ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
それは突然だった。
ノエルに変なスイッチが入っている時点で戦闘をやめ、アンフィス・バエナを振り切ってさらに下層へ進むのが最善だった。
大人数の足でまといがいるパーティならともかく、レベル6が2人もいればそれは容易だったのに。
アルトに頼らないスタイルで、まるでソロのように振る舞うノエルはどうやってもおかしかったのに。
いつものようにアルトが誘導し、誘導された不意打ちでノエルが攻撃を行うよう誘導している最中、連携が乱れノエルの月光がアルトの視界を奪った。
「!?」
即座に未来予知で先を見ると攻撃が当たらないようアンフィス・バエナから距離を取る。体勢を立て直している最中連携ミスに動揺したノエルがぶっとばされ水流に飲まれていくのが見えた。
「ノエル!!!!!!!!!」
助けに行くにも目の前のモンスターに阻まれいけない。
目の前のモンスターにも、自分を頼らないノエルにも腹が立つ。
冷静さを欠くことを嫌うアルトも今回ばかりは機嫌が悪い。
あの相棒なら最悪の事態にはならないだろうが、そもそもこの事態になることすらなかったはずなのに。
「邪魔なんだよ」
先程のノエルから喰らった月光で、アルトは獣化していた。らしくないイラつきもあとから考えれば獣化が影響していた気もする。
この獣化も長くは続かないだろうが、そんなことは問題ない。目の前のモンスターを今すぐ屠れば良いだけ。
先程までとは様子も速さも、攻撃の重みすら違うアルトに怯えたのはモンスターの方だった。
横一閃。歳ほどと同じように繰り出された一閃に、もう一度モンスターも腕をふりかざす。
「ノエルが居なければあの斬撃もないと思ったか?」
大鎌をくるりと半回転させ、柄ではなく釜の部分で腕を斬る。
動揺する隙すら与えない。
とんでもない重量の大鎌を片手、ある時は指先で踊らすアルトの姿はまるで死神。
大きなダメージではないが確実に溜まっていくダメージの蓄積にモンスターの動きが少しずつ鈍くなる。
そしてアルトがモンスターの動きを捉えきれなくなった時、トンっとモンスターの頭に何かが乗る。それを認識した途端、アンフィス・バエナには意識が向かった次の瞬間には、もう灰と化していた。
「…」
首を一閃しそのまま胴体ごと魔石近くまで斬ったアルトは、ポーションを飲む必要もなくドロップアイテムをしまうとすぐに下層へかけだした。
ーーーーーーーーー
確実に私のミスだ。
目が覚めた先はもう恐らく40階層を突破している。
というよりは、まるで、50階層に近いような……。
高速で頭をめぐらせ、上下どちらに進むか考える。現在地が48以上であれば上に行くのが良い。だが49階層にはバロールがいる。ふぅ、とひとつため息を吐くと周りに湧いたモンスターを一振で両断した。
「…こっちはもうダメか」
剣にこだわった事がなく双剣は同じものを使っているが、片方はアンフィス・バエナのダイブを真下で受け止めたことで消耗していた。アルトがいれば鍛冶師の真似事もできたが道具すらない。消耗している方を左手に持ちかえる。咄嗟に攻撃を繰り出すのは右に癖が偏っているので右に切れ味を求めた方が良いだろう。
とりあえず階段を探そう、と並のモンスターでは追いつけない速度で走る。こういう時ばかりはパーティよりソロの方が良い。
だが咆哮などを繰り出すモンスターはまた話しが違った。
左からとんできた炎を回避し着地で追撃を行おうとしたが、着地地点にもモンスター。
「…クッ」
無理やり体をひねり地面と平行になる体勢で回転斬りを決め着地。息を着く暇もなく2回目の咆哮。アルトがいれば、こんなことには…!
自分の単独行動が身から出た錆となり、相棒の凄さを実感する。
こういう時であれば、彼は先回りして2回目の咆哮などさせないのに。
それと同時に自分は弱くなったとも思った。【ロキ・ファミリア】にいた頃であれば、自分のレベルに見合わない階層にソロで潜ることなんてしょっちゅうだった。ここ3年ほどは対人戦に重みを置いていたとはいえ、今の自分は不甲斐ない。これでは到底、願いには届かない。
「ムカつくなあ」
突如冷静になると目の前のモンスターを踏み潰す。グシャッと潰れ消えたモンスターを見下ろすノエルは、アルトが見ればヘスティアと出会う前の顔と表現しただろう。