東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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後編です。銀のそろい踏み。


月と太陽の奇妙なお買い物 その3

「……あら、貴方達何してるの?」

 

ほーら、また誰かに会った。と陽鬼は内心呟きながら目の前にいる人物に返事を返す。

 

「買い物だよ買い物。食べてないと生きていけないし……そっちもそうなんでしょ? 咲夜」

 

そう、目の前にいたのは十六夜咲夜。紅魔館のメイド長の1人である。しかし陽鬼は買い物と予想していたが両手に何も持っておらず手ぶらなのを見てまだ目的のものが買えてないのだろうかと月魅は思っていた。

 

「まぁ確かに買い物といえば買い物なんだけどね……今ちょっとお休みをいただいてるのよ、一時間くらい。その間に何か新しいナイフがないか探しに来てるのよ」

 

しかし咲夜のその答えに月魅は軽く驚いていた。たった一時間の休みだけでナイフを買って帰るのだというのだから実はもうめぼしい物がないと判断して帰る途中だと思った、しかし咲夜の言い方はまだ見付けていないもののそれだったからだ。

 

「……けれどたった一時間で見付かるとは思えないんですが」

 

「一時間もあれば充分に決まって……あぁ、そういえばあなたは私の能力を知らなかったのね」

 

「能力って何の事……っ!?」

 

咲夜の能力の存在すら知らなかった月魅がその存在を確認しようとした瞬間、月魅のいつもの視点は倍以上に高くなっていた。そして視点が高くなったと気付いた瞬間、ほぼ同時に自分が抱き上げられてる感覚があると気付いたのだ。

 

「どう? これが私の能力『時を操る程度の能力』よ」

 

「……時間、ですか。確かにこの能力なら行き帰りは……いえ、それ以外も基本的に時間を止めているだけでいいですね」

 

「ええ、そういう事よ……というか貴方達本当に軽いわよね。ちゃんとご飯食べてるの?」

 

「私八雲家の食費の半分らしいから……」

 

咲夜が『貴方達』と言っているのに全くそこを気にしていない陽鬼はさも当然の様に答える。

しかし、ちゃっかり陽鬼も持ち上げられているであろう事は月魅はそれと無く感付いていた。

 

「私は普通ですよ。ご飯1杯に味噌汁1杯、後は野菜の盛り合わせがあればそれで充分ですし」

 

「……陽鬼はともかくとして月魅はよくご飯食べた方がいいわよ。貴方達お嬢様や妹様と同じくらいなのにあなた達の方がはるかに軽いもの……あれ、という事は陽鬼はもっと食べないといけない、って事になるわね……」

 

「陽鬼にこれ以上食べられたら八雲家の財政が底を尽きますよ」

 

咲夜はとりあえず月魅を下ろしてから話を続け始める。

 

「その通りっぽいのがそこはかとなく恐ろしいところね……そう言えば買い物って言ってたけど貴方達の荷物を見てる限りすぐ終わりそうなものだけど、まだ何か買うのかしら? それとも今帰り?」

 

「買い終わったところに鈴仙の薬売りの手伝いをして慧音の手伝いもして……そこで咲夜に会ったんだよ」

 

「あの兎と教師の手伝いねぇ……?」

 

咲夜は依然変わらない表情で陽鬼と月魅を見比べる。陽鬼も月魅も薬を知っている様には見えなかったが、嘘を吐いてるとも咲夜は感じ取れなかったので何をしていたのか少し気になっていた。

 

「ねぇ、貴方達━━━」

 

「あれ、貴女紫様のところにいる男の式神じゃないですか。それに紅魔館のメイド長さんまで」

 

と、ここで三人の会話に割って入る人物がいた。おかっぱの様なストレート気味の髪、背中に背負った刀、そして周りをふよふよと漂っている半霊。

そう、魂魄妖夢がそこに居た。

 

「そして知らない方が一人……どうも初めまして、魂魄妖夢と申します。普段は冥界の白玉楼にいるのですが今日はこうして買い物に来ました」

 

「あ……どうも……月魅と申します。マスターである月風陽に付き従っている従者の1人です」

 

挨拶をし合う二人を尻目に咲夜がチラッとだけ陽鬼を見つめた後にポロリと本音を零す。

 

「そこまで似てるものでもないのに何故か無性にあの二人が似ている気がしてきたわ」

 

「それは私も思った……けど髪の色が違うね。月魅は純正の銀髪って感じだけど妖夢って白銀って感じだもん」

 

「どちらかと言うと髪の色に関しては月魅は私よりね。同じ銀髪だし従者だしで私としてはかなり親しみやすいわ」

 

