気にせずにただ歩き始めた。

そしてそれを見届けていた彼の視界は段々と眩しい光に包まれていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が開けた。空は暗い、真っ暗闇だった。瞬く星々の光に照らされているかの様に空には一面の星が輝いていた。

そして、目の前には一人の男と一人の女性がいた。長い銀の髪を靡かせて男の後ろを静かについて行っていた。

格好から察するにメイドなどの類だと彼は認知した。

 

「……この店に入るぞ」

 

「はい」

 

男に命じられるがまま彼女は男と同じ店に入っていく。男は彼女だけに金を払わせてすぐさま別のところへ、別のところへと店を渡り歩いた。

彼女は従うだけ。文句を言わず、考えず、感じずと言った最早人間を捨てたかの様なものに成り下がっていた。

男はふと空を仰いだ。それに釣られて彼女も仰いだ。その視線の先にあるものはなんなのかと陽も仰いだ。

青い星だった。まばらに白と緑の色が良く見える……地球だった。そして陽はここでようやく気付いた。ここは地球のどこかでは無く月だったのだと。

 

「……ふん、醜い星だ」

 

男は地球を嫌っていた。だが、その目は地球に対して羨望の眼差しで見ていた。

そして彼女は自身の事は何も考えず、相手の事を何も考えず、ただただ付いていくだけだった。

 

「あっ……」

 

彼女はよろけて倒れてしまった。足がもつれた、何かに躓いた……では無く、体に力が入らなくなってきたのだ。そして、こけた彼女をただただ冷たい眼差しで見ながら一言言った。

 

「……またか。前に変えたばかりだろう……そろそろ体だけの交換ではなく……女を変えるしかないのか……」

 

男のセリフは彼女に聞こえていなかった。

男は彼女を荷物ごと抱き抱えると歩き始める。街から外れ、都市から外れ、鬱屈する様な場所に出る。そこには大量の人の様なものが捨てられていた。

男は彼女をそこに捨てると後は荷物だけを持って帰っていった。彼女は眼前に輝く地球を見ながら手を伸ばす。殺風景な月では無く色とりどりの地球に行きたいといわんばかりに。

 

「ぁ……!」

 

彼女は歩き出していた。何かに導かれる様に、ゆっくり、一歩一歩着実に歩んでいき……足が地面から完全に離れ、彼女が浮いたかと思えばその姿は消えていた。

そして、彼女が再びその体に重力を感じたのはその目に周り一面緑色の竹林を確認したからだった。

そこで彼女の意思は途切れていた。そして、彼女が再び倒れたその瞬間に世界もまたブラックアウトしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いただきます」

 

少年がいた。泣きもせず、笑いもせずにテーブルに置かれた料理を食べていた。

陽はこの光景を知っていた。自分である。最早見慣れた光景そのものだった。自分にも、他人にも興味が無くなり、機械的かつ事務的に一日の行動をしていく。

飯を食べ学校に行き、勉強をして家に帰る。また飯を食べて風呂に入り、就寝する。毎日毎日その光景の繰り返し。

 

「…………」

 

だが、そこまでだった。ひたすらその光景を見せつけられた後に突然世界が真っ黒に塗り潰された。

 

「━━━」

 

何か、声の様な物を陽は聞いた気がした。しかしそれが何を言っていて、何を指し示しているのかは聞き取れなかった。

瞬間、世界が眩く輝いたかと思えば先程と同じ光景……とはまた違った光景が広がっていた。

 

「ほら、今日はあなたの好物を作ってあげたわ」

 

「ん、ありがとう母さん」

 

「お、美味しそうだなぁ」

 

テーブルに料理を並べる自身の母親、読んでいた新聞を畳んで料理を眺めていく父親、そして返事をする陽自身。もし違った未来があればこんな風なのだろうか? とその景色を目の当たりにして感じ取っていた。

 

「おはよう白土、杏奈ちゃん、東風谷」

 

「おう、おはよう」

 

「おはようございます!」

 

「おはようございます、月風君」

 

黒空白土、黒空杏奈、東風谷早苗。三人と共に通学路を談笑しながら歩いていく。

一人じゃない、『友』と言える様な存在と街を歩く。こういう未来があったのなら……と思わなかった訳では無かった。昔はともかく今なら、考えてしまう事もあった。

そしてまた景色はブラックアウトし、一人の『男性』が映し出された。

 

「……」

 

一人で黙々と飯を食べている男性。しかし、景色は今までの家と変わらず……そしてこの男性は陽は見た事が無かったがそれへ()()()()()()()()()()()()()()

学校から会社に変わっただけで何も変わっていない生活。つまりは前のまま幻想郷に行かなかった場合はこうなるのだろうというものだった。

 

「━━━どうですか、あなたはどんな夢を好みますか」

 

