東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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決着

二人の陽の争いは続いていた。

黒い陽は並行世界の幻想郷の住人をすべて喰らい尽くしているために得ている能力による手数のゴリ押し。そして陽は妖力霊力魔力光力の四つを酷使しながらこちらは無理矢理の力押しであるゴリ押しで戦っていた。

しかし、黒い陽は万物創造を失った影響か元々一つに結合してしまっていた能力を無理やり分解されてしまった為に上手く能力が発動しないことがあり、かたや陽はその力の大きさに自身の存在が肉体的ではなく精神的なものである妖怪としての肉体が悲鳴を上げていた。

だがそれでも二人はぶつかっていた。陽は幻想郷を、紫を守りたいがために。そして黒い陽は何も考えずただ暴れ回るために。

 

「はっはっは!!自分自身との戦いのはずなのにこれ以上楽しいものはないぜ!!なぁそう思うだろォ!?」

 

「お前の戦闘狂趣味に付き合ってやる意味は無い!さっさと元の世界に帰れ!!知らない世界に墓場を作りたくなかったらなぁ!!」

 

「言ってくれるじゃねぇか最弱の妖怪もどきが!!」

 

「うるせぇよ孤独気取りのナルシスト!!」

 

陽が弾幕を放つ。黒い陽がそれを軽く防いで素手で攻撃を仕掛けようとするが、腕が破裂して攻撃を続けることが出来なかった。

幻想郷の住人を喰らい続けて得た力、筋力などもそれは例外ではなかったが、今の不安定な体である黒い陽の体ではその全てを扱うことが難しくなっている……と力を根から使い果たしたせいでギリギリで意識を保つしかできない紫はそう考えていた。

 

「いって……!素手が駄目ならこっち(弾幕ごっこ)でやるか!!黒穴[イータービット]!」

 

スペルカードを唱え、黒い陽の周りに小さな黒い玉が数個浮かび始める。それは陽の放った弾幕全てを飲み込んで跡形もなく消し飛ばしていた。

 

「中途半端な数がダメってんなら……!極光(きょっこう)光矢龍(こうやりゅう)]!!」

 

陽はスペルカードを唱えて一本の光の矢を放つ。それは瞬く間に数を増やしていき見上げても最早全長が見えないくらいの巨大な龍の形となる。

それは黒い陽目掛けて飛んでいくが、黒い陽はそれに対抗するために黒い玉を飛ばして矢を根こそぎ食らっていこうとする。

しかし、その玉がどれだけ強力なものであっても大きさで圧倒的に勝る矢の龍には勝てない。圧倒的な矢が黒い陽を飲み込んでいきその矢で射抜いていく。

 

極闇(きょくあん)闇狩鎌(やみがりれん)]!」

 

しかし間髪入れずに陽は闇のオーラで形成された鎌を作り出してそれを持つまるで死神のような見た目をした髑髏を操って黒い陽のいた所にその鎌突き刺していく。一つだけでなく何本も何本も。

そしてまた、追い討ちをかけるように新たなスペルカードを手に取って唱える。

 

極炎(きょくえん)大爆炎(だいばくえん)]!」

 

今度は巨大な炎の塊を作り、鎌を大量に突き刺したその場所に放つ。途端に巨大な火柱が巻き起こり、矢どころか鎌でさえも飲み込んで城を焼いていく。

 

「止めだ……極月(きょくげつ)[天月封印]」

 

火柱を1箇所に閉じ込めんと、火柱を遮りながら素早く巨大な結界が形成されていく。行き場を失った炎は結界の中で荒れ狂いながらも、結界が収縮していくのに反比例で更に暴れていく。

しかし、結界は一切歪むことなくそのまま縮んでいき人一人が入れそうな程度の大きさにまで小さくなる……が、そこで結界が今までの攻撃諸共吹き飛ばされる。

 

「ふぃー……一気にあんだけ打ち込むたァな。ま、攻撃を当てられるのはやばかったがな……能力発動も不安定になってるからよ、本気で危なかったことには変わりねぇ訳だが……ま、今のは俺の勝ちって訳だ。つってもさっきのは消されちまったからまた新しいのを披露してやらねぇとな?」

 

「てめぇのショーなんざ見たくもねぇよ……ハナから付き合う気もねぇ。体がだるいから早めに終わらせて……もう戦わないようにしたいんだ。」

 

「それが何のためかは……まぁ聞かないでおいてやるよ、俺ってば優しいねぇ。」

 

