東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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救出

白土は空間を駆けていた。空間のどこにいるかなんてのは直感である。しかし、妹を見つけるという一心で彼はひたすら駆け抜けていく。

妹の匂いが辿れるまでひたすら走る。広いようで狭い、白いようで黒い。この空間は事象を操るホライズンが作り出したもの、つまりはあらゆる事象の集合点のようなものだと思っていた。故にこの空間には特定の大きさや明るさ、色合いなどが存在していない。

故に、見つけられないと思えば見つけられないも同然なのだ。『見つけられる』という前提で動かなければならない。ただ闇雲に探しても見つからないのは、そう言った理由だからであった。

そして駆け抜け始めて数分が経った頃、白土はようやく見つけたのだ。目的のそれを。

 

「杏奈……杏奈!」

 

しかし返事がない。死んでいる、と白土は絶望しかけたがよく見れば呼吸は微かに出来ていたので白土は早く出ていかないと……と彼女を担いで出ていこうとする。

だが、元来た道を反対方向に走るだけのはずなのに、何故か一向に辿り着けないでいた。

 

「……なんだ、何で……」

 

既に杏奈は助けた、後は陽を連れて脱出をするだけ…そう考えていた白土だったが、明らかに杏奈を見つけるまでにかかった時間以上に走っていた。

 

「くっ……!仕方ねぇ……!」

 

ほんの少しづつ、杏奈の呼吸は弱まっていっていた。何よりも優先順位を高くするためには杏奈を一旦世界の外から連れ出すべきだと、白土はその場で来る時に使った空間の穴を作り出してそこに飛び込んだ。

白土や陽などはまだ耐えられていたが、鍛えてもいない普通の人間がホライズンの空間に耐えられるわけがなかったのだ。

白土は外の空間に出てから一心不乱に走り出していた。例え毒霧が待っているところから脱出できたとしても、すぐに治る訳では無い。

だから白土は永遠亭に向かっていた。自分の妹である杏奈を救う為に。

 

「………医者に見てもらえば、何とかなるかもしれねぇ。だからそれまで……頑張って耐えてくれよ杏奈……」

 

白土はそう呟きながら、今なお呼吸と心音が弱まりつつある自身の妹の頭を軽く撫でながら大急ぎで向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、陽とツキカゼは未だに無傷で戦っていた。陽が矢を飛ばしツキカゼがそれを払い落として切りにかかる。しかしその攻撃が来る前に後ろに下がりながら矢を放って足止めする……ということを繰り返していた。

時折、ホライズンの元へと向かおうとするがツキカゼがそれを妨害するために全く進めないでいた。

 

「……いいの?本当に放っておいて。」

 

「どちらにせよ、私達には勝てる術も刀を扱う術もありません。それに……あの男、ツキカゼは私たちが戦った時より遥かに強くなっています。

私達の新しい戦法がどこまで通じるか……」

 

「それに、邪魔になるじゃろうしな。あの戦いに割り込めるほど無粋じゃないのじゃ。

妾達で抑え込めるかどうか不明じゃしの。」

 

そう言いながら3人は内心ではいつ戦いに紛れ込んでやろうかと画策していた。

だが、言った通り割り込める隙がないのだ。全く隙がない故に棒立ちになってしまっていた。

 

「……ふむ……」

 

そしてそれらを眺めていたホライズンは、何かを考え続けて陽達に視線を向けた後にこう言い放ち始める。

 

「月風陽、貴方は彼の……ツキカゼの過去を知っていますか?」

 

「……何?」

 

「おい、一体何を━━━」

 

「過去にとある少年と戦い、ずっとずっと戦い続けた結果、自分の住むべき場所も愛すべき人もなくして……そして残った妖怪と力を持つ人間達で一緒に過去を変えようと奮闘した存在……それが彼ですよ。」

 

陽はホライズンの言っていることが理解出来ていなかった。唐突にそんなことを言い放って、一体ホライズンが何をしたいのかが全く理解出来ていなかった。

しかし、そんな陽を尻目にホライズンは会話を続ける。

 

「自身の持つ能力を失い、死んだものの力を集めて何とか作り上げた剣……彼が過去へ戻ってしようとしたことは過去の自分の抹殺……そしてその抹殺しようとした存在が━━━」

 

言い終える前にホライズンの首をツキカゼは跳ね飛ばしていた。まるで絶対に聞かせたくない、と言わんばかりの形相で切り落としていた。

 

「……そんなに聞かれたくないんですか?いいじゃないですか少しくらい。」

 

