「蒼炎[
青い炎が剣先から舞い、巨大な炎の塊として一つになる。それを陽は蹴り飛ばしてツキカゼに向かわせる。
ツキカゼは未だレミリアの姿だったが、運命操作で陽の攻撃を陽に当てようとしても攻撃は当たらず、レミリアのスペルカードを唱えようとすれば即座に邪魔が入る。
なれば一番スペルを唱えやすい人物にならなければならないと思い、一旦元の姿に戻してから━━━
『07[十六夜咲夜]』
機械音声が鳴り響き、ツキカゼの姿は咲夜の姿となる。無論、その能力も使える訳で━━━
「お前自身に能力が通じなくとも……この世界すべてを対象にとるこいつの能力なら……お前の時間も止まる。ナイフで串刺しになるといい……奇術[ミスディレクション]」
止まった時の中では動くこと能わず。それは本来の持ち主である十六夜咲夜の主、レミリア・スカーレットでさえも例外ではない。この技を避けられるのは凄まじい動体視力とそれに追いつくだけの動きを持っているものである。
「っ!」
時を動かせば、その瞬間に陽の周りに配置されたナイフが一気に動き始める。限界をなくす能力を使い、動体視力とそれに伴う体の速度を手に入れるには既に遅い、ならばどうするか?
「月蝕[欠ける月]!」
スペルを唱えて、そのダメージを全て受け流す。という方法を陽はとった。周りに配置されたナイフから与えられるダメージはよほど高かったらしく、一気に陽の後ろにある月が半分以上欠ける。
「ちっ……!」
「このまま……一気に決める!!」
「舐めるな……!」
『09[蓬莱山輝夜]』
剣のレバーを動かして再度スペルを唱え直すツキカゼ。咲夜から今度は輝夜へと姿を変えて弾幕を放ち始める。
「輝夜か……また厄介なのを……!」
「剣のエネルギーが切れて元の姿に戻るのが先か、お前が先にバテるかの勝負だ!負けた方はそのまま殺される……わかりやすい勝負になったってことだ。」
「その前に殴り倒す!!」
青白い炎の剣の弾幕を放ちながら陽は叫ぶ、輝夜となったツキカゼもそれに対抗するかのように弾幕を放ち始める。
お互いの弾幕がぶつかり合い、流れ弾で周りの木々や地面が抉られていく。その光景はごっこと言うにはあまりにも緊迫しすぎていて……まともなものは近づけられない状況になっているのだった。
「あのやりあっている中に入るのですか?」
「流石に無策で入れば駄目じゃろうな……まずツキカゼを叩く、今なら奴は本気で攻撃すれば避けるなりなんなりするじゃろう。どうせならそのまま倒されてほしいのじゃが……不死特性すらも受け継いでおるじゃろうしそれは厳しいじゃろうな。」
「と、なると……結構本気のをぶつけないといけないわね。消し飛ばすくらいの勢いじゃないと案外吹き飛ばないものよ。」
「しかし……偽物とはいえ本物と遜色ない力はあるのだろう?一体どうするつもりなんだ?」
「それを簡単に思いつければ苦労はしないわよ……」
ツキカゼと陽がやりあっているのを見ながら霊夢達は考える。気づかれないように一瞬で消し飛ばす、気づかれてしまえば避けられて益々面倒になる。そういうことを踏まえた上でどうやってツキカゼに近づくかを考える。
「……姿を消す魔法とか使えないの?」
「使えん事もないが無理じゃな、流れ弾があんなにある中で姿を見え失くした程度では無理じゃ。攻撃を弾くことなく、全てを避けながら近づくなんてこと普通は出来ないじゃろうて。
お主が行くにしても結界を使わずじゃろ?相殺が7割3割は流れ弾なあの状況、その上お互い一歩も動いていないとかならまだしも動きまくりじゃ……透明化で近づけるほど甘くはないのじゃ。」
「そうよね……あんなかをただ避け続けるのは私でもしんどいわ。
あ、慧音……あんたの能力でどうにかならないのかしら?今なら歴史を食う方の能力なら使えるでしょ?」