「……優しかったら……さっさと消えろ!!超銃[マジック・バレット・マジック]!!」

 

「お断りだね!冥主[ハーデスの攻防]!」

 

陽の魔力弾をすべて弾くオーラ。そしてその鎧は自分の意思があるかのように腕が伸びて陽を狙う。

その攻撃を回避しつつ陽は黒い陽に近接勝負を挑む。

 

「近接勝負を挑むたぁアホなのかね!俺に近接なんて挑んだら喰われちまうぞ!!」

 

「食えるなら始めからそうしてるだろうに……よ!!」

 

そのまま素手での戦いになる陽と黒い陽。互いの拳は互いが読み切り、直撃することは無いが、しかしお互いの体が上手く動かないせいで掠ることもあれば避けたまま転けかける、というのも起こり始めていた。

 

「そういや……白土はどうしたよ。こんなところに来ないって事は死んだか外の世界に戻ったか?俺の時は何やかんやの有耶無耶で一緒に外の世界に戻ったからよ、実際今あいつらがどうなってるのかちょっと聞きてぇんだわ。」

 

「……俺もわかんねぇな。別れてからそのままだしな。お前が本当に知らないってんならお前も知らないし俺も知らない。それで終わりだ。」

 

「ちぇー……つまんねぇな………っだらぁ!」

 

不意打ちと言わんばかりに黒い陽は殴りかかる。陽もそれに応戦して再び一進一退の攻防を始める。

限界に近づいている体は悲鳴を上げる。陽の体は耐えきれない力の過重負荷により体に激痛が走り、血も吹き出す。同じ様に黒い陽にも激痛が走っているが、こちらは動く度に血を吹き出しては傷口が塞がる、ということを繰り返していた。

 

「攻撃は一発も当たってねぇのに互いに傷が増えていくってのもおもしれねぇな?ほら、一発当てれれば勝てるかもしれねぇのに当てられねぇのか!?」

 

「絶対、絶対当ててやるから待ってやがれ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、紫……気づいてるかしら?」

 

「何の事よ……」

 

「……陽達の存在が消えかかっていることよ。私が気づいていたんだからあんたはもっと早く気づいていたんじゃないの?

少なくとも……あの2人が何かの能力をぶつけ合ってからは……それが現れたように私は見えていたわ。

貴方はいつから感じ取っていたのよ。」

 

倒れながら、戦いに参加できない事を少し悔やみながら霊夢達は話していく。紫は、霊夢のいうことに顔を背けながら戦っている二人をじっと見続けていた。

 

「……私も、同じ時くらいからよ。能力のぶつけ合い……恐らくお互いに存在が消えかねないほどのものを相手にぶつけたんだと思うわ。

おそらくそれは同じ能力だから……相手を消すことに特化した能力、そんなものをぶつけ合えば当然すぐさま消えるはずなのに残っている……それがなんでかは分からないけれど、今はわかっていることは一つだけよ……」

 

「……今の私達に、出来ることもやることも何も無い。

そう言いたいのね……陽しか戦える人物が今はいないから……あんたはそんな不安そうな顔をしているのね。」

 

「……私が?今?そんな顔をしているの?」

 

「あら、自分の表情に気づいていなかったのね。あんた、陽が戦い始めた時からすっごい複雑そうな表情してたわよ。

で、今はすごい不安そうな顔。心配しているのは幻想郷?それとも陽自身のこと?」

 

霊夢の言葉に紫は陽に視線を向ける。自分がいつの間にかそんな表情をしていた事に気づかなかった事よりも、自分は陽の何を思ってそんな表情をしたのかという事である。

 

「紫、あんたが幻想郷がとても大切ってのは私も知ってる。けどそれは昔の話。少なくともあんたは陽と一緒に住んだことでまた別の大切なものが生まれた。

いえ、藍と一緒にいることもあったから初めからあったのかもしれないけど……少なくとも、陽があんたと出会ってからあんたは確実に変わった。

家族であれまた別の形であれ……もしあんたが陽のことを大切に思っているのならこの戦いが終わったら……めいいっぱい褒めて、めいいっぱい叱って、めいいっぱいどれだけ大切かを確認させなさい。」

 

「……褒めて、叱って……どれだけ大切かを……」

 

「そうよ、血は繋がってないし種族は違う……けれど紛れもない家族になってるのよ貴方達は。

家族なら、たまには見守ることも必要なんじゃないの?」

 

