東方月陽向:新規改訂   作:長之助

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創造主

「……珍しいよな、俺と光だけがいる状態なんて。」

 

「そうなのです……今日に限ってまさか他3人にに急用が入るなんてかなり珍しい事なのです。」

 

「陽鬼は慧音に呼ばれて寺子屋の荷物運び。月魅は妖夢に呼ばれて不定期の剣術指南。そして黒音は紅魔館に行ってパチュリー、魔理沙、アリスの三魔女と話し合い……用事がなくて暇なのは俺達だけだったって事だ。」

 

暑い日差しが照っている人里で陽と光は木陰で休んでいた。

暑すぎると言っても過言ではない日差し、耳障りだが聞き慣れた蝉達の鳴き声。そしてその蝉を捕まえんとする子供たちの騒ぎ声を感じながら陽は大きくため息をついていた。

 

「……にしても、本当に全然刺されないのです。虫刺されというのは、この季節において風物詩と言ってもいいくらいのものだと聞いていたのです。」

 

「そりゃあ虫がよってこなくなるスプレーを能力で作り出したからな……流石に蚊に刺されるのは俺も昔から嫌だったし……」

 

軽く空を見上げて陽は再度ため息をつく。空は雲一つない青空であり、その為に照っている日を防ぐものが何もないと考えさせられただけで憂鬱になってしまうのだった。

 

「ご主人様は眩しい光が苦手なのですか?」

 

「ん?いや、別に日の光は苦手じゃないよ。むしろ暖かくて好きだ。

ただまぁ……夏場とかの暑い日差しとか、ミンミンでかい鳴き声で鳴くセミとかそれを捕まえようとする子供とか……そういうのを全部ひっくるめて暑いのがちょっと苦手って感じだよ。」

 

「私は……夏は、好きなのです。」

 

「意外、って程でもないけど何でまた夏が好きなんだ?光はどっちかというと春の方が好きそうだが。」

 

「確かに春も好きなのですが……この季節にだけ食べられる『アイスクリーム』が美味しかったから……この季節が好きなのです。」

 

光はそう言って記憶を思い直すように目を瞑る。そして、陽は陽でそんな光の為にアイスクリーム作ってやろうと思い、今回の買い物で余ったお金を使って氷などの素材を買おうと決心したのであった。

 

「ご主人様は夏は嫌いなのです?」

 

「まあ、暑いしね。服も汗だくになるから1日2回は着替えてた気がするし。

けど、そこまで嫌いってわけでもない。アイスクリームは確かにこの季節だとすごく美味しいし、汗をかいた後に麦茶を飲むのも好きだしね。

どちらかと言うとこの季節は苦手な部類なのかもな。」

 

「……苦手、ですか。」

 

ミンミンと合唱するかのように鳴き続ける蝉達。偶に陽はセミが一週間の命じゃなくて、実は1ヶ月くらい鳴いてるんじゃないのか、とか考えていたりもしていた。

 

「ま、とりあえず……ちょっとだけ寄り道してから帰るとするか。

余ったお金で光に何かご馳走してやろう……ってもう何にするか決めてるけど。」

 

「っ!ありがとうなのです、ご主人様。」

 

光がお礼を言って、二人は歩き始める。陽は光に何を作るか内緒にして、アイスクリームを作る予定でいた。

驚いて喜ぶ……とは言っても光は基本無表情なのだが……とりあえず陽は、そんな彼女の喜ぶ顔が見たかったのだ。

 

「……ん、あれ?」

 

「どうしたのです?」

 

「いや、今そこに何か通ったような……」

 

しかし、木陰から日差しの外に出た瞬間に何かが通った感覚があった。

陽はそれが無性に気になり、ついて行った。

通ったのは目の前、そしておそらく通ったであろう者はまた路地裏に入っていった……陽はそれを追いかけようとして……意識の混濁を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?ここは……」

 

陽は見知らぬ場所に来ていた。先程までは光と一緒に買い物に来ていた……否。

 

「俺は……家にいた、筈だよな……?」

 

