東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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魂が行く場所に訪問します。


魂達の行く場所へ

「陽化[陽鬼降臨]……ねぇ……」

 

「……俺もいつ作ったのか全く身に覚えがないんだ。だからどういう効果があるのかすらも全く分からない」

 

八雲亭にて。いつの間にか陽は自身がいつの間にか持っていたスペルカードであるこの一枚のカードを紫に見せて何か分からないか調べてもらっていた。

 

「……調べるくらいなら発動した方が早い、っていつもなら言うかもしれないけれど……何が起こるか本当に分からないから危険よね。森を燃やしたのも大穴を開けたのもこのスペルカード1枚だろうし……かなり離れたところでやらないといけないけれどどこでやってもどこかのエリアになってしまって宣戦布告された、と取られてもおかしくないわね……このカードを調べるのは後回しにした方がいい気がするわ」

 

「うーん、やっぱり使ってみないと効果は分かんないかー……そういう事になっちゃうんだよねー……」

 

寝っ転がりながら陽鬼は気だるそうに呟く。使ったら面倒臭い事が起こるのが分かりきっているのに詳しく知るために使わないといけないというのが彼女は面倒臭い様だ。

 

「……でも、ここを吹き飛ばされたり宣戦布告になったりするよりもただの実験で貴方達にかなりの負担を掛けてしまうのもおかしな話だしこの件は後にしておきましょう?

今日は……貴方達の要望を叶えてあげなくちゃね。会いたいんでしょう? この前迷子になった子供とその親子に……」

 

「……会えるのか? 既に死んでいるんでいるのに……」

 

「……親の方は難しいでしょうけど子供の方は会えるかもしれないわね。ただ、貴方のそんな顔は一日でも見たくない、って事よ。もっとしゃんとなさい」

 

陽はあの後、なぜ森に行ったのか、そのあとに誰と会って何をしたのかまでは思い出せていた。しかし、やはり未だに陽鬼共々なぜ森が燃えていたのか大穴が開いたのかまでは思い出せていなかった。

 

「けど……故人と会うには冥界とかその辺りに行かなくちゃ行けないんでしょ? 勝手に行ったらまずくない?」

 

「大丈夫よ、既にそこのお姫様とは話がついてるのだから……まぁそこに行くからさっき陽にお饅頭を作らせたのだけど」

 

「あぁ……朝からずっと大量の饅頭作らされたのってそれが理由か。お陰で40以上あるよ。かなり多いんだけど……さすがにこれだけの饅頭作ったら向こう側が食べ切る前に痛まないか? 一応口直し用の緑茶作ってペットボトルに入れてあるけど」

 

「私が無理言って作らせたとはいえあなた本当に器用よね……えっと、ヨモギに桜に苺大福……いっぱいあるけどこれで丁度いいくらいよ。さすがに緑茶は向こうの姫様の従者が入れてくれるだろうけど一応持っていきましょう」

 

何故冥界に行く為に饅頭が必要になるのかは予想が付くが何故ここまで大量の饅頭が必要になるかまではいまいちよく分かっていない陽。この時はせいぜい向こうに人が物凄く多いとかそんな程度の理由だと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして紫のスキマを通って冥界に着いてからそう思った事を改めねばならないと改めて思ったのだった。

 

「美味しいわね〜妖夢がたまにお店で買ってくるのと比べると粗が目立つけれど美味しい事には変わりないわ〜お茶も美味しいわね〜」

 

「当然よ、彼が作った料理は藍にも劣らないんだから」

 

バクバクという効果音がこれ程適している事もなかなかないだろうと思いながら陽は目の前に置かれた饅頭の山が凄まじい速度で消えていっているのを見ていた。

これに関してはいつも通りなのか紫は平然とした顔でその様を眺めている。

 

「……よく、食えるよな……饅頭って甘いからそんなにくどくないものでも10個も食べれば満腹になると思うんだけどな……」

 

「これ見てるだけでお腹いっぱいになりそうだよ……ここまで素早く饅頭が減るのもないだろうね。緑茶も物凄い勢いで無くなっていってるし」

 

「幽々子様はよく食べるお方ですよ」

 

陽達が唖然として見ている時に後から掛けられる声。気付いて振り返ったところには刀を背負った銀髪の少女が立っていた。

 

「……西行寺幽々子……さんの従者、魂魄妖夢……さんですね」

 

「確かにその通りですけど幽々子様はともかく私にまで敬語を使う必要は無いですよ、最近呼び捨てか人里でちゃん付けで呼ばれる事が多いので敬語を使われる事の方が違和感を覚えてしまってて……だから別に呼び捨てでも構いませんよ、ちゃん付けは未だになれませんが」

