ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
爆発音。
入口に立っていた青年に通してもらい、リヴィエラの街を避け遠回りする形で19階層を目指していると階層内に戦闘音が響いた。
「…リヴェリアの魔法」
オラリオ最高の魔道士リヴェリア・リヨス・アールヴ。
彼女の魔法が轟音とともに連続して昇る。
ロキから聞いたパーティでダンジョンにいるのなら、この階層で彼女の魔法が放たれるのは普通のことではない。
「話が違ぇな。モンスターがいるぞ」
「……!」
極彩色のモンスターが爆ぜていく視界を、突如黄金が切り裂く。
「はぁ!?」
どこからか降ってきた、アイズ・ヴァレンシュタインをアルトが抱きとめる。かなりの速度で降ってきた割に手にかかる衝撃は軽く、少し驚きながらもゆっくりと屈む。
「アイズ…!」
レベル5の彼女が飛ばされ、都市最強の魔導師リヴェリアが魔法を放つ18階層とは。
「…おいノエル。剣姫の傷、あのモンスターにつけられたもんじゃねぇぞ」
「…」
極彩色のモンスターの性質は溶かす酸だ。だが彼女のに残る傷は打撲痕や切り傷。対人で付けられたようなものばかりだ。
「アイズ、一体何と戦ってるの」
「…ノエル?……わからない」
「わからない?」
「風を見て私のこと、アリアって」
脈絡のない話だったが、アリアの名を聞いてアルトもノエルも動きが止まる。
次の言葉に迷っていると、再度火柱が昇った。
目を細めて先を見つめるノエルから言葉が紡がれる。
「行ってくる。アルト、アイズをみてて」
「はぁ?俺もいくぞ」
「…戦ってるのが【ロキ・ファミリア】なら、私の方が適任。アイズは多分アマゾネスの双子が迎えに来るから」
「おい、まて!」
アルトとアイズに1度も視線を寄越すことなく最速で最短距離を走り出した彼女にアルトや手負いのアイズでは追いつけない。
「あのバカ…。急がば回れか?」
割と考え無しな、遠ざかる彼女の背中を見つめてひとつため息をこぼした。
「あの、ありがとう、ございます」
腕の中にいたアイズが起き上がろうとするので、背中を支えつつ質問を飛ばす。
「聞いてもいいか。何があった」
「…新種のモンスターを操る女性が。途中まで押してたけど、急に勝てなくなって、飛ばされました」
分かりずらい表情に一瞬陰りが見える。そういえば、強さに固執した少女だったということを思い出す。
励まそうかとも考えたが自分が言うのは違うような気がした。
「…そうか。勇者は勝てそうか?」
「はい、」
「なら大丈夫だろ。あいつも行ったし」
【ロキ・ファミリア】の首脳陣に今のノエルが加われば過剰戦力なくらいだ。相手が可哀想だなと軽く同情する。
アルトが呑気にそんなことを考えていると、未だ腕の中にいる剣姫から質問が飛ぶ。
「…ノエルは、どうやってレベル6になりましたか」
他のファミリアの人間の上に首都最強ファミリアの幹部。簡単に教えるわけにはいかないと笑って誤魔化そうとしたが、真っ直ぐな視線に少し心が揺れて、この少女には秘密を明かしてもいいかと考えた。
「…俺とノエルさ、オラリオを出て初めて喧嘩して1年半殺し合いしてたんだよ」
「!?」
アイズの知るアルトとノエルというのは、別ファミリアの幹部と団長でありながらほぼ一緒にいたのだ。それはアイズがロキの元へ来た時から、ノエルが出ていくまでずっと。
ファミリアの人間誰一人として、「アルトに用事」と言って出ていく彼女を引き止めることさえできなかったのに。その2人が殺し合いをするほどの喧嘩とは。それも、1年半。
「頭おかしいだろ。一番大事な相方だけど、譲れる話でもなかったからな。マジで何も無い荒野で生きるか死ぬかの戦いだった。地形は変えたし街に入っても油断は出来なかったしな。馬鹿みたいに遠くまで行って、一種の旅だった」
かなりぶっとんだ話を笑いながら美しい男が語るもんだから、アイズの頭の容量が足りなくなる。
「ダンジョンでも生死を分ける戦いをした時、レベル上がりやすくなるだろ。ちょいちょい神の元へ足を運んでステイタス更新してもらって、仲直りの頃にはレベル6へランクアップ可能だった。正直、レベル7も遠くない。なにせ1年半、ずっと気を抜かずにいたからな。ダンジョンよりしんどかった」
へらっとアイズに笑いかけて彼は続ける。
「でもこれは辞めておけよ。大切な人を手にかけようとした自分に今でも腹が立つ。俺らはどうにかなったけど、本来なら絶縁だからな」
あまり関わりはなかったが、優しい人当たりのいい人というイメージが少し変わる。
へらっと笑っている時は、いつも今みたいに自己嫌悪しているときなのだろうか。
今まであまり意識していなかった彼に、アイズは初めて興味を示した。