「……私のはあくまで歴史を食らうだけだ。事実を食らう訳では無い。永夜異変の時のは人里を隠すためだけに、人里があるという歴史を食ったんだ。本当にあそこにあった人里が無くなったわけじゃない。だから今ここであいつらが戦った歴史を食おうが、怪我したやつの歴史を食おうが何も変わらない、事実は変わらないんだ。」
「……その能力使い勝手悪いわね……まぁいいわ。しょうがないし……無理やり割り込みましょうか。他に方法思いつかないし。」
霊夢が何気なく行った一言にその場にいた全員が驚く。普通なら無理だと諦めるような所だが、霊夢はそれを軽く言いのけた。
「れ、霊夢!君が強いのは分かっている事だが、いくらなんでもあの中に飛び込むのは危険すぎるぞ!?私達が援護するにしても……」
「大丈夫よ、出来れば怪我したくないってだけだから……怪我さえ考慮に入れなかったら何の問題もないわ。
って理由であの二人ぶん殴って止めてくる……わっ!!」
そう言って霊夢は勢いよく飛び出す。唖然としている3人だったが、霊夢の後に続いてあの中に飛び込むのは至難の業だと分かってしまっているために見ているしかなかったのであった。
「……まずは……霊符[夢想封印]」
「「っ!!」」
霊夢はまずスペルカードを使い、二人の間に入ると同時に弾幕の全てを打ち消してその攻撃を二人に当てる。
「霊夢!何のつもりだ!!」
唐突に間に入られた陽は、霊夢に追求をする。邪魔が入らなければ倒せたかもしれないと思い込んで。
「うるっさいわね、アンタらの戦いの被害が甚大だって話してんのよ。何?ありとあらゆるところを穴ボコにしたり焦土にしたりしないといけない病気にでもかかってるの?」
「だからと言って放置できるわけないだろ!!放置してても俺の姿をして暴れ回る!放置しなくても俺を使って人里で暴れる!だったら意地でもここで決着付けないといけないだろうが!!」
「何?自分の不評を買うのが嫌なわけ?結構自分の保身に走るのね、普通の感覚だけれどそれを堂々というのは恥ずかしいわよ?」
「……俺じゃない、陽鬼や紫達だ。俺の不評があれば、俺と関わっている奴らも必然的に変な噂を流されかねない。
だから……これ以上迷惑をかけないために潰さないといけない。それに、こいつの後ろにいるやつのことも追求しないとな……」
陽がそう言いながら霊夢の後ろにいるツキカゼを見据える。夢想封印を剣で防いだツキカゼはニヤリと笑みを浮かべながら陽を見据える。
「俺の後ろに誰かいる、だと……?何を根拠にそういうことを言っている?」
「……お前の剣、エネルギーが必要なものだとは前から知っていたが……そのエネルギーを気にすることなく暴れ回っている。どう考えてもエネルギーを効率よく回復する手段を手に入れたとしか思えない。
そんでもって不死だから永久にエネルギーを搾取できる妹紅や輝夜が居なくなった……なんて話も聞いてない。もしそうなっていたら慧音や永琳が騒ぐはずだからな。
つまり……お前のエネルギーを回復させる第3者がいるってことになる。違うか?」
陽が睨む。ツキカゼは一旦は顔を伏せたが、そのままプルプルとまるで笑いを堪えるかのような震え方をする。陽はそれが少し気に食わなかったが、しばらくそのままツキカゼを睨み続ける。
「ふぅ……いや、他意はない……ない、が……くくく、なるほどな。頭の周りはやはりそこそこ早いようだな。
そうだ、俺には剣のエネルギーを回復させてくれる協力者がいる。だが、いくら追っても決してそいつには辿り着かない。アイツが向こうから呼ばないと100%いけないところに……あいつはいるんだ。」
「……例えどこにいても、紫の能力を使われてしまえば━━━」
「
そんな途方もないことに突き合わせるより、適当に寄越された敵を倒しながら平凡な毎日を過ごした方が賢明じゃないか?あいつは死なない、他殺でも自殺でも寿命でも、だ。不死という訳じゃないがあいつは決して死ぬ事は無い。死んでもまた復活するからだ。
