東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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バトル回です


更なる覚醒

「……力だ、もっと……もっと……!」

 

「そんなにあいつを殺してぇか? 白土……」

 

「あいつを殺して……()()()()()()。戦いに不慣れなあいつに俺が負ける事なんて許されねぇんだよ。

だがあいつの能力と側にいるあのチビの合体のパワーが強過ぎて話にならねぇ……悔しいが力だけなら俺よりも上だ、俺の能力を使っても圧倒的差があるんだよ……」

 

どこかの謎の空間。その場にいるのは一見冷静に見えるが貪欲に力を求めている白土とその白土を冷めた視線で見ているライガの姿があった。

座り込んでブツブツ言いながら何かを考えている白土を見ながらライガは白土の扱いをどうするか少し考える必要があると考えていた。

 

「だがよ、アイツに炎技は全く効かねぇぞ? 全部弾いて無効化しちまうからな。

火を消すには水……といきてぇところだがそんな簡単に消えるんなら俺だってこんな簡単に火傷したりしねぇよ」

 

「炎に触れて……いや、炎に触れた途端アウトならダメか……なら地面や他のところを改造してみる作戦も……」

 

「……駄目だな、こりゃ。しばらくは話し掛けてもまともな返事が帰ってこなさそうだわ」

 

そう言いながらライガは白土から離れていく。だが白土はそんな事は気にしていないかの様にブツブツ呟きながらどうすれば陽が殺せるかの作戦を頭でまとめていく。

そして、ライガが去った後にふと何かを思い付いたかの様に頭を上げ、そのまましばらくぼーっとしたかと思うと急に立ち上がりライガが向かった方向とは逆向きに歩き始め……白土の姿は煙の様に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所はうってかわりここは幻想郷の人里。そこには陽と月魅がいた。

 

「いやはや、まさか二人1組で別行動とはな」

 

「これがジャンケンの結果ですから」

 

少し遡って説明すると、八雲家全員で人里に行こうという話になったが全員別々のところに行きたいという話になり、ならばジャンケンをして組み合わせを決め様という事になり、ジャンケンをしたのであった。

組み合わせはこの場にいる陽と月魅、橙と陽鬼、藍と紫というペアになったのだ。

 

「にしても意外だな、月魅が八百屋に行きたいだなんて」

 

「本で読んだんです、綺麗で新鮮な野菜を見つける方法を……だからその野菜を早く買いたかったので……」

 

「まぁ別に俺は行くところなかったし良いんだけど……」

 

月魅は八雲邸にある書斎や、紅魔館の大図書館に入り浸っては本を読んで帰ってくる、という事を頻繁に繰り返していた。

恐らくそれで身に付けた知識なのだろうけど、と考えている陽は少しだけ心配もしていた。

彼は別に本を読む事は大賛成なのだがそれで得た知識をすぐさま実行しようとする月魅が何か大きな失敗をやらかすのではないか? と心配になっているのだ。無論彼自身もそれが過保護だという事は分かりきっているのだが。

 

「……にしても何か人少なくないか? いつもならかなり賑わっているはずなんだけどな……」

 

「確かに……しかしこういう日もあるのでは? 全員が全員買い物に来ているとも思えませんし」

 

「……それもそうだよな。まぁあんまり気にしてたってしゃあないか。んじゃあさっさと八百屋に……っ!?」

 

月魅は喋ってる途中で言葉を詰まらせた陽に疑問を抱いた。そして一度陽に視線を向けた後、陽の向いている方に視線をずらすとそこには一人の男の姿……月魅はまだ知らないがそこには白土の姿があった。

 

「…マスター……? あの男性は━━━」

 

「よう、お前また新しいガキ引き取ったのか? どんだけ拾う気だよ、そんだけ拾っても自分に返ってくるかは分からねぇぞ?」

 

「……白土……!」

 

「だがあの鬼のガキはいねぇみたいだな。折角お前のあの鬼の姿を攻略出来ると思ってたんだけどな……まぁいい、さっさと死ね」

 

明らかに険悪な雰囲気、それを察した月魅は陽の前に出て徒手空拳の構えを取る。未だ使った事は無い上に本で読んだ知識程度だがやらないよりはマシだと月魅は思っていた。

 

「へ、そんなチッせぇ体でどう考えても戦闘慣れしていなさそうなその構え……お前俺を舐めてんのか? 素人の俺ですらもうちょいまともな戦闘スタイル取れんぞ?」

 

そう言って白土は地面の砂を唐突に少量拾い上げる。そしてそれを月魅達の方向……ではなく月魅達よりも上の方に投げていたのだ。一瞬何をしているのかと思った二人。しかし、直後に何をしたのかが良く分かった。

