東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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陽鬼側の話です。


守拳

月魅が博麗神社で特訓して、陽がそれを影で見守ってる時の話。陽鬼はその時は地底にいた。

何をしに行ったのかという話だが特訓、そして可能であれば武器の調達などが主な目的だった。

剣や槍などの武器は恐らく肌に合わないと陽鬼は確信しているし弓矢や銃などの武器も合わないという確信はしている。だから陽鬼は重くて破壊力のある武器……金槌などの武器が必要なのだ、それもなるべく大きな。

 

「さて……あるといいなぁ……私に合う武器」

 

何故地底に来たのか、陽鬼自身の考えとしては『暑いから金属の加工とか流行ってそう』という考えだった。

 

「うーん……でも前に来た時に無かったよね……でも人間のいる人里だと重い武器はどう考えても流行らないだろうし……あるとしたらこっちなんだよね……」

 

キョロキョロ見渡しながら歩いていく陽鬼。その姿を見てざわめく地底の妖怪達。侵入者だ、侵入者がいると反応していた。当たり前だ、本来はここの領地に外からの来訪者が現れる事は無いからだ。前に来た時は紫がいたから何も起きなかったが、今回は別だ。紫も陽もいない一人の状況では、地底の他の者に過敏な妖怪達が反応してしまっていたのだ。

 

「うーん……きっとどこかに……」

 

「殺れぇぇええええ!!」

 

「……ちょっとお邪魔しただけでこんなに歓迎されないなんてね!!」

 

そこからは陽鬼対妖怪達の乱闘が始まった。とは言っても過敏であるという事はそれだけ臆病という事でもある。臆病な者程自分のテリトリーに入られる事を嫌う。

だからこそ、『侵入者は排除する』

 

「っ……あぁもう! 子供に群がるなんて大人気ないぞこんちくしょう!!」

 

本気を出して殆どの妖怪を一撃で沈めていきながら陽鬼は叫ぶ。小さいとはいえ一応は彼女も鬼という剛力の種族である。

能力の方は完璧には使えないが単純な妖力や筋力だけなら大概の妖怪を凌ぐ程のパワーはあるのだ。

 

「そう言いながら殆どの妖怪達を殴り飛ばして気絶させていってるあたり小さくても鬼は強いという事を示してくれたじゃないか」

 

ある程度妖怪達を殴り飛ばしたところで陽鬼に声を掛けるものが存在した。陽鬼は声の主を視界に入れる。その正体は『力の勇儀』の星熊勇儀であった。

 

「……や、やる気?」

 

「あっはは! 流石に同種をぶっ倒すのは気が引けるよ。同意の上で殴り合うのなら良いけど別段同意の上って訳じゃ無いしね。

とりあえず落ち着きな、敵じゃないよ私は」

 

勇儀のその言葉を聞いて陽鬼は臨戦態勢を解く。そして勇儀は陽鬼が落ち着いたのを見計らってからふと声を掛ける。

 

「で? わざわざ1人で来たみたいだけれど一体何の用だい? ここにはあんたの好きそうなものが置いてあるわけじゃないよ? 酒と料理なら大量にあるけどね」

 

「……ねぇ、武器を扱ってるお店ってあるの……?」

 

「地底にかい? ある事はあるんだけどねぇ……果てさて、まだ残っているか微妙だねぇ……何せ弾幕ごっこが流行っちまったからそれをやる妖怪かそもそもいつもは戦わない妖怪達しかいないから廃れちまってんだよね……ま、とりあえず探してみるか」

 

一緒に探すつもりは陽鬼には無かったが、思ったより気のいい勇儀が一緒に探してくれる事になり少しだけ陽鬼は安心していた。

何分あまり地底はあまり回っていた訳じゃないので地理には詳しくないのだ。だから誰か詳しい者が一緒にいてくれた方が楽で安心なのだ。

 

「……ところで、何で一緒に探すのを手伝ってくれるの? やっぱり同族のよしみ?」

 

「まぁそれもあるっちゃああるけどね。あんたの主って男には酒勝負で負けたから今度は勝ちたいと思っててね。

ただ全然来ないからどうしようかと思ってたところにあんたが来たからねぇ……まぁつまり見返り目的さ。あんたの主との酒勝負をもう一回取り付けて欲しいって言うね。

勘違いしないでもらいたいが別にこれを断っても案内をいないとかそんなことは無いから安心しな。出来ればでいいんだよ、出来れば」

 

陽鬼としては別にそれを受けるのはいいけれど陽がそれを受け入れるかどうかは別問題なので正直了承しづらかった。

恐らく陽も簡単に了承は出すだろうが問題は紫なのである。彼女が簡単に了承するとは考えづらいからである。

 

「別にいいけど……多分紫が許さないと思うよ?」

 

