東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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前回の続きです。数話だけとはいえ番外編でもないのに主人公がしゃべらない回があるのもおかしな話ですね。


結局のところ

「……とりあえずいきなり行ったら面倒臭い事になるしこちらから行くとしましょうか」

 

スキマを使い聖徳太子……豊聡耳神子に会いに行く為に人里に繋げた紫。正確には一緒にいる邪仙である霍青娥の方に用があるので人里に出ただけなのだが。

 

「にしてもあまり会いたくないわね……私は会ったことがないけれど……霊夢も彼女の文句ばかり言ってた時もあったわね……」

 

「む? お主、八雲紫か?」

 

歩いて人里を闊歩している紫の前に白い服が主の少女が声をかけてくる。紫は考えながら歩いていた為一瞬遅れて反応したが頭の烏帽子に銀髪の髪、そして白色を主とした服を着ている容姿ですぐに誰かが判明した。

 

「貴方確か豊聡耳神子と一緒にいた物部布都ね? 丁度いいところに━━━」

 

紫は青娥のいる場所を、知らなくても知っている者を聞き出そうとするがその前に布都が突然紫に指を向ける。

 

「ココであったが100年目! この幻想郷を支配する悪党妖怪を幻想郷から解放するためにここで我がソナタを仕留めてくれよう! なぁに安心するが良い! 存在までは消さん! だがせいぜいどこかで我らに怯えて暮らす生活になる事は間違いがなかろうて! よって今から我が……ぬっ!? いきなり真っ暗になったぞ!? 何も見えん! 夜か!? いきなり夜になったのか!? 何も見えん! むっ!? 手足も動かん! 何じゃこれは!? 八雲紫ぃ! お主の仕業か! そうだな!そうであるな!!」

 

「……もう、黙ってなさい。貴方に聞こうとした私も愚かだったわ……」

 

布都の視界が真っ暗になり身動きが取れなくなったのは紫が布都の首から上、両手首両足首それぞれにスキマを開いて固定したからである。

ため息を吐いて頭を抑えながら紫はそのまま布都を放置して歩いて行く。そして布都本人は紫が既に去った事にも気吐いていない。だがしばらくしてから自動的にスキマが閉じて布都も脱出に成功する。

 

「ようやく出しおったか! 我に卑怯な真似は通じん……って、あやつはどこに行った?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく……あぁいうのに関わったらダメねほんと。こんな事なら初めから神霊廟の方にいっておくべきだったわね……」

 

しばらく離れてから紫は命蓮寺にいた。どうやらここの地下空間で彼女達は生活している、という話を聞いた事があったのだが……

 

「駄目です」

 

「……聖白蓮、貴方も人の話を聞かないのかしら? と言いたいところだけど幻想郷って血気盛んな妖怪や人間が集まりやすかったわね……」

 

命蓮寺の尼、聖白蓮がそれを許さなかった。元々彼女と豊聡耳神子は折り合いが悪く仲違いを良くしているという事くらいは話に聞いていたのだがこれ程とは紫は思っていなかったのだ。

 

「八雲紫、貴方がどんな用事で彼女達に用があるのか分かりません。しかし、彼女達のいる空間に入らせれば彼女達を無意味に刺激してしまい余計な争いを生みかねません。そしてそれを見逃す程この聖白蓮が愚かで無い事も知って欲しいものですね」

 

「豊聡耳神子じゃなくて用があるのは霍青娥の方だけれど……今は彼女に会うためにここまで来てたんだし……」

 

「あら、貴方があの邪仙に用事があるだなんて不思議な事もあるものですね。どんな用事か聞いても宜しいですか?」

 

紫は少し渋った。洩矢諏訪子が出した名前、夫と子供がいる彼女が邪仙の名前を出したという事は要するに結婚していたかどうかを条件にしているという事は察しがついていた。

だが、わざわざ邪仙の事を言うという事は少なくとも彼女よりも会いやすい白蓮は結婚した事がない、という事になる。いや、尼である彼女が誰かと恋仲になるという事は可能性もは限りなく低いのだが。

 

「貴方じゃ解決出来ない事……悪事じゃない、と言っても駄目よね?」

 

「当たり前です。私は妖怪も人間も平等に守るという願いがあります、ですがそれは裏を返せば悪い事をすれば妖怪も人間も関係なく罰せねばならないという事でもありますから」

 

