ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
「おはよう」
「ちっ」
ロキとティオナに指定された待ち合わせ場所に行けば、やけに落ち込んで機嫌の悪いべートがいた。先に来てくれてただけで嬉しい。けど返事は舌打ちだけ。しかも後ろからロキとティオナの気配もバッチリする。
不機嫌なのはアルトか私か、、アイズか。
「…ダンジョン、行こうか」
私がそう言えば返事もなしに前を歩くべート。こういっては何だけど、すぐに帰りたい。3年前の関係に戻れるとは思っていなかったが事情を知る彼にここまで露骨に嫌がられるのはつらい。
近い距離でも普段の倍以上の時間に感じる。やっとの事でバベルにつき、掲示板の前を通りすぎる前にべートに話しかけられた。
「おいてめぇ」
「何」
「…Lv.6になったのか」
掲示板をふと見上げてみれば、私とアルトの似顔絵と公式レベルが書かれていた。べートは私がLv.3の時しか知らないし、相当驚かせたんだろう。
「…うん」
「3年で3もレベルアップしたのか?」
「正確には、ちがうよ…」
「…どういうことだ?」
「正確には違うってどういうこと?」
【ロキ・ファミリア】の美人双子の妹、ティオナ・ヒリュテは、尾行相手のノエルが発した言葉の意味を振り返ってロキに問うた。
「…うーん、まあ、終わったしええか。ノエルなあ、ウチの眷族になった時には既にLv.3やったんよ。そんで11年くらいか。ウチんとこにおったけどランクアップ出来るようなってから1回もステイタス更新に来てないんや」
「…え?」
「その後もじゃんじゃんダンジョンに潜っとったし、アイズたんの『風』にも匹敵する魔法を持ってるからノエルはLv.3でもファミリアの前線で戦っとったし。【経験値】はごっそり持ってっとったやろ」
それはティオナにとっては衝撃の真実だった。
自分がファミリアに入った時は、独特の雰囲気をもつ人だと、どれほど強いのかと期待した。
最初は同じLv.3だし興味を持っていたものの彼女のそばには金の光を持つアイズがいた。
二人共寡黙で滅多に笑わないがアイズの光が太陽のような眩しい光だとしたら、ノエルは月のように冷たく光っているようで。どんどん強くなるアイズに前線を奪われて、強いのにいつまでもLv.3に甘んじていると、ティオネと話したことがある。
まさか、ステイタスの更新をしていなかったなんて。それでレベルアップしていく【ロキ・ファミリア】の前線に立ち続けたというのか。
「でもなんで、ノエルはステイタスを更新しなくなったの?」
「さあなあ。ま、あの黒い少年が関係しているんやろうな。フィンかノエルに聞いてみ」
ロキもそれ以上話すつもりはないようで、なんだか尾行するのも申し訳なく感じて2人でホームに戻った。
「…ロキのことろにいる間はステイタス更新しなかったから」
「はぁ?なんでだよ」
ダンジョンの下層へ段々降りていきながらの会話だ。
「…私が呪詛を発現したのはロキに恩恵を刻まれた時」
事情を知るべートは段々目を開き、話終わったあとも何も言わず、一時して小さい声で「腹減った」とだけ言った。
特別な言葉はいらない。何も言わないでくれるのが、昔に戻った気がして嬉しかった。