東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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闇のこと

「……え、あれ?何でここにそんなに数いるのさ。人里放っておいた影たちどうしたの?まさかの無視してきたとか?」

 

「えぇ、貴方の影になんて一々関わっていられないもの。それに、私達がいなくても問題ないって分かってもいるから直接ここに来たのよ。

……それで?貴方は何者なのかしら?まさか本当に月風陽の名前を語るつもりじゃないでしょうね?」

 

「名乗るも何も俺は……あれ、一人称僕だったっけ……?まぁいいや、とりあえず自分は月風陽さ。正真正銘、本物の月風陽さ。

但しこの世界の月風陽じゃない……平行世界、パラレルワールドにおける月風陽さ。」

 

黒い陽が作り出した城の天辺、そこでレミリア・スカーレット率いる紅魔館の実力者総出で、黒い陽は向かい合っていた。

軽い口調で話し続ける黒い陽に対して、レミリアは怒りよりも気味悪さを先に感じ取っていた。

 

「……平行世界、超えられるものなら自由に超えているだろうし超えられないものと前提するけれど……分からないわね、私の知っている月風陽はこんなことはしないし……そんなふざけているようでない心を見せないような拒絶した喋り方をしない。

パラレルワールドというのはとてもよく似た世界が並行並列でいるからこそパラレルワールドと言われているのではなかったのかしら?それとも、人の性格一つは世界には何ら影響を与えないというの?」

 

「うーん、その理論はたしかに当たっている。平行世界の考えとしては多分その考えがいちばん正しいと思う。

でもね?一つの些細な違いが決定的な違いである事も理解した方がいい……因みに、この世界と俺の世界の違いは俺の性格の差じゃない。とあることによる差だ。」

 

「……とある事?それは何かしら?」

 

「この世界に月風陽が存在しているか否か……いや、正確には『マター・オブ・ホライズンを倒さずに幻想郷から逃げた』か『倒して幻想郷に残った』かの違いだ。要するに幻想郷から外の世界に戻った場合のパラレルワールドが俺で、幻想郷に居残った場合の俺がここの俺のパラレルワールドというわけだ。」

 

レミリアは黙って話を続ける。質問の意思がないと判断したのか、もう一人の陽はそのまま話を続ける。

 

「居残った俺は多分そのまま平和にこの世界で過ごしていくんじゃないか?俺にはよくわからないが……

逆に、戻った後は地獄だったよ……俺は。」

 

「何かしら?自分の能力が他の人間達にバレて迫害されたとか……そんなところかしら?」

 

「迫害……まぁそうなのかもな。周りの人間全てから攻撃されて殺されかけて……まぁ人間やめてたし頭とか心臓一突きされない限り死ななかったけどさ。

まぁ俺狙わないなら当然俺の周りの奴ら狙うわな。ま、白土とその妹の黒空杏奈が狙われたわけだが……白土はいい、自分で自分の身を守れるからな。

だが……ほとんど普通の人間と変わらない杏奈はそうはいかなかった。」

 

ふざけた口調から、急に真面目な声のトーンになる黒い陽。顔もニコニコしていたのが真顔になり、目を見開いてその目にレミリアの姿を移していた。

 

「それで?その口調から察するにその妹とやらは……命を落としたみたいだけれど……あなたはそれでどうしたのかしら?」

 

「その時点ではまだ何もしていなかったさ。

ただ……そうだな、兄である白土がブチ切れた。だがあいつもダメだったみたいでな。知らず知らずのうちに毒を流し込まれてたみたいだ。すぐにぶっ倒れて死んでたよ。俺は毒に耐性があったのか、そもそも毒を吸わされていなかっただけなのかまでは分からないがすぐに死ぬ事は無かったよ。

ただまぁ……なんと言うかな、白土も死んで俺は初めて心の底から人を殺したいと憎んだもんだよ。」

 

「殺した人間達をまず殺した?」

 

「いや、白土の肉を食った。お陰であいつの能力も全部奪い取れた。臓物を食えばその妖怪の力が手に入るってこういうことなんだなと理解出来たよ。」

 

「悪食ね、ほんと。」

 

「そうだな、悪食になったよ。」

 

そんなやり取りをしていてもレミリアの顔が笑みを浮かべていた訳では無い。むしろ内心、レミリアは目の前の黒い陽に対して、嫌悪感と少しの畏怖を感じていた。

 

