東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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バトル回です。


八つの蛇

「……あれ? 早苗?」

 

「それに……一緒にいるのは文ですね……何か深刻そうな話をしていますけど何かあったんでしょうか?」

 

人里。そこにいつもの様に買い物に来ていた陽達だが、そこで真剣そうな顔付きで話し込んでいる烏天狗の少女、射命丸文と東風谷早苗を見つけた。

あの二人が話しているという事は、妖怪の山の話だろうと予想していた陽は二人に背を向けて歩き始めるが声を掛けるものと思っていた月魅は少し驚いた。しかし主である彼が離れようとしているのなら、という事でそのまま彼について行く事にして、陽鬼はあたかも予想していたかの様にそのまま陽について行った。

 

「……声、掛けないんですねマスター」

 

「無理に声を掛けてもしょうがないだろ。あの二人があんな真剣な顔で話し込んでいる時に横から声を掛けて話の腰を折る訳にもいかないからな」

 

「それもそうですが……」

 

陽鬼は何も言わなかったが、内心では彼が東風谷早苗という少女を避けているのではないかと思っていた。だがそれの真偽がどうであれ、言っている事は正しいのでここでその話題(早苗が苦手な事)を出すのは良くないと思い何も喋らなかったのだ。

 

「……あれ? こんなところに占い屋なんてあったっけ?」

 

そう思いながらしばらく歩いていると、陽鬼が占い屋を見付ける。陽や月魅もいつも通っているこの道で占い屋何てものを見つけたのは初めてでふと気になってしまったのだ。

 

「無料って書いているし入ってみない? お金が掛からないなら入ってみたい!」

 

そう言って目を輝かせながら陽を見つめる陽鬼。陽は仕方無いと思いながら頭を掻いて陽鬼の頭を撫でる。それを行っていいと受け取ったのか陽鬼は占い屋に入っていく。

月魅もこっそり入っていくのを見て、陽はやっぱり二人共女の子なんだなぁとぼんやりと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、いらっしゃいお嬢さん達。なにか占ってほしいものでもあるのかな?」

 

「うん! 何占ってくれるの?」

 

占い屋にて。

陽鬼は目を輝かせながら占い屋の主人らしき人物と話していた。月魅はその主人らしき者の格好を見て少し面白い格好をしているなと考えていた。

黒い長髪だが、顔付きや声の感じからして男性だと分かる。

服装は陽と似た様な黒い服装だが、月の頃にいたレイセン達の服装と少し似ていると思った。

 

「そうだな……私が占えるのは色々だ……例えば……君達には主がいて、その主は男性、しかしまだ子供であると分かる。

それの他に分かる事はと言えば、その男は東風谷早苗が苦手という事だ」

 

「……それは占い、と言えるんでしょうか? まぁでも、分かる事は凄いですが……」

 

陽の事を言い当てた事に月魅は少し疑問を抱いたが、陽鬼は逆に凄く喜んでいた。『こんなにも当たるのだったら何を占ってもらうか迷う』という事を目を輝かせながら考えていた。

 

「他にも色々分かるぞ? 例えば……()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか、な」

 

「……天狗が姿を消す?」

 

「何何!? どんなの!? 教えて教えて!?」

 

陽鬼身を乗り出す様に主人に迫ると、主人は椅子に深く腰を掛ける様に座り直して足を組む。最早陽鬼はほとんど話を聞いていないが極秘と言うからにはとても凄いものなんじゃないかと思っていた。

 

「神隠しとかじゃあ無いんだ。いや、ほんと単純な話さ。そうだね……そこの銀髪の子に聞こう。

仮に……君の知っている人が一人姿を消したとしよう、幻想郷じゃあ神隠しで通せるかもしれないが、だ。神隠しを除いて……君は何が原因だと思う?」

 

「……自ら姿を消す、誰かに封印される、誰かに殺され埋められる、妖怪であればその存在が維持出来なくなる……といったところでしょうか?」

 

「概ね正解だ。そして今回の事件では……結果的に言えば『殺される』という答えが正しい答えだ」

 

月魅は服の裏に隠してあるスペルカードを密かに握って警戒を始める。陽鬼は全く警戒していないが、どう考えてもこの男は怪しいと考え始めていた。

 

「……『結果的に』という事は過程としては殺してない、という事ですか。延長線上に死があるだけで……過程やそもそもの目的は別だとでも言いたいのですか」

 

「そう、犯人は殺す気があって殺した訳じゃ無い。分かる事は……犯人は餌を喰らおうとしたのさ。殺意を込めないものはそれは殺しにはならない。

殺意のない殺しは『食事』と同等なのさ」

 

「つまり……天狗は食べられちゃってたの?」

 

陽鬼が少し戸惑い気味に男に聞く。男は少し微笑んだかと思うと突然立ち上がって両手を広げ始める。

 