 

「串刺しになって……死ね!!」

 

白土がこう叫んだ直後、砂の一粒一粒が全て槍や剣などの武器へと変わり、しかもその全てが刃を下に向けていた。このまま落ちてくれば当然自分達の命は消えてしまうだろう。

だが、この時陽は避ける事をしようとはしなかった。逆にその場にとどまり即座に鉄板を作り出してまるで傘の様にして槍を全て弾く。大した高さから落ちてこなかった為、薄くても鉄板を貫通出来る程の落下速度は持たなかった様だ。

 

「へぇ……避けないんだな? 残念だぜ、叫んだら心地良くパァーッンって銃声を響かせるつもりだったんだがな」

 

そしてその手を見せびらかすかの様に白土はいつの間にか握っていた銃を陽達に見せる。器用にトリガー部分に指を入れてくるくる回して遊んでいた。

 

「……避けた直後に銃を撃っておけば俺の、限界を無くす程度の能力のある程度の対策にはなるからな。

幾ら限界を無くせる、って言っても落下速度まではその限界を無くす事が出来ないって事を初めから分かってた訳だ」

 

「正解。避けた直線上に銃を乱射してしまえばお前は銃弾を避ける事は出来ずにそのまま死んでいた、って訳さ。まぁまさか避けずに防ぐとは思わなかったが」

 

「自分の能力は自分が一番よく分かってる。そして俺を殺そうとするお前がただ槍を降らせるだけじゃないっていうのは予測していたさ。銃弾が来てたら避けるだけだ……で、自分の策を回避された気分はどうだ?」

 

陽が白土に問い掛ける。だがその問い掛けにも白土の表情は崩れず相変わらずニヤニヤしていた。その笑みが陽に取っては不気味だった。

 

「……杏奈の為だ。攫ったヤツらにお前を殺せば返してもらえると言われて協力している。お前を殺せば返してもらえる。だが、その後はあいつらも殺す。杏奈の居場所がわからない以上あいつらと協力をするしかない……この期に及んでまだ俺と協力しよう、なんてほざいたら痛みを継続して与えながら殺すことになるぜ?」

 

「そんな事情があったか……分かってる。どうせそんなこったろうと思ったよ、妹好きだもんなお前……だからこそ俺は相手をすることにした、お前がそれで満足するなら……戦闘不能になるまで追い込む。」

 

「甘い、甘いんだよ。一介のヒーロー気取りか? マンガの主人公か? 戦闘不能にまで追い込むと言ったが俺とお前はそれぞれの能力で怪我なんてすぐに完治出来るだろうによ。

俺は怪我を『改造』すれば傷なんてすぐに無くなる。お前は治癒力の限界を無くせば問題無く完治するはずだ。戦闘不能何て甘っちょろいんだよ。殺るか殺られるか……世界はそれだけだ。最近感情豊かになったかなんだか知らねぇが昔のお前なら抵抗しないだけで相手を殺そうとすればいつでも殺せたはずだ。それがなんだ? 今のお前は甘さだけが残ってて━━━」

 

「━━━それ以上、マスターを侮辱する事は許しません。例え旧友であろうと、マスターが殺さない様にしていたとしても……私は貴方を殺したくなってきます」

 

白土の声を遮る様にして冷静に、しかし大きな声で喋る月魅。陽は初めて見たのだ。彼女の怒る姿を……

 

「へっ……だから何だってんだ。鬼でもなんでもねぇ奴に力で負けるとは思えねぇよ」

 

「……」

 

月魅はさっきの落下した武器の中から近くにあった刀を拾ってゆっくりと白土へ近付いていく。月魅は初めて武器を握ったはずなのにとても持ちやすいという事を認識していた。

 

「はっ……身長に見合った武器を……使えっ!」

 

絶対的余裕を持って白土はそこらの砂粒を月魅へとばらまきながら砂の1粒1粒をナイフへと変えて投擲させる。

しかし、月魅はその全て、自分に当たらないナイフまでも全てその刀で切り払っていた。

 

「……んだと?」

 

白土はふと、月魅の拾った刀が変化を起こしている事に気付いた。刀自体は先ほど白土が砂粒を改造して作り上げた1本である。それは白土の意思で解除出来る代物だが刀は刀、普通の刀だった。

だが、今月魅が持っている刀は青く輝いていてあからさまに別物へと変化していた。

 

「てめぇ………その刀に何をした?」

 

「何も。強いて言えば霊力を流し込んでいるだけです。これはもう貴方の作り出した刀では無く私の刀です」

 