「だから悪食は悪食らしく……色んな妖怪を食って回ることにした。白土の能力で無理矢理幻想郷に行った……そして━━━」

 

「ルーミアを食べた……違うかしら?」

 

一瞬驚いた黒い陽だったが、すぐに笑みを浮かべて何度か頷く。

 

「……なるほど俺が闇の力を操っているからそう認識したわけか。まぁお前の考えていることは大体合ってるよ。

ルーミアどころか俺は幻想郷に住むすべての者をこの身の中に宿している。闇の力と喰らう力……その二つを使ってほぼ不意打ちに近い形で全てをな。

今考えたら完全な八つ当たりなわけだが……そもそも幻想郷に呼ばれなきゃ俺はここまでこじらせることは無かったから……やっぱり幻想郷のせいだな。」

 

「だから馬鹿でかい霊力、妖力、魔力の三つを持ってるってわけね。私の能力も咲夜の能力も得てしまっているからもはや自分がなんなのかわからない……だからさっきから少しずつ言動がおかしかったりする訳だ。」

 

「自分を決める、なんて不毛な事はしたくなくなったんでね。

で、ここまで聞いて負ける気がしてないのはなぜなのかな?馬鹿なの?君は。」

 

黒い陽はレミリアの考えていたことを口に出す。 レミリア以外の紅魔館勢は驚いていたが、レミリアだけが平然とした態度をとっていた。

 

「なるほど、古明地さとりの能力ね?それで私の心を読んだわけか。他にはとんなかくし芸があるのかしら?」

 

「そうだねぇ……例えば━━━」

 

瞬間、レミリア以外の全員が吹っ飛ばされる。その中で無事だったのは美鈴とフランだけであり、咲夜、パチュリー、小悪魔の3人が倒れるハメになっていた。

 

「━━━こういう風に全員に一瞬で攻撃ができる。」

 

「……咲夜の時間操作能力、じゃないわね。一瞬でカタが付いたということは蓬莱山輝夜の能力かしら?彼女、瞬間と永遠を操る能力を持っているって聞いたことがあるわ。」

 

「おぉ、正解正解。因みに、一瞬だろうとそこの門番は防ごうとしてきたけどね。

同時に古明地こいしの無意識の能力を使わせてもらったから読めない軌道って言うのを一か八かでやらしてもらったよ。」

 

「器用貧乏……って言うにはあまりにも格が違いすぎるわね。流石に幻想郷そのものと言われるわけね。」

 

「お嬢様……咲夜さんが倒れた今、時間操作されてしまえば誰も対抗は……」

 

「問題ないわよ……どういう能力か分かったからあとはもう怖くないわ。」

 

「へぇー、その余裕は何処から━━━」

 

セリフを言い終える前に黒い陽の胸元には、レミリアの扱うスペルカードの一つ、神槍[スピア・ザ・グングニル]が突き刺さっていた。

 

「……あれ?今の一瞬、投げたのは確認できたのに……避けた、はずなんだけど……あれ、あれ……?」

 

「後出しジャンケンって知っているかしら?まぁ例え自分が不利になっていても、後からそれよりも強力な力を出す……という例えで用いられることが多い言葉だけれど。」

 

「……それがどうかしたの?」

 

「簡単な事よ、貴方がどれだけ強くとも……私の決める運命には何一つ傷を付けることは出来ないということよ。

まぁ、私自身の能力で私達3人の運命を変えただけなのだけれど……私にこの能力を積極的に使わせようだなんて、誇りに思ってもらってもいいくらいよ、ほんと。」

 

「あぁなるほど……運命変えられたら確かにどうしようもないかも……まぁ、俺は死なないけどね。」

 

そう言いながら黒い陽はグングニルを引き抜いて放り投げる。笑みを浮かべていたレミリアだったが、ここで少し苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「蓬莱人の絶対不死……中々めんどくさいわね、改めてこうやって向かい合うと。」

 

「しかも3人分だから通常の3倍の回復速度を誇っています!なんてな。死なないやつ相手にどう勝つつもりだ?いや、死ななくても永遠の業火で焼くとか封印するとか色々やり方があるだろうけど……お前らにそれらの手を打つことが出来るのか?地獄にでも落とさない限り俺はいつまでも復活してはここに攻め込む予定だぜ?」

 

