東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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中編です、紅魔館編はまだまだ続きます。


紅貴な魔性の館

「……あれ? また端についちゃったの? いくらなんでも早すぎない? もうちょっと広い様に思えるんだけど……」

 

「……距離感を誤魔化してるというより俺らの歩く速度の方が早かったという事か? 魔法では邪魔をしない、と宣言された以上何もされてないはずなのに……」

 

約10分程図書館を歩いていた陽達。しかし、いくら探しても図書館の主であるパチュリー・ノーレッジが見つからない。魔法では邪魔をされていないと言われているが、いくら何でも見つからなさすぎるのでもしかしたら何か魔法で邪魔をされているのでは? と邪推し始める。しかし━━━

 

「……ん? 今気付いたけどこっちの本棚は入口側の本より小さいんだな。微妙な違いしかないから気付きにくかったが……」

 

「あ、そう言われてみれば確かに小さいね。入口から奥の方に行く事に小さい本を配置する様にしてるのかな?」

 

「……遠近法でずらされてんなこりゃ、遠くのものがあまりにも小さく見えるからかなり遠いと思い込んでいたけど実際そんなに遠くなかったって事だ」

 

陽の説明で頭の上に?マークを浮かべる陽鬼。陽自身もあまり確証がもててない事の為あまり確実な事は言えてないのだが恐らくこうだろう、とは考えているのだ。

距離を誤認させられている、というのはパッと思い付かないものだが思い付いてしまえば早いものだ。そう考えた陽は入口に向かって歩き始める。それに慌てて陽鬼も付いてくる。

 

「ど、どこにいくの!?」

 

「この部屋の扉は俺達が入ってきた部屋の左側にしかない。そのまま真っ直ぐ行くと遠近感に騙されてすぐ奥に着いてしまうんだろうけど横方向に歩くと本棚と本棚の隙間が結局一つもないんだ。けれど横向きだと本の大きさは変わらなかったし本棚の大きさも変わらない。

なら簡単な事だ。()()()()()()()()()()()()()、これに限る。」

 

「……なんというか、とりあえずゴリ押しなんだね。嫌いじゃないけどさ。でもそれだったらさっきの場所から確認して言った方が早くない? 何でそうしなかったの?」

 

「本棚も本も本棚同士の隙間もかなり規模が小さくなってたから俺ですら入りづらくなってるのに角で俺よりも若干幅取ってるんだから無理だっての。だからスタート地点から蛇みたいに動くんだよ。そしたらいつか着くだろうさ」

 

「そ、そう……なんか、ありがとう……」

 

陽からしてみれば陽鬼の事を考えての行動だったのだが、正直頭の角の事を言われてるせいもあってあまり素直にお礼を陽鬼は言えなかった。陽が善意でしている、というのが分かっている為余計に言いづらいのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? 何かここおかしくない?」

 

「ん? 何がだ?」

 

あれから数10分程歩いてから突然陽鬼が声を出した。しかし、陽には何も感じないし何も見えない訳だが人間である陽と鬼である陽鬼の事を考えると人間には分からない何かがあるのだろうと考え、一旦陽鬼に任せる事にした。

 

「何ていうか……この本棚1個分のところが綺麗に抜け落ちてる様な感じ。ちゃんと歩いてるのは分かるんだけどここだけ飛ばされた感じがするんだ」

 

「……よく分かんないけど、ここに何かあるって事だな? 俺じゃあどうしようもないし本当に何かあるかもしれないなら……頼む、陽鬼」

 

「う、うん……何か出来るかなぁ……」

 

そう言いながらも自分に出来る事は殴るか炎を出すかの二択しかない、とりあえず何もぶつからないのなら物理的にダメだと思った陽鬼は手から出せる限りの炎を手から放出させようとするが小さな炎しか出なかった、しかし━━━

 

「ふ、ふざけないでよ! 貴方達本を燃やすつもり!? げほっげほっ……」

 

と、陽鬼の指し示した場所から声が聞こえる。不思議に思った2人だったが、突如その場所が光り出して紫色の服を纏った少女が現れる。先程聞いた叫び声と入った時の声が同じ事、それに今この場所から現れた事を合わせた陽は一つの結論にたどり着く。

 

「えーっと……パチュリー・ノーレッジ……さん?」

 

「けほ……そうよ、今まで姿が見えなかったのは自分の周り…貴方が指し示したこの本棚を中心として光を屈折する魔法を掛けていて見えなくしていたのよ」

 

「……魔法で邪魔しないんじゃなかったっけ?」

 

