ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
現在16階層。下級冒険者や第三級冒険者であればサラマンダーウールを必要とする中層ではあるものの、レベル6の耐久からすれば特に警戒することも無い階層である。
「ノエル。俺らが遊んでる間、ベルと何か話してなかったか?」
モンスターの動きを見ずにメインウェポンである大鎌でモンスターをなぎ倒しながら会話を進める様は、モンスターからすれば悪夢だ。
「あぁ…フリーのサポーターに声かけられて、今日組んでたみたいだよ」
上層と中層で立ち位置をスイッチし、現在はアルトがモンスターを屠るターン。ノエルの言葉で先程まで余裕だった彼に隙ができる。
「はぁ!?」
「ベルが実感できるほど戦闘の場を整えたらしい」
「おいノエル、わざと黙ってたなっ!?」
隙だらけなのに、その隙をつこうと襲いかかるモンスターは彼に傷一つつけられない。大鎌のリーチ内では斬られ、懐に入ろうが容赦なく柄で打撃を食らう。
「あんな初心者丸出しで純粋なんだ、絶対罠だろ!」
「可愛くて小さい女の子らしい」
「疑われずらい容姿で気の利くサポーター、そんなのがフリーでたまたまベルに声かけるか?」
正直なところ、ノエルの見解もアルトと同じであった。そんな子がいるのなら今頃どこかの稼ぐパーティに入ってる。
高い確率でワケありだというのが2人の共通認識だ。
「なんで黙ってた」
「…アルトは、ベルにずっと綺麗な道だけを歩かせるつもり?」
地味に過保護をこじらせたノエルに、それを指摘されるのは予想外だった。
「…」
「あの場で言ったら、スキルを使って調べあげて、ベルに忠告するでしょ」
答えないアルトにノエルは続ける。
「アルトが言えば聞いてくれると思う…。けど、今回避けれても、私たちは常に一緒に居られないし…また、同じことになるよ」
「確かにな。だがその時でいいだろ、回避出来るならした方がマシだ」
「そうだね。…でも、今回見逃してあげたのはステイタスもベルに到底及ばない、非力のサポーターだからだよ。ソロで誰にも頼れない非力なサポーターがベルに出来ることなんて、精々お金をだまし取るくらい。命に関わることはそうそうないと思う…そうじゃなかったら、今頃潰してる」
ここでアルトはようやく悟った。
害と判定した者には冷たいノエルは、「ベルの社会勉強の相手にさせてやるから騙しに騙していい夢見てろ。だが最後は潰す」をその身に隠しているだけである。
つまり、嬉しそうに他人と冒険したと報告するベルを騙した相手に、アルト以上にキレていた。
「お前…こえーよ。あークソ。出る前にベルの未来全部見とけばよかったか」
「全知も未来予知も使えない状態だったら足でまとい…」
「それを言うなよ。マジムカつくから速攻で終わらすぞ。このクソみたいな強制依頼はフレイヤがギルドの職員に手を回してやがった。本来なら【フレイヤ・ファミリア】に回る案件だ」
「…そう」
通りで深過ぎる階層での依頼だと納得した。アルトとノエルがフレイヤを異常に嫌うと同じで、昔からフレイヤも2人に対しいい顔をしない。それに加え目をつけたベル。ベルの周りにいるのであれば今後も容赦なく邪魔するという圧である。
「ギルドの線も考えたけど、違ったの」
「や、ほぼ共謀だ。俺らがランクアップ経緯も言わず振り切ってるからなあ。あいつらまともな資料書けねぇよってブチギレてるし」
「…ギルドは嫌い」
「知ってる。つーか俺もだ。誰があいつらにあの話をしなきゃいけねぇんだよ」
共犯者はノエル。事実を知っているのはヘルメス。神殺しの話など、その2人さえ知っていればそれでいい。
これから先も、ずっとそれでいい。そうやって今まで生きてきたのだから。