東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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暴走天使

「……陽のやつ、何やってやがんだ……もう既に昼を超えたぞ……」

 

どこかの森の中、陽からの連絡を待っている白土達がそこにいた。彼は捕えられた妹を助けんがために今回今まで敵対していた陽との共闘を希望、それが叶った今後は陽が持ってくるであろう秘策とやらをただじっと待っていた。

 

「……のう、儂ら騙されたんじゃ無いのか?本当に今更な話じゃが、今まで自分を殺してきた相手を信用するなんて上手い話、あるとはやはり到底思えないのじゃ。

協力する振りをして儂らを利用しただけの可能性はないのかの?」

 

「それに対する回答も昨日答えただろ、もし利用しているだけなら利用しているで考えがあると。

それに今回に関してはこのタイミングで見捨てるメリットがないだろ。単純に俺に嫌がらせしたいだけなら兎も角な。」

 

「……だが、実際の話出来すぎているとは思う。お前の今まで殺そうとしてきている相手はどこか壊れているんじゃないのか?まともな神経をしていたらこういうのは引き受けないのが筋だと私はやはり思うぞ。」

 

フェンリルがティンダロスの意見に同調するように答える。別に、白土もそれを考えなかったわけではなかった。しかし、その『まともな神経』と言うのがなんなのかわからない以上、彼にはそういう否定は入らなかった。

そして、そんなことを話し合っている最中。白土は遠くから何かが近づいてきているのを確認した。

 

「……おい、向こうから飛んできてるあの白いの……あれなんだか分かるか?俺は何故か陽に見える。」

 

「安心しろ、私達もだ……だが手に何か握っているな……あれは刀か?しかもただの刀……まともな刀じゃないことだけは分かるくらいには中々の威圧感を感じるよ。」

 

白土達が陽だと認識したそれは、白土達を見つけるととんでもない速度で飛んでくる……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!ティンダロス!!」

 

「もう既にお主を最後に取り込む準備は出来ておるわ!!」

 

ティンダロスが白土の服を掴むのと同時に白土は外に大量の正方形を捨て去りながら紙へと吸い込まれる。

その紙と白土がばら撒き捨てたものは陽の斬撃で大量に切り刻まれてしまうが、運良く一つだけ形を保っているものがありそこからティンダロス達は出てくる。

 

「あぶねぇな!何しやがる陽!」

 

「いやいや!妖怪が何言っちゃってるわけ!?人に迷惑をかけるものは森羅万象一切合切有象無象全て切り捨てる!

天使っていうのは人間の自由と平和と安心と安全と健康と……とりあえずその他諸々を守らないといけない存在なんだよ!妖怪は1から100まで全員悪!とりあえず裁きが来るまで大人しく待ってないとダメだよ!」

 

「……白いし、自分のことを天使って言ってるってことは……あの小さいガキを憑依させたか。だが、天使の清廉さというか……そういう正義感が変な方向にぶっ飛んでやがる……ある意味でこれは暴走か。理性がある分めんどくせえかもな。」

 

「暴走!?いやいやいや!天使である僕がそんな野蛮人みたいなこと起こすわけないじゃないか!それと、話をすり替えようとしてもまったくもって無意味だよ!

僕にはその手のすり替えなんて無意味だからね!!何せ僕は絶対正義の天使!間違いなんてのはありえない!あとそれと━━━」

 

元気よくハキハキ喋っている陽を尻目に白土はボソボソ声で3人の神狼達に対して話し始める。

 

「……採決を取る。今殴る、話し終わってから殴る、逃げる。今お前らが選ぶ選択肢はどれだ、ケルベロスはちゃんと一人の意見で頼む。」

 

「斬撃の形をした弾幕を放てる以上あまり刺激するのは良くない……が逃げるというのは大いに賛成、殴るのは論外。」

 

「私も左に同じ、今すぐ逃げる。」

 

「儂も同じ…というわけでわしの能力で一旦逃げるのじゃ。」

 

陽が元気よくハキハキ喋っていながら紙を用意してティンダロスの能力を使ってその場を脱する4人。しかし陽はそれに気づかず延々と何かの演説を行い続けていた。

 

「━━━というわけで天使っていうのは無茶苦茶偉いし神様にも意見できるとんでもない種族だってことが……もう居なくなってる!?何で!?僕の天使講座そんなにつまらなかった訳でもないのにどうして!?

