ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
ちらりと左をみれば、困惑顔のノエル。
右を見れば、アイズ・ヴァレンシュタインを見て固まっているベル。
「おーい?」
呼びかけてみるが二人は相当に【ロキ・ファミリア】に耳を傾けているようで、ちっとも反応してくれなかった。アルトさん寂しい。
「そうだ、アイズ!お前のあの話聞かせてやれよ!」
「あの話……?」
べろっべろのベートがアイズに向かってそういった。
まさか。
ベルとノエルを勢いよくつかみ引っ張って出ていこうと思ったが、手遅れであった。
「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の一匹、お前が5層で始末しただろ!?そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」
間違いない。俺たちのことだ。俺はベルのことをちらりと伺うことさえできなかった。
その後もベートの口は止まらない。
「あの『裏切り者』もいたぜ」
「裏切り者?だれっすか?」
「あいつだよ、ノエル」
違う。ノエルはお前らを裏切ったんじゃない。俺等には、それしかなかったんだ。お前が一番、分かっているくせに。俺の責任なのに。
そして、とどめの。
「ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてぇんだ?」
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」
ベルも、ノエルの気持ちも踏みにじる言葉。
ベルは椅子を蹴飛ばして立ち上がり外へ飛び出した。本来ならベルを追いかけるべきだあろう。だが俺の足は別の方向へ進む。ベートのもとへ、まっすぐに。
ひどく冷静であった。
「あぁ?」
べートも気がついたようでお互い一瞬の間目が合う。
ここでは殴り飛ばしたら他の人への迷惑になると判断。
ベートの尻尾をつかみ、外へ投げる。タダでやられるベートでもないので簡単に受身を取られた。
ああ、もう、こいつとは一生分かり合える気がしない。
殴る。
よけられても、反撃されても、レベル1つ分のアドバンテージを利用し殴る。
自分にも少しずつ傷が蓄積していくのがまるで他人事のように思えた。
もう自分では止められなくなってしまったその拳は、もう一度振りかざす前に、不意に誰かの手によって止まった。
「もう、いいよ」
「ありがとう」
「ごめんね」
「でも、事実だから」
違う。ノエルは裏切り者なんかじゃない。そうせざるを得なかったから。俺がふがいなかったから。ノエル。ごめん。
「ベート。あの時はごめんなさい。でも私は後悔していない。アルト、帰ってて」
俺の腕を止めるノエルの手にほとんど力なんて入ってなくて。
従うつもりなんてさらさらなかったが「ベルが心配だから追いかけて」なんて。彼女にすごく気を使われてることが分かったから俺はその場を後にした。
ダンジョンに向かっていったと、途中すれ違った冒険者に聞いたので迷わず向かったが、4層でも5層でも見つからなかったベルは6層でみつけた。
この半月、6層に行ったという話は聞いていない。
思わず出て行って止めようかとも思ったが、それでは全くベルのためにならないと判断し、危険になったら手を出すことにした。『見えて』からでも遅くはない。ヘスティアに怒られるかもしれないがそのときはそのときだ。
「ベル…」