紫は軽く溜息を吐いた。どうせ彼女では相談相手にはならないだろうけれどここで無用な争いを産むくらいならばさっさと邪仙に相手に話す事を彼女に話した方が早くて済む。

そう考えたため紫は渋々話し始める事にした。

 

「……実は━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そ、そういう恋路的な話でしたか……」

 

「本当にそうなのかどうかを確認したいから回っているのだけれど……」

 

関係の無い者に話をするのはこんなにも恥ずかしいものなのか、と紫は胸の動悸を何とか抑える為に数回深呼吸をする。

喋っている途中で何度か話そうとしている内容が恥ずかしさで頭から飛んだが何とか話し終えて少しホッとしていた。

 

「も、申し訳ありませんでした……その様な話しにくい事を無理に聞きだしてしまって…………私は……その……悪巧み的な話かと……思ってて……」

 

何故か紫以上に顔を赤らめて目を泳がせている白蓮。自分が恥ずかしい思いをしたと言うのにそれ以上に恥ずかしそうな表情をしているのを見ると何だか自分が無性に恥ずかしがっているのがバカバカしく思えてくる。

 

「そもそも……何で悪巧みと思っていたの? 何かしら根拠があるからこそそんな事を思い付いたのよね?」

 

「えぇ……前に霊夢さんが貴方の事を胡散臭いと言っていてもし会う様な事があれば、もしくはどこかに行きたいなんて言っていたら全力で止めて欲しい、という事を言われておりまして……」

 

紫は頭を抱えた。霊夢の事にでは無い、自身の身の振り方というものを今後改めねばならないと思ったのだ。

いつも神出鬼没で霊夢にちょっかいを掛けていた事がこういう目を引き起こすとは思っても見なかったのだ。何だかんだいって彼女は話を聞いてくれたりノってくれたりしていたがこれは霊夢が自分に用意した仕返しというやつだろう。

実害はなかった為紫は今度霊夢に菓子折りか何かを持っていく事を心に留めておきながら白蓮に再度話し掛ける。

 

「まぁ……それに関してはいいわ。

えーっと……そういう事情だから行ってもいいかしら?」

 

「あー、その事なんですけど……彼女に会うのはやめておいた方が私はいいと思います」

 

苦笑しながらそんな事を言う白蓮に紫は疑問を抱いた。確かに彼女は正確に難ありと聞いているがそれだけで通さないとは考えづらい。もしかして彼女にはまだ何かあるのでは?

そう思った紫は聞いてみる事にした。話の内容によっては邪仙に会う事を止めておく事も視野に入れておく事を忘れない。

 

「何故かしら?」

 

「彼女は……自分の力を見せびらかせたいだけで家族を捨てる様な女性です。それに彼女には恋愛感情よりも強い者を見ていたい、戦っていたい、自分の力を誇示したい……それらの欲の為だけにしか動いていません。

唯一愛するのは死体だけですから」

 

『家族を捨てる様な女』その言葉に紫はどうしたものかと悩んでいた。家族を捨てる、だけなら解釈のしようもあったが霊夢の言っていた事と白蓮が発した言葉の両方を踏まえると邪仙からはあまり役に立つ情報は得られないと思ったからだ。

それに、死体好きというのも禄な事を言わないのだろうなと流石に会うのが面倒臭くなってくる程会いたくなくなってきていた。

 

「となると……他に誰が知恵を貸してくれるかしら……」

 

そもそも子を成して産み落とした以前より、好いている相手がいたという人物の方がこの幻想郷には少ないだろうと認識しているため邪仙以外の宛をもう紫は知らなかった。

 

「うーん……あ、永遠亭のところのお姫様なんてどうですか? 昔何度もお見合いをしたという話を聞きますし貴方の話にはもってこいでは……」

 

「いえ、彼女はダメよ。元々結婚したくなかったから全ての婚約者に無理難題を押し付けて絶対に結婚しようとしなかったもの。

だからこの話を彼女に持っていったところで皮肉だと受け取られるか私が恋愛をしていると言われて笑われてしまうかの二択よ。そもそも恋愛感情なのかどうかを確認する為に聞いて回っているのだから他にこういう話が出来そうな人物でないとダメね」

 

「うーん、そうですか……」

 

「……まぁ、邪仙に話を聞いても無駄そうな事は分かったしそろそろ私も家へ帰ろうかしら。人里歩いてると時間を潰してしまって大変ね……」

 

そう言いながら紫は立ち上がってスキマに入っていく。スキマの空間内を歩きながら紫はふと考えていた。

今日会った洩矢諏訪子と聖白蓮の二人は自分の感情を恋だと言っていた。自分が人間相手に、確かに大事に思ってはいるけれど……と。

 