最後に記憶しているのは家で本の最後のページを読もうとした時だった。

そこから意識が混濁して、何故か光と買い物をしている記憶があった。今にして思えば、みんな寝ているはずなのに何故買い物をしていたのか、謎ではあるが今気にしている余裕はなかった。

 

「……なんだ?向こうから声が……」

 

見知らぬ荒れ果てた土地で、陽は声を聞いた。それも大勢……とんでもない数の人数が大声をあげているかのような音を聞いた。

 

「……あれ、は?」

 

声の元にたどり着こうとして移動すると、1000人、いや一万はくだらない量の人数がそこにはいた。

それが、なにかに向かって大行進をしていた。何に向かっているのか分からないため、その場に留まりながら陽は双眼鏡で進行方向を見る。

そこには、一人の男がいた。あまりにも遠いところにたった一人。あれに向かっての大行進だとするならば、あれは一体どれほどの戦力を投入しなければ勝てないのか、ということをふと考えていた。

 

「……ふっ……」

 

そして、その男が動いた。

一瞬で手に剣を作り出してその剣を大軍に向かって奮った。当然、刀身がとんでもなくでかい、という訳でもなく陽にはただ虚空を切り裂いたようにしか見えなかった。

だが、次の瞬間━━━

 

「っ!?こ、この風は……なっ!?」

 

男が剣を奮った先、その直線状にいるはずの大軍は全て消え去っていた。唐突に突風が巻き起こったかと思えば、万を越す大軍はその一瞬で全員消え去っていたのだ。

 

「……こんなもんか。天を斬り地を裂き空を叩き割る……名付けて空間断裂剣と言ったところか。

雑魚どもは空間の狭間に飲まれて消えた、って所か……相変わらず、雑魚しかいねえなぁ人間ってのは。」

 

陽は絶句しながら見ていた。男の言うことが本当であるならば、男は空間を切り裂くような剣を一瞬で作り出す能力を持っていたのだ。

明らかに自身の能力とは比べ物にならないほど強い能力、例えて言うならば最強の後出しジャンケンのようなものである。

 

「……なぁ、お前もそう思うよなぁ?妖怪。」

 

「……見えて、いるのか?」

 

「当たり前だ。ここは過去の世界だとか幻術だとかそんなもんじゃねぇからな。所謂本の中の固有空間、お前は本に意識を食われてたのさ……ま、その前に何かいい夢を見てたようだがな。」

 

陽はいつの間にか自分に近寄っていて、自分に声をかけてきた男を睨みながらも応対していく。機械的に与えられた答えに返している、という風でもなかったので本当にここにいる人物なのだろう。

 

「……本、って俺が読んでたあの本か……その能力……あんたが本に書かれていた創造主ってやつか?」

 

「そんなところだ。だがまぁ……この世界だと雑魚が同じように何回も何回も出てきやがる。

お前、相手してくれないか?」

 

「……俺はそんなに強くないさ。悪いが、何とかして俺は帰らせてもらうぞ。

ここにいた所で何かあるというわけでもないしな。」

 

そう言って陽は踵を返して帰ろうとする。だが、その瞬間目の前に壁ができて前に行けなくなってしまう。

陽はすぐさま男を黙って睨みつける。

 

「そんなに怒るなよ。俺は誰とでも戦いたい性格なんだ。こんな能力を持ってんだぞ?有効活用しないといけねえじゃねぇか。まるで雑魚どもは蹴っ飛ばされた砂のごとく吹き飛んでいく飛んでいくしよ、そういうのも見てて悪くはねぇがすぐに飽きが来ちまうからな。

だから……俺は強い奴と戦いてぇんだよ。だから戦わせろや……」

 

「……お前を倒さないと進めない、って言うんなら望み通り……相手してやる、さ!!」

 

そういった瞬間に陽は男が作った空間断裂剣を即座に作り出して、男に向かってその斬撃を向ける。

だが、男も同じ考えだったようで同じく空間断裂剣を陽に向かって奮っていた。

空間を切り裂く剣同士のぶつかり合い。その衝撃は二人の間にさらなる空間の歪みを作り出す。空気や、土や、雲でさえも出来た歪に飲み込まれていく。そして、そんな強烈な吸い込みを発揮しているものに二人の体が耐えられるわけもなく━━━

 