世界が割れ、聞こえてくる声。

後ろから聞こえてきたので振り返ってみれば、そこには大きな人型の何かがいた。

男性とも女性とも区別のつかない顔や声。しかし今声を発したのでとりあえず意思疎通は出来る生き物の様だと理解した。

 

「……どんな夢も好まない。俺は俺だけの、現実を好む」

 

「しかし内心は誰かと繋がっていたい、最後に見せた夢の様な寂しい人生は送りたくない、と感じていますね? 自分の意思に矛盾させる様な事を言うのはやめておいた方がいいですよ。

少し前の……あの惨めな自分にはなりたくないでしょう」

 

陽は能力を使って刀を一本作る。その刀の切っ先を謎の人物に向けて構える。次余計な事を言えば殺す、と言わんばかりに。

 

「……自分が何故色々な武具を使えるのか……気になった事ありませんか? それに……周りのものの認識がずれている事……それが気になった事ありませんか?」

 

「……」

 

表情こそ変わらなかったが、陽は確かに言われてみれば不思議だと感じた。よくよく考えてみれば初めから刀や銃の扱いが素人のそれではない事がおかしいのだ。相手の言う認識のズレが何なのかが良く分からないが。

 

「月風陽……貴方は彼岸に行った時、その目的を忘れてただ四季映姫・ヤマザナドゥに絡まって一つになっていた魂を分離させる事を目的として認知していませんでしたか?」

 

「は? そりゃ魂を分離しないといけないんだから━━━」

 

ここで陽はある事を思い出していた。そう、二重憑依を解けさせる為にスペルカードを作り、そしてなぜ妖怪を憑依させる事が可能なのかという話になったところまでは思い出せて良かった。

そして、考えてみれば()()()調()()()()()()()()()()()()()()と思ったのだ。

しかし、同時に治す為に向かった……という記憶もあった。

 

「……お前、何者なんだ……」

 

「私に名前はありませんよ、どうせならホライズンとでも呼んでください。マター・ホライズン、でお願いします」

 

ホライズン、意味は確か地平線だと陽は認識していた。地平線を名前に持ってくる辺りこの人物は余程の自信家なのかナルシストなのか。

それ以前にマターという単語も持ってきている。名前の直訳としては地平線の物事となるのだが全く意味が分からないと陽は思っていた。

だが、本名を問い質そうとしたところで意味は無いだろう、何せこの場は夢なのだから。

 

「ふふふ……一応言っておきますが、さっきの夢も、認識のズレも全て私の能力によるものです……まぁ、能力の詳細は今言ってしまうと面白くありませんからね、敢えて言わないでおくとしましょう」

 

「……どうせ、夢を操るとか思考を操るとかいう能力だろうが。実際夢なんていうのも頭の中で行われるもんだしな。

俺や紫の目的が少しだけズレたのも……」

 

「残念、思考を操る事は私には出来ませんよ。魂を分離するという目的も、前世を調べてみようという目的も……全て貴方が『まず最初にやらなければならない』と感じたものなのですから。

それと同じ様に家族や学友と楽しく過ごしている貴方も、歳をどれだけとっても独りで過ごしている貴方もまた全て同じ貴方何ですよ。

夢なんかじゃない……ある意味、全て現実の貴方ですから。まぁ……本当に貴方が貴方なのかどうかが証明出来ないのでそれを言われたら何も否定出来ませんけどね」

 

「いい加減に……しろっ!!」

 

そう叫んでホライズンに飛びつく様に飛んでから、勢いよく刀を振り下ろす陽。

しかし、それが届く前に陽の視界は真っ白に染まっていく。まるで夢から覚める様な光景。だが陽は今まで見た事、そして陽の目の前に現れた人物の事をただの夢として片付けられなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

目を覚ますと陽は白玉楼の布団で寝ていた。何故ここに来たのかまで覚えているが、いつの間にか自分は寝てしまっていたのかと頭を抱えたい気分になっていた。

だが、両手を掴んでいるそれぞれの人物がそれを邪魔していた。

 

「……陽鬼と、月魅……」

 

夢で見たあの光景、本当ならこの二人は既に死んでいる事になる。陽からしてみれば例えそうだったもしてもそれは特に関係無くいつも通り接するだろう。だが、二人はその事を分かっているのだろうか。月魅は覚えているかもしれないが、陽鬼にはこの事は思い出させたくなかった。

撫でたいが、それぞれが陽の右手と左手を掴んでしまっているので撫でる事すら叶わない。

これからは寂しい思いをさせない様に、もうちょっとだけ構ってあげようと陽は考えていた。

 

「……二人とも、もうちょっとだけ俺の事情に付き合ってくれ」

 

良く分からない者に狙われやすいからな、力を貸してくれ。と付け加えた上で陽は空を仰ぎ見る。

澄み渡った、雲一つない晴天がそこには広がっていたのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。