「八雲ねぇ……ありゃ過保護過ぎるんじゃないかね。男なら妖怪の1匹や2匹は倒すもんだよ。人間の中には剛力の種族であるはずの鬼を倒す猛者だっているらしいからねぇ……」

 

歩きながら2人は会話を続けていく。その間にも段々と地底の居住区の奥の奥へと歩いていく。不便極まりない場所の様な気がするがしかしそこまで来ると家屋は最早廃れていっているのが目に見えるほどの奥地であった。

そして2人はとある大きな一軒家の前にたどり着く。

 

「ここだよ、ただ一つだけ注意しておくことがあるんだけど……ここの親父はかなり偏屈だから気を付けな。私は此処で待っているから何かあったら私を頼りな」

 

「うん!」

 

そして陽鬼はその一軒の家に入っていく。明らかに人が住んでいる様な気配が無いのが少し不気味なところだった。

 

「あのー……誰かいませんかー!」

 

それに対する返事は無い。

だが、奥の火事場から音が聞こえてくるため今も鉄を打っているのだろう。

陽鬼はその音目指して一直線に走り出した。

 

「あのー!」

 

「……」

 

そこには一人の人間がいた。陽鬼は地底なのに何で人間がここで鉄を打っているんだろうと思った。しかも若い男や女ではなく既に年老いている男であった。

そして陽鬼が声を出しても何の反応も示さずにひたすら鉄を打っていた。と、ここで陽鬼は違和感を感じた。目の前の老人、一切汗をかいてないのだ。

暑さに慣れた、と言われてしまえば反論は難しいが流石に来ている服にまで汗が染み付いていないなんてことはありえないはずだ。実際陽鬼もこの鉄火場がとんでもないくらい熱いと感じているのだから。

そして更に恐ろしい事実に陽鬼は気づいた。ここの鉄火場には汗を拭くものが存在していなかった。

 

「……嬢ちゃん、アンタ鬼か?」

 

そうしてここで陽鬼の存在に気付いていないと思っていた老人が陽鬼に振り向かずにそのまま話し掛けてきたのだ。陽鬼は少し驚いてしまったがすぐさま返事を返す。

 

「う、うん」

 

「悪いこたぁ言わねぇ。ここには鬼の力じゃ扱いづらい得物ばかりさ。あんたも馬鹿力の類みたいだがそのせいでとんでもないくらい軽いんだ。すぐに壊れるのが目に見えている。人間の力で作れる武器なんて限られてるからな、死んでもそれは変わらんさ」

 

言われて陽鬼は納得してしまった。確かに、鬼が満足に扱える様な武器を他の種族、ましてや人間が作れるとは思えないからだ。

しかし、納得した後に陽鬼はふと疑問に思った。今この老人は『死んでも』と言ったのだろうか?と。

 

「……あの、おじいさんってまさか……」

 

「……あぁ、俺ぁ幽霊さ。しかも、地底に住み着いた悪霊さ」

 

何故か妙に黒っぽいのは悪霊だったからなのか……と見当違いな事を陽鬼は考えていたが、武器は作れないとなるとどうしたものかと考えていた。

 

「……ごめんね、おじいさん。流石に無理は言えないから私帰るね」

 

そして、また別の人を探さないといけないと陽鬼が踵を返したところで老人が声を上げる。

 

「おい待て嬢ちゃん、まさかあんた拳一辺倒……自らの拳を武器にしてるクチかい?」

 

「へ? そうだけど……」

 

「……前言撤回だ、拳を使うなら丁度いいのがあるぜ。使い方を覚えなくていいから便利だ」

 

陽鬼の手を見ながらニヤリと老人は笑った。そしてそのままとあるところへと歩き出す。

そして陽鬼に関しては『使い方を覚えなくていいから』という言葉に乗せられてそのまま老人についていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これ?」

 

「あぁ……武器を使わず素手を使うやつはいるが素手でも防御がいらないって訳じゃ無いからな。拳を傷だらけにするならこれ使って自分の手を守りな。

なぁに、武器を作ってた俺にとっちゃあ異質なものである事には変わりねぇが……そいつは自信作さ」

 

陽鬼に渡されたのは一対の籠手だった。しかし、陽鬼はその籠手に秘められた力を感じ取っていた。

大きな、とても大きな妖力が込められている事がヒシヒシと伝わってきた。

 

「こいつぁ緋緋色金(ヒヒイロカネ)って素材から出来てんだ。硬ぇ上に熱の伝導率もいい……そんでもって……そいつぁとんでもねぇ程の妖力を秘めてやがる。

とんでもねぇ一品さ、とても人間に使いこなせるもんじゃなかったよ……」

 

「……おじいさんが作ったんだよね? どうして人間の作ったものに妖力を秘められたの?」

 