おーい!どこにいったのさー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここなら大丈夫だろう。」

 

白土達は博麗神社のお賽銭箱の角から出てくる。目の前に座っていた霊夢が軽く驚いていたが、そんなことを気にしている余裕なんてものはなかった。

 

「……あんた達、何してんの?とりあえず一発ぶん殴っていいかしら?いきなり人の賽銭箱から現れるなんて泥棒と思われても仕方ないわよ?」

 

「……ちょっとだけ待ってくれ。今それどころじゃねぇんだよ……おい博麗霊夢、お前八雲紫がどこにいるか分かるか?」

 

「紫?そんなの大体私が呼べば来るわよ……アイツ仕事してるんだかしてないんだか分からないけど、大体呼んだ時は来てるわ。呼ぶことも早々ないんだけれど。

で?呼んで何するつもり?言っておくけれど紫はあんたじゃ追いつかないほど強いわよ?」

 

「別に戦う気なんてねぇよ、ただものすごくめんどくせぇことが起きてんなって思っただけだ。」

 

「……ちょっと話してみなさい。それで呼ぶかどうか決めるわ。」

 

白土は少し考えた後、霊夢についさっき起きたことを話した。霊夢は黙って話を聞いていたが、話を聞き終わってそのまま白土に背を向けて神社の裏にまで移動していく。

白土は、それについて行った。

 

「紫、紫……いるんでしょう?いなくても聞こえてるんじゃないかしら?どうせ今の話も聞いているんでしょう?」

 

「……?」

 

霊夢は虚空に向かって呼びかける。白土は紫を呼んでいるのかと思ったが、言っていることからただ呼んでいるだけではない事だけは良くわかった。

 

「……いるわよ、ついでに言わせてもらえば話も聞かせてもらったわ。彼の言っていることを確認しに言ってたのよ、確かに言っていることは本当のことよ。

なぜああなっているかは分からないけど……」

 

紫はそう言いながら霊夢と白土と間に出てくる。白土は驚いたが、すぐに頭を振って落ち着きを取り戻す。

 

「……多分、偶発的なもんだろ。俺もよくわからんが手に持ってる妖刀のせいであの天使のチビガキを憑依させる必要があったんだろうよ。」

 

「私のところでしたのよ、憑依。けどてっきり既に元に戻ってるもんだと思ってたけど……そんな面倒くさい性格になってたのねぇ。

天使って慈悲を与える存在って話じゃなかったっけ?完全に敵対しているものを叩き潰そうとしているようにしか思えないわ。」

 

「どちらかというと試練を与える方でもあるわよ。悪魔と違って規律正しく生きていかないといけないものって言われているんだから。」

 

「……で、どうやって元に戻す気だ?あの様子だと言葉を喋ってるだけで会話する気が一切ないぞあの似非天使。

妖怪は1から100まで全員悪って言い切るくらいだからな、何とかして戻さないと洒落にならねぇよ。八雲紫、お前の能力で陽からあのチビガキ引っ張り出せねぇのか?」

 

白土の問い掛けに紫は即座に首を横に振る。出来ていればもう既にしているだろう、白土もそれが分かっていたがとりあえず聞いておきたかったのだ。

 

「……まぁ、可能性があるとすれば過度のダメージを与えることだが……あの刀があるせいで近づきようがねぇ、触れたらやべぇやつだろうしよ。」

 

「そりゃそうよ、あの刀は斬った妖怪の力を完全に吸い取るとかなんとか言ってたしね。なんでそんなもんを手にしてたのか分からないけれど、まぁ妖怪じゃあ危なっかしすぎてまともに戦えないでしょうね。」

 

「……霊夢、せめて手加減してあげてね?あの子の意思で暴れているわけじゃないから……」

 

「ったく……あいつには甘いのね……大丈夫よ、やりすぎたらすぐに治るようにしてあげるから。

それじゃ、行ってくるわ。」

 

そして霊夢は飛んでいく。紫もついて行こうとスキマから完全に体を出して空を飛んでいく。白土は大きくため息をついて博麗神社の中に入り、二人が帰るのを待つことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あら、あんな所で伐採作業してるわ。丁度いいわね、一撃ぶちかましましょうか。」

 