「貴方が思いつく方法以外の方法なんて探せばあるでしょう……それに、別にわざわざそんな手を打たなくても……私が直々に貴方を徹底的に痛めつけてしまえば……貴方はいやでも私に従うことになる。プライドが高くなさそうだしある程度痛めつけられれば恐怖で従うようになるんじゃないかしら?」

 

「そんなことは微塵も思っていないくせに……感情なんて読み取りやすすぎてバンバン俺の頭の中に入ってくるよ。

恐怖こそない……それは立派だ。こんな敵を相手にして恐怖を見せない、出さない事は並のやつじゃあ出来ない事だ。けれど……まともにやって勝てるいてとも思っていない……フランドール・スカーレットの力を持ってしても……俺は倒せないのではないか……君はそう考えている。」

 

レミリアとフランを交互に指さして、黒い陽は満足げに微笑んでいる。

レミリアは表情は変えなかったが、読まれていることを考えると━━━

 

「『バラされてもいい、代わりに周りの音を全て聞こえないくらいにあいつを殺す気で挑まないとダメだ。』……うんうん、確かにそれくらいした方がいいかもしれないな。まぁそれで俺を殺せるものならやってみろという感じだが。」

 

「……調子が狂うわね……美鈴、倒れた皆を守ってあげなさい。フラン……一緒に行くわよ。」

 

「ふふ!お姉様と一緒に、ね!」

 

「紅魔の悪魔とその妹……運命を操る者と全てを破壊するもの……さぁ、俺と戦って勝てるかな!!」

 

そしてぶつかる3人。吸血鬼姉妹と人間を止めた闇。姉の意地と、妹の感情と、闇の能力がぶつかり合って……決着は長くかかったのか短く終わったのかわからないが、とりあえず付いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私だってただ動く的で終わるつもりは無いぜ!重い装備で動かずにバカスカ撃ってるから狙い撃ちにされるんだよ!マスタースパーク!!」

 

「影と言ってもかなりの腕前……しかし私の楼観剣の方が遥かに切れる!一刀両断、現世斬!」

 

「弓矢……そんなものに当たるほど私は遅くはありませんよ!!行きます!ゼロ距離でのグレイソーマタージ!!」

 

「いい加減ぶっ倒してやるよ!!そのしつこさだけは認めてあげるからさっさと消えろ!!鳳翼天翔!!」

 

その頃、人里では魔理沙達がそれぞれ自分と相対していた影を消し去っていた。

それを見た霊夢もいい加減早く片付けようと躍起になり……

 

「あんたと相手するのも終わりよ……私とここまで戦えるのもそういないから光栄に思いなさい……夢想封印!!」

 

そう言って霊夢も影を倒して人里に来ていた影を全て退治することは出来ていた。

終わった後に、霊夢はスグ魔理沙達のところに戻ってこれからどうするかの話し合いを始める。

 

「……霊夢、行く気か?」

 

「私が行かないで、誰が行くっていうの?まさか私達全員で仲良し手繋ぎであの城まで行く気かしら?

私はごめんよ、慣れない突貫工事並みの脆い連携で戦いたくはないもの。」

 

「いやまぁ、そうだけどよ。あんなバカでかいのを一夜どころか一瞬で作り出すような相手に一人で立ち向かうのは霊夢とはいえ幾ら何でも無謀がすぎると思うぜ。」

 

「無謀でも何でも、やらないといけないのよ。あんなのを放っておけるほど私も……紫も落ちぶれちゃあいないわ。」

 

そう言って霊夢は自分の後ろに視線を向ける。すると、そこからスキマが開いて紫が藍と橙を引き連れて現れる。

 

「霊夢、貴方達より先に紅魔館の面々があの城へ向かっているわ。流石に私が注意してもダメだったわ……紅魔館組は。」

 

「レミリアったら…しょうがない、誰でもいいからついてきて、多分向こうは何人か倒れてるはずよ……下手したら全滅してる可能性だってある。

だから倒れてる奴を運ぶために誰かついてきてほしいのよ。」

 

「なら……全員で行こうぜ。こっちが5人、藍と橙で7人、紅魔館は6人。余分に余った奴をスキマの防御に当たらせれば完璧だ。」

 

「……じゃあそれで行きましょう。例の男は私が相手するから、そのつもりで。」

 

そのまま霊夢達は紫の繋げたスキマに入っていった。レミリア達を助けるために。


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