東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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妖刀妖殺

「……よう、また来たのか?」

 

「あんたは……創造者か。なんであんたがまた俺の前にいる?てかあの本を読んだから俺はあんたと会うことになったんだ。本も読んでなかったはずの俺がどうしてあんたと出会える?」

 

「簡単なことさ、お前の中に俺がいるから会えるんだ。かといって取り憑いたとかそんなもんじゃない。本を読んだから会えるようになったわけでもない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。本はあくまできっかけ、お前と俺がこうして会話するための扉を開くための鍵でしかなかった。」

 

「……意味がわからない。俺は別に二重人格じゃないが?あんたが初めからいたのなら俺は周りの誰かに『二重人格だ』くらいのことを言われると思っていたんだがな。」

 

陽は例の創造者と出会った。そして、辺りを見回すが相も変わらず寂れた場所であることには間違いがなかった。

だが、創造者はまるで少年のような笑みを浮かべて、陽の前に1本の刀を突き刺す。陽はそれを見て目を見開いた。

 

「……何であんたが俺の作った妖刀を持っている?その刀は少なくとも俺がいた時にしか作られていない。

いや、歴史上では確かに存在していることにはなっていたが……」

 

「簡単な事さ。俺に作れないものは無い。形があろうと無かろうと、今存在していようといまいとも、空想上のものであろうとそうでなくとも……俺が生み出せるものはこの世の全て以上だ。

ものだろうと地位だろうと名誉だろうと力だろうと……ありとあらゆるものを俺は作り出せる。故に創造主、異名は事実を元に作られるってね。」

 

「……いや、そもそもここは俺の頭の中みたいなものじゃないか。よく考えれば頭の中のものなんだからどうとでも出来るはずじゃないか。」

 

「なんだ、案外気づくのが早かったな。まぁ夢にしてはかなり現実味があるからしょうがないだろうけどな!ははは!」

 

大声で笑う創造者に陽は呆れていた。恐らくは本当に作り出せるのだろうが、少なくともその能力を使わずに自慢げになっているのを見て、創造者が自分よりも子どもっぽいと思ってしまったからだ。

 

「ま、この妖刀がお前を乗っ取った……訳じゃないだろうけど、お前はこの妖刀に失礼なことをしていた。

だからお前とお前のお付きの天使ちゃんは変に抵抗されていたんだよ。」

 

「……失礼なこと?まさか、刀に意思が宿ってるって言いたいのか?こいつは俺が能力で作り出した奴だぞ?それに俺は意思があるものを作り出せない、魂とかそういうものは作り出せないんだが。」

 

「いやいや、確かに作り出された瞬間は意思なんてなかっただろうさ。けどな、切った妖怪の力を吸う刀……しかも限度がないものだ、そんな強い能力があるのに意思が宿らないわけがない。

会話はおろか喋ることすら出来ないだろう……けどな、こいつは欲しがってるんだよ……『名前』をな。」

 

「名前?また何で……」

 

「当たり前だ、誰だって誰かに自分の名前は呼ばれたいと思うもんさ。こいつもそう願っている……だからこそ、名前で呼ばれるまでは使用者の意識を乗っ取ってでも使わせないようにするのさ。

だからよ、今ここでもいいから名前を考えてやりな。」

 

そう言われて陽は地面に突き刺された妖刀のレプリカをじっと見つめる。そしてじっと見つめて見つめて見つめ続けた。

名前を思いつくまでひたすら考え続けた。そして━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここ、どこだ……」

 

「博麗神社よ、ようやく目覚めたわねこのぽんこつ主。お外で付き人が待ってるわよ。天使さんもあなたよりも早く目覚めたんだもの、よく出来たお付きだこと。」

 

陽は起き上がって頭を抑える。頭痛が起こった、などでは無かったが夢の内容があまりにも現実味がありすぎていたのだ。

だが、あまりそのことを深く考えていても仕方ないと、陽は頭を振ってそのまま外へと出ていく。

そこには陽鬼、月魅、黒音、光の4人に白土もいた。

 

「陽ー、やっと起きたんだねー」

 

「マスター、お体は大丈夫ですか?」

 

「全く……手間をかけさせてくれたのう……本当に。」

 

「……」

 

