ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか   作:よづき

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No5

 

 

 

「聖なる光よ、癒しの加護を【サンタマリア】」

 

 

短文詠唱の回復魔法をベートに向ける。瞬時回復魔法ではなく継続型回復魔法であることを初めて恨めしく思った。苦手なものは無いけれど、回復魔法は得意ではない。

 

「先に戻る」

 

外で不貞腐れたままのベートをそのままにして、とりあえず中で後味悪い思いをしているであろう【ロキ・ファミリア】のもとへ向かう。ベートもどうせ、酔っぱらっているだけだ。

それにしても、あのアルトが大人数のいる場で喧嘩を始めたのは意外だった。冷静沈着、品行方正の好青年がオラリオでの売りな彼は、自分がああやって言われていても決して切れず問題を起こさずのタイプだ。

 

 

「ミアさん、ごめん。これご飯代と迷惑料」

「仕方ないねぇ。迷惑料多すぎやしないかい?」

「いいの。ロキのとこの分も入ってるから。それ以上頼んで来たら本人たちに請求すればいいよ」

 

それにしても多い金額に困っているのがわかったが、あんな騒ぎを起こしたのはこちらだから受けってほしい。

また断られる前にロキの前に立つ。

 

「おー、ノエルやん。なんや、久しぶりやなあ。何時オラリオに戻ってきたん?」

「お久しぶりです、ロキ」

 

教える気はない、と質問には答えずさらりと返す。

 

「他人行儀はやめてぇや。元々はうちの子やろ?」

「…今はヘスティア様の眷属」

 

そういうとロキはがたんっと大きな音を立て立ち上がった。

ロキとヘスティア様は会えば喧嘩が絶えないというのは有名な話。からかうつもりでその名を口にした。

 

「なんでや!?あかん!あのチビんとこの眷属やと!?ノエル、今すぐかえってき!!」

「無理」

「のえるたーーん!!!」

 

じたばたするロキを抑えて無理やり座らせてから、古参のメンバーに振り向く。

 

「ロキ。そしてみんな。あの日はほんとにごめんなさい。悪いことをしたと思ってる、取り返しのつかないことになっていたかもしれない」

 

あの時あの場にいたメンバーが息をのむのが分かる。あの時はああするしかなかった、とノエルは思うものの、されたほうとて謝って許せることじゃないだろう。

 

 

 

 

「・・・顔上げ」

 

最初に口を開いてくれたのは、やはりロキだった。

 

「自分で決めてあの時抜け出していったんやな?」

「・・・うん」

 

それからゆっくり考えるふりをして、ロキはフィンと小さく耳打ちをした。そして私に向き直るとニマァ、とずっと変わらぬ笑顔でエール片手に立ち上がる。

 

「ノエル、神の審判や。帰ってくんのは無理でも時々は顔出し!そんで『遠征』に大丈夫な時は参加な!約束やで!!」

 

審判と言いながらも、大丈夫な時だけの参加や、約束と言うロキの寛大さに、女神にはやはり頭が上がらないものだと思った。

あれだけのことをしたというのに。

 

「わかった。日が決まったら教えて」

「それとなあ!明日バベルにお昼前に集合や!ベートとちゃんと仲直りし!」

「・・・・」

「こっちは命令やで!」

「うん」

 

仕方なくうなずき出ていこうとする私の手を、懐かしい手が引き留めた。

 

「まって」

「…アイズ」

「あの少年は、ノエルは・・・」

 

うまく言葉がまとまらない様子のアイズに、とりあえず頭をなでてみた。相変わらず私に似て表情が乏しい。さらに不器用で天然。いつまでたっても妹のよう。

 

出会って9年、共にすごしたのは6年。共通点も多く比べられることも多く、世間では勝手にライバルのような扱いを受けていたが、彼女は深く関わるつもりのなかった【ロキ・ファミリア】の中で私の大切な子だ。

 

「ええっアイズさん!?」

 

後ろからエルフの少女の声も聞こえるが、少し撫で続けてみた。ここ3年の間に入った子だろうか。いや、3年前にいても分からないかも。焦った様子だったアイズも落ち着いてきて、自分の中で何か決まったのだろう。

 

「遠征、まってる・・から」

 

その一言だけで他は何も言わなかった。

 

「フィン、騒がせてごめん。アイズ…、またね。」

「君にはいつも驚かせられるよ。次あったときは話を聞かせてくれよ?」

「うん」

 

もう一度、全員に礼をしてから外に出た。


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