「邪魔はしてないわよ? 身を隠していただけ。……実際貴方達が時間を掛けていたのは、本棚と……床のちょっとした構造の違いで、惑わされてただけだもの。私自ら出てきたとはいえ、私を見つけ出したのはその子の機転があったから……じゃないかしら?」

 

確かに、と納得しかけていた陽だったが陽は本棚だけだと思っていた遠近感の誤魔化しが床にも秘密があったのかと驚いてしまった。そして、わざとその反応が帰ってくることが分かっていたのか少しだけパチュリーから『してやったり』という表情で返してきた。

 

「…床って?」

 

「……簡単に言うと、ここの床はやまなりなのよ。ただ見ただけじゃわかりづらいと思うし、本棚の高さも途中までは合わせていたから、この二つがセットじゃ普通の人間は簡単には気付かないわ」

 

今度こそ陽は素直に感心した。言ってしまえばドッキリハウスっぽくなってしまってるが建物の構造としては少し面白いと思える形であり、実際これで陽達は素直に騙せているのだから魔法で改築させていた訳では無く妖怪すらも騙せる代物なのだろう。

 

「こほん……確か、紅魔館のみんなの事をどう思ってるか……って質問だったわね」

 

そして、そういえば自分はこの為に来たんだったと再認識もした。あまりにも探すのに手間取ったのでほとんど頭の中から抜け落ちていた。

 

「そうね……妖精メイド達は妖精メイドって事だから省いて言うわよ。レミィは私の親友よ、この紅魔館に私を入れてくれたしここの本達を好きな様に使っていいとも言われたのだから……返しきれない恩を受けた感じね。

だからレミィや紅魔館に害があるものなら私が盾になるわ、そういう性格じゃないのは自分でも分かっているのだけどね。

次は咲夜ね、私としてはレミィの直属のメイドでメイド長をしている人物ってところかしら? 頼めば紅茶や茶菓子なんかをよく持ってきてくれるもの。

けれど偶に母親の様に注意される時もあるわね。そういうところに助けられてる……気がするわ。

次は美鈴かしら? 実はあまり彼女と私は喋らないのよ。だってほとんど外に出てる美鈴とそれとは真逆でほとんどここから出ない私とは会話する機会が滅多に無いもの。けれど、たまに話し掛けてくる彼女の話は面白いのも多いわね。私は滅多に外に出ないから彼女から聞く話がいつも新鮮で楽しいわ。

それとフランだけど━━━」

 

「……フラン?」

 

陽は聞きなれない名前につい聞き返してしまう。そして、聞き返してしまった事でその存在を陽達が知らないと気付いたパチュリーは慌てて口をつぐんで頭を軽く横に降ってから再び落ち着いた口調で話し掛ける。

 

「何でもないわ、忘れて頂戴。

とりあえずそれくらいよ。ほら、早く行った行った……私は本を読む事で忙しいのよ。

簡単にまとめたら……みんな、私の大切な人というだけの事よ。家族と思っているかどうかは別として、ね」

 

そしてまた姿を消すパチュリー、魔法で姿を消したのだろう。これ以上話してもらえないと悟った陽は陽鬼を連れて図書館から出ていく。

 

「……フランって、誰の事なのかな?」

 

「さぁな、美鈴も喋らなかったし多分喋らないというのが暗黙の了解になってるんじゃないのか?なんでかは知らないけど……って、あれは━━━」

 

陽は廊下を歩きながら階段を見つける。しかし、二階に上がる為の階段ではなく()()()()()()()()()()()()

 

「……地下室があるってことか? もしかしたら誰かいるかもしれないし行ってみるか。」

 

「ちょ、ちょっと陽! どこでも歩いていいとは言われたけど流石にこっちはまずいんじゃないの!? 何か他のところと比べて暗いもん!」

 

「暗いのは承知だ。だって周りが赤々しいのにこの地下に通じる階段はすぐに石畳のそれになってるしな。赤くしたら困るのかそれとももっとやばいのがいるのか……ってやばいのがいたらもっと厳重にする筈だろ? それに俺らをこんな自由に歩かせる事も無いぞ」

 

「……それもそうか!」

 

簡単に騙される陽鬼に陽は心の中で謝罪した。流石にこんな物騒な雰囲気なのに何も無い訳が無いだろうと彼自身も分かってはいたのだ。だが、不思議とそこに行かないとダメな様な気がしたのだ。