「はっ……面白れぇな。相手のものを奪うのがお前の力か? いや違うな……まぁいい。その刀で何が出来るか見届けてやるよ」

 

そういった後紙を一枚取り出して白土は同じ様な刀へと変質させた。陽も出来れば銃などの武器を使って月魅のサポートをしたかったが、陽は自身の事を百発百中のガンマンだとは全く思っていないのですぐに銃でのサポートは月魅を巻き込んでしまうと理解したので同じ様に刀を作って月魅のサポートをする事に決めたのだった。

 

「ふん……テメェらがどれだけ足掻いても……無駄だって事を分からせてやる……!」

 

そう言った直後に月魅が飛ぶ様に地面を蹴って素早く白土の懐に入り込む。そして、自らの刀を叩きつける様に白土に向かって薙ぎ払いを掛ける。しかし、その一撃は白土が余裕の表情で持っていた刀で防いでしまう。

 

「月魅っ!」

 

そして防がれた直後に陽も素早く回り込んで迫って白土の刀を持っている腕の肩を狙って刀を振り下ろす。肩を狙ったのは無意識の行動だった、だがそれが過ちだった。

 

「━━━だからお前は甘いって言ってんだよ!!」

 

鍔迫り合い、等というまともなものは月魅と白土はしていなかった。月魅には腕力が無かった。だからこそ軽く力加減を合わせるだけで月魅の動きは封じれた。そんな状態で急所を狙おうとしなかった陽が肩を狙ったところで当てれるはずも無く。

 

「きゃっ!?」

 

「ぐっ!」

 

月魅を陽のいる方へと蹴り飛ばす。吹っ飛ばされた月魅の体を受け止める事で何とか後ろの方へと吹っ飛ぶ事は防いだがそれが大きな隙を生んだ。

 

「っ!」

 

蹴り飛ばした勢いで自らの体を回転させて刀を陽達の方向へと全力で投げる白土。陽は即座に能力を同時併用して一瞬の内に壁を展開して月魅に刺さる前に鉄板に突き刺す事で勢いを殺して刺さらない様には成功した。

 

「そんだけで終わると思うなよ!! 銃弾のパレードをどこまで止めれるか見てやるよ!!」

 

しかし、やはりそれだけでは終らずにサブマシンガンをいつの間にか作り出していた白土は鉄板に向かって連射し始めた。近付いて上や左右から攻めれば良いのに何故敢えて鉄板を狙っているのか、陽は最初はよく分からなかった。だがしばらく耐えていた時に何故そんな事をしているのかが理解出来た。

あまりの弾雨に鉄板が凹んできているのだ。それにいつまで経っても白土のサブマシンガンが弾切れを起こす気配も陽は感じ取れなかった。

この時陽は気付いて無かったが、白土が『弾が減っているサブマシンガン』から『全弾装填済みのサブマシンガン』に一定間隔で改造していたのだ。

 

「っ……甘っちょろい、か……確かにそうかもしれなかったな……」

 

「マス、ター……はそれで……いいんです。例え甘い、って言われても……本来のマスターの良さは……そこです、から……」

 

息も絶え絶えになりながら月魅が声を出す。蹴り飛ばされて時のダメージが未だに抜けきっていない様だ。

 

「だが……その結果がこれだよ。感情を殺す必要が……必要に応じてやっぱりあったんじゃないか? いつまでも殺るか殺られるかの戦いで殺そうとしないなんて……」

 

陽の言葉に月魅は首を横に振った。月魅は微笑んでいた。

 

「それがマスターのいいところ、ですから……人を殺さない……殺し合いのところで殺さないで済まそうとするのは思っても出来ない事です……けれど、マスターはそれを本気で成そうとしています……だったら、それが出来るまで繰り返せば……いいんですよ……」

 

「月魅……」

 

その時、鉄板を銃弾が突き抜けていく音が聞こえた━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりアイツ一人だとこんなもんか? ……まぁ、死んでも魂とやらは天国に行けるみたいだしそこまで悲観する事は無いと思うぜ……ん?」

 

銃弾が鉄板を貫通したのを見届けた白土。しかし、貫通したというのに鉄板の向こう側からは血が流れて来ないのだ。そして、確認しようと一歩歩いた時自身の足元に謎の衝撃波によって地面が切り裂かれていた。

 

「……誰だ?」

 

そして、衝撃波が飛んできた方向に目をやると銀の長髪の男が立っていた。心無しか陽に似ていると白土は思っていた。

 

「……()()()()()()。」

 

「……んだと?」

 

綺麗な銀の刀身を持つ刀を携えし男は自身を月風陽と名乗る。それは、陽がまた新たな力を手に入れた事の何よりの証であった。


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