霊夢の言葉で紫は自分の中に何かを感じていた。

悲しみでも憎しみでも、嬉しさや楽しさでも怒りでもないごちゃまぜの感情。

けれど、それが嫌なものだとは感じてはいなかった。その感情が何なのか分からないが、紫はそのまま戦いを見守ることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が殴り合いを始めてからはや数分、目に見える形で二人の勝敗は決しようとしていた。

陽の体は治そうとする力と溢れ出ようとする力が合わさり身体中から血を流し続けており、黒い陽は段々と傷の治りが遅くなって既に回復しない迄になっていた。

 

「……ちっ……傷が回復しなくなってきてらァ……」

 

「はぁはぁ……もう、観念するんだな。お前は終わりだ……傷が回復しなくなってきている、ってことはもう蓬莱人どころか俺みたいに妖怪の混血ですらない……ただの人間に戻ってきているんだ。

これ以上やったところで死ぬだけだぞ……!」

 

「能力を消されるだけならよかったんだがなぁ……あー、ツメが甘かったか……もっと別のもん消させるようにしておけばよかったわけだな。だったらお前にも勝てたかもしれないのによ。」

 

「……無駄だよ。お前は俺には勝てない。精神依存である妖怪に取って能力は自分そのもの……自分足らしめるもんなんだよ。

それがわからずに自分の能力を失った時点で……お前は少なくとも俺に勝つ確率が低くなった……もう、立つ体力も無いだろ……」

 

「へっ……いやいやまだまだ……案外いけちゃったりするかもよ?」

 

笑みを浮かべながら、黒い陽は消えかかっている自分の体を動かして陽を殴ろうとする。

しかし、足が粉のように崩れ落ちてその場にこけてしまった。

 

「……あー、ダメだこりゃ。これはもう俺は動けねぇ。弾幕も打てない上に元々月風陽の能力として存在していた力もなくなっている。

詰んだな。月風陽が月風陽足らしめるもん無くしちまってるって事ならこりゃあ俺にもう勝ち目ないわ。」

 

自嘲気味に笑いながら黒い陽の体は少しづつ崩れていく。先から粉になるように着実に。

 

「………お前は、こんなので満足しているのか?お前が俺なら、俺が持っている感情もあったはずだ。それを捨ててまで……お前はこれで満足なのか?」

 

「へっ……もう満足ってこともよく分からなくなってたわ。

……なぁ、俺からも一つだけ聞いていいか?」

 

「……何だ?」

 

「お前は今の生活に満足できるのか?これから、今から……いつまでも。家族はこの世界にいない、けれど帰ればおそらく俺と同じ運命だ。ならこの世界にいるしかない。

幻想郷にこれから住まなきゃいけないわけだが、いいのか?」

 

陽は黒い陽のその質問に少し驚いたが、それを表情に出すことはしなかった。そして、答えに困る様子も見せずすぐに答えを黒い陽に言い放つ。そうでもしないと何故か笑われそうな気がしたからだ。

 

「当たり前だ。この世界が好きになったんだから俺はこの世界にいると決めた。それが悪いこととも思わない。外の世界に行って疎まれるなら白土達にも戻らないように伝えてやる。

これでお前とは別の道を歩むんだ。どうだ、これで満足か?」

 

「……あぁ、満足も満足。お前は恨みに任せて愛していた奴を殺しちまうのはダメだぜ?愛憎は表裏一体、お前があいつを愛しようとすればするほど反動もでかくなるだろうな。

ま、それが家族としての愛情なのか男女の愛情なのかはともかくとして……俺と別になるんだったらもういい。ここで『外の世界に戻りたい』なんて言ったら意地でもぶち殺してたわ。」

 

「……お前は、こんなところに墓を作る気なんだな。」

 

「あぁ……よく知っているけど知らない世界……ま、元々の世界は潰しに潰したせいで人間はほとんど全滅、土と鉄屑が跋扈する世界になっているからこういう緑多い世界で死ねるのはいいかもしれない。

……最後に一言、俺みたいになったら意地でも殺しに行く。あぁ、別に『俺みたいな悲しい存在になるな』みたいな理由じゃなくてそんなつまらないのが分かりきってる道は行くなよって話。

じゃ、俺は消えるわ━━━」

 

「な……おいちょっと待っ━━━」

 

陽の言葉は届かず黒い陽の体は完全に粉となり消え去る。そして、それと同時に闇で出来ていた城が崩れ始める。

陽は、痛む体を引きずりながら紫達を回収、何とか二人を無事に地面に下ろして……そのまま安堵で気絶して意識を失うのだった。

戦いは……ここに完結した。


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