そんなやつを探して……何になる?馬鹿なことやってないで、地獄のような平和を送るかさっさと死んであの世に行くかを選べばいい、その回る頭でなら思いつくだろう。」
ツキカゼは軽く挑発しつつ笑いながらそう告げる。最早維持をするのが疲れるのかその姿は元のツキカゼの姿に戻っていたが、陽はその戻った瞬間に攻撃を仕掛けていた。
「せっかちだな……!」
「陽!!!」
弾幕ではなく物理攻撃だったが、ギリギリでツキカゼに攻撃を剣で防がれてしまっていた。だが、陽は思いっきり握りこぶしを作ってその腕を炎に包ませて、巨大な拳が出来上がる。
「防げてもぉ!!」
「ぐっ!?」
そう叫びながら陽はその拳を、ツキカゼが盾がわりにしている剣に向かって振りかぶった。
例えどれだけ丈夫な盾を持っていたとしても、相手を吹っ飛ばせるほどの力があれば全く意味をなさない、と言わんばかりにその強烈な一撃でツキカゼを殴り飛ばしていく。
「あんた!まだ戦うつもり!?あんな安い挑発に乗って戦うのなら、本気で私が無理やりにでも割り込んで止めるわよ!?」
「別に構わないさ……俺の目的は平和を目指す事じゃない。俺の目標は、八雲紫に仇なすものは全身全霊を持って叩き潰したいということだけだ。それ以上もそれ以下もない。」
「そう……なら、無理やりにでも割り込んで……アンタ達を両方退治してやるわ。それが私に出来ることですもの。
だから……本気も本気……100%行くわよ?」
霊夢が静かに切れている中、吹っ飛ばされたツキカゼはバランスを崩して転がりながら吹っ飛ぶという状態に陥っていた。すぐに止まりこそしたものの、体勢をすぐに立て直して背中を向けて霊夢と話している陽に向かって切りかかろうと飛んだところで━━━
「━━━修羅……!?」
本気を出したことによるとんでもない敵意を感じ取ったツキカゼがそう呟く。
そして、霊夢がツキカゼの方を向いた瞬間に、瞬きを行ってない筈なのに一瞬で霊夢はツキカゼの側に飛んでいた。
「ぐっ!?」
「遅い、吹っ飛べ。」
その一言で終わらせて霊夢はツキカゼを地面に叩き落とすかのように殴り飛ばす。正に一瞬の出来事であり、ツキカゼは何が起こったのか理解する前に気絶していた。
地面にはクレーターができており、これがどれだけ恐ろしいものか陽は考えるまでもなかった。
「次はあんたよ。」
「なっ?!早━━━」
そして、間髪入れずに霊夢は陽もツキカゼと同じように叩きつけていた。1分足らずの二激、それで既に決着していた。
唖然とする慧音達。本気を出した博麗霊夢という少女はここまで強いのか、ということを再確認して少しだけ身震いをしていた。
「な、何なのじゃあれ……最早瞬間移動と言ってもおかしくないくらいの移動速度なのじゃ……!」
「……空を飛ぶ程度の能力、本来ならば名の通り空を飛ぶだけの能力だが霊夢の力が強大すぎてあんなふうになってしまった、と聞く。
その余りある力は空を飛ぶだけに留まらず、
そして……弾幕ごっこではあまりしないが、その能力をフルに発揮したスペルカードを使うと、体が次元すらも飛ぶようになって一切の攻撃が当たらなくなってしまう……らしい。」
「……要するに瞬間移動のような、じゃなくて瞬間移動そのものを行えるという事かの……しかも攻撃の一切が当たらなくなる力まで備わっているなんて……」
戦場に佇む花一輪、しかしその花は花の周りの子葉達を守らんとするがために大きく、そして花を取ろうとしたり子葉達を取ろうとしたりする者達を撃退できる様に強く、強くなった。
その花は幻想郷最強、楽園の巫女博麗霊夢。彼女に勝てる者がいるとするならば、それは本物の修羅なのではないだろうか?意識のある黒音、光、慧音はただただそう思っていたのであった。