 

「は、はぁ……」

 

「ほら、幽々子様。お饅頭が美味しいのは分かりましたから早くお話を聞いて上げてください。このままだと彼ら棒立ちのままですよ?」

 

と妖夢が言っている時には既に山の様に置いてあった饅頭達は全て消え去っていた。そしてお茶を入れてあったペットボトルもその中身が無くなって随分軽くなっていた。

 

「さて……話は紫から全部聞いてるわ。そしてそれに私は許可を出している。

確か最近不審死した親子の魂だったわね? ただ今来ている可能性も無くはないけど話を聞いてる限りここよりも地獄に送られてる可能性のほうが高いわ、親子共々ね」

 

「な、何で……!? 子供の方は完全に殺されただけなのにどうして地獄に落とされなくちゃならない!?」

 

「心の傷が思ってたより深かったらしくてね……向こう……三途の川を超えた先にあるここに来るか地獄に行くかを決める裁判でそう決まったのよ。

理由は三途の川で他の魂に暴れてぶつかった事、船の上でも、裁判所でも同じ事をしてしまったせいでね。更正の余地無し、と言うよりは傷が癒えてまともな思考が出来るようになるまではずっと地獄暮らしよ。いわゆる一時隔離って奴ね」

 

「隔離……」

 

「それに……どちらにせよ会わない方が良いかもしれないわよ? だって貴方の事を覚えてるかどうかなんて分からないし泣きわめいて暴れられたら困るもの。

だから……合わせられないわね」

 

そこまで言ってから紫が抗議するかの様に少しだけムスッとした顔で幽々子に質問を投げ掛ける。

 

「幽々子? 貴方会わせてくれる、と言ったわよね? それなのにこれじゃあ私達が来ただけ損をしている様に見えるのだけど?」

 

「私だって閻魔に掛け合ったわよ。けど閻魔の持っている浄瑠璃鏡がここに来るのを否として地獄に送る事を是としたのよ。あの鏡がそう言ってしまったんだったらこれ以上関与したり無茶な事したら私達良くて一文無しで追い出されるか悪くて消されるかの二択になるわね。主に十王にね」

 

そこまで言うと幽々子は妖夢の持ってきたお茶を啜っていく。

ここまでずっと他人事の様にしている幽々子に対して陽鬼は少しずつ苛立ちを覚えていく。

 

「……まぁ向こうのルールを破ってまで会わせる訳にもいかないか……破ったりしたら私達も面倒臭い事にはなるけれど……」

 

「逆らうのは簡単だけどそれ以降がとても面倒なのよね……だから、悪い事は言わないわ。あの親子の魂と会うのはやめておきなさい、代わりにはならないけれどここを見て回ってもいいから」

 

交換条件として出されたものはとても元の条件には見合わないもの。しかし、今の陽は使える事なら意地でも使って今すぐこの部屋から出ていくつもりになっていた。どうせなら帰りたい、というのが本心だがせめて食われた手土産の饅頭分は何かしたい気分になっていた。

 

「あ、ちょ、陽待ってよ!」

 

そして部屋から出て行った陽を陽鬼が慌てて追いかけていく。それを見送った後に紫が口を開く。

 

「わざわざ応じれなかったら饅頭食べないでよ」

 

「あら? 私は出された饅頭を食べただけよ。それに魂の件に関しては『居たら会わせる』というものだったはずよ、居ないものは会わせようがないわ。浄瑠璃鏡には私達でも真実をばらされてしまうもの。あの鏡が否と答えたらどれだけ是を集めても否になってしまう……世の中にはそういう理不尽な事があるという事が分からない辺りあの子はまだ子供かしら?」

 

「……彼にも色々あるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さ、桜綺麗だね!」

 

「……そうだな。季節はずれのはずなのに満開に咲いているな。やっぱりここはどこか違うんだな」

 

「ま、まぁ冥界って言われてるくらいだし普通の桜ではないんだろうけどね……ってあれ? あそこに1本だけ枯れ木があるよ?」

 

陽鬼は見つけた枯れ木の場所に駆け寄っていく。陽はその後を歩いて追いかけていく。

 

「……何かエラく厳重に封印されてる桜だね」

 

「……桜なのかこれ、てかそもそも木なのかこれ……なんか生きてる様な気がするけど」

 

「植物も生きてるよ?」

 

「いや、そういう意味じゃ無いんだけど……まぁいいか」

 