「嬢ちゃんの疑問はごもっともだな。俺も作った時の事はよく覚えているがな、そっちに特に問題は無かったはずだ……確かこれの素材は戦の時に死んでいった者たちの霊が取り付いてるって話だったが……」

 

老人はしかめっ面で籠手を見る。戦の時の代物だとしたら一体どれくらいの怨念を吸ったのだろうと陽鬼は少しだけ身震いした。

 

「……あ、お代っていくら? 一応お金はいっぱいあるよ?」

 

「金なんざいらねぇよ。俺ぁ金属打ててるだけで充分だからな」

 

そう言って老人は陽鬼の頭を撫でる。髪をクシャクシャにせんとする勢いだったが老人の顔はすっきりとした笑顔になっていた。

 

「……あれ、厄介払い押し付けてない?」

 

「気のせいさ、とりあえずそれを付けてみてくれねぇか? どれくらいなのか大きさが合わないって言うのを確かめねぇといけねぇしな」

 

そう言われて陽鬼はそのまま籠手を腕に付けていく。すると、籠手は不思議な事に陽鬼の腕に初めから合わせて作られたかの様にぴったりのサイズになったのだ。

 

「あ、あれれ? こいつ今あからさまに大きさ変わったよね?」

 

「あぁ……こいつぁ驚いた。俺が付けようとしたら全力で拒否しやがった癖に何で嬢ちゃんを選んだんだ? 不思議な事もあるもんだな……」

 

2人は驚いた表情で籠手を見ていた。陽鬼も不思議なものだと思ったが、自らサイズを合わしてくれるのならこれ以上無いものだと思っていた。これで当面の問題が無くなると思った時に、ふと気付く。

 

「……これ、どうやって外すの?」

 

そう、今の籠手のサイズは()()()()()()()()()()()()()()()()()()。普通に抜こうとしても色々な所が引っ掛かって取れないのだ。

 

「あー……極限まで気を抜いてみろ」

 

「気を抜く……気を抜く………」

 

陽鬼は気を抜く、というのをよく理解してなかったがとりあえず全身の力を出来る限り抜いていく。

ある程度ボーっとなり始めたところで籠手のサイズが戻り、カシャンと音を立てて地面に落ちた。

 

「おぉ、落ちた。本当に気を抜いたら落ちた」

 

「その言い方だとまるで自分が落ちた見てぇな言い方だが……まぁこれで取り外し方も理解出来たみたいだし良かったな」

 

「うん!」

 

落ちた籠手を拾い上げて陽鬼は元気良く頷く。老人はそんな陽鬼の姿を見て微笑んでいた。そしてふと思い出した。

 

「そういやそいつぁ付けて帰るのか? 嬢ちゃんの身長じゃ持っていくのは骨が折れるだろうよ。本来のサイズは普通の鎧のサイズだからデケェしな」

 

「いや、いいよこれで。私なりの仕舞い方があるからさ。籠手ありがとうねおじいさん!」

 

そう言って陽鬼はそのままの勢いで鉄火場を出ていって鍛冶屋を出ていく。それに気付いた勇儀が軽く手を振る。

 

「貰えたよ!」

 

「ほー……真っ赤……いや、こりゃあ緋色か? 綺麗な色っちゃあ綺麗な色だが……」

 

訝しげに籠手を見る勇儀。緋色の色が地底が少し暗いので明かりに照らされると鮮やかに、かつ艶やかに色が光る。

だが、こうやって持ってきたという事は特に問題も無かった、という事なのかという事にして勇儀は再び陽鬼に視線を合わせた。

 

「まぁ、貰えたのならよかったよ。気を付けて使いなよ? 見た限りとんでもない代物っぽいが……ま、鬼なら無茶の一つや二つするべきだね。

さ、また案内してやるよ……どうせなら殴り合いでもしてみるかい? その籠手……あれっ? 籠手はどこに行ったんだい?」

 

気付けば陽鬼の腕の中から籠手は消えていた。すると、陽鬼が微笑みながら1枚のスペルカードを見せる。

 

「ん……?陽拳(ようけん)[鬼の籠手]? まさか……さっきの籠手はこのスペルカードの中かい?」

 

「うん、ずっと付けてる訳にもいかないし……けどどうせなら出来る限り持っていたいから出来るかなぁって思ったら何か出来た!」

 

「ほー……こんな事も出来るんだねぇ……確かにそれなら持ち運びには困らなさそうだね」

 

歩きながら2人は再び会話していく。そして、ある程度話し合ったあたりで地底の入口まで歩いていた。

 

「それじゃあね、あんたの主ちゃんと守ってやりなよ」

 

「うん!」

 

その会話を最後に陽鬼はスキマに入って八雲邸に戻っていった。新しい力を手に入れたのを試したいと思う反面、彼を守る為の力を奮う為に。




今回の親父はなんてことの無いただの親父です。刀鍛冶の幽霊ですが。

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