そしてツキカゼと陽の間にホライズンは復活する。陽は何のことかわからずじまいだが、ツキカゼがホライズンに対して完全にキレている事だけは確かだと理解していた。

 

「言うな、絶対にだ……」

 

「……そう言われると、喋りだくなる体質なんですよね私は。」

 

「なっ……にぃぃぃ……!?」

 

そう言ってホライズンはツキカゼに対して腕を伸ばす。するとツキカゼの体がまるで何かに引っ張られるかのように地面に倒れ込む。

一体何が起こっているのかわからない陽だったが、今がチャンスとすぐに頭を切り替えて妖刀妖殺を作り出して相手の懐に差し込もうとする。

 

「……まぁ、少しだけ落ち着いて聞いてくださいよ。」

 

瞬間、陽も……どころか陽鬼、月魅、黒音の3人までもが動きが止められたかのような状態になっていた。

更に、光も憑依を無理矢理解かされて同じように動けなくされていた。

 

「この男の名はツキカゼ……まぁ貴方達はこれを本名だとは思っていないようですが……半分ハズレなんですよ、その考え方。」

 

「半分……?」

 

「そう、彼の本名は『月風陽』という名前なのですよ。」

 

「……俺と、同じ……」

 

陽は驚きこそしていたが内心どこか納得はできていた。自分自身だったからこそ自分の考えたコンビネーションを避けたり、八雲邸までの道を覚えていたりしていたのだと。

驚いたのは驚いていたが、納得の方が気持ちは大きかった。

 

「彼は未来の貴方……と言ってもこっちに干渉してきたせいで未来が変わったのかはたまたただ何もしなくても変わったのかまではわかりませんが、とりあえずそんな未来は来ることがなかった。

そして彼が何故あなたを殺そうとするのか……まぁ、黒空白土との戦いが悪化し続けて単純に幻想郷を幻想たらしめるものが無くなっただけなんですけどね。

その際に妖怪の殆どは消滅、残ったのは精々河童や天狗などといった一般認知されてる妖怪達だけだった。その際に彼は残った河童のうちが1人、河城にとりに頼んでとある道具を作ってもらった。それが彼の持つ剣の正体なんですよ。」

 

「……あぁそうさ、俺はお前……未来の月風陽さ。

この剣は、幻想郷に住む強力な者達の体の一部をエネルギーとして組み込んで、その能力を発動出来るようにしたんだ。

八雲紫、レミリア・スカーレット、フランドール・スカーレット、十六夜咲夜、八坂神奈子、洩矢諏訪子、古明地こいし、西行寺幽々子、蓬莱山輝夜、お前はまだ会ったことがないだろうが、霧雨魔理沙の師匠である魅魔、アリス・マーガトロイドの母と言われる神綺……そして、ライガに八蛇……そして、月風陽と黒空白土……この15人の力が込められている。

そして、この剣自体の力に残った天狗達や河童達の妖怪の力も入った。その力と剣に込められた咲夜の力を使って時間を超えて……ここまで来た。」

 

「……それが、何で俺を殺すことに繋がる。いや、繋がってもおかしくはないが……白土を殺そうという手段はなかったのか。」

 

陽の質問に対して自嘲地味た笑みを浮かべてツキカゼは陽に語り始める。

 

「簡単な事さ……幻想郷が滅んだのは俺のせい……お前だって、白土との戦いでできた色々な事を自分のせいだと認識していただろうに。」

 

「それは……」

 

否定ができなかった。実際そうだったから、自分のせいだと認識していたが故に早く終わらせたかった。

ツキカゼはそんな陽を見越してにやけてから言葉を続ける。

 

「そうさ、俺も同じだ。幻想郷が壊滅したのは俺のせい……そう思ったからこそ俺は過去に飛び過去の俺自身を消すことにしたんだ。

因みに教えてやるよ……未来の白土は俺が殺した……いや、性格には白土では無かったけどな。」

 

「……どういう、事だ?」

 

「簡単だ。あいつは陽鬼とかを憑依した俺に何度か負けた。そのたびに肉体を自身の能力で改造した。

最終的には神狼達に手を出した……そして、そのまま神狼達に飲まれた。改造に改造を重ねた肉体は最早人間どころか生物の原型を保っていない化け物となった。

俺はそんな状態の白土を殺した……勿論、幻想郷が壊滅しきった頃にな。だから白土の能力もこの剣に入っている。

さて……ここまで喋らせたんだ。ホライズン、お前をそろそろ殺してもいいか?」

 