「そう、食べられたのさ……まるで蛇が卵ではなく小さな雛を丸呑みすると言わんばかりに…………ね」

 

「っ! 陽鬼! しゃがんで!!」

 

そう言うと月魅は一気に刀を呼び出して占い屋の小屋ごと男を刀の横一閃て切り飛ばす。陽鬼は咄嗟にしゃがんだのでダメージは負わなかった。

 

「な、何!? どうしたの月魅!?」

 

「いいから逃げますよ!! マスターのところまで逃げたら一旦八雲邸まで退避します!! あの男はかなり危険な香りがしました!!」

 

そう言いながら月魅は陽鬼の手を掴んで崩壊しかかっている小屋から出ていく。幸い、中にも周りにも一般人はいなかったので特に問題は無いだろうと踏んでいた。

 

「おい!? 急に建物が真っ二つになったが中で何があった!?」

 

「敵です! とても危険な感じがしたので逃げます!!」

 

月魅は陽鬼の手を引っ張って走りながら陽に事情を説明していく。陽も月魅と並んで走っていく。

月化か陽化を使って飛んでいこうとも考えたが、憑依時の霊力や妖力の爆発によって周りの人に影響が出るかもしれない事を考えてしまい、躊躇ってしまうのだ。

幸い、人里の出口まではもうすぐなので出てしまえば後は離れるだけなので簡単である。

だが、そんな簡単にモノは上手く運ばない。

 

「全く……真っ二つにするなんて存外殺意を込めるのが上手いじゃないか。私を不意打ちとはいえ真っ二つに出来た事は褒めてやっても良さそうだ」

 

目の前に一匹の蛇が立ち塞がる。その蛇が喋ったかと思えばすぐさま先程の男の形となる。

 

「くっ……! やはりあなたは人間では無かったのですか……!」

 

「ふふふ……八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の写し身、または生まれ変わり……名はないがその出自故……八蛇(ヤダ)と呼ばれている。

八岐大蛇に八つの頭がある様に私の能力も八つの『欲』から出来ている。

その欲全てが大罪と言われるもので構成されているものだ。一つだけだけ別のものだがな……私はそれを操る事が可能なのさ」

 

八蛇と言われた男が笑いながら話し掛けてくる。しかし、暗い占い小屋で座っていた時は陽鬼や月魅は気付かなかったがこの男はかなりの高身長だった様で、2m前後の身長を持っていた。

まるで蛇の様に長い胴体は敵である獲物を絡めとっていくかの様な巨躯である。

 

「……」

 

陽はひたすら憑依するタイミングを狙っていた。だが、八蛇の視線がそれをしようとする動きを牽制するかの様な視線を終始感じていた。蛇に睨まれた蛙、今の陽達はそれも同然だった。

 

「因みに……お前が初めてそこの鬼を憑依させた時に殺された家族の事だがな……両親がなぜ殺し合いを始めたのか、気になってはいなかったか?」

 

「……何だと?」

 

陽は、その話題で気が引かれてしまった。確かに、娘の方はライガという男に殺されたと聞いていた。だが、そう言えば両親は何故お互いを殺し始めたのか。

 

「私がそうしたんだ、お互いを憎悪する様にな」

 

陽は八蛇を睨んでいた。自分でも気付かない内に陽は八蛇に憎しみをぶつけていた。

その憎悪の視線に気付いていながらも八蛇は敢えて無視していた。ぶつけられる憎悪の感情が彼にとっては、思い通りに事が運んでいるも同然と言わんばかりに内心で笑っていた。

 

「お前、がぁ……! 陽化[陽鬼降臨]!!」

 

「ふふ、そうだ……お前はそうしないといけない」

 

陽は陽化を使って八蛇に一気に迫る。しかし、八蛇は落ち着いた様子で陽に向かって片腕を伸ばして袖から蛇を出現させる。

そしてその蛇達で一気に陽を拘束する。

 

「ぐっ……!? 速ぇ……が、こんなもん全部握り潰してやらァ!!」

 

そう言いながら陽は力の限りを尽くして蛇を握り潰していく。しかし、それでも八蛇は落ち着いた様子で袖からさらに大量の蛇を出して陽への拘束を強くしていく。

陽もこれはまずいと思ったのか一旦拘束している蛇を潰しきってから八蛇と距離をとる。

距離をとった途端八蛇から蛇を出す事は無くなった。まるでここから先に行かせない、と言わんばかりに。

 

「ちっ……! ならこっちだ……! 月魅ィ!」

 

「は、はい!」

 

呆気に取られていた月魅は今ようやく我に返る。話にこそ聞いていた陽化に初めてなった時の日に起きた殺人事件、それのもうひとりの犯人が目の前にいたという事実に呆気に取られていたのだ。

 

「月化[月光精霊]!」

 