カツン、カツンと石で出来た階段をゆっくりと降りていく。途中に何も障害物が無いのか音が響いていた。

そしてしばらく歩いている内に大きな鉄の扉が現れる。

 

「この扉は……やっぱり何か隠してるのか? けどここまで来たらあのメイド長が止めに来るはずだし止めに来ないって事は食料庫とか……いや、食料をこんな薄気味悪い場所には置かないか……」

 

陽はゆっくりとその鉄の扉に手を置いて押していく。すると扉はいとも簡単に陽に押されて内側にある部屋を晒していく。好奇心というものは己を殺す、とはよく言ったものだと陽は思いながら扉を開いていく。止められないのだ。扉に手を置いた時点で彼には何故か無性にこの扉を開けなくてはならないと思ってしまった。

そして、ゆっくりと扉が開いたその中には……

 

「……貴方、だあれ?」

 

赤い服を纏った金髪の少女が部屋のベッドで座り込んでいた。警戒している表情。怯えている表情。大部分をぬいぐるみで隠されて目元でしか判別出来無くなっている為これは一体どっちの表情なのか陽には分からなかった。

 

「……俺は月風陽、こっちのは陽鬼だ。

君は?」

 

「……フランドール・スカーレット、皆私の事は『フラン』って呼ぶわ」

 

陽は理解した。パチュリーが言っていたフランとは彼女の事だったのかと。しかしそうなると彼には少し解せない事が出てきたのだ。『どうしてみんな彼女の事を喋ろうとしないのか』という事と『何故こんな部屋に入れられているのか』という事である。

 

「……私は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持っているのよ。破壊したいものの『目』を自分の手に浮かべてそれを壊したら破壊したいものはバラバラになるの。

お姉様には館内だけなら自由に動く事を許されてるけど外に出る事はまだ許されてないの……感情任せに取り返しのつかない事をしてしまうかもしれないからって……」

 

少女……フランは抱きしめていたぬいぐるみをさらに強く抱きしめて顔を埋める。どこか寂しがっている様にも感じ取れる。

 

「……なら、俺と遊ぶか? 弾幕ごっこは出来ないけど…それ以外なら遊べると思うぞ?」

 

「……遊ぶって? でも私はなんでも壊しちゃうから……出来ないよ?」

 

「何でも壊すなら……俺がその度に『創って』やるぞ?

俺の力は『創造する程度の能力』だからな。いくら壊されても……こんなふうに作り出せる」

 

そう言いながら陽はトランプセットを何個も作り出していく。それを見たフランは驚いた様な表情で恐る恐る触って持ち上げたり1枚1枚ゆっくりと見ていく。そして次第に表情を明るくしていく。

 

「じゃあねじゃあね! ババ抜きとかいろんな遊びやりたい! あなた外の世界から来たんでしょ!? なら遊びを教えて!!」

 

「……あぁ、なら━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ次は……」

 

「陽、フラン寝てるよ。遊び疲れちゃったんじゃない? 何時間も遊んでた訳じゃないけど凄くはしゃいでたし……今はもう寝かせてあげようよ」

 

「……ホントだ。それにちょっと時間が経ちすぎてるな……紫達も待ってるしそろそろ戻るか。ちゃんと紙とペンで書き置きも残しておかないと……な」

 

紙とペンを作り出して『また遊ぼうな』と書かれた書き置きをわかりやすい場所に置いてから2人は部屋を後にする。

紫達がいる部屋に向かっている最中、陽鬼がニヤニヤしながら見ている事に気付いた陽は陽鬼の方を向きながら足を進めていく。

 

「……なんだ? さっきからニヤニヤしてるけど……俺の顔になにか付いてんのか?」

 

「ううん、そうじゃなくて……ここに来たばっかりの時はすごい機嫌が悪かったのに今じゃすっかり機嫌治ってるなーってね?」

 

「……気のせいだよ、ほらさっさと戻って帰らないと紫が心配するぞ」

 

「はーい。」

 

階段を登り、そのまま紫とレミリアがいる部屋まであるきはじめる陽。彼自身は気付いてないがやはり彼自身は機嫌が治り、ムスッとした表情では無くこの世界に来てからだんだんと見せ始めてきた。年相応の顔とやらである。

 

「そう言えばフランには質問しなかったんだね、どうして?」

 

「……あそこで閉じ込められてるし、多分質問してもよく分からないと思う。あの子がここの人たちの事をどう思ってるかなんてな」

 

残りはメイド長である十六夜咲夜と主のレミリア・スカーレットだけだと再認識しながら、2人は部屋まで歩いて言った。


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