突然名前を呼ばれてホライズンは『何故?』といった表情でツキカゼを見ていた。何故今自分が呼ばれるのか、殺されるのか、というのを理解してないと言わんばかりに。

 

「……過去は語りたくないものでな。殆どは俺が喋ったこととはいえ、きっかけを作ったやつには八つ当たりをしたくなるものさ。」

 

「体、動くんですか?仮に動いたとしても私は殺せない。私の意思に関係なく私の能力は私を生かそうとする。

故に老いず、死なず……狙われようとも自分で命を絶ったとしても関係ない。私はそういう存在なのですよ?」

 

「いいや……お前は死ぬさ……お前は自分のことを死なないと言っているが、実際は死んでから『死んだ事象』を上書きしているに過ぎない。つまり、お前は一度も死んだことがないんだよ……だから殺せる。

お前の能力発揮は死ぬタイミングでなく、死んでから作用する。なら………お前は理論上殺せるんだよ。死んでも、死ななかったことになるだけでな……なら、死んだまま固定すればいい……」

 

ツキカゼは渾身の力を振り絞り、剣のレバーを無理やり動かす。無理やり動かしたせいか、腕から血が吹き出していたが構わずに動かす。

とある絵で止まると、その姿は蓬莱山輝夜に変化する。傷ついた腕は修復され、更に無理矢理で動き続けていく。

 

「……確かに、蓬莱山輝夜ならば傷ができても修復される。しかしその程度……一体貴方は何をする気ですか?」

 

「はは、はぁ……」

 

剣を握り渾身の力で投げるツキカゼ。それはホライズンに向かって飛んでいく。

何をしたいのかわからないホライズンはその剣を避けることなく、敢えて刺さりに行った。

 

「心臓……命中……なら、このままァ!!」

 

ツキカゼはそのまま輝夜の能力を発動させようとする……が、何も起こらなかった。

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「何故、だ……!?永遠と須臾を操る程度の能力ならばお前が死んだ瞬間を永遠に固定に……っ!?俺の姿が……元に……!?」

 

そしてツキカゼの姿は、変化した輝夜から元の姿へと戻っていた。突然のことで驚愕するツキカゼ、そして驚く陽。

ホライズンは剣を取ってから見せつけるようにして剣を持ち上げて、ある所を指で指す。

 

「……剣の、エネルギー残量が……0だと……!?」

 

「考えは悪くありませんでしたよ、考えはね。ただその程度の事で倒せると思ったら大間違いですよ。

そもそも、その剣のエネルギーは私が能力で満タンにしたものです。ならば逆に0にすることも可能だということが分からなかったんですか?

確かに、永遠にはなり得るでしょうね。蓬莱山輝夜の永遠と須臾を操る程度の能力では、私が死んだ瞬間にその死んだ瞬間を永遠にすることで私を殺すことは確かに可能です。

同じ理論でいえば十六夜咲夜の時を操る能力で殺した瞬間に殺した相手の時を止めれば永遠に殺すことが出来る。

ですがその程度、貴方の戦い方の前提である剣のエネルギーを0にしてしまえば終わりですよ……そして……今の貴方本体には限界を無くす程度の能力と創造する程度の能力は残っていない……さて、どうやって勝つつもりですかね。」

 

「ぐっ………ぐうう……!」

 

「返してあげますよ。この剣はね……どうせあなたが来ただけで未来は変わってるんですよ。

だからあなたが知らない戦法をこの時代の月風陽が使っていた……だから黒空白土が暴走することもない。

なんなら……ずっと見ておけばいいでしょう……平和になった幻想郷をね。」

 

そう言ってホライズンはツキカゼに剣を投げる。それはツキカゼに突き刺さってツキカゼは勢いで後ろに倒れこむ……かと思われたが、そのままホライズンが幻想郷に繋がる空間の穴を作り出してツキカゼを空間から排除した。

陽はただ、眺めていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自然豊かな幻想郷、そこには一人の男が倒れていた。体に巨大な剣が刺さった状態で、ぼうっと眺めていた。空を、自然を、幻想郷を。

 

「紫……俺は、何か間違っていたのか……お前を助けたくて、お前を傷つけて……挙句の果てにはこのザマで……なぁ……今からでもお前に会えるかな……消えたお前に、紫……」

 

男は手を伸ばして届かないそれを掴もうと伸ばし続けて……最後には糸が切れたかのように地面に手が落ちた。

それ以降、その男が動くことは無かったという。そして、見つかることもまた……無かったのだという。


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