「おおおおおおおおおお!?」

 

「うわぁぁぁ!?」

 

あっけなく飲み込まれてしまうこととなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様、ご主人様……!」

 

不意に体を揺さぶられる感覚、寝ぼけている頭で目を開けて、その目の中に飛び込んできたのは白い髪を持った少女であった。

そして、それがすぐに光だと分かると陽はすぐさま起き上がる。

 

「今……朝か?」

 

「なのです……私が早めに起きてて助かったのです。もし他のみんなが起きていたらまたご主人様が知らない間に永遠亭送りになるところだったのです。」

 

「それは聞いてて頭が痛くなる話だな……まぁでも、起こしてくれて助かったよ光。ありがとう。」

 

お礼を言いながら陽は光の頭を撫でる。少しだけ頬を赤く染めながら光は照れていた。

少しだけ光がいつも以上に可愛く見えてしまったのはまた別の話。

 

「……とりあえず、丁度いいしご飯の準備をするか。光、悪いんだけど準備手伝ってくれるか?まだちょっと頭がぼーっとしてるからさ。

とりあえず俺はこれ片付けるから……そうだな、まな板と適当に調味料出しておいてくれ。調味料でメニュー決めるから。」

 

「分かったのです。」

 

光は了承して、まな板を出して調味料を選び始める。陽はその間に未だ乾いていない本の切れ端を部屋に持って帰ってタオルで包んでから、それを自室の机の上に置いてからまた台所へと戻る。

 

「……出されてるのは醤油と、昆布出汁か。」

 

海のない幻想郷でどうやって海藻が取れていたのかはわからないが、それで作った出汁を出されて陽は即座に主菜と副菜を決める。

そして、手足がちゃんと動くことを確認してから作り始める。

いつもよりも遅い時間に起きたみたいだが、それでもみんなまだ起きてこないのに少しだけ安堵していた。

そして、十数分もすれば大体のものが完成していた。

 

「……これは別に冷めても美味しいやつだとして……さて、みんなを起こすか。」

 

ある程度作り終えてから、皆を起こしに行く陽。だが、その前に光が全員を起こしていたらしく、欠伸をしながらも全員部屋に入ってくる。

 

「おはよぉ……今日のご飯はえらく簡素なのね……」

 

「まぁ、昆布出汁の冷やしお茶漬けと卵焼き、それに鮎の切り身を醤油で軽く焼いたものだからな。

けどまぁ食べやすいとは思うぞ。足りなかったら適当にもう一品作るけどな。」

 

「早く食べようよぉ……眠いしお腹減ったしで大変なんだよぉ……」

 

そう言った陽鬼に少し苦笑したが、陽は既に出来たものを並べ始める。全部並べ終わったところで全員揃っているかの確認をしてから食べ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……意外とお腹いっぱいになるものなのね……お茶漬けだから量が足りないと思ってたわ。」

 

「あれでも1膳は用意してたからな。それに焼き魚と卵焼きもある訳だし足りないなんてことはないと思うよ、陽鬼以外は。」

 

「あぁ……お茶漬けが気に入ったのか何杯も食べてたものね。普通あんなに食べるものでもないでしょうに。」

 

陽は、炊いてあったご飯がすべて無くなっているのを再度確認してため息をついていた。

そして、ふと夢の話を思い出していた。

 

「……なぁ紫、誰も勝てないくらい強い能力を持った人間っていたのか?何でも作り出せるような、俺とは違う完全にいろんなものを創造できる能力を持った人間……」

 

「さぁ……私には分からないわね。あの本に書かれている創造主とやらでしょ?あれが本当にいたのなら少なくとも今でも地獄にいると思うわ。そうでなきゃあんな危険人物を転生させる可能性のある冥界へは連れていかないわよ。」

 

「……それもそうだよな。」

 

陽は言葉上納得したが、内心ではイマイチ納得出来ていなかった。ならばあの幻に出てきたのはただの夢なのか?となるためである。

彼にはあれが夢だとは到底思えていなかった。そして、もう一つの夢……光との夢は一体何の意味があったのか、何かの暗示だったのか……彼にはそれが何なのか、よく分からずにいたのであった。


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