そう言いながら2人は厳重に封印されてる枯れ木を見上げる。今にも封印が外れてしまえば襲ってくるんじゃないかと錯覚してしまう程に大きな桜だった。

 

「━━━それは西行妖と言われる妖怪桜ですよ。あなたの言う『生きている』という感想は確かにそういう意味では当たっていますね」

 

「……妖夢、なんでこんな所に?」

 

「これに触られるとどちらに取っても不利益しか産まない様な木だからですよ、これが……」

 

『不利益』という言葉を使うほどこの妖怪桜は危険だというのか、と陽は思ったがいつまでも残しておくには理由があるのかもしれないと思った為追求はしなかった。

 

「何でそんな危険なものをここに置いておくの?」

 

あくまで陽が聞かなかった、というだけで陽鬼は直球で訊いていたが。

 

「……まず、この木には触ってはいけません。封印されてるとはいえ触った瞬間魂をこの木に吸われて死んでしまいますから。

こうやって近付いているだけでも精神が弱い人は吸われやすいんですよ、貴方達はそんな事無さそうなので良かったんですけど」

 

「……本当に物凄く危険だったって事か。触れただけで駄目って事は本当に切れないまま残してるんだな」

 

「えぇ、問題なのはここに魂達が近付いたら問答無用で吸収していくって事なんですよね。私の場合は半人半霊だからなのか私のそばに居る半霊は吸われ難い様ですが」

 

しかし距離は一応陽達よりは遠いのが目に見えて分かるので用心している事がよく分かる。

 

「……それじゃあ戻るか。見てるだけで危ないってんならあんまり近付くのは良くないしな」

 

「そうだね、それじゃあ戻ろう」

 

そう言って妖夢も含めた3人は元の場所に向かう為に歩き出す。その間、陽は自分に近寄ってくる魂達をとりあえず撫でていた。触れる事に驚いていたが正直全部白くてモヤモヤした何かなのでどれが誰だか判別出来ていなかったのだ。

 

「にしても……本当に魂の区別って付かないな」

 

「慣れてる私達は見た目じゃなくてその仕草で判別してるんですけどね。考えてみればかなり難易度高いんですよね。

けれど皆楽しそうに過ごしてますよ……転生するまで、ね」

 

「……転生って分かるものなのか?」

 

「まぁあくまで考えですけどね。魂が消えた時を転生とするのかそれともただの消滅と捉えるか……私はそれを転生と捉えているだけです」

 

自分達はどう捉えるだろう、と陽は思った。

人が死ねばまずそれはどう考えても『死』に直結するだろう。しかし魂が消える事は消滅なのか転生なのか全く判別がつかないのだ。ましてや素人の自分ではなくそういう事のある意味ではプロである妖夢ですら分からないのだから自分達には余計に分からないだろうな、と感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、おかえりなさい。白玉楼はどうだったかしら?」

 

「幽々子、今の貴方が何言っても皮肉にしか聞こえないわよ。

とりあえず陽、こんな事を言いたくはないけれど頭は冷えたかしら?」

 

「冷える事は冷えたよ、ただその人が食えない人物っていうのはよーく分かった」

 

「あらあら、随分警戒されちゃったわね〜

私は自分の出来る事しかしてないから八つ当たりされるのは悲しいわ〜」

 

そんなふうに笑顔で言われても説得力無いんじゃない? と陽鬼は言いかけたが陽に口を一瞬で抑えられてしまったため全く喋る事が出来なかった。

 

「あら、その子が何か言いたそうにしてるわよ?」

 

「今この場で口を開かせたら余計な事しか言わない気がしたから一旦閉じさせてもらってるだけだ。

それより、出来ないなら予め出来なかったとか伝えて欲しいもんだな」

 

「今度から善処するわ〜」

 

「ほら、早く帰るわよ。スキマはもう繋げてあるんだから」

 

幽々子と会話している間に紫がスキマを繋げていた。それを聞いた陽達はすぐさま紫に続く様にスキマに入っていく。

そして、スキマは閉じて残された場には元々住んでいる二人だけが取り残された。

 

「幽々子様、どうでしたか? 彼は」

 

「面白いと思うわよ〜感情が先に出てしまうなんてまるで子供みたいね。いえ、子供なんでしょうけど━━━」

 

「幼児期などの子供の様だ、と仰りたいんですよね。私もそう感じました。あまりに感情の制御というものを知らな過ぎる」

 

「だからこそ……面白いのだけど……ふふ」

 

微笑みながら空を仰ぐ幽々子。その瞳は空を見ずに別の何かを見渡す様な感じだと妖夢は感じていた。




料理だけならハイスペックですよ、料理だけなら。

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