そしてそれを聞いて陽鬼は若干疎外感を感じていた。何故なら1人だけ何もかもが違うかったからだ。

よくよく考えてみればこの場は銀髪かつ従者という女性が三人もいるからだ。

陽鬼自身陽の事は主というよりも自分の保護者というイメージが強かったのもあり妙に自分が浮いている様な気がしたのだ。

 

「……赤い髪の従者っていないのかな」

 

「一応ウチの門番の美鈴がお嬢様の従者といえば従者だけど……そう言えば陽鬼ってどことなく美鈴に似てるわよね。髪が赤いし、雰囲気もどこと無く似てるし……格闘戦するんでしょ貴方、そこも美鈴と似てるわ」

 

「けど前見た時彼女妖精達と遊んでたよ? 流石に私も仕事をサボって誰かと遊ぶとかは……」

 

陽鬼がそう言ってると咲夜が軽く微笑む。何がおかしいのか分からなかった陽鬼は首を傾げる。そして咲夜は中腰になって陽鬼と同じ目線にしてから再び話し始める。

 

「あれでも美鈴仕事しているのよ。

彼女の能力は『気を使う程度の能力』っていうのだけれど、彼女は熟睡しててもその能力で24時間警戒してる様なものなのよ。まぁ流石に一日中立たせてる訳にもいかないから門の近くに彼女の部屋を置いて見張ってくれているのよ。

つまり、誰と遊んでいようが門の前で爆睡していようが彼女がいる限り無断で侵入する事は基本出来ないわね」

 

「へえ……てっきり門番が暇過ぎて遊んでるのかと思ってた……」

 

陽鬼がそう言うと咲夜がそのままの体勢で苦笑する。

 

「貴方って言葉をぼかそうとしないから好感を持てる事は持てるんだけどね……正直に言い過ぎると痛い目見ちゃうわよ?」

 

「? 正直に言ったらダメなの?」

 

「ダメって訳じゃ無いけど……時には嘘を吐いたり言葉をぼかしたり……そういう事をする必要もあるのよ」

 

その言葉を言い終わると咲夜は立ち上がりポケットに入れてあった懐中時計を手に取って時間を確認する。

 

「あらもうこんな時間……それじゃあ私は帰るわね」

 

そしてそのセリフの直後に咲夜の姿は忽然と消え去った。この場にいる全員が時を止めて帰ったのだと理解した。

 

「そういえば……妖夢は何しに来たの? 買い物って言ってたけどご飯の?」

 

今更咲夜に別れの挨拶をしてもどう考えても聞こえない事は分かっていたので話を切り替えて妖夢が何をしに来たのかを聞く陽鬼。しかしその陽鬼の問に妖夢は首を横に振ってから話し始める。

 

「違いますよ。実は幽々子様のお使いになっている扇子が壊れてしまったので修理可能かどうかお店に行ってたんです。それでかなり重要なところがポッキリイッちゃってたので新しいのを買ってこようとしてたところで貴方達に会ったんです」

 

「なら早めに買い終えて渡した方がいいんじゃないの?」

 

「幽々子様のは特注なんですよ……だから出来上がるまでには塗ってる色の都合もあってどう頑張っても一週間以上はかかります。だから今はのんびり散歩中でもあるんです……そういえば貴方達も買い物に来ているんですか?」

 

ふと思い出したかの様に妖夢は陽鬼達に何の都合で来たのかを尋ねる。特に隠すような事も無いため二人は互いに互いを見たが一瞬だけ目を合わせて一応言っても問題無いという事をアイコンタクトで意思疎通をして再び妖夢に向き直る。

 

「うん、買って来てって紫から言われてたんだけど別に里でゆっくりしてきてもいいって言われてもいるから買い物が終わってからちょっと散歩してるの。

まぁ鈴仙の薬売りの手伝いとか慧音の悩み相談とか色々あったけど……」

 

「そう……前に愚痴聞いてたけど薬売りってそんなに体力使う仕事なのね……」

 

「妖夢? どうしたの?」

 

「いえ、なんでもありません。ただ前に鈴仙に会った時に薬売りの事についての愚痴をさんざん聞かされていたので本当にキツい仕事なんだなという事を理解した迄です」

 

鈴仙が妖夢に愚痴っているという事実に陽鬼は苦笑していた。そして月魅は思い出したかの様に陽鬼に話し掛ける。

 

「そろそろ戻った方がいいと思いますよ。紫達がそろそろ心配する頃合です」

 

月魅がそう言って陽鬼もようやくかなり長い時間里にいる事に気付いた。

 

「それもそうだね……ごめん妖夢、また今度」

 

「えぇ、紫様達にも宜しく伝えておいて下さい」

 