「……周りから色々言われたせいで気にしてしまっているのかもしれないわね。恋だなんだと考える必要無いじゃない……大切な家族なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー……藍ー? 陽ー? 陽鬼ー? 月魅ー? ……誰もいないのかしら? けどスキマは閉じていたしまだ買い物に行くような時間でもないからどちらにせよ八雲邸の周りから向こう側には出られないはずなのだけれど……聞こえてない状況なのかしら……」

 

八雲邸に戻って声を掛けるが誰も反応しない。紫は少し不審に思って屋敷内を探索し始める。

声を出して全員反応しないという事は何処にいるのだろうか。もしかしたらスキマが無くても行けるマヨヒガにいる可能性も捨て切れないが流石に総出でマヨヒガに行く、という事も無いだろう。

 

「本当に誰もいないのかしら……藍までいなくなるなんて何かあったのかしら……あら?」

 

手当り次第に部屋を開けていき、ある部屋の襖を開くとそこには陽、陽鬼、月魅が気絶する様にそのまま寝ていた。

どうやらトレーニングのし過ぎで疲労が溜まって倒れた様だ。しかし、そうなると陽達が布団で寝ているのだけが気に掛かった。布団を敷いたのは藍で間違いないと確信はしていたがその藍がどこに行ったかが分からないのでまた探す事にした。陽達は起こしたら可愛そうだと思ったのでこのままにしておく事にした。

 

「にしても、藍はどこに行ったのかしら……」

 

探せど探せど見付からない。八雲邸は元々紫と藍の二人住みだがその少なさの割にかなり広い屋敷である。

陽達が住んでいる今でも部屋数はまだまだ余っているので探すのには一苦労である。

そして、探している間に10分ほどの時間が経過した。

 

「うーん、ここまで探していないとなるともしかしてマヨヒガの方にいるのかしら? よくよく考えてみれば私藍には霊夢のところに行く、くらいしか言ってなかったのよね。それで帰りが遅いから私用をし始めて今に至る可能性もあるわね。とりあえずマヨヒガに行ってみましょうか……」

 

「その必要はありませんよ紫様」

 

「きゃっ……藍、あなたいつからそこに居たのよ」

 

マヨヒガへ行ってみようと悩んでいた紫の傍にいつの間にか藍が立っていた。

いきなり藍が現れたのに驚いた紫はつい軽い悲鳴をあげてしまった。

 

「先程までずっと風呂の釜戸掃除をしていまして……煤だらけだったので掃除を念入りに行っていたら紫様が帰ってきた事に気付きませんでした。申し訳ございません紫様」

 

「あぁ……そういう事なら別に構わないわ。掃除ありがとうね、藍。陽達が寝ているのは疲れているからかしら?」

 

「はい、何時間も走り続けてしまってたせいで本当に倒れる様に寝てしまいました。起きた後に風呂にでも入れさせます。今晩の料理は私1人なので少し時間が掛かるかもしれません。最近は彼と二人で作る事が多かったですし」

 

藍のその言葉に紫は少し考えた後に軽くその場で頷いて藍に提案するように話し始める。

 

「藍、今日の夕飯の作る時には私も参加させなさい」

 

「は!? い、いえ! 紫様にそんな事はさせられません! 前のお粥の時は紫様が、自分でお作りになったそうですが今日のは紫様一人で出来る代物じゃないですよ?!」

 

「だから言ってるじゃない……『参加させなさい』って」

 

藍は少しだけ紫が何を言っているのか理解出来なかったがすぐさま理解した。だが、気付いた藍は少しだけ顔が引きつっていた。

 

「……ま、まさか……私の手伝いをする、という事ですか……? 紫様が、私の……!?」

 

「えぇ、そうよ。だから……一緒に夕飯を作るわよ、藍。メモさえ見れば私だって料理くらい出来るという事を見せて上げるわ!」

 

こうして、藍の夕飯作りに急遽紫が参加する事となった。だが結局のところ藍一人で作る時間+紫に教える時間が追加されたので一人で作るよりも倍並みの時間が掛かってしまいこの日の夕飯はいつもよりも量が少なくなってしまったのはまた別の話。

しかし、流石に妖怪の賢者と言うべきなのかどうか藍には分からなかったが、紫の飲み込みが早いという事もあったが……やはりそれもまた、別の話である。




娘々の出番はまた今度ですね。

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