ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
支度をしてリビングに行ってもヘスティアもベルも起きていなかった。
普段は4人バラバラで寝ているが、本日ベルとヘスティアは二人っきりだ。おめでとうヘスティア。赤飯を焚いてやろうか。ベルは相当疲れたんだろうなあ。寝たのは朝6時だし、今は10時だしふたりが起きるかどうかも怪しい。ヘスティアは俺らに何も言いはしなかったけど、ベルのあれは止めて欲しかったんだろうな。
昨日のことを考えているとキッチンからノエルが顔を出した。我らが料理班である。
「私はそろそろ行くけど…アルトはどうするの?」
「うーん、寝てる2人を放っておくのもなあ。ベルが起きたらちょっと戦い方でも教えたいし、待ってようかな」
「ふぅん…。誘えるといいね」
俺が何日たってもベルをダンジョンに誘えないことを知っているノエルは、今回も誘えるとは思ってなさそうだ。悔しい。誘ってやる。
中々誘えないのは、スパルタに教えすぎて嫌われたらという想いが働いている。アスフィという特殊例だけは訓練を泣いて喜んでいたが、【ヘルメス・ファミリア】でもおれとの特訓は罰ゲームにされることすらあった。
それをノエルに一度言ったところ、「それでベルがモンスターにボコボコにされて成長しなかったら意味無いよ」とまでざっくり切り捨てられている。ちなみにノエルの戦闘は感覚が大部分を閉めているので教える側には向いていない。一体どうやって剣姫に教えていたと言うのか。
本当にそろそろベルにもちゃんと指導したいところだ。モンスターに対しての知識はアドバイザーにみっちり指導してもらってるみたいだし、戦い方を教えたい。無謀にも6層までじゃんじゃん進んでいるとこを見ていたら心配にもなる。
しかもソロだ。俺らとダンジョンに行くとしてもレベルの差がありすぎて下層でベルがサポーターになる、もしくは上層で俺とノエルを認識したモンスターが逃走するかだ。現実的ではない。ヘルメスに頼んで低いパーティにいれてもらうか?
俺が使ってる武器メインに大鎌、サブに投げナイフと折りたたみ式槍というメジャーではない武器が多いので役に立てるかは不安ではあるが、投げナイフについては本気で仕込みたい。
ベルの獲物がナイフでリーチが短いので少しでも長距離攻撃を教えておきたいのだ。
多分、そういう意味では双剣スタイルのノエルの方が適任だと思うがやっぱり可愛い初めての弟子。俺が、教えたい。やっぱり俺、ヘスティアの想い並にベルが可愛い。
「じゃあ、行ってくる。ご飯作っておいたから食べて」
振り向くと綺麗に並べられたサンドウィッチがあった。そしてノエルの右手には可愛いかごバッグが握られている。へぇ~、べートと食べるんだあ、へぇー。
ニヤニヤしていたら尻尾をふまれた。俺は獣人のハーフである。しかもウェアウルフ、狼人だ。べートと気が合わない理由の一つでもある。俺は数少ない黒い狼人であり、ハーフの異端児である。他の理由をあげるならもちろんノエルだ。単独行動の多いノエルが他のファミリアの団長である俺と一緒にいたのが気に食わなかったらしい。今は剣姫にご執心のようだけど。。
俺には感情を隠さないノエルなので、あきらか嬉しそうにホームを出ていった。べートにノエルは勿体ない…なんて言ったらダメなんだろうな。俺とノエルは、お互いに依存しすぎている節がある。そして俺は、これからもずっとお互い依存していくのだと、そう思ってた。けどノエルは離れていく。
……あー、これ結構きついかも。俺がノエルに抱く感情は恋とかそういうのじゃなくて。俺の記憶の範囲全てにノエルがいて、同じ目的を持つ同士で、そばに居るのが当たり前な存在だ。
溜息をつきながらサンドウィッチをつまんでいると「おはようございます」と後ろから声がかかった。
「おう、ベルおはよう」
「あ、あの、ノエルさんはっ?」
「今日は用があるって出かけたよ」
特に理由があって聞いたわけでもなかったらしく、ベルは少し驚いただけでそれ以上は聞かなかった。
「俺らが別行動は意外か?」
「は、はい、正直。ファミリアに入る前から一緒だったと聞いていたので」
ベルはにもそう思われているかあ。
やっぱり少し寂しくなっているとまたベルから声がかかった。いつも緊張して話しかけるのは俺からなのに珍しいな。ノエルが居ないから緊張半減してんのかな。
「あ、あのっ、戦い方、教えてもらえませんか!?」
……涙でそう。
「もちろんだ。ヘスティアが起きたら行こうか」
心のうちの感想を沈め、ノエル愛でだったら「気持ち悪い」といわれそうな笑顔でベルに振り向く。
そう返すとベルもたちまち笑顔になって、今日の予定は決まった。ただ俺から申し出たのではなくベルから誘ってくれたことがノエルにバレたら馬鹿にされそうだ。全力で回避しよう。
「あの、アルトさんとノエルさんはどれくらいから一緒に居るんですか…?」
今日は本当に珍しい。ヘスティアもベルもいつもは俺らの関係について聞かないのに。
「さあな?気がついたら隣にいた。俺の記憶全てにノエルはいるよ。ずっと二人で生きてきた」
笑いながらベルの口にノエル特製のサンドウィッチを詰め込む。まだ教えるタイミングではない。
「むぐっ、、、美味しいっ!」
もぐもぐ口いっぱいに詰めたベルを見ながら俺も一口コーヒーをすすった。