霊夢は空を飛んでいる内に陽を発見する。何かに怒っているのか辺り一面を刀で切り倒していっているが、霊夢はそれをチャンスだと思ってまずは不意打ちで高速で近づきながら陽の背中に強烈なキックをお見舞いした。

 

「んげっ!?がふっ!うごっ!」

 

陽はその場で転がりながら木にぶつかって倒れる。その後フラフラとしながらもなんとか立ち上がって、頭を振って霊夢のことをじーっと見始める。

 

「……巫女さん?なんで人間……それも巫女さんが天使のこと蹴るのさ……僕何も悪いことしてないよ?ただ僕の前から逃げた妖怪を探してるだけで……」

 

「妖怪退治を天使なんかに任せた事は無いわ。それに、悪事を現状働いてないやつを制裁する気は無いの。今までの罪を償わせるのはどこぞの閻魔だけだから。」

 

「……?存在が悪だから存在そのものが悪いことをしている様なものなんじゃないの?だって妖怪だよ?悪いことをしない妖怪なんていないよ?」

 

「じゃああんたは何をもって妖怪の存在そのものが悪だって断定している訳?」

 

「そりゃあ悪いことし続けているんだから存在そのものが悪じゃないか!何を言ってるのさ!!」

 

「じゃあその悪い事って?」

 

「何度も言ってるじゃん、存在そのものが悪なんだから存在していること自体が悪なんだよ!?」

 

「はぁ……」

 

霊夢は面倒くさいと思っていた。この少しの会話で理解したが、人間の黒さが天使を憑依させたことで、性格が変な形で表現されてしまっているのだと。

もしかしたら妖刀が乗っ取っている可能性もあるが、特別妖刀から発せられる黒いオーラが感じられなかったので霊夢はその考えを一旦捨てていた。

 

「とりあえず、自然を荒らしちゃってるしあんたは一回シメるわ。それで反省してくれるならそれっきりにして上げるけど━━━」

 

霊夢は言い切る前に体を回転させて蹴りを当てる。突然陽が刀を持って突撃してきたのでとりあえず攻撃される前に反撃したのだ。

 

「反省する気は無いみたいだからぼこぼこにするわ。安心しなさい、悪霊に乗っ取られてるみたいなもんだからその後で後遺症が起こらないように色々手を回してあげるから。」

 

「僕に仇なすものは総じて僕が制裁してやる!安心しなよ!今どれだけ僕に悪逆非道な行為を行おうとも、ちゃんと天国へ行けるように昇天させてあげるからさ!!代わりに自分の肉体がどんなのだったか分からなくなるくらいにぼこぼこにしちゃうけどさ!!」

 

『怒ってるなぁ』とまるで他人事のように思っている霊夢。気をつけなければならないのが、手持ちの刀だけでそれも当たらなければ意味がない……と考えているが、未だどんな戦い方をするのかわからないために一応注意はしていた。

 

「とりあえず千切りにして上げるよ!!」

 

先程よりも早い速度で突っ込んでくる陽。人を殺すのに躊躇がないやつほど戦う相手としては戦いやすいものはないが、同時に面倒くさい相手でもあった。

戦闘ジャンキーではないだけマシだが、血を見せればそれこそどんなことになるか溜まったものじゃない為に1度も傷つけられないように戦わなければならなかったり

 

「なら私は千切りならぬ千殴りとするわ。数えるのが面倒臭いから千回超えるかもしれない……けどっ!!」

 

陽の妖刀に対して霊夢はお祓い棒で応戦する。高い金属音が刀から鳴り響くが、陽はそんなこと気にせずに果敢に攻めていた。

しかし霊夢は涼しい顔でそれをお祓い棒を持った片手で受け流し続けていた。

 

「おっと……危うく私の髪の毛切れかけたわ……っと!」

 

霊夢は隙を突いて膝蹴りを陽に当てようとする、しかし咄嗟に陽が妖刀でガードしたことで吹っ飛ばしこそ成功したものの、ダメージを与えることは出来なかった。

 

「……これだけ僕の愛を否定するなんて、許さないよ!」

 

「許してもらわなくて結構、私の罪は私自身が決めることよ。その罪をどう贖うかも……私のものは全て私が決める。」

 

その言葉とともに霊夢と陽はまたぶつかり合うのだった。


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