陽化を解除しつつ月化を発動する陽。本来連続での憑依スペル発動は人間の体である陽の体には耐えきれない程の負担となる。前に倒れてしまった事を思い出しながらも陽はスペルを使い八蛇に刀を持って特攻していく。そして、解除された陽鬼ら片膝を付きながら呼吸を整えていた。

 

「こんな蛇……! っ!?」

 

「甘いぞ? 周りが見えていないという事は戦いにおいてはそれは死に直結する事だ。

よく見てみろ、お前が潰した蛇の亡骸をな」

 

八蛇は蛇を出して陽に攻撃を仕掛ける。先程よりも速い速度だったが月化の速度では簡単に避ける事が出来た。

だが、一度蛇を切ろうと刀を振りかざせばその攻撃は蛇には通らず弾かれるだけだった。

弾かれもしたが、蛇を避ける事は可能なので全てを避けつつ先程潰した蛇を横目で見ていく。

 

「……ほとんど潰れていない……!?」

 

そう、先程陽化の状態で潰した蛇たちは全て握った部分しか潰れていなかった。それ以外の部分は無傷であり、握った部分でさえも皮には殆どダメージは残っていなかった。

 

「そうだ、だが惜しいな。貴様が先程拘束された時に引きちぎった蛇達だが……よく見てみろ、切り離せている者が一匹でもいるか?」

 

そう言いながら八蛇は蛇の攻撃を止める。そして陽に見る事を勧める。気が進まなかったが陽は引き千切った蛇達を見ていく。確かに彼の言う通り全てどこかしらで繋がっていて、完全に引き千切る事は出来ていなかった。

 

「……硬いのか」

 

「そうだ。お前が鬼を纏えばその速度に追い付けずに蛇に拘束される、だが今の精霊を纏った姿では攻撃力が足りずに蛇に攻撃を弾かれてしまう……お前には私を倒す術が無い訳だ。

殺るならば……本体である私を狙うしかないが……その速度でも届かなかっただろう? 蛇に邪魔されてな」

 

陽は表情こそ変えなかったが、内心では歯がゆい思いをしていた。八蛇の言う通り、陽は月化の状態だと飛んでくる蛇達を避ける事は可能だが、何故か今一歩踏み込めないでいた。

踏み込もうとしたところに蛇が飛んできてしまい、避けるしか出来なくなってしまうのだ。

 

「……ならば……月光[月面ノ世界]」

 

「……む?」

 

陽は月化でしか発動できないスペルを発動させる。すると、八蛇の蛇達が姿を消す。

このスペルは相手の弾幕の発動を制限するエリアを作るスペルである。無論、弾幕と言ってもそれが物理的なものの場合防ぐ事は出来ないものなので咲夜などには使っても意味は殆ど無いものだが。

 

「……その蛇達、お前の力で出しているものならばこのスペルがいいと判断した。どうだ? これならば……お前を切れる!」

 

そう言って陽は八蛇に向かって刀を構えながら突っ込んでいく。叩き切るつもりでその刀を振るおうとした、その時だった。

 

「━━━嫉妬[妬む者]」

 

八蛇のスペル宣言が陽の耳に入ってくる。だが、今発動させているスペルでは弾幕は使用不可能なのでこのまま八蛇の首を切り飛ばさんとばかりの斬撃を繰り出そうとする。

しかし、その攻撃が届く前に陽の体全体……否、八蛇の目の前の空間全てに紫の炎が立ち上がる。

 

「ぐ、ぐぁ……!?」

 

「一度燃やされれば(妬めば)燃やしきるまで(相手が死ぬまで)燃え続ける(妬み続ける)のが(嫉妬)というものだ」

 

「っ…陽!!」

 

陽鬼が叫ぶ。しかし、今の陽の耳には陽鬼の声どころか誰の声も入ってこない。

しかし、そんな中陽の頭に聞こえてくる声の様なものがあった。炎が燃え盛る中……彼の耳にだけ、頭に届く声。

 

「……と…………つに……!」

 

「……ん?」

 

陽が何かを呟いたのを八蛇は聞き逃さなかった。しかし、肝心の内容が聞き取れていなかった。仕方無いので自分に燃え移らない程度に近寄り耳をすませる。

 

「……きと、た……うを……つに……!」

 

「……何だ? 何を言っている?」

 

「月、と……太陽を……一つに…………!」

 

━━━月と太陽を一つに、八蛇にはそう聞き取れていた。だが、なんの事かは全く理解が出来ていない。

 

「……陽化[陽鬼降臨]……!」

 

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「ぐっ……」

 

眩しい光に八蛇は目を瞑る。八蛇も知りえなかった事、そして誰も予想出来なかった事……月と太陽が一つになればどうなるのかを…彼は、陽でさえも知らなかった。




八蛇の格好は黒いスーツです。ロン毛のイケメンですね。

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