ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
「【剣姫】が討伐にあたってるのか…」
ノエルより少し黄みが強い黄金の髪色を見上げる。
「アイズが動いてるなら、ロキが動いてる」
だから自分たちがモンスターの討伐に当たる必要は無いだろう。
そう言い切ると、ノエルはベルとヘスティアが走っていった方角へ屋根をつたいながら走り出した。方角はダイダロス通り。ダンジョン並に入り組んだ街である。
いくら彼女でもあの入り組んだ街で小さな少年と女神を見つけるのには苦労するだろう。アルトも彼女に追いつくべく最速スピードでオラリオを走る。
「ノエル、俺の見える範囲じゃベルは助けを必要としてない」
彼女を追い抜かし、ベルとヘスティアがいる方向へ誘導しつつ、全知を使用しわかったことを伝える。
「…ヘスティア様の安全を保証できるの」
神の1柱とはいえ、下界では恩恵を受けていない人間とそう変わらない。そのヘスティアの安全はどうなのかと問われる。
「出来ねぇ。だから、行く道にいるモンスターを倒すんだろ」
彼女に向かい投げナイフを放る。
「…ありがとう」
投げるためのナイフだから軽く斬撃力も無に等しいナイフでも、彼女が持っていれば最強の矛となる。あらゆる剣に精通した剣豪なのだ。
ナイフで2.3回素振りすると彼女は行く先に蔓延るモンスターを次々に葬りだす。
「助けを必要としてないって…、2人はどこかに身を潜めてるの?」
「…いや、ベルはシルバーバックと戦ってる」
12階層で出現するレベルのモンスターの名を口にすると、ノエルは形のいい眉を顰める。
「今までのベルじゃ、勝てないよ」
「そうだな。でもヘスティアがいる。言っただろ、ヘスティアはベルのために土下座をしてたんだ」
「それだけじゃわからない」
詳しく教えろと促される。
「察しはついているだろが、ヘファイストスがベル専用の武器をつくった。実際に見ないと詳細はわからないが相当強力だ。あれなら大丈夫だ。それに」
「それに?」
「ヘスティアとベルは面白いな、戦闘中にステイタスを更新したみたいだ。俺と戦ったときの経験値もたんまり溜まってるよ。ベルなら大丈夫だ」
アルトは端正な顔立ちにニヒルな笑みを浮かべる。
「さいっこうだよあの二人。なぁノエル。3年前、1度目の俺らの企みは失敗した」
アルトの斜め後ろで走るノエルはその話に返事こそしなかったが、自分のせいで叶わなかった願いを笑い飛ばす相棒を見つめた。
「今回は絶対叶えるぞ。俺らはベルのためにヘスティアに近づいたが、あの女神が好きだ。俺はあの二人のいるファミリアを守りたい」
3年前のアルトからは考えられないセリフにノエルは目を見開く。
失敗こそしたが、1度目の願いは『神殺し』だったのだから。
そして、あの時ノエルが口に出来なかった言葉だったから。
「…変わったね」
「そうだなぁ。ヘルメス様もビックリだろうよ」
「お爺もね」
「違いねぇな」
そこでアルトは急にノエルの腕をつかみ、走るのを辞めさせた。
急にとめられたことで少し不満そうな表情を浮かべたが彼女も察知したようで不意に微笑む。
「な、守りたいだろ?」
「そうだね。簡単には守らせてくれなさそうだけど」
「お前らといる日常のためなら頑張れるよ」
アルトも珍しく、ふ、と嘘のない本物の笑みを浮かべた。
その直後に白い物体が先の角を曲がって突っ込んでくる。
「頑張ったな、ベル」
「お疲れ様」
ヘスティアをお姫様抱っこの状態で駆け抜けてきた少年に話しかける。
「アルトさん!?ノエルさん!?」
「ボロボロだなあ。ヘスティアは気絶か?」
「はい、急に倒れて…」
「過度の緊張かな…帰ったら回復魔法かけるね」
ヘスティアを抱いたベルを挟むようにアルトとノエルが並び、【ヘスティア・ファミリア】の面々はホームへと戻った。