ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか   作:よづき

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No.9

 

 

 

ベルと早速、ダンジョンで立ち会ってみた。なんというか、本当に先に教えればよかったと色々後悔している。

 

「ベル、もっと腰をおろせ。モンスターだって自我がある。そんなんじゃ隙を見られるぞ」

「は、はいっ」

 

ギルド支給の安物ナイフをぎこちなく振り回している姿に、ナイフくらい買ってやればよかったと思いつつ、かと言って背伸びして慢心させてもいけないこの微妙な気持ちよ。

 

「アルトさんっ、よろしくお願いします」

 

構えに隙がなくなったので、まずは投げナイフから仕込む。これは動く敵に投げるので実践あるのみだ。安いナイフをそこそこ常にストックしてるのでベルにコツを教えながら投げる。

 

「敵は動いてるし自分だって動いているから当てづらいとは思うが、敵の動きに気をつければ確実に当たる。視線を重視しながら最初はゴブリンでいい、当ててみろ」

「はいっ」

 

対人戦ももちろん教えたいのだが、俺の戦い方になると速さ重視の肉弾戦になるから理想の戦いを体現してるのはノエルなのだ。必死にナイフの扱いを覚えるベルを見つつ、ノエルにも話をしよう。

それに対人戦となれば俺とノエルがでる。今のベルに必要ない。

 

 

「だいぶ当たるようになったな。投げナイフはとりあえず終わろうか」

「はい、あ、あの、体術って…教えてもらえませんか?」

 

なんだこの可愛いやつは。

まだまだ不器用なナイフを身につけてからでもいいと思っていたが、こんな可愛いオネダリされて誰が断る。

 

「もちろんだ。ただ、実戦で使えるようにするには頭より感覚で覚えるしかないしな。ダンジョン出てからでもいいが…俺と戦いながらモンスターに気を使うのもいい練習だ、ここでしよう。好きなタイミングでこい」

 

そう言うとスグにベルはラビットダッシュで迫ってきた。

俺も速さ重視だし気持ちはわかるが、ベルの長所であり弱点はこのラビットダッシュだ。防御を捨てすぎというか…。『痛み』から逃げてる節があるしな。

 

相当手加減して反撃してやろうと思ったが、ミノタウロスからトラウマになっている『痛み』。それから逃げさせはしない。左足を使った回し蹴りでベルのナイフを落とす。そのままもう半回転し宙に浮いていた右脚の踵を使いミノタウロスのLv.2の力を確実に上回る威力で反撃。

 

「がはっ!?」

 

防御を捨てていたベルにクリティカルヒットし、壁にぶつかる。その横からモンスターが生まれる。痛みを抱えたままそれでもベルはナイフを持ち直そうとモンスターに向き直ったが、甘い。

 

 

 

俺も、警戒しないと。だろ?ベル。

 

ベルが倒そうとしていたモンスターの頭を踏みつぶし、モンスターに突撃しようとしていたベルにもう1度蹴りを入れる。ベルはいきなりのカウンターに驚きつつ急停止して周りの状況を確認。

 

モンスターがいないことを確認すると、『痛み』と戦い俺にまた挑む。ベルのナイフを吹っ飛ばした後でお互い武器なんて持ってないし、自分の脚と腕での勝負だ。

 

「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

途中からヤケになったような声を出しつつ、ちゃん吸収して動きがよくなる弟子に嬉しい気持ちが溢れた。内緒で俺も少しずつ攻撃の威力を強く、速くして慣れさせない。

 

 

 

「っあー」

時間もわからないくらい2人で向き合っていたが、俺のお腹が空いたという理由で今日の訓練は終わった。

 

「ベル、ちょっと周り見てみろ。お前俺と戦いながらもちゃんとモンスターの気配感じれてたぞ」

 

俺は一切手をつけてないモンスターの魔石たち。俺と稽古しながらもちゃんと周りの状況を判断してモンスターを倒せるようになってたのだ。

これでちょっとは大勢相手や奇襲に対応出来てくると思う。

ただベルは無我夢中で覚えていないのか、周りの魔石を見て相当驚いていた。

 

「アルトさんっ、ぼく、武器なしでモンスターを!?」

 

「おう。階層が浅いこともあるが…相当成長したな。おめでとう」

 

ウサ耳があったらひょこんって立ちそうだな。そんな可愛い弟子とダンジョンを出て歩いていたら、前方にきらめく白金と銀髪を見つけた。

 

「うわ、」

「アルトさん?あ、ノエルさんと【ロキ・ファミリア】の…」

 

ベルにとっても苦い思い出だし、何より俺が見たくない映像だ。回避しよう、そんな思いも虚しく急にノエルが振り返り、ベートを放って俺らのところに歩いてきた。チート女め、空気を読め。

 

「ベル、今日はアルトとダンジョンに行ったの?」

「は、はい、あの投げナイフと体術を教わって…」

「ふーん」

 

俺を見てはニヤニヤするノエル。人前でもこれだけ表情を出すとは…べートといい話ができたんだろうな。相当ご機嫌だ。

そして何を思ったのか、右手で抜刀し急にベルに斬りかかった。

 

「おいばか!」

 

焦った俺が投げナイフを取り出す前に『見えた』ので動きをやめると、ベルがノエルに体術をしかけた。もちろんノエルはあっさりかわすがご満悦のようだ。

 

「昨日までと動きが違う…。いいね」

 

どうやら今日の成果を確認したかっただけのようだが心臓に悪いのでやめて欲しい。どうして考えるより即行動なんだ。ほらみろ、ベルなんて何が起こったのかわからないって顔してるじゃないか。可愛いだろ。男二人と女一人のファミリアで何故お前が1番好戦的なのか。

 

「ノエル、あっちの狼そのまんまで大丈夫なの?」

「…いい。」

 

ノエルがベートに軽く目配せをするとベートもその場から立ち去った。

通じ合うな!と思わず心の中でつっこんでしまう。

 

「へえ、晩御飯くらい行ってくれば良かったのに」

「……アルト、君、焼かれたいの?」

 

怖い。

 

 


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