陽はぐるっとみんなを見回してから地面に座り込む。白土と陽は軽く目配せをした後に、改めて陽鬼達に向き直る。

 

「みんな……俺はこいつと、白土と一旦協力することになった。話をしなかったのは悪かったと思っている。

けど……できれば協力してほしい、白土の妹の……杏奈ちゃんを助けるために。」

 

「……」

 

全員、頷くことは無かった。だが、否定的な言葉をかけられるかと思っていた陽は、次の陽鬼達の行動に驚いた。

光を除いた3人はため息こそ吐きはしたものの、3人とも笑顔を向けてくれた。それが肯定の意だと理解した陽はホッとしていた……が、その流れを断ち切らんばかりに話を進めたいと、白土が陽達の間に入ってくる。

 

「……刀、使えねぇ癖にどうするんだ?妖怪である以上、そこの白チビ除いた全員が触れねぇんだろ?

巫女である筈の博麗霊夢ですら掌を火傷するほどだしな。お前が使って操れるとは到底思えないが?」

 

「……ま、その辺の対策は出来てる……というよりも教えて貰った、という方が正しいか。

まぁみてろ、多分俺になら……ちゃんと扱える……」

 

そう言って陽は再び刀を手に取り素早く抜き去る。瞬間、黒いオーラが陽の体を覆うが……()()()()()()()()()()()

それを見た白土が目を見開いていた。同じように陽鬼達も驚いていた。

 

「……俺が光を憑依させて暴走したのは、こいつが癇癪を起こしたからだ。だから、こいつが癇癪を起こさずにする為にはある事を……『名前』を付けてやる事が必要だったんだ。」

 

「……名前、だと?」

 

「『妖怪の力を吸う刀』という存在でしかなかったこいつに、俺は名前を与えた。『妖刀妖殺(あやかしごろし)』それがこいつの名前だ。

妖怪を切り、その妖怪の源を断つ……力を吸い取ることで妖怪が妖怪たらしめるものをありったけ吸い取っていく。

物理的に殺す刀じゃない、存在を殺すために刀だ。」

 

「……そいつがありゃあ、どんな奴でも殺れるんだな?」

 

「切るやつが攻撃そのものを無効化してしまえば終わりだがな……慧音の歴史の創造を使わないとできない芸当だった。

しかもそこまで綿密に詳しく作れるわけでもないから余計にな。」

 

陽は妖刀……妖殺を再び鞘に収めて帯刀する。切られてしまえばどんな妖怪だろうと存在そのものを殺す刀、この幻想郷においては危険すぎる刀が今ここに誕生したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どう、するつもりなの?その妖刀……貴方が扱うにしても流石に危険すぎるわよ?

貴方が、じゃなくてその妖刀そのものが……よ。吸収した妖怪の力を吸収するなんて……聞いてる限り、能力が能力だけにその刀の使用は認めるけれど、目的が終わったらその刀は封印させてもらうわ。念入りにね。」

 

「あぁ……構わない。悪用されるくらいなら封印してやった方が温情だからな。幻想郷のどこかに……誰も手出しができないくらい深いところに……封印しないとな。」

 

陽は八雲邸に戻ってから紫に諭されるように説教されていた。勝手に色々したこと、幻想郷にあってはならない力を生み出してしまったことなど。

しかし、紫はそれでも怒っていなかった。白土の話を後で聞いたからだ。『仕方ない』で済ませる気は毛頭なかったが、しかしそれほどの相手ならば今回限りは、と甘えを出していたのだ。

 

「……とりあえず、明日のために今日はもう寝なさい。明日、向かうのなら……私は止めないし手助けもしないわ。

無事に帰ってきたら、一緒にご飯食べてまた一緒に生活していく……帰ってこれなかったら……少し、寂しくなるだけ、だから……」

 

紫の言葉は段々と尻すぼみしていく。陽はそれを聞いたあと無言で部屋へと向かう。

既に空は暗い夜に沈んでいて……それでいて明るい月がまるで闇を照らすかのように輝いていた。

 

「……ねぇ、陽。何も言わないでよかったの?紫、ちょっと悲しそうな顔してたよ。」

 