そして陽鬼と月魅はスキマが繋がっているところまで飛んでいく。そして、そのままスキマに入って八雲邸へと戻って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「今戻りました」

 

「あら、お帰りなさい。随分と長い間人里に行ってたみたいだけど何かあったの?」

 

八雲邸へ戻ってきた二人を迎えてくれたのは紫だった。どうやら陽と藍は準備に忙し過ぎて未だに終わっていないという事を台所から聞こえてくる音で何となく二人は察していた。

 

「……それは後で話すけどさ、今日一体何作る気なの? ずっと準備してるけど……」

 

「時間の掛かるものを作ってるとは言ってたわ。別にあの子達もずっと作っていた訳じゃ無くてさっきまで休んでたのよ。

それでついさっきいい時間になったから、という事でまた料理を再開し始めたのよ」

 

「へぇ……何だかすごくいい匂いがするけど何作ってるんだろ……」

 

その時、大きく腹の音が鳴った。誰のものか、という詮索は誰もしなかったが紫は陽鬼だろうと思って口に出してはいなかった……が、予想に反して何故か月魅が顔を真っ赤に染めていた。

 

「……もしかして、今のって━━━」

 

「な、何も鳴っていませんし何も聞こえませんでした。私の耳には何も聞こえませんでしたが二人には何か聞こえたんですか嘘ですよね?」

 

「え、えぇ……そうね。私も何も聞こえなかったわ……そうよね、陽鬼」

 

「え、でも今月魅の方から━━━」

 

「何も聞こえなかったって事でいいわよね」

 

「……は、はい」

 

空腹音が鳴った月魅が必死に隠そうとしているのを察していた紫は、その音を聞かなかった事にした。その事を陽鬼にも気付いて欲しかったところだが陽鬼はどうやらその素直さで月魅が隠そうとしている事に気付いていなかったらしく、普通に言い掛けたのを何とか威圧感で黙らせる事で難を逃れた。

 

「……あのね、陽鬼。『嘘も方便』って言葉があるけど時には必要な嘘もあるのよ」

 

そして月魅に聞こえない様に小声で耳打ちする紫。そう言えば咲夜にも同じ事を言われたな、と気付いた陽鬼は何だか少しおかしくなって気付けば笑みを零していた。

 

「どうしたの?」

 

「ううん、人里に行ってる時に咲夜に会ったんだけど同じこと言われてんだなぁって。私ってそんなに空気読めない?」

 

「読めないと言うより貴方は正直過ぎるのよ……鬼は嘘を嫌う、って言うけれどあんまりバカ正直に言う必要も無いって事よ。嫌いなものは嫌いでいいけれどそれで相手に迷惑を掛けてしまったら駄目よ? 相手の事をもっと考えながら喋ってみたらどう?」

 

紫の言っている事に陽鬼はしばらく考え始める。しかし、考える事が苦手な彼女にとってはかなり深く考える必要があったらしくうんうん唸って考え込んでしまった。

 

「おーい、もうすぐ飯出来るぞー」

 

そして台所の方から陽の声が響いてくる。その言葉で考え込んでいた陽鬼はパッと顔を上げて台所へと突貫していった。どうやらお腹が空いていたのは彼女も同じくだった様だ。

 

「ふふ、ほんとに食欲旺盛ねぇ……陽からしてみたら食べてもらえる分嬉しいんでしょうけど……」

 

紫が微笑んでいると月魅が恐る恐る紫に近づいて先程よりもマシだが顔を真っ赤に染めていた。

 

「あの……ありがとうございます……」

 

「あら、何の事かしら? 私は何も見ていないし聞いていないのだから何の事でお礼を言われてるのわからないわ。それよりもご飯がもうすぐ出来るって話だからお皿を並べるくらいの事はしなくちゃね」

 

「……ふふ、そうですね」

 

そして二人も遅れて台所へと足を運んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……陽、これ何?」

 

「ラーメンって料理。そこの豚肉……チャーシューって言うんだけどそれ作ったり冷やしたりするのにかなり時間が掛かるからそれで今までずっと作ってたんだよ」

 

八雲邸の食卓にラーメンが五杯並んでいた。その内ラーメンを知らない者は3人だった。紫はどうやらちょくちょく食べに行っていたらしい。

 

「貴方ラーメンも作れたのね……」

 

「んじゃあ食べるか」

 

「「「い、頂きます」」」

 

幻想郷で一風変わった食卓。何だかんだいって美味しかったそれに対して陽鬼は何度もお代わりを要求するという事があったのだが……それはまた別の話。




麺は面倒臭いので能力で作り出した麺を使った月風陽君でした。

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