ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
「おかえり。椿に怒られたか?」
ホームのドアを微妙な顔で開けた相方に問いかける。
「…いや、ロキにあった」
「何か言われたのか?」
「何も」
これは意地でも言わないつもりだと察すると深くは追求しなかった。
大事なことは打ち明けてくれるだろうし。
あまり全知の能力が好きではないアルトは、緊急時以外は特に使おうとはしない。
それでも彼の好奇心が膨らむと情報収集能力に補正がかかり、街を歩けば知りたい話の噂が聴こえてきたりしてしまうから厄介だ。
それゆえ、彼はダンジョンが好きだ。
強制的に全知を封じてくれるから。
神々とダンジョン、それに自分についてはその目で見るしかない。
「ならいいけどな」
「あ。あの巨人花のモンスターだけど」
「ん?」
「ロキも探ってるらしい。強制依頼が終わったら、遠征に参加してきてもいい?」
俺がダメだと言ったら、彼女は行かないのだろうか。
「…俺はいいけど。ヘスティアとベルにも聞いておけよ」
割と偉そうにしている俺だが、主神はヘスティアであり団長はベルだ。一般役職である。
「うん。…ベルは?」
「ダンジョンに行ったよ」
「ついて行かなかったの?」
「強制依頼に向けて準備してたからな。ノエル、テントはどうする?」
「要らない。ダンジョンで寝るくらい、平気」
「りょーかい。いつも通り交代で寝るだろうからしっかり休んでおけよ。アイテム類は俺に任せろ」
「…私も持っていくよ?」
携帯食に回復ポーション、持っていくものは沢山あるのに、1人だけに任せるのは…と荷物を持ち上げようとしたノエルを制止する。
「さっきアスフィの工房に乗り込んでマジックアイテムつくった」
ノエルに向かってポーチを見せる。
今回は入れることさえできれば無限に収納出来るポーチだ。
つまり大きさがポーチの口以上であれば入らないが、それでもだいぶ楽になるだろう。
「また、アンドロメダ…」
稀代のアイテムメーカー、アスフィ・アル・アンドロメダ。
彼女が盲信するアルトのために、彼が【神秘】を発現させるまで全力を尽くした女である。
そして、良くも悪くも人と関わらないノエルが唯一敵意を表す人間である。名前が出ただけでしかめっ面だ。
「なんでお前、アスフィと仲悪いんだよ」
「知らない。あっちが突っかかってくるだけ」
しれっと言ってのけるが、タラリアを数回ぶっ壊しているノエルにも問題がある。ただ女の戦いに口を出すのは野暮だ。言わない。
「じゃあ、ベルとヘスティアが帰ってきたら挨拶だけして出るぞ」
「分かった。上層は新しい剣の試し斬りをさせて欲しい」
「あー、そうだな。じゃあ18階層辺りまでは頼む。17階層のゴライアスはどうする?丁度インターバル終わっただろ」
「2人でなら通りぬけられる。ホームにベルとヘスティア様2人は心許ない、時間は巻こう」
「問題はウオダイオスか。勝率はギリギリだな。パーティ揃えるレベルの敵だろ」
「あれは、多分フィン達が倒すよ」
さらりと言ってのけたノエルに向き直る。
「あいつらいるのか?」
「幹部クラスでお金稼ぎに行ったってロキが言ってた」
「…行きたくねぇ」
ぷいっと顔を背ける俺にノエルは言葉を続ける。
「ベートはロキとお留守番だよ」
先にそれを言わないあたり、ノエルにからかわれたのだろう。すこし癪だ。
「ならいい」
不貞腐れたままそう告げると、ふ、と息が漏れる。
「お前、何笑ってんの」
「…笑って、ない」
「嘘つけ!? 」
笑ってるだろ!とノエルの頬を掴むと「不純だあああああああ!」と割って入る、バイト神ヘスティア。
「おいヘスティア、なんだ不純て」
「き、君たちはそういう仲だったのかい!?」
「ちげぇよ!見りゃわかるだろ!」
次はヘスティアの脇腹を容赦なくくすぐり始めたアルト。ノエルに仕返しするはずの分も己が神に向ける。
「あはははははははははは!やめてくれ!アルトくん!あははは!」
「ヘスティア〜くだらねぇこと言うと晩飯味のないじゃが丸くんにするぞ!」
笑い転げるヘスティアと悪い顔をしてるアルト、それを見て微笑むノエルというカオスはベルが帰ってくるまで続いた。