「言ったところでしょうがないさ。

紫も俺の考えていることをわかっていてあんなことを言ったんだ。だつたら、余計な言葉を喋らずにさっさと買って戻ってきた方が……俺にとっても紫にとってもいい結果になるさ。」

 

「……マスターがそういうのなら、私は止めません。ですが気をつけていてください。私も貴方も……いえ、私たち全員が知らない相手と戦うことになってるんですから。」

 

月魅が陽に注意を入れる。しかし陽は疑問に思っていた。白土の言う相手が本当に自分の知らない相手なのか……と。

何故か見知っているような感覚が今の陽には存在していた。しかし、いくら考えていてもしょうがないことだと割り切って今日はもう休むことにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来たか。」

 

朝、八雲邸を出た陽は草原で白土と出会っていた。白土の側には三人の女性、神狼であるフェンリル、ケルベロス、ティンダロスの3人。

そして陽には鬼の子陽鬼、月の精霊月魅、特別な吸血鬼黒音、天使光。今この場に9人の人物が揃った。

 

「……今更聞くことじゃないが、そいつのいる所へ俺らは行けるのか?そう簡単に入れてくれそうにないと思うんだが。」

 

「あいつの匂いは覚えた……ティンダロスの能力とフェンリルの能力の組み合わせで次元に一時的な穴をぶち開ける方法が出来ている。

そして後はあいつの匂いと空間にいる時の諸々の記憶全てを……頼りに俺は動く。入った瞬間に目の前、もしくは後ろにいるかもしれねぇが……その時は頼むぞ。一気に俺は杏奈のところまで駆け抜けるつもりだからな。」

 

「その点に関しては任せろ……で、そこまで行く点に関しては任せる。」

 

「おう……足止めだけは……頼んだ……ふん!」

 

白土が腕を振りかぶると、そこに一本の線が出て来る。それは段々と広がって人一人が入るには申し分ない大きさの入口が出来上がる。

それができた瞬間に、陽と白土はその入口へと飛び込む。しばらくは浮遊しているとも落下しているとも取れる感覚を味わう。空間を無理やり繋げた弊害だろうか……とうっすらと陽は考えていたが……すぐに出口が見え、そのまま飛び出す。

 

「そう、だから貴様らはここで……!」

 

「っ!」

 

突如現れるツキカゼ、切りかかってくる相手に対して陽は咄嗟に妖殺を作り出して攻撃を防いでそのまま鍔迫り合いへと持ち込む。

 

「ふっ……!」

 

即座に狼化して、白土は陽に目もくれず一直線に突き進み始める。ツキカゼは白土を一瞬確認した後、そのまま陽と距離をとるために後ろへと飛ぶ。

 

「……なるほど、協力してたってわけだ。」

 

「あまり驚かれるのも癪だが……驚かれないのは素直に気に食わんもんだ。だが、いいのか?あいつ一人をほうっておいて。」

 

ツキカゼは陽に向きながら問う。しかし、その問うてる相手は陽ではなく、陽の後ろにいる誰か、だと視線の向きで陽はそう感じ取っていた。

 

「……どうせ、私には抑止力足り得る力はありませんからね。ここで見学させてもらいますよ。

彼が貴方に勝つまでは、ですけど。」

 

「ふん……まぁいい、お前を倒すには……十分だ。」

 

「勝てるかな?傍若無人な……天使様によ。陽鬼!月魅!黒音!3人は見ておくだけでいいからな……聖光[降臨天使]!」

 

陽がスペルを唱え、光が光の束となり陽へと収束していく。そして青い髪は白くなっていく。

 

「……その、スペルカードは……!」

 

「……さて、僕と勝負しようか……天使の光で浄化して、そのまま昇天させてあげる。」

 

「……面白い、天使と相手とすることになるとはな。それも傍若無人と来るか……自己中心的な天使を叩き切るには!黒い切り札の一撃だけでいい……!合致[ダブルジョーカー]!」

 

大きく声を出してそのスペルを剣に唱えさせるツキカゼ。瞬間、刀身が黒くなり禍々しいオーラを発するようになる。

陽はそれを見てもただ淡々と弓を構えるだけであった。

そして、陽が矢を放ちツキカゼが構えたまま走って陽に近づき始めたのは同タイミングだった。

取り